※「人ははじめに眠りにつく」の続編です
性描写を含みますので、苦手な方はご注意ください。




人 は は じ め に 眠 り に つ く  /  後 篇



宿の裏手に伸びる小道は、満開の梅に彩られていた。薄曇りの夜空を背に、それはどこまでも白く白く咲いている。時折はらはらと舞い落ちる様はまるで遅い初雪のようで、マルコはゆっくりと瞬きを繰り返す。マルコの前を行くエースは、花弁を避けることも振り払うこともせず、だから真っ黒なエースの髪にも、初雪のような真っ白な花が咲いている。エースが何も言わないので、マルコも口を開かずに、2人は梅林の奥へ歩いていった。ひたひたと、春の黒土が覗く地面を音もなく踏みしめながら。

そう長くはないが曲がりくねった小道を抜けると、マルコとエースの目の前にぽっかりと開いた場所が現れた。四方を一面の梅の木に囲まれた広場は、降り積もる花びらでまるで別の花が咲いたようだった。「あの木の下で飲もうぜ」と、宿を出てから初めてマルコを振り返ったエースが言うので、マルコは黙って頷いた。ばさり、と重箱を包んでいた風呂敷を敷いて、エースは古木に背を預けている。向かい合うように座ろうとしたマルコも、「そっちじゃなくてこっちだろ」と地面を叩くエースに負けて、エースの隣に腰を下ろした。マルコは抱えていた一升瓶を下ろして、栓を抜く。直接飲むか、と思ったマルコの前に塗りの盃が差し出されて、「至れり尽くせりだな」とマルコがつぶやけば、「いい宿だよなあそこ」とエースは破顔した。宿のサービスも行きとどいているが、マルコはエースに向かって言ったのである。通じるとは思っていなかったので、マルコは黙って盃を満たした。とくとく、と溢れそうなほど注がれた杯は、まずエースに飲ませることにする。「ワノ国の酒ってすっきりしててうまいよな」と言うエースが掲げるもう一つの杯にも酒をなみなみ張って、とりあえず乾杯だった。咲く梅に、美味い酒に、親父の健康に、船の行く末に、マルコとエースに。

注がれた酒を飲んでしまうと、エースは重箱を開いて中を物色している。夕食で腹がいっぱいだったマルコは、「何食う?」と聞いたエースに「そこの酢の物だけくれ」と言って口を開いた。「おう」と言ったエースは、危なげない手つきで海藻と大根をつまんで、マルコの口に押し込んだ。大量に。「うまいか?」とエースが聞くので、微妙にむせそうになりながら「ああ」とマルコは大根を噛み締める。世間一般の「あーーんv」からは大分かけ離れている気がするが、エースにとってこれは弟や、船に乗るその他隊員たちに絵付けするときと同じことなのだろう。しおらしげに差しだされても困るので、ともかく口に運んでくれるだけマシだとマルコは思う。しばらく大根を噛み締めるマルコの姿を見ていたエースは、「食わねえのか」と言うマルコに促されて重箱を持ち上げた。掻きこむように重箱を空にするエースがどうにも幸せそうなので、マルコはそれだけで酒が飲めるのだった。

