ふったらどしゃぶり 

春の雨が降りしきる真夜中だった。
吉原で幕府の高官を相手に美味くもない酒を飲まされた土方は、供された相方を袖にし、ならばと用意された送りの車も断り、遊郭の名が刻まれた派手な傘だけを借りて屯所までの帰路を急いでいる。
真撰組びいきの高官は酒の席でも気風の良い男だったが、如何せん酒の肴が土方自身だとわかっている席で居心地良く過ごせるはずもなく、土方は愛想笑いでいくらか強張った顎を軽く揉んだ。
立場上できる限り一人歩きはするな、と言われている土方だが、こんな時間に部下を呼び出すのも、公費で車を出すのも気が向かず、さらに言えば少しばかり雨に打たれたい気分だった土方は、差料ひとつで夜を歩く。
そもそも土方には向かない場だったが、かと言って飲めばすぐ脱ぐ近藤や未成年の沖田に場を任せるわけにはいかず、それ以外の隊士では高官の機嫌取りにはならないとわかっているので、消去法で土方が外交の場に出るしかない。
こんなときばかりは伊東の顔が懐かしく思い出されて、土方は苦い思いを噛み潰すように溜息を吐いた。

強くはないが絶え間なく降り続く雨に閉口しながら、傘の下で煙草を咥えた土方は、何気なく目をやった路地裏に白くけぶる人型の影を見つけて、思わず煙草を口から落とす。
水たまりに落ちた吸殻を踏みつけ、一度反らした目をもう一度路地裏に向ければ、そこには依然とまっしろな塊が横たわっているので、土方は知らずに喉の奥を引き攣らせた。
ゴミだ、あれはでかいゴミ袋の類だ、と自分で自分に言い聞かせるのは簡単だったが、悲しいことに土方の職業は武装とは言え警察で、警察の責務は市民の平和を守ることである。アレが何か、確かめる義務が土方にはあった。
ゴミ袋であれ、いっそ死体であれ、せめてこの世のものであれ、と一心に念じながら及び腰で路地裏へ踏み込んだ土方は、あと数歩の位置まで辿りついたところで、それが見慣れた人物の着流しだということに気付く。
洗い晒した白い生地に二色の青で流水を描いたそれに、大きく安堵の息を吐いた土方は、今度こそ大股でゴミのような塊に近づくと、容赦なくその丸まった肩口を蹴とばして「おい、何してんだてめェ」と面倒臭そうに問い掛けた。
ごろり、と抵抗も無く転がった白い銀時は、土方の予想に反していつものような悪態を吐くこともしなければ、酔っぱらいらしくゲロに塗れる醜態を見せることも無く、ただ雨に打たれている。
おい、と土方がさすがに怪訝な声を出せば、銀時はようやくもぞりと動いて、淵のような目で土方を見上げた。ぞくり、と背筋に冷たいものを感じた土方は、「…お前、万事屋だよな?」と確かめるように呟いたが、横たわる銀時から答えは無い。
軽く息を飲んだ土方が、しゃがみこんで銀時の首筋に手を当てれば、ぞっとする程冷たい感触が伝わって、こいつはいつからここにいたんだ、と土方は眉を顰めた。吉原から屯所へ帰る道筋は、かぶき町からもさして離れていないが、近くに娯楽施設の類はなく、何の用もなく立ち寄るような場所でもない。
また怪我でもしているのか、と土方はあちこち探ってみるが、血の流れた後は無く、びっしょり濡れている他に異常はないようである。だったらなおさら、ともう一度銀時の首に手を当てた土方は、「歩けねえのか?酔ってんのか」と酒精の欠片もない銀時に問いを重ねるが、やはり銀時からの答えは無く、ただゆっくり瞼が落ちて、それきり開かなかった。
おい、と土方はさらに何度か銀時の身体を揺さぶったが、銀時はぴくりとも動かない。薬でも盛られたか、といくらかぞっとした土方は、仕方なく銀時を担ぎ上げると、少し考えて万事屋でも屯所でもない、土方の隠れ家に足を向ける。銀時が何に首を突っ込んでいるか知らないが、これまでの所業を顧みれば、こどもがいる万事屋にも真撰組にも連れ帰ることはできなかった。

▽ ▽ ▽

意識の無い銀時の身体を苦労して運んだ土方は、ぐったりした銀時をひとまず玄関に座らせ、結局ずぶ濡れになった隊服を脱いで水気を絞る。銀時は、と見下ろしたところで、銀時の目がまた薄く開いているので、「おい万事屋、俺がわかるか?」と、土方は銀時の目の前に膝を付いた。
ゆっくり瞬いた銀時は、ゆるりと手を伸ばして土方の頬に触れる。ほっとしたのもつかの間、それまでの動きが嘘のような動きをした銀時が、ぎゅっと土方の首にしがみつくので、物理的に絞められた土方はうぐ、と声を漏らした。
離せ、頼むから離せ、いや離さなくていいからもうちょっと緩めてくれ三百円やるから、と土方が全力で銀時の腕をタップすれば、銀時はほんの少しだけ力を抜いて、土方の頬にべっとり濡れた髪を摺り寄せる。こいつ、良い形の耳してんな、となんとなく土方は思ったが、そんなことよりこの状況を何とかしたい。
「万事屋、どうした。何があった?」と、できる限り優しい声で尋ねた土方に、銀時はやはり無言を貫き、土方の髪に指を差し入れた。なでなで、と柔らかく土方の髪を撫でる銀時の指はやはり冷たくて、土方は身震いする。
そう言えば土方自身も、酒を呑んで火照った体を雨で冷やしてしまった、と腕を擦った土方は、「話したくねぇならそれでいいが、このままだと風邪引くぞ、風呂入れるか?」と銀時に声を掛けるが、相変わらず銀時はうんともすんとも言わず、「せめて頷くか首振るかくらいしてもいいんじゃねェか?」と土方は眉を下げたが、埒が明かないので、また銀時を引きずって風呂場へ移動した。
土方が屯所以外に持っている住まいは三つある。ひとつは公的に認められた接待用の屋敷で、残りのふたつはいわゆるセーフハウスだった。片方はアパートの一室、もう片方がこの一軒家で、ぐるりと高い塀で囲われた二間続きの小さなものだ。もとは妾宅だったらしい、と土方以外に唯一隠れ家の場所を知る山崎が言っていたが、なるほど、家の広さに比べ風呂が格段に広いのは、つまりそういうことなのだろう。
アパートの方に連れて行かなくて良かった、と銀時の足から濡れたブーツを力任せに引き抜いた土方は、途端に立ち上った臭いに軽く顔を顰めた。
「素足にブーツってどういう神経してんだよ」と、相変わらず動かない銀時に向けて溜息を吐いたが、銀時の反応はない。普段ならここで軽口のひとつか、あるいは木刀の一撃が飛んでもいいところである。
土方にしがみついている間はあんなに力強かったと言うのに、土方が脱衣所で銀時を振り払ったとたん、また人形のような態度に戻ってしまった銀時は、しかし土方が衣服に手を掛けると、もぞもぞ動いて土方の手を誘導した。
なら自分でやれ、と突き放すとまた動かなくなるので、土方は結局銀時の帯とベルトを抜き、湿った木刀を換装棚に入れ、水を吸って重たくなった着流しを脱がせ、黒い半そでシャツのジッパーを下ろして袖を抜き、ズボンのホックを外して下半身から抜き取る。
最後に残ったトランクスを溜息交じりにはぎ取った土方は、自分も手早く服を脱いで、浴室のドアを開けた。先に蛇口を捻っておいたおかげで、浴槽の中ほどまで湯が溜まっている。いろいろ面倒だった土方は、よいしょ、と銀時を抱え上げて浴槽の中に座らせて、「大人しくしてろよ」と浴槽の縁に手を掛けさせる。
なんでこんなことを、と思いながらシャワーで銀時の上半身も温めてやると、銀時の身体はほんのり桃色に上気して、土方はほっと息を吐いた。
熱めに設定した湯を浴びながら、土方がシャンプーを手に取ると、銀時が当然のような顔で土方に向かって頭を突き出すので、「洗えって?」と土方はいくらか諦めたように問いかける。
銀時は頷きもしないが、否定もしない。てのひらでシャンプーを泡立てた土方が銀時の髪にそっと触れると、濡れてなお柔らかい銀時の髪がふわんと土方の指を受け入れて、おお、と土方は内心感動を覚えた。
洗えば洗うほど泡立つ銀時の髪に、土方はしばらく無心で取り組んで、最後に「目、閉じろよ」と声を掛けてから湯を浴びせる。素直にぎゅうっと目を瞑っていた銀時の髪を掻き上げて、軽く水気を拭ってやれば、銀時はほうっと満ち足りたような息を吐いて、浴槽に肩まで沈み込んだ。
ふう、と首を鳴らした土方は、手早く体と頭を洗ってしまってから、悩んだ挙句に銀時が浸かる浴槽へと滑り込む。なんでこいつと、と思わないこともないが、銭湯にもサウナにも入った仲ではあるし、なにより今のこいつは銀時ではなく、こういう種類の生き物なのだと思う方が精神的に楽だった。
成人男性ふたりがゆったり浸かれる風呂の中で、銀時がまた土方にしがみつこうとするので、「ちょっ、裸では止めろ、いろいろあからさますぎんだろ」と土方は焦って身を捩ったが、銀時は構うことなく土方の首を捉え、首元にすりすり頭を押し付ける。
万事屋、と声を掛けようとした土方は、銀時の首元にさっきまでなかった薄い傷痕を見つけて、ふっと真顔になった。
「お前これ、」
どうした、と言いかけた土方は、それが首だけでなく銀時の背中にも腕にも広がっていることに気付いてようやく、古傷か、と思い至る。身体が火照ったおかげで、普段は見えない傷が浮かび上がっているのだろう。
縦横無尽に走る銀時の傷のうち、比較的新しい右肩の傷にそっと手を乗せた土方は、「てめェ、これのどこが一般市民だよ」と呟いて、銀時の頭をわしわし撫でる。
銀時はなんでもないような顔で土方にしがみついていたが、土方の手が銀時に触れるたび、いくらか嬉しそうに土方の顔を見上げた。お前、ほんとに万事屋なんだよな、と、土方はもう一度胸の中で呟いた。

▽ ▽ ▽

風呂に入るのも大変だったが、風呂上りも大変だった。バスタオルで包むまでは大人しかったと言うのに、銀時は下着を履こうとせず、寝間着代わりに着せようとした土方の浴衣も羽織るだけで帯を結ぶのは嫌がった。結局根負けした土方が、「まあ、袖が通ってりゃ風邪はひかねェだろ」と諦めると、銀時はここへ来て初めてにっこり笑い、土方の手を掴む。
肌蹴た浴衣から銀時の胸筋がちらつくのはともかく、気を抜くとさらに下まで見えてしまうのが土方の災難と言えば災難だったが、幸いと言うかなんというか、男所帯で過ごす土方はそんなものを見慣れているので、今さらどうということもない。
近藤からしてああだしな、と、他よりさらに桃色に近い場所から自然に目を反らした土方は、こちらは完全に寝間着として使っている生成りの浴衣を身に着けた。
ドライヤーも嫌がるかと思った銀時は、土方が髪に触れている間はおとなしく脱衣所の床に座って目を閉じている。今まで使ったことの無い浴室暖房が初めて役に立って、土方は胸を撫で下ろす。乾くにつれて、次第に銀時の髪がくるくるふわふわ広がって行くので、「すげェな」と土方はひっそり笑った。
湿ったところが無くなって、銀時の頭がいつも通りぼさぼさの天パに戻ったところで、よし、と土方はドライヤーを止めて、どこをどうしても落ち着かない銀時の髪をそれでも何度か撫でつける。
押さえた端からぴょん、と持ちあがる銀時の髪は、元が柔らかい分性質が悪い。そう言えばオールバックにすんのも一苦労だった、と思い出した土方は、矯正は諦めて自分の髪もざっと乾かした。その間、銀時はずっと土方の太腿に頬を寄せていた。
ドライヤーとタオルを片付けてから、土方はまたずるずる銀時を背負って奥の部屋に入る。銀時を担いだまま、押入れから布団を二組引きずり出した土方は、ばさっと敷布団を敷いたところで「シーツは…いいか」と早々に諦めて、掛け布団と枕もふたり分出して押入れの襖を閉めた。
障子一枚隔てた向こうはもう縁側で、降り続く雨の音が耳につく。背中の銀時を布団に横たえ、掛け布団を顎の下まで掛けてやった土方は、「一晩寝て、あしたになったらなんとかしろよ」と銀時に指を付きつけ、「おやすみ」と付け加えた。
ぱちっと瞬きを落とした銀時から返事が無いことは分かり切っていたので、土方はよっこらせ、と重い腰を上げて立ち上がる。と、どすっと尻に重い衝撃が加わるので、「おい、だから寝ろって」と、土方は腰に巻き付いた銀時の腕をぺしっと叩いた。
「俺はてめェと俺の服を乾かさねェと寝らんねェんだよ、せめて邪魔すんな」と、苛立った声を上げた土方には構わず、銀時の手はするりと土方の浴衣の袷を割って、そっと土方の股間に触れる。
は、と土方が一瞬動きを止めたのを良いことに、銀時は素早く土方の前に回って土方の下着から性器を掴みだすと、止める間も無くぱくりと口に咥えた。「…っおい、」と土方はそこでようやく銀時の意図に気付き、白い額を押し戻したが、銀時はふるふる首を振って土方の腰に抱き着き、んっ、と喉の奥まで性器を飲み込んでしまう。
「待て万事屋、ちょっと、待て」と土方が銀時の後頭部を掴めば、銀時はそこを支店にじゅぷ、とスロートを始めて、違うそうじゃない、と土方はぶんぶん首を振った。下半身を固められたおかげで満足に動けない土方は、銀時の舌遣いでくらくらしてきた頭を押さえて、なんだこいつ、どういう、その吸い方どこで、って歯ァ立てんなばか、歯茎で扱くな、舐めるな、しゃぶるな、と目を閉じる。
充分に硬く、熱くなった土方の性器は、銀時の白い頬をときおり変形させて、やがてあっけなく銀時の口の中で射精した。膝立ちだった銀時は、土方が射精してすぐに膝を折って布団に座り込む。
はあっ、はっ、と熱い息を吐いた土方も、それ以上立っていられなくて蹲れば、銀時は土方の膝に手を掛けて、ぴちゃ、と土方の前で口を開いて見せた。銀時の赤い舌に土方の精液が絡む様に、土方が思わずてのひらで銀時の口を塞ぐと、銀時は軽く首を傾げてぺろりと土方のてのひらを舐める。
びくり、と過剰に反応してしまった土方をよそに、銀時はごくりと精液を飲み下し、そしてゆっくりと土方の膝に乗り上げた。
半分ほど勃ち上がった銀時の性器が、帯もない浴衣の隙間からはみ出して、土方は眉をひそめる。甘えるように土方の頬を両手で挟んだ銀時が、ゆるやかに土方の膝に股間を押し付けるので、「てめェ、いつもこんなことしてんじゃねェだろうな」と土方は押し殺した声で銀時を睨むが、銀時は素知らぬ顔で腰を動かし、んっ、と声を出さずに鼻から息を吐いた。
クッソ、と毒吐いた土方は、乱暴に銀時の顎を掴むと、強引に唇を合わせて舌を絡める。先ほどまで土方の性器を咥えていた場所だが、知ったことではない。風呂には入った。精液の残滓を探すように、土方がべろべろと咥内を舐めまわしていれば、銀時はうっとりした表情で土方の胸に寄り添って、するりと浴衣の肩を落とす。
土方が右手で銀時の背中を撫で下ろせば、それだけでびくりと銀時が仰け反るので、土方は一度銀時から唇を離して、まじまじと銀時を眺めた。全身に薄紅色の傷跡が浮き出た銀時の身体はひどく艶めかしくて、土方はごくりと息を呑む。
土方を見た銀時がひどく嬉しそうな顔をするので、「…薬って、もしかしてそっちのか」とふと思い立った土方は、赤く色づく銀時の乳首に触れた。初めは指先で転がすのが精いっぱいだったが、そのうち硬くしこって指で抓めるようになり、土方はこりこり乳首を揉みしだく。
ん、んっ、と相変わらず声は出さない銀時だったが、土方が右側だけ攻め続けると焦れたように首を振って、銀時の腰を支えていた土方の手を左側の乳首に導く。はっ、と笑った土方が、わざと乳首を避けて薄い色の乳輪をくるくるなぞってやれば、銀時がへにゃりと眉を下げるので、「わかったよ」と土方は頷いて、指先ではなく唇でちゅっと銀時の左胸を吸った。舌先で押し潰すようにしてから軽く歯を当ててやれば、銀時は薄い胸を膨らませて大きく息を吐く。
口を離した土方が、「お前乳首でもイけそうだな」と、唾液で濡れた乳首にふっと息を掛けると、銀時は泣きそうな顔で土方の肩にぎゅうっと爪を立てた。
もちろん乳首だけで終わらせるつもりはない土方は、片手で乳首を捻りながら右手を銀時の尻に這わせ、割れ目をなぞって最奥に指を当てる。まだ固く閉じた後腔を指で突けば、きゅうっと締まるのがわかって、「期待してんのか?」と土方は銀時に問いかけた。
ぐっと唇を噛んだ銀時を苛めたいわけではない土方は、銀時の唇を軽く突いて、「舐めて濡らせよ」と、指先をねじ込む。あっさり土方の指を三本しゃぶった銀時は、一度強く指を吸い上げてから、まんべんなく唾液を纏わせた。
銀時の息が荒くなったところで、ずるりと指を引き抜いた土方は、膝の上の銀時を布団に押し倒して、腰の下に枕を宛がう。軽く袖を通しただけの浴衣がふわりと広がって、ちょうど良いシーツ代わりになった。
銀時の両足を折り曲げた土方が、少し考えて「自分で持てるか」と銀時に声を掛ければ、銀時はためらうことも無く太腿の裏側に手を当てて、大きく足を開く。銀時の性器は腹につきそうなほど反り返って、ときおり期待するように震えた。
銀時の唾液が乾かないうちに、銀時の後腔に触れた土方は、意外とすんなり入った中指で出来るだけ中を広げてから、奥を探る。苦しそうにも見えない銀時の様子に気を良くして、人差し指と薬指を同時に追加した。
三本に増えた指で、土方が熱くて弾力がある銀時の腸壁を丹念に掻き混ぜると、やがて唾液以外のなにかが沁み出して、土方のてのひらを濡らす。すげェな、と土方が思わず呟けば、銀時が軽く腰を揺らすので、土方は一度頷いて後腔から指を引き抜いた。
代わりに土方の性器を押し当てると、銀時の後腔はぴたりと土方の亀頭に吸い付いて、期待するようにひくひく動く。ごく、と唾を飲み込んでから、土方が銀時の上で挿入を始めると、亀頭が飲み込まれたところで銀時はもう腰を揺らしはじめ、根元まで納める頃には膝の裏を抱えていた腕を離して自分で自分の乳首を抓んだ。
堪らなくなった土方が、銀時の足を限界まで持ち上げて注挿を始めれば、銀時はぎゅうっと乳首を引っ張りながら首を振り、浮いた足で土方の腰を挟む。しっとりと汗ばんだ銀時の身体は薄暗がりでもぼうっと光るようで、土方は銀時の中に性器を納めたまま、前屈して銀時の唇を舐めた。
苦しいだろう、とすぐ身体を起こそうとした土方だったが、銀時は乳首から手を離して土方の肩に掴まると、首を持ち上げて土方の舌をしゃぶる。土方が何度も角度を変えて銀時に唾液を注ぎ込めば、銀時はごくりと喉を鳴らして、飲み込みきれない水滴が頬を伝って流れた。
限界が近いことを感じた土方は、銀時の身体を抱きしめてより奥へと腰を打ち付ける。それに答えるように銀時もより強く土方の腰を引き寄せて、硬くしこった乳首を土方の胸に押し付けた。
土方の腹筋に押し付けられた銀時の性器はしとどに濡れて、土方は一瞬どちらが抱かれているかわからなくなる。やがて一際強く後腔が引き絞られた瞬間、銀時は胸まで精液を飛ばし、後腔がぎゅうっと痙攣した衝撃で、土方も銀時の中に射精した。
一度で終わらなかったらしい銀時がびくびくと爪先を震わせているので、土方は腹の間に手を入れて銀時の性器を擦ってやる。イったばかりの亀頭を撫で回してやれば、銀時はほんとうに涙を流して首を振ったが、見ている内にまた勃ってきた土方は手を止めずにまた腰を動かした。
は、はっ、と目を見開く銀時は、最後にぎゅうっと後腔を締め付けて、性器の先から透明な液体を漏らす。呆然とした顔の銀時に、「すげェな」と土方がまた感想を漏らすと、銀時はぎゅうっと土方にしがみついて、土方の胸に顔を埋めた。
銀時の背が軽く浮くので、土方は気合を入れて銀時を抱き起すと、向かい合う形で太腿に座らせる。体位が変わったことでまた深く土方を感じたのか、銀時の肩がびくびく震えた。
今度こそ、本当にゆっくりと土方が腰を揺らせば、銀時もそれに合わせて緩やかに土方の性器を締め付け、長い時間を掛けて土方は射精する。
二度出した後も、性器を抜こうとすると銀時が嫌がるので、土方はまた長いこと銀時の背を撫で下ろし、乳首を咥え、数えきれないほど唇を合わせ、柔らかい銀時の髪を撫でてやった。
やがて、満足したらしい銀時は、ことんと土方の胸に凭れて寝息を立てる。意識がなくなった瞬間に倍ほど重くなる身体をそっと布団に寝かせ、土方はずるりと銀時の後腔から性器を抜き取った。
びゅっ、と二回注いだ土方の精液が中から溢れるので、土方はできるだけ精液を掻き取ってやったが、指で届かない場所はどうしようもない。ぐしゃぐしゃになった浴衣で手を拭った土方は、銀時の眠りが深いことを確認して立ち上がり、風呂場へ戻った。洗濯と、後始末の為だった。
洗濯は諦めて、脱水だけ二度した服を乾燥モードに設定した浴室に干した土方が部屋に戻ると、寝入ったはずの銀時が起き上がって入口を見つめている。土方の姿を認めた銀時が、裸の胸を震わせて息を吐くので、「寝てろよ、冷えるだろ」と、近寄った土方がもう一度布団で包んでやろうとすれば、銀時は三度土方の首筋にしがみついて、いや、と首を振った。
少し考えて、銀時の布団を捲った土方は、銀時の身体を抱えて目を閉じる。「これでいいだろ」と土方が言えば、銀時はほんの少しだけ手を緩めて、土方の頬に頬を押し当てた。雨音よりも、銀時の心音が響く夜だった。



翌朝、土方が目を覚ますと布団はもぬけの殻で、誰も眠らなかった土方の布団はきちんと畳まれている。思い立って風呂場を覗いても銀時の姿はなく、銀時の服も消えていた。まさか夢だったのか、とがりがり頭を掻いた土方は、けれどもやけにすっきりした腰と頭に夢じゃねェだろ、と首を振る。
まだいくらか湿った隊服を身に着けた土方は、夢でもそうでなくても昨日のことは忘れるつもりだったので、銀時がいないのであればそれはそれで好都合だった。やけに青い空を見つめながら屯所に帰った土方は、昨晩帰らなかったことを沖田から盛大に揶揄されたが、遊女でなくともすることはしたので、珍しく反論はしなかった。
それから三日して、かぶき町で出会った銀時の姿に変わったところはなく、少しばかり無遠慮な視線をぶつけた土方にも、「何見てんだよ、金取るぞ」と面倒臭そうに言うばかりだ。「あほか、こっちが払って欲しいくらいだ」と軽口をたたき返した土方は、妙にほっとした気分で銀時から目を反らし、万事屋のチャイナとじゃれ合う沖田に「遊んでねェで行くぞ」と声をかける。
襟首を引っ掴むようにして歩き出した土方は、だから銀時が射抜くような目で土方を見つめていることに最後まで気づかなかった。

▽ ▽ ▽

それから一週間ほどたって、小雨のちらつく夜だった。傘がいるのかいらないのかわからないぱらぱらとした雨に、土方はまたしけった煙草を握り潰す。明日は非番なので、屯所の食堂ではない場所で飯を食おうと出かけた土方は、なんとなく以前銀時と出会った居酒屋に足を向けたが、そうそう嗜好がかみ合うわけでもない。
べつに会いたかったわけではないのだが、あの夜のことを覚えているのか、少しだけ聞いてみたい気がしたのだ。酔っていれば聞ける気がして随分粘ったが、結局看板まで銀時は現れず、土方は軽くふらつく足取りで屯所へ帰るところである。
意図したわけではないが、この前と同じ道筋を辿った土方は、そうそうこの辺で、路地裏に目を向けた途端、先日と同じ光景を目にしてびくりと肩を揺らした。
ごみごみした路地の奥、ゴミ箱の陰にある白いものは、今度こそゴミ袋かも知れないし、死体かもしれないし、あるいはそれ以外の何かの可能性もあったが、土方はなぜか銀時だと確信して、小走りで路地に滑り込む。
ものの数秒で辿りついた先に転がっていたのは、やはりこの間と同じ虚ろな目をした銀時は、はあ、と息を吐いた土方は、「なにしてんだお前」と呆れ声を掛けながら銀時の前にしゃがみ込む。
小雨だったおかげでこの間よりマシな姿だが、それでも泥まみれの着流しは洗わなければならないだろう。もう一度ため息を吐いた土方が両手を差し伸べると、銀時がまた何も言わずに土方の首に両腕を巻き付けるので、土方は気合を入れて銀時を横抱きにした。
「ちゃんと掴まってろよ」と銀時に声を掛ければ、返事の代わりに銀時が土方の髪を軽く引くので、土方はせいぜい急いで元妾宅のセーフハウスに向かう。笑みを噛み殺さなければいけないのが不愉快だった。
今夜は風呂場まで一度に銀時を運んだ土方が、銀時のブーツに手を掛ける前に、銀時は土方の頬に手を当ててちゅう、と唇に吸い付く。靴は脱げ、と思った土方だったが、すぐにどうでも良くなって、はぁはぁと息継ぎを繰り返しながら、夢中で銀時の舌に舌を絡めた。
すり、と太腿で股間を擦られた土方が、銀時の黒シャツの上から乳首を抓めば、ざらりとした生地の上からもぴんと乳首が立つのがわかって、土方は薄く笑う。すりすりと乳首を撫で擦ってから、土方が銀時の尻を掴むと、銀時は片手で器用にホックとジッパーを下ろして、下衣を脱ぎ捨てた。ブーツを履いたままなのでいくらか間の抜けた姿だったが、土方にも余裕はないので、もどかしく銀時の股間を揉みしだいて、着流しの袂からローションの小袋を取り出す。銀時のシャツを寛げ、ローションのひとつを胸の上でぶちまけた土方は、「しばらく遊んでろ」と人工的ないちごの匂いがするローションを乳首にたっぷり擦り込んでから、銀時の背後に回った。
ピンク色の小袋を食い破った土方が、やはり健康的に引き締まった銀時の後腔にローションを塗り付ける間、銀時は素直に乳首を転がして、んんっ、んむ、と気持ちよさそうな吐息を漏らす。
「こっちとどっちがいい?」と、土方が遠慮なく突っ込んだ中指を中で回しながら尋ねると、銀時は薄く水の膜が張った目で土方を振り返り、軽く頷いて見せた。中がいい、と判断した土方は、ローションのおかげで抵抗なく入り込んだ四本の指で性急に中を拡げ、着流しの中からすっかり屹立した性器を取り出す。
土方が銀時の後腔に性器を近づければ、何か言う前に銀時は壁に手を突いて、土方に尻を突きだした。はくはく動く後腔にぐっと亀頭を押し込んだ土方は、粘膜同士が馴染むのを待たずにずぶりと根元まで性器を埋め込む。
一瞬崩れかけた銀時の腰を支えてやれば、銀時はかりかり脱衣所の壁を掻いて首を振った。前に手をやると、銀時の性器もだらだら汁を垂らしているので、「びしゃびしゃだな」と土方は銀時の腹でてのひらを拭う。どうせ銀時を洗うのも土方なのだ。
銀時の息がいくらか落ち着いてから、土方は後腔の縁まで性器を引き出し、また埋める。最初はゆっくりと、徐々に激しく抜き差しすれば、銀時の腰ががくがく揺れて、中できゅうきゅう性器を締め付けた。
気を抜くと持って行かれそうな感触に、ふ、と眉を顰めた土方は、少しばかりめくれて襞が見える銀時の後腔に指を差し込む。さらに狭くなった腸壁の、ごく入口側に近い一点を擦ってやると、銀時の身体が面白いほど跳ねて、びゅっと射精した。
ぎゅうう、と指ごと引き絞られた性器から、土方も存分に吐精して、今夜はすぐに性器を引き抜く。どろりと零れた精液が銀時の足を伝って、ブーツの端を汚した。
ずる、と崩れ落ちた銀時の身体を支え直した土方は、さっき触ってやらなかった銀時の乳首をぬるぬる引っ掻きながら、銀時と唇を合わせる。銀時は、土方の手を握って離さなかった。



それから、銀時はときおりそうして土方の前に現れるようになった。それは決まって雨の晩で、路地裏に転がる銀時を見つけるたびに肝が冷えるので、四度目の夜に土方はセーフハウスの鍵を銀時に手渡した。ほとんど反応しない銀時が理解しているのか不安だったが、五度目の夜はセーフハウスの玄関で始まったので、結果的に成功だった。
なにより、こんな状態の銀時を放置する時間が少しでも減ったのが土方にとって喜ばしいことで、「俺がいなくても、雨の夜はここにいろよ」と土方は懇々と銀時に言い聞かせた。
あいかわらず銀時は一言もしゃべらないが、土方が手を引けば歩くようになったのが進歩と言えば進歩で、土方がセーフハウスで過ごす夜は格段に増えた。いっそここはただの別宅扱いにしてやろうか、思った土方は、それではまるで元の妾宅と同じ扱いだ、と首を振る。
柔らかい銀時の髪を撫でて眠る雨の夜は、土方にとって幸せな時間だった。

▽ ▽ ▽

▽ ▽ ▽

真夜中にふと目を覚ました土方は、けれども辺りがまだ暗いので、目を閉じたまま布団に横たわっていた。寄り添う銀時の身体は暖かく、土方は満ち足りた気持ちで銀時に頬を寄せる。また抱き寄せても良かったが、この穏やかな夜を壊したくなかったのだ。
土方がもう一度眠りに落ちかけた頃、隣の銀時がそっと身体を起こす気配がして、土方は微睡の中で首を捻る。この家にいる間、ひとりでは厠にも行けない銀時が何をしようと言うのだろう。疑問に思いつつも、土方がまだ目を閉じていると、銀時は掠めるほどの動きで土方の頬に指を当て、土方の上に屈みこんだ。そっと、羽根のような動きで土方の唇と瞼と髪に触れた銀時は、囁くような声で「ひじかた」と言う。
その一声に、銀時はどれだけの思いを込めたのだろう。
ぱっと目を開いた土方は、銀時と目が合った瞬間それを悟り、銀時もまた土方が理解したことを知ってしまった。万事屋、と言いかけた土方の腕をすり抜けた銀時は、服もブーツも木刀も何もかも置き去りにして走り出す。
「万事屋!」と、土方はもう一声叫んだが、裸足で縁側から飛び降りた銀時は、そのまま身長より高い塀を飛び越え、そぼ降る雨の中を逃げ去ってしまった。塀の前で立ち尽くした土方の耳には、銀時の声が繰り返し響いて、どうしても離れなかった。

▽ ▽ ▽

三ヵ月が経った。
土方はずいぶん待ったが、あれから雨の日に銀時が訪れることはなくなった。銀時に、と準備した甘味が一口も減らずに捨てられる日々が続いてようやく、土方も銀時を待つことを止めた。あの晩、と土方は思う。土方が目を開けなければ、銀時はまだここに通ってきたのだろうか。
けれども、土方はあの時どうしても銀時の顔が見たかったのだ。あれほど愛しさに溢れた声を聞いたのは生まれて初めてで、そしてそのことをどうしても銀時に伝えたかった。
銀時の訪れが途切れて三週間目、土方は随分悩んだ挙句、雨の夜を選んで万事屋の扉を叩いた。
はい、といくぶん不審そうな声で扉を開けたのは万事屋の雑用を一手に引き受ける眼鏡の少年で、「万事屋はいるか」と声を掛けた土方に、「銀さんは留守ですが、あのひと
また何かしたんですか?」と完全に呆れた声で少年は尋ねる。
いや、と首を振った土方が、「これを届けるように頼まれただけだ」と、銀時の持ち物一式をまとめた紙袋を差し出せば、「えっ?ありがとうございます。あのひと『失くした』としか言わないから困ってたんですよ」と、中身を確認した少年はごく嬉しそうに礼を言った。
少し考えて、「万事屋は…その、服を失くして帰ってくることもあんのか」と尋ねた土方に、「賭けポーカーで身ぐるみはがされたり、ぼったくりバーで身ぐるみはがされたり、オカマバーで身ぐるみはがされて振袖着せられたり、いろいろありますよ」と、苦笑しながら少年が言うので、「何してんだあいつは」と土方も同じ表情を作る。
ええと、と居住まいを正した少年は、「せっかくですからお茶でもいかがですか?銀さんは戻ってこないかも知れませんけど、お礼に」と勧めてくれたが、いや、と土方は首を振ると、「俺は頼まれただけだからな。ケツ毛まで毟られねえよう気をつけろって伝えてくれ」とだけ告げて踵を返す。
万事屋にいない銀時がどこで何をしているのか知りたくてたまらなかったが、それはもう土方が手を出せる領分ではなかった。



ぐしゃ、とビニール傘の下で煙草を噛み潰した土方に、「今日も野暮用はねェんですかィ」と沖田が揶揄するように言うので、「ほっとけ」と、土方は煙草と共に吐き捨てる。やれやれ、とわざとらしく肩を竦めてから、「あんたが振られんのは珍しくもねェですが、そんなに引きずるってこたァよっぽどいい女だったんですか?マヨ中毒とