レンタルラヴァー:02

残暑もいつの間にか過ぎ去り、涼しい風が吹くようになった秋の初めだった。久しぶりにATMで記帳した銀時は、「ほんとに入ってるよ…」と、着実に増えている残高を見下ろした。
土方に金で買われる関係になってから三週間、銀時は順調に土方との交際を進めている。初デートでキス、次の非番に甘味デート、見回り中に顔を合わせたら昼食を一緒に、仕事が忙しい時は屯所に銀時を呼び出し、食堂で並んで飯を食うこともあった。なんで向かい合わせじゃねえんだ、と尋ねたら、隣に座れば肩や足が触れるだろうと当たり前の様な顔で返されて、あっこいつタラシだな、と銀時は思った。というかそれはもうキャバクラの発想じゃねえのか。
外堀を埋められている、と感じたのは、最初の週からだった。仕事終わりに呑みに誘われ、朝は顔が見たいと見回り前に訪れ、神楽に酢昆布、新八に破亜限堕津、銀時にいちご牛乳を手渡して去っていく土方を、神楽などはもう完全に金ヅルならぬ酢昆布ヅルとみなしているし、察しのいい大家のババアには「いいかい、くれぐれも子どもに汚ないモン見せるんじゃないよ」と釘を刺されている。余計な世話だババア。
土方から送られてきた米もまだ残っている上に、それ以外にも随分いろいろな食材が送られてきたり、銀時自身の呑み代がほぼゼロだったり、暇が出来ると土方が会いに来るのでパチンコの回数も減ったり、もろもろの理由で万事屋は今、少しばかり裕福だった。三週間、預金に手を付ける必要がない程度に。今日は今日で、家賃を支払う為に金を下ろしに来たのだから、常になくまっとうに生きていると言っても過言ではないだろう。仕事の内容さえ省みなければ。
正直、土方との恋人ごっこは想像したほど悪いものでもなかった。手を握るだけで鳥肌が立っていた数週間前までの関係はすっかり鳴りを潜め、ときおり軽口の応酬はあるものの、じゃれ合いの範疇に収まっている。刀まで抜く羽目になっていたこれまでに比べれば、格段に進歩したと言っていいだろう。金が絡むだけでこんなに穏やかな空気になれるもんなんだな、と銀時は己の現金さにいっそ感心しつつ、それだけではないのだろうということも何となくわかって、それはそれで釈然としなかった。
引き出した三万円を、ATM備え付けの封筒に入れて懐にしまい込んだ銀時は、夜八時から十二時間で予約された今夜のことを思う。これは、完全にご宿泊コースだ。いよいよホテルが来るのだろう。一時間二千五百円、半日で三万。そこに深夜・早朝手当てがつき、〆て三万七千円だ。安いヘルスなら三回通ったっておつりがくる。それだけ受取ってさらにキスさえ別料金だというのだから、悪徳商法にも程があった。しかもさんざん奢らせて貢がせている。これが本物の恋人なら、切れ痔になるまで犯されたって文句は言えない。
土方と銀時のことだ。もちろんそんなことにはならないだろうが、もしもの時のためにシャワーくらいは先に浴びておいた方がいいかもしれない、と、銀時はパシっと両頬を叩いて気合を入れた。
ちなみに、請求される前に家賃を手渡した銀時の前で、お登世は卒倒寸前だった。失礼なババアだった。

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八時に、銀時がいつものおでん屋にやってくると、珍しく床几は二つともほぼ満席だった。定位置になり始めた土方の隣も埋まっていて、アレ?と銀時が首を捻れば、「おう、万事屋か!良く来たな、まあ座れ」と振り返ったのは近藤である。「旦那ァ、先に初めてますぜィ」と屋台に似つかわしくない色のカクテルを振って見せた沖田の隣に滑り込みながら、「なに、今夜は保護者同伴?」と、銀時が二人越しの土方に声をかけると、「誰が保護者だ、むしろ保護者は俺だ」と、土方は溜息を吐いた。
まあな、と納得しながら、いつも通りコップ酒とおでんを受け取った銀時が、沖田のカクテルグラスにかちんとコップを当てて、「おつかれ」と言えば、「おい」と近藤の背側に土方がコップを差し出すので、「おう」と、銀時も沖田の後ろに手を伸ばして、土方と乾杯する。何もなかったような顔でコップに口を付けた銀時に、「お前たち、ずいぶん仲良くなったんだな」と、近藤が少しばかり目を瞠るので、「そうでもねえよ、なあ?」と銀時が土方に振ると、「普通だ、普通」と、土方も頷いた。
「いや、あんたらの普通は今まで斬り合いだったでしょうに」と、ロールキャベツを箸で半分に割りながら言った沖田に、「まあ恋人だしな」と、銀時が何気なく返せば、がたん、と近藤が立ちあがって、「トシ、お前本当に万事屋を口説き落としたのか!」と、土方の肩を掴む。「こいつはすげェや、どんな魔法を使ったんです」と、ニヤニヤし出す沖田に、アレッ?と思った銀時は、「ちょっと、ちょっとそこの彼氏借りていいか」と、土方を裏通りの端まで引っ張った。
「おい、何か話がかみ合わねぇんだけど、お前俺とのことってあいつらに説明してねえの?」と、銀時が耳打てば、「金払ってテメーと付き合ってるなんて言いづらいだろうが…」と、土方は軽く目を反らす。そう言えば、米は屯所から届いたし、呑み代はある程度経費にしているようだが、銀時の時給に関しては土方個人から振り込まれていた。いやいやいやいや、と僅かに青ざめた銀時は、「それヤベーよ、俺もいたたまれなくて神楽にも新八にもお前のこと話してねーんだよ、どうしよう」と、土方の着流しを掴んだ。
ハァ?!と咥えていたマヨボロを取り落としかけた土方だったが、「…いや待て、ある意味俺にとっちゃ好都合だ。敵の目を欺くにはまず味方からとも言うし、このままあと二ケ月我慢すりゃいい話だろ」と、力強く銀時の手を握る。
「いやっ、そりゃお前の仕事はうまくいくかもしんねーけど、それだと俺は一時でもほんとに男の恋人がいたことになっちまうんだけど?!いやお前もそうなんだけど!変な空気を生みそうなんだけどォォ!!」と、叫んだ銀時の口を押さえて、「声がデケェ!!」と一喝した土方が、「よし、成功報酬にその分も上乗せしてやるから。なんなら終わった後も一年分くらい米俵差し入れてやるから」と、完全に金で解決しようとするので、「バカヤロー、米くらいで足りるか!ときどき呑み代も奢って下さい」と、銀時はあっさり陥落した。
「酢昆布とパフェ代もくれてやる」と、土方がほっとしたようにマヨボロを咥え直したところで、「いつまでそんな薄暗いとこでイチャついてんでさァ!おっぱじめんなら余所いってくれよォ、それか死ね土方」と、沖田が屋台から声をかけるので、「「イチャついてねーよ!!」」と、銀時と土方は声を揃える。床几に戻れば、あからさまに近藤と沖田が席を詰めて、銀時と土方が並んで座れるようにしてあった。
土方は近藤と銀時の間に座って、近藤を随分いなしてくれたのだが、それでも上機嫌な近藤はひっきりなしに銀時に声をかけ、挙句の果てには「もう二度と恋なんかしないと言う頑なな態度だったトシに恋人が出来るなんてなあ。まさか相手がお前とは思わなかったが、これも何かの縁だ。トシのことをよろしく頼む!」などと鼻を啜りながら言うので、「あーハイハイ、任せろよ」と、三割増しに死んだ目で銀時は答える。ちなみに普段から半分方死んでいるので、これで八割は死んだ。いっそ腐臭でも漂わせそうな風情である。
土方は土方で、「それで土方さんはネコなんですか、タチなんですかィ。あーいいや、聞きたくもねえです。にゃんにゃん言ってるあんたらを想像するだけで酒がまずくなりまさァ」などと沖田におちょくられては、青筋を立てて抜刀を堪えていた。つうかなんだよにゃんにゃんて、センスが古ィよ総一郎くん。
助け船を出すつもりで、「総一郎くん、俺たちまだプラトニックなんだよ。結婚までは清い身体を保とうって約束してんの」と、銀時が土方の肩を抱けば、「のわりに、ソイツ昨日歓楽街をうろついて良さそうなホテルに目星付けてましたぜィ。あと総悟でさァ」と沖田がリークするので、「お前見回り中にそんなことしてんの?!」と銀時はぎょっとして腕を離す。
「人聞きの悪ィことを言うんじゃねえ、見回りが終わってからだ」と、何でもない様な顔で言ってのけた土方に、「いや変わんねえよ」と銀時は返して、「…やっぱり今夜はホテルなのか?」と、ぼそぼそ尋ねた。「ぱっといって寝るだけだ、そういう約束だったろ」と、やはりぼそぼそ答えた土方の背を、「めでたいな、トシ!」と、近藤がどやしつける。あっ、と思う間もなく、そもそもごく近くにあった土方の顔がさらに近付き、銀時は口に鈍い衝撃を受けた。鈍いが、痛い。少し血の味がする。
口元を押さえた銀時に、「おい、大丈夫か」と土方が言うので、大丈夫じゃねえ、と涙目で顔を上げた銀時は、土方の唇にも血が滲んでいるのを見て、軽く目を見開いた。「万事屋?」と、返事をしない銀時を不審がったのか、首を捻った土方の唇に手を伸ばして、「お前も大丈夫じゃねーじゃん」と、銀時は血を拭う。血の付いた指を、銀時が何の気なしに咥えれば、「お前、そういうの止めろ」と、土方は額に手を当てて俯いた。
なんだよ、と言いかけた銀時は、おでん屋台の床几に座った連中全ての視線がこちらへ向かっていることに気付く。「…うん?」と、銀時が咥えていた指を引き抜き、こちらも血に濡れていた銀時自身の唇を緩く舐めれば、土方は銀時の腕をがっと掴んで、「オヤジ、俺とこいつの分!釣りは次にとっといてくれ!」と、カウンターに万札を置いた。
「おい、俺まだ皿に餅巾残ってんだけど」と、後ろ髪を引かれる銀時に、「次の店で食え」と土方は告げて、銀時をぐいぐい引いていく。「旦那ァ、イチャつくのは連れ込み宿に入ってからにしてくだせェ!それと腹上死しろ土方」と沖田がのんびり叫び、「トシィ、明日は赤飯炊いて待ってるから!」とむせび泣くような近藤の声も聞こえたが、「うるせェ黙ってろ!!」と叫び返した土方の声が一番不可解だった。

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二件目の居酒屋で空腹を見たし、ほろ酔い加減になった銀時は、先ほどからすっかり口数の減った土方をちらりと眺める。「おい、土方?お前気分でも悪ィの」と、銀時が土方を突けば、「いや」と首くらいは振るものの、それ以上の反応は無い。
ぐいぐい杯を重ねて行く土方に、「それくらいにしとけよ、俺がお前を抱えて宿入ったら、ただ寝るだけみたいになるじゃん、お互い背中に手ェ回して入んねーと絵になんねえじゃん」と、もう吹っ切れた銀時が言うと、「テメーは素面で男とホテルに入れんのか」と、妙に座った眼で土方が言うので、「仕事だからな」と、銀時は皿に残った唐揚げをひょいと口に入れた。
そうか、と呟いた土方が着流しの袂を探るので、何をするのかと思えば、土方は小銭入れから三百円を出してテーブルの端に置く。「さっきの分」と、言った土方に、銀時は少し考えて、「あんなのただの事故チューだろ。いらねーよ」と、ひらひら手を振った。お互い流血したわけだし、むしろこれは近藤に請求したい。土方との惚気(虚構)を聞かせてパフェの一杯も奢らせたい。行けるような気がする。
うん、と一人頷いた銀時の前で、「…じゃ、もう一回」と土方がいうので、もう一回?と銀時が顔を上げれば、土方はゆるく首を曲げて、銀時に口づけた。いつも通り触れるだけで離れて行くかと思えば、土方は薄く口を開けて、銀時の唇を舐める。「うっわ」と、銀時が土方を引き剥がすと、「な、驚くだろ?」と、土方はまだ血の色が残る唇を拭いながら言った。
「ああ、うん。なんかゴメン」と、親指の先で僅かに湿った唇を撫でた銀時は、「ところで、お前なんでキスだけその場で清算すんの?」と、重なった三百円を人差し指で崩す。「なんでって、あとから思い出して三百円ずつ計算したくねえだろうが」と、真顔で答えた土方に、ふはっ、と笑った銀時は、「まあ確かにな」と、三百円を袂にしまい込んだ。
ほどなくして店を出た銀時は、やはり少しふらついている土方に、「今日は帰るか?キャンセル料はいいから。今までの、三時間分くらい払ってくれりゃいいから」と、親切心のつもりで声をかけたが、「馬鹿、これで帰ったらどう考えても総悟が笑うだろうが。総悟はいいとしても、近藤さんの期待を裏切るわけにはいかねえ」と、土方の答えは斜め上である。
「まー一晩一緒にいるだけで三万なんだから、俺は助かるけどよ」と、懐に手を入れた銀時が、「行くか」と、軽く目を反らせば、「おう」と、土方も銀時とは目を合わせない。なんだこの空気、といたたまれない思いで銀時が土方についていくと、「入るぞ」と土方が指したのはいかにもなラブホで、「…お前、こういうとこを隊服で確認するのはやっぱどうかと思うわ」と、銀時は呟いた。
入口の画面で適当な部屋を選び、土方とふたりで二階の奥まで進む。内心ドキドキしていた銀時は、内装が以外と普通だったので、「風呂がガラス張りじゃなくて良かったな」と、土方を振り返る。「ベッドはピンクだけどな」と頷いた土方は、ベッドに腰掛けると、早速灰皿を引き寄せた。
とりあえず、とブーツだけ脱いで隅に放った銀時が、「ところで、ここの何がそんなに気に入ったんだ?」と尋ねれば、「自動精算機があって室内禁煙じゃないとこ」と、煙を吐きながら土方は答える。「お前も大概だな」と、隅の冷蔵庫を開いて、「水飲んでいいか」と、銀時が尋ねれば、「好きにしろよ」と、土方は銀時に財布を放って寄越した。
やたらと小銭の詰まった財布から二百円を落としこんで、ミネラルウォーターを取った銀時は、「お前も飲む?」と土方を振り返る。あー、と咥え煙草で胡坐をかいた土方が、「一口くれ」と言うので、「ほらよ」と、銀時はきっちり蓋を閉めてからペットボトルを放った。水を含んでから、「間接キスは二百円くらいか?」と言った土方に、「それ、新しく買った方が安いじゃねーか」と、銀時は笑う。
「で、今何時だ」と銀時が尋ねると、「十一時半だな」と、土方は携帯をかざして見せた。「あと八時間半?」と、銀時が首を捻れば、「八時間半だな」と、土方は頷く。「…お前、風呂入ってくれば?酒臭いし」と、言った銀時に、「お前が先でいい。俺はもう少し煙草吸っとく」と、土方は首を振った。「おー、ベッドに灰落とすなよ」と銀時が軽く手を振れば、「テメーも風呂で溺れんなよ」と、土方も投げやりに手を振り返す。それはテメーだろ、と銀時は首まで赤い土方をちらりと眺めたが、口には出さなかった。
あとで溺れてたら引き上げるくらいはしてやろう、と思いつつ、妙に広いバスルームで汗を流し終えた銀時は、濡れ髪のまま、脱衣所に置いてあったバスローブをじっと見下ろす。「…さすがにこれ着て出んのはどうかと思うよなァ…」と、ガシガシ頭を掻いた銀時は、結局いつもの着流しだけを適当にはおって、バスローブは見なかったことにした。
銀時がバスタオルをかぶって戻ると、土方がベッドに突っ伏しているので、「おい、生きてるか?」と、銀時は軽く土方の身体を揺する。「縁起でもねえことを言うんじゃねえ」と、返して、「もっとゆっくりして来いよ」と、恨みがましい声で銀時を見上げる土方に、「無茶言うな、ふやけるわ」と何でもない声で銀時は答えた。いたたまれないのは銀時も同じだったが、自分よりもテンパっている奴がいると逆に冷静になるものである。肝試しの要領で。
「ほら、テメーも風呂入って来い。俺はあっちの床で寝るから、何かあったら起こせよ」と、銀時が枕を一つ抱えて部屋の隅を指すと、「ああん?ここで寝りゃいいだろが。何意識してんだ気持ち悪ィ」と、土方は自分の隣をバシバシ叩いた。「…いや、俺は雑魚寝も慣れてっけど、お前は嫌だろ、男と共寝なんて」と、耳の後ろを掻いた銀時に、「道場ではさんざん雑魚寝だったわ、今さら気にしねェよ」と、土方は返す。
まあ真撰組も男所帯だしな、と頷いた銀時が、それでも「俺だぞ?あとから蹴り飛ばすとか無しだぞ?」と言い募れば、「しつけーな!!さっさと寝やがれ!!」と、体を起こした土方は銀時の腕を掴んで、思い切り引いた。ばふっ、とそう柔らかくも無いマットに上半身から突っ込んで、「お前容赦ねーな…」と銀時が呟くと、「テメーがごちゃごちゃ言うからだ」と、土方は溜息を吐いて、「…こんなとこまで連れ込んで、風邪でも引かせたらさすがに俺のせいだろーが」と続ける。
枕を抱いたまま、うーん、と首を捻った銀時が、「お前、いつから俺のこと嫌じゃなくなったわけ?」と、尋ねれば、「何の話だ」と、土方は半目になって銀時を見下ろした。「だから、こんな依頼を持ちかける程度に、俺のことが嫌いじゃなくなったのはいつかって聞いてんだよ」と、銀時が返すと、「いつからも何も、俺ァテメーが気に食わねェだけで、好き嫌いの範疇にはねえよ」と、土方は言う。
へえ、と純粋な意味で驚いた銀時に、「テメーこそ、よくこんな依頼受けたじゃねえか」と土方が少しばかり笑みの形を作るので、「万事屋は万年金欠だからよォ、ニコチンポリスの頼みでも実入りが良きゃ受けるんだよ」と、銀時は最初とはずいぶん違うことを言った。とはいえ、脳内ではこの三週間の不可解さにようやく終止符が打たれているところである。そうか、気に食わない相手でも、嫌わなくていいのか。であれば、ときどき楽しいと思うこの、わけのわからない心根にもわざわざ理由を付けなくていいんだろう。
銀時が抱えていた枕を首の下に押し込んだところで、「風呂行ってくる」と土方が腰を上げるので、「おーう、綺麗にして来いよ」と、銀時はひらひら手を振った。言葉の代わりに、マヨボロの箱が降ってきた。

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アルコールと風呂上りの心地良さに微睡んでいた銀時は、容赦なく軋んだスプリングに薄ら目を開ける。ベッドの片端に潜りこもうとする土方がバスローブなので、「お前それ着たんだ」と、銀時が呟けば、「起きてたのか」と、ぎょっとしたような顔で土方は言った。「気配には聡い方で」と銀時が返すと、「中があるお前と違って、俺ァ着流し一枚なんだよ。濡れてはいねえから気にすんな」と土方は答えて、「朝は金置いてくから、お前も適当に出ろよ」と続ける。
うーん、と少しばかり考えてから、「それだと破壊力が足りねえから、やっぱ屯所まで送ってくわ。ちゃんと起こせよ」と銀時は言った。「本気で言い逃れできなくなんぞ」と、背を向けたまま言った土方に、「どうせもうできねーよ」と銀時は答えて、「おやすみ」と布団を被る。布団は一枚なのでしばらく土方と布団の引っ張り合いになったものの、最終的に背中が触れる程度まで近づくことで解消した。男だろうと人肌は暖かいな、と昔と同じことを思いながら、銀時は今度こそ眠りに引きずり込まれていった。


( グッダグダです / 坂田銀時×土方十四郎 /130901) ←前の話    続き→