その間にも白梅ははらはらと散り、重箱の中身と酒瓶が一本開く頃には、エースの髪はまた花が咲いたようになっている。マルコは、「ごちそうさまでした」と手を合わせるエースを引き寄せて、花弁を一枚摘みあげた。「なに、」と言いかけたエースに沫雪のようなそれを見せると、エースもマルコの頭に手を伸ばす。「マルコもついてんじゃん」とエースが笑うので、「俺よりお前のが目立つよい」とマルコも笑った。残りの花はそのままにして、マルコとエースはそろって梅を見上げた。宿を出た頃は薄く雲がかかっていた空はすっかり晴れて、月はなかったが、その分春の星がそこここで瞬いている。「風流だな」とエースが言うので、「夜桜は聞くが、夜梅も悪くねえな」と、エースの髪を撫でながらマルコは返した。「ん」と、溜息とも返答ともつかない声を漏らしたエースは、それきり黙りこんで、マルコの肩におとなしく身体を預けている。マルコはしばらく目を閉じて、このまま星と梅だけ見て帰ろうか、と少しだけ考えた。そうすればエースは、きっと何も言わないだろう。マルコの予想通り、宿に帰ってすぐ寝て、マルコが朝方起こしてやれば喜んで一緒に朝風呂に浸かって、それで終わるはずだった。エースから仕掛けたせっかくの休息を、エースの望まない形で終わらせることは忍びない。マルコは薄く眼を開いて、身体を預けるエースに目を落とした。と、ぶつかったエースの視線があんまりにも心もとないので、マルコは逆に目を反らすことができなくなってしまう。そうして、マルコはエースに向かって口開いた。結局のところ、マルコがエースに向かって何かをせずにいられることはないのだった。「エース」とマルコが呼べば、「何だよ」と、瞼を揺らしてエースは言う。「何だ、はこっちの台詞だよい」とマルコが返すと、エースは目を見開いてマルコの肩から身体を起こした。マルコは溜息を吐いて、逃げたエースの腕を掴む。隣に並んだ姿で、少しだけ身体を引いたところで何が変わるわけでもない。分かっているのだろう、抵抗はしないエースに、マルコは重ねて「言いたいことがあるならはっきり言え」と言った。「何もねえよ」と、往生際の悪いエースを、「ないわけねえだろ」と切り捨てて、マルコはエースの目を覗き込んだ。とたんに眇められるエースの目に、「ほらな」とマルコが言えば、「何がだよ」と、少し小さな声でエースは言う。「分かってねえんなら言うが」と前置いて、マルコはエースの目を見ながら静かに、でもはっきりと言った。

「お前、船を出た時から俺の目をちゃんと見ねえだろい」
「そ、…んなことねえだろ?」
「あるから言ってんだ」

と言いながらマルコがエースを見ると、その途端驚くほど強張ったエースの腕に、身体は正直だな、とマルコには口に出さず呟いた。「なんでそんなこと分かるんだ」と、強張った腕でエースが言うので、「俺がお前と顔を合わせねえのはしょっちゅうだが、顔を合わせた時にお前から視線を外すことはめったにねえからだよい」と、エースから視線を外しながらマルコは言った。「滅多にねえことが続けばそりゃ分かる」とマルコが続けると、エースの腕からあからさまに力が抜けるので、マルコはエースを掴んだ手を離す。もう身体を引こうとはしないエースが「俺、変だったか?」とぽつりと漏らすので、「別におかしくはねえが、普段から考えりゃ珍しかったな」とマルコは返した。そのまま、マルコが反らした視線をエースに戻せば、揺れないエースの目とかちあって、「そういう目をしてろよい」とマルコは笑う。マルコにつられて少しだけ唇を釣り上げたエースは、ぼすっとマルコの膝に突っ伏した。エースの重さなどは大した問題でもないが、話がまだ終わっていないので、マルコは「どうしたよい」とエースの髪を梳いた。このまま眠りこまれる可能性がないとも限らない。どこでも眠れる人間ではあるし。胡坐をかいたマルコの膝に顎を乗せたエースは、「言ってもいいのかな」と言った。顎の動きがくすぐったかったが、マルコは我慢して「何でも言えよい」と返す。「じゃあ」と言ったエースは、一瞬息を吸って、首を捻るようにしてマルコの顔を見上げた。エースの真っ黒い瞳には頭上の梅が淡く映りこんでいる。

「マルコ、しよう」
「何を」
「セックス」

呼吸をするほどの軽さでエースが言うので、マルコは意味を理解するまで、しばらくエースの頭を膝に乗せたまま、エースの目に映る夜空を眺めていた。エースに屈託がないことは分かり切っていたし、30をとうに過ぎたマルコより成人を迎えたばかりのエースの方が性行為に積極的で当然だと割り切っていたつもりだったが、それにしてもさらりと言われ過ぎた。マルコが瞬きも忘れたように固まっていると、「ダメか」とエースが言うので、「ここでかよい」と時間稼ぎのようにマルコが言うと、「今、してェんだ」とエースは力強く言った。その上で、「ダメか?」と再度問われて、マルコはしばらく考えた。宿に帰れば清潔な布団も温かい風呂もエースを慣らす道具も揃っている。暦の上でも島の気候も春とはいえ、まだ幾分肌寒い夜の、地面の上ではきっとエースに負担をかけるだろう。何より、誰も訪れない場所で、エースと二人きりになったからといって、すぐにそういう気分になるほどマルコは切羽詰まっていないのだった。エースの隣で酒を飲んで、時折他愛のない会話を繋げて、体よりも心を近づけた上で宿に帰り、少しばかり期待しながらやっぱり先に眠ってしまったエースの寝顔を眺めてから一人で温泉に浸かるだけで十分だ。今ここで、と言われて、すぐには頷けない理由がマルコには山のように存在している。けれどもマルコは、

「寒くても知らねえよい」

と返した。断れなかったわけではない。エースのためでもあったし、マルコのためでもある言葉を、エースが否定するわけはないのだ。けれども、だからこそマルコはエースを否定するわけにはいかなかった。エースの言葉を、エースの行動を、エースがマルコとセックスしたいという衝動を、マルコの言葉で簡単におさめてしまうようなエースを見たくないのだった。どこまでも奔放なエースは、手に入れることを目的としていない。旗を挙げた時も、親父に挑んだ時も、いつだって「ただそうしたかったから」という以外の何も、エースは持っていないのだ。「一繋ぎの財宝」に興味がないのはマルコも同じだったが、それでも、マルコはエースほど何もかも捨てて生きることはできない。捨てるわけではない、「何も持っていない」と思っているのだ。エース自身が。夢も、野望も、仲間も、財宝も、望めば何もかも手に入るだけの力を手にして、それをどう扱っていいかわからない。物を欲しがらない子供は厄介だ。愛し方ばかり覚えて、愛され方を知らない。マルコはいつだってエースの腕を取っているというのに、マルコの腕を望むエース自身はマルコの手を握り返しはしないのだ。マルコはそれがひたすら寂しかった。マルコがエースをあいしているのに、エースに愛を囁かないのは、エースにそれを理解させる術を思いつかないからだ。

マルコは、膝の上のエースの腕を掴んで胸に抱き込み、梳き放題伸びる髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。それはこれからセックスをするふたりにはあまりにも健全な行為で、けれどもマルコとエースにとってはまるで普通のことなのだった。マルコとエースの間にはセックスよりも大事なことが多すぎて、余裕がなければ性欲など頭の片隅にすらいなくなってしまう。ぽっかり空いた休暇と、親父のお膳立てでできたこの空気に、エースがそういう風に反応するとは思わなかったマルコにとっては、まさに青天の霹靂だった。正確に理解しているとは思わなかったが、切羽詰まってはいないだけでいつでもエースとセックスしたいマルコにとっては願ってもない言葉だった。驚きはしたが、たとえ屋外だろうと地面の上だろうと濡らすものが何もなかろうとタオルの一枚も持っていなかろうと、マルコにとってさして問題ではないのである。差し当たっての課題は、エースに傷をつけない体位を考えることだった。マルコがエースの髪から手を離すと、エースはマルコの首に手をまわしてマルコを見つめる。真っ黒なエースの目が揺れても潤んでもいないので、マルコは安心してエースの唇を舐めた。そのまま噛みつくようにマルコが口付ければ、エースも薄く唇を開く。ぬるぬるとマルコがエースの咥内を探っていると、エースはマルコに応えながら、ぺちぺちとマルコの胸を叩いた。もうしばらくエースの舌を味わってからマルコが口を離して「なんだよい」と尋ねれば、「咥えていいか?」とエースは唾液を引いたまま笑う。「なにを」や「唐突に言うな」は無意味だとわかっているマルコは、「そんなに笑顔で言うことかよい…」と、唾液で光るエースの唇をごしごし指で擦った。「マルコも笑ってるだろ」とエースが言うので、「あー分かったからもう喋るな」とマルコは観念して手を上げる。ホールドアップ。「わかったって、していいってことか?」とエースが言うので、頷いた上で「上で咥えなくても下に咥えさせてやってるだろうが」とマルコが返すと、「それとこれは別だろ」と、マルコの膝から降りながらエースは上機嫌だ。

これから突っ込まれる性器を咥えて何が楽しい、とマルコは思うのだが、突っ込むときに眺めるエースの性器を咥えるのはそれはそれはたのしいので、エースを否定するわけにもいかなかった。ある意味男としての生殺与奪権を奪うわけでもあるし、とマルコが思っているうちに、エースはかちゃかちゃとマルコのベルトをはずしている。マルコが手を掛けようとすると、「いいから」とエースは言って、「俺がやりたいんだ」と真剣な目でマルコを見上げる。上目づかいはポイントが高い。咥えられる前から勃ちそうになって、マルコは黙って顔が見えない位置までエースの頭を引き寄せた。「なんだよ」とエースは言ったが、「なんでもねえよい」とマルコが返すと、「そうか」と答えてまたマルコの下半身に目を落としている。しゅる、とマルコのベルトを下としたエースは、そのままジッパーを引き下げて、下履きからほぼ萎えたままのマルコの性器を引き出した。外気に触れてわずかに震えたマルコの性器を、エースは躊躇いなく口に含む。性器の先がぬるりとした感触に包まれて、マルコは思わず目を閉じた。気持ちいいというか、そういう話だけでもない。マルコは割と妄想系なので、エースがマルコの性器を咥える顔が見えないだけ、なおさらそれを想像して震えが走る。あっという間に大きくなったマルコの性器を口から出したエースは、ゆっくりと裏筋を舐め上げた。そのまま、ちゅ、ちゅ、とあちこちを舐められた上に指を使われて、マルコはエースの頭を押さえて口を塞いだ。喘ぎそうだった。あんまり早すぎると笑われるだろうから、マルコは割と必死である。エースはマルコの気も知らずに、マルコの性器を舐めたり咥えたりしゃぶったり扱いたりしている。さすがに辛くなってきたマルコが「もうそれくらいでいいんじゃねえか」と言えば、「一回イくまで咥えたい」とエースは言った。だからもうイきそうなんだと察してくれ、とマルコは思ったが、やっぱりエースが酷く楽しそうなので、「わかったよい…」と力なく応えておいた。マルコ自身が肩を落としてもマルコの性器は勢いを失わないので、あまり意味はない。ただし、マルコが口を塞ぐ手は二本に増やされた。しばらく丹念にマルコの性器を舐めていたエースは、不意に性器を咥えたままマルコを見上げて、「なあ」と不明瞭な発音で言った。柔らかいエースの舌と、喋るときに当たったエースの歯と、上目遣いのエースの視線にマルコは微妙に泣きたくなったが、どうにかおさめて言った。

「なんだよい」
「ここ、もさ」

と言いながら、エースは咥えたままのマルコの性器を指す。それがどうした、という目線でエースを見下ろしたマルコに、エースは、

「食いちぎっても再生すんの?」
「恐ろしいことを言うなお前は」

と高速で返したマルコに向かって、「ちょっと気になるだろ」とエースは笑う。「ならねえよい」と「咥えたまま笑うな」のどちらを言おうかマルコが考えあぐねていると、「再生しなかったら困るからやらねえけどな」とエースが付け加えるので、気を抜いていたマルコはほとんど何も考えずに吐精した。性器から目を反らしていたエースは、突然溢れた精液に対処できずに「ぶはっ」と性器ごと精液を吐き出している。衝撃で、断続的に吐き出された精液と、口から溢れた精液がエースの顔を白く濡らして、もうどうしようかとマルコは思う。咳込みながら、「ちょっとしか飲めなかった…」とエースが呟くので、「もういいから顔拭いとけ」とエースの顔から微妙に目を反らしてマルコは脱いだシャツを差し出した。「これで拭いていいのかよ」とエースが言うので、「他にねえから仕方ねえだろい」とマルコは返す。明日は洗濯だ。躊躇いがちに顔を拭いたエースからシャツを受け取ったマルコは、黙ってシャツを脇に置いた。さすがにそのまま着る気にはならない。エースのならばともかく、自分のものとあっては。「満足したかよい」とマルコが尋ねれば、「すげえたのしかった」とエースはやっぱり満面の笑みを零すので、そりゃあ良かった、と言いながらマルコは傍らの酒瓶を引き寄せる。「飲むのか?」と首を傾げたエースに、「お前が飲むんだよい」とマルコは盃を差し出した。「さすがに咥えた後すぐ口を舐める気にはならねえな」とマルコが言うと、エースは黙って盃の酒で口をゆすいで飲み込んだ。「そこは吐き出せよい」とマルコがエースの唇をつまめば、「だってもったいねえだろ」とエースは言う。酒が、だと思いたいマルコはそこを掘り下げずに、気を取り直してエースとのセックスを考えることにした。当然のようにエースの下ばきを下ろして、少し考えたがシャツは脱がせないことにした。誰も通らないと思うが、万一見つかった時にエースの背中の親父を見せるわけにはいかない。マルコの胸についてはエースで隠れるからいいとして。エースを半裸にしたところで、マルコは大事なことを思い出した。そう言えば。

「慣らすもんがねえな」
「そのまま突っ込めばいいんじゃねえの?」
「明日から人に言えない理由で船医にかかりたいならそうしろよい」
「…痔はさすがに嫌だな」

本気で嫌そうな顔をしたエースを、「はっきり言うんじゃねえ」とたしなめてから、マルコはまた酒瓶を手に取った。「…粘性はねえが濡れはするだろ」と言ったマルコに、「もたいねえだろ」とエースは言うが、他に何もないのだから仕方がない。それに、「まあ下からでも、飲むと言えばその通りだから許されるよい」とマルコが結論付ければ、「真面目な顔で言われると萎えるな」とエースは苦笑した。とりあえず異論はないようなので、マルコは杯に満たした酒で指を濡らして、エースの後ろに回す。マルコの肩に置いたエースの腕に力が入るので、「そうやってちゃんと掴まってろよい」とマルコが言うと、「首しめたらゴメンな」と言いながらエースはもう少し力を込めた。少々絞められたくらいで死ぬほど柔な体ではないが、相手がエースなので、せいぜい優しく扱おうとマルコは思う。エースに焦がされたら、たとえ不死鳥の身体でも再生に少し時間がかかるので。ローションよりはひっかかる手ごたえではあるが、唾液よりは楽に一本目の指を通して、マルコとエースは同時に息を吐いた。「痛いか」とマルコが尋ねれると、「少しな」と、エースは正直に答える。「でも平気だ」とエースが言うので、「辛くなったらちゃんと言えよい」と返して、マルコは指を進めた。粘性の薄い水音があたりに響いて、マルコの目の前にあるエースの顔は少しだけ歪んでいる。「さっきの、」とエースが言いかけるので、「何だ?」とマルコが問うと、「さっきの精液とっとけば使えたのにな」と、苦しそうな顔でそれでもエースが笑うので、「お前が今イってくれたらそれを使うよい」とマルコも笑った。「それはちょっと無理だ」とエースが言うので、「だろうな」と頷いて、マルコは日本酒と指を追加する。エースの指にますます力がこもるので、マルコが不死鳥でなければ背中に痕が残るのだろうと少しだけ残念になった。くちゅくちゅとマルコがエースをほぐしているうちに、エースの腰がかくんと崩れて、マルコの足に落ちる。「限界か?」とマルコが言うと、「そうじゃねえ…と思うんだけど」と、紅い顔絵でエースは言った。

「な、んか、あちい」
「どういう風に」
「そんな飲んでねーのに、酔っ払った…みてえな…」

と、エースが言うので、マルコは「ああ、」と頷いた。「なに?」と言うエースに、「直腸から吸収すると周りが早いらしいな」とマルコは飄々と返す。一瞬目を大きく開いたエースが「そんなことどこで覚えてくんだよ」と呆れたように言う。「お前と似たようなとこだよい」と返して、船室下の三番倉庫の6枚目の壁板、とマルコが呟けば、エースの身体が面白いほど跳ねた。やはりそうらしい。「エロ本の隠し場所ってのは昔からかわんねーもんだなあ」とマルコがしみじみ言うと、「マルコもあそこ使ってんのかよ…」と脱力したようにエースは言った。「昔は世話になったよい」とマルコが笑えば、「サッチに教えてもらったけど行くのやめようかな」としみじみエースは項垂れている。エースにろくでもない事ばかり教えるのは、相変わらずサッチらしい。「まあいいから世話になっとけ」と、三本目の指を追加しながらマルコが言うと、「それはマルコの優しさか…?」と、無理な体勢で振り向いたエースの目はわずかに潤んでいる。顔が赤いのは恥ずかしいのと酔っているのと興奮しているのとどれが一番大きいだろうか、と思いつつ、「優しさと言うか」とマルコは言いながらエースの目じりを指で拭った。それから、「ひとりでしてりゃ誰かとする暇もねえだろい」と言えば、エースは一瞬ぽかんと口を開いて、「マルコ以外とはしねえよ」と言った。それは怒ったようでも呆れたようでもなく、単に事実を述べるだけの真っ直ぐな口調だったので、だからこそマルコの胸に強く響いた。「そりゃ、…光栄な話だよい」とマルコが中で動かす指を留めて呟くと、エースは「ふへ」と気が抜けたような顔で笑う。エースの顔にちゅう、と口づけて、マルコは指を引き抜いた。「あ、」と漏らしたエースの声は、マルコの中に消えた。エースの腰を引き寄せたマルコは、しばらく考えてから、「まあ対面でもいいんだが」と前置いて言った。

「エース、お前向こう向いて乗れ」
「このまま腰落とせばいいんじゃねーの?」
「膝擦りむくよい」

と言うマルコに、「膝くらい別にいいけど?」とエースは本当に不思議そうに返すので、「…仮にもロギアの隊長が膝擦りむいて帰ってきたら不審に思われるだろうが…」と、エースの腰に手をまわしたままマルコは項垂れる。本当は誰も不審に思わないだろうことが一番問題だとわかっているのだが、ともかくマルコはエースに誇りを持って欲しかったので、どうにかエースを持ち上げて体制を変えさせた。珍しく服を着ているエースの後ろ姿は、項以外の素肌がないので、マルコは首筋に唇を落とす。痕を残さない程度に吸い上げて、そのままエースの腰をマルコの性器に導いた。十分とは言い難いが、ゆるく広がったエースの中にマルコがゆっくり性器を進めていると、「なんか、…重くねえ?」と、荒い息を漏らしながらエースは言う。他人の心配をしている場合か、と思いながら「平気だよい」とマルコが返すと、エースは首を捩じって「腰とか痛めんなよ」と悪い顔で笑う。悪戯っぽいエースの顔が真っ赤で、額に汗を浮かべているので、マルコも笑って「馬鹿にしてんのか」と最後まで腰を進めた。一瞬息を飲んで、それでも「心配してんの」と最後まで笑ったエースの中で、マルコはしばらく静かにしていた。マルコの性器がエースの粘膜に馴染むまで。

早かったエースの呼吸がだんだん落ち着いて、強張っていた背中の緊張が取れたところで、エースはマルコの身体をマルコの胸に抱きこんだ。ぐらりと傾いたエースの中で、性器をきゅう、と締められてマルコは多少身体を揺らしたが、まだ大丈夫である。そのままマルコも梅の古木に背中を預けた。静かな呼吸を繰り返しながら、「なあ」とエースが言うので、「ああ」とマルコが返すと、「梅、きれいだよな」とエースは言った。「そうだな」とマルコが頷けば、「よかった」とエースは呟く。「何が」とマルコが尋ねると、「マルコとセックスしながら奇麗なものが見えて良かった」とエースは、まるで歌うように言った。「そんで、マルコが同じものを見て『奇麗だ』って思ってくれて、良かった」と、エースにそこまで言われてところで、マルコは理性を半分ほど手放した。首筋以外に咥える場所を探して、マルコはエースの耳を齧る。「なっ、」と振り向きかけたエースの両腕を握りこんで、マルコはゆっくり腰を動かした。

「入ってること覚えてるか」
「うひっ、あ、」
「相変わらず色気のない喘ぎ声だな」

と、言いながらマルコはエースの手を握ったままエースの性器に手を伸ばす。「うえ、ちょ、」待って、と言うエースの声は無視して、エースの手ごとエースの性器を擦りあげた。ぬるぬると動くエースの手に、「もう濡らしてたのか」とまたエースの耳を咥えてマルコが囁くと、「だっ、…先にイってるくせに、」と、掠れた声でエースは言う。正論だ。言葉攻めで負けそうだったので、さらにぬるぬるエースの手を動かすと、「も、ちゃんと、中で動けよ!」とエースは泣き声交じりで叫んだ。「こっちの方が気持ちいだろうが」とマルコが言うと、「俺は良いけど、マルコは別に良くねえだろ」とエースは言う。分かっていないくせに殺し文句を吐くエースに、マルコはまた性器の質量を増やしてしまって、エースは「ぅあ」とほとんど呻くような声を上げた。いろいろしかたがないので、「動いてたら触っててもいいのかよい」とマルコが尋ねると、エースはこくんと首を縦にふる。その、エースの首筋が真っ赤に染まっているので、マルコは堪らなくなった。もともと対して我慢もしていなかったが。マルコが、ぐ、と腰と腕に力を込めて付きあげると、エースの腰はがくがく震える。エースの手を握るマルコの手が強く握り返されて、マルコは結局エースの性器から手を離した。エースの喉からは、鈍い悲鳴のような声が断続的に響いていたが、唐突に「な、あ」とエースが言う。「なんだよい」とマルコが応えると、「やっぱり、顔見たい」と、とぎれとぎれにエースは言った。一瞬腰を止めたマルコが「だから、膝」と言いかけると、「膝立ちじゃなくて、足、浮かせたままするから」とエースは重ねる。「っ、う、ん、だから、さあ、」と、マルコの動きに合わせて喘ぐように繰り返すエースはもう意識を飛ばしたっていいはずだと言うのに、マルコより余程冷静だった。「こっちのほうが楽だと思うよい」と呟いたマルコに、「でも、いい」と、エースは浮かされたままはっきりと言った。ときめいてしまったマルコの完敗である。そもそもマルコはエースがいとしいので、顔が見たいのはマルコも同じなのだった。「…入ったまま動けるか」と尋ねたマルコに、「できる、と思う」とエースが返すので、マルコはゆっくりと握っていたエースの指を離した。マルコの胸からエースの背中を起こすと、エースのシャツは二人分の汗を吸って色を変えている。やっぱり洗濯だな、と場違いなことを考えて笑ったマルコは、エースに意識を戻して、エースの腰に手を添えた。

少しだけ腰を浮かせて、ゆっくりマルコを振り返ったエースは、すとん、と腰を落として「あ、」と一際高い声を上げる。「今のはまあよかったな」と言ったマルコに、「そりゃよかった」と返して、エースは地面に手を吐いた。大きく息を吐くエースの、大きく開いた太腿が、他の皮膚と比べてあんまり白いので、マルコは吸い寄せられるように口を寄せた。かなり無理な体制ではあったが、ちゅ、と吸い上げてどうにか痕を残す。さらに4回同じことを繰り返せば、エースの内腿に紅い花が咲いた。ちょうど、梅の花びらと同じ形で。「なに、」と薄く眼を開いたエースに、エースの太股を見せると、エースはかっと目を開いて「何これ」と言った。

「白梅ばかりだからな、紅梅咲かせてみたよい」
「何考えてんだ…?」

誇らしげなマルコに向かって、「ばかじゃねえの」と、呆れたようなというより呆れかえった声でエースが呟くので、「胸に残さないだけマシだと思え」とマルコは言った。キスマークを残した程度でエースが前を止めるとはとても思えないので(というよりむしろ上半身裸で過ごしているので)困るのはエースよりもマルコなのだが、ともかくエースはそれでおとなしくなる。エースの腕を掴んで、「繋ぐのと首に回すのとどっちがいい」とマルコが尋ねると、エースは少し考えてから「両方」と言った。何度も言うがエースはろくに分かっていないのだが、マルコはまたどうしようもなくなって、はやる胸を押さえながら片手の指をエースの手に絡めて、片腕をエースの首に回してエースの体を引き寄せる。顔が見えるぎりぎりの位置まで。マルコがエースを突き上げれば、エースの性器もマルコの前で大きく震えている。とろとろに濡れたエースの性器は、マルコの腹に絶妙に煽られて、今にも達しそうだった。それはマルコの性器も同じことで、だからマルコはエースの中から性器を引き抜こうとした、が。

抜けだそうとするマルコの性器をきつく締めつけて、「やだ」と、エースは言った。

「やだって、おい」
「な、かに」

「っ出して、」と、うわ言のようにエースが呟くので、「後始末の出来ねえところで中出しできるか」と言ったマルコの言葉を、「いいから」とエースは遮る。なおも言い募ろうとしたマルコに向かって、

「さっき飲めなかったから、今度はちゃんと飲みたい」

と、真剣な目でエースは言った。このガキは本当にどうしようもないとマルコは思う。こんな声で、こんな身体で、けれどもこんな目をして、どこまでもマルコを呷りながらきゅうきゅうとマルコの性器を締め上げるエースに、「逆流しても知らねえからな」とマルコは呆れたように言った。その瞬間、「おう!」とそれはそれは良い声で返事をしたエースに若干不安を覚えながら、マルコは最後に向かって一際大きくエースを揺らした。さらに深く角度を変えて、マルコの性器に絡み付くエースの粘膜をかきわけながらながら、マルコは意図的にエースの性器も擦りあげる。途切れ途切れだったエースの声が泣き声のようにひときわ高くなって、マルコの性器をぎゅう、と絞りあげた瞬間、マルコはエースの中にびゅうびゅうと射精した。エースの性器も、びくびく震えながらマルコの腹に精液を飛ばして、エースはそのままマルコの胸に身体を倒した。マルコの片手に指を絡めて、マルコの首に片手でしがみついたまま。ゆるく痙攣するエースの身体を支えながら、マルコはゆるりと空を見上げた。目に入るのはやはり満天の星と、星を背に淡く舞い散る梅の花だけである。

しばらくして、ゆっくりと身体を起こしたエースに、「気持ち良かったか?」と尋ねられて、「良かったよい」とマルコが返すと、「良かった」とエースは気持ちのいいくらい晴れやかな笑顔を見せた。マルコの性器と精液を中に納めたままとは思えないほど明るい顔に、マルコはやっぱり性欲よりも別の愛しさを覚えて、弛緩したエースをゆるく抱きしめる。慈しむように。汗で濡れたエースの髪をがしがし撫でると、「もっと優しくしろよ」とまんざらでもない声でエースは言った。「いきなり青姦強請る野郎にどう優しくしろって言うんだよい」とマルコが返せば、「そりゃそうだ」と声を立ててエースは笑った。エースがあんまり楽しそうなので、エースの髪をかき混ぜながらマルコも笑う。

どこまでも白い花が咲き誇る梅に囲まれたまま、マルコは喩えようもなく幸せだった。
腕に抱いたエースの体温と、エースに降り注ぐ花びらだけがすべてだった。

( 宿に泊まった意味がない / マルコ×エース / NC-17 / ONEPIECE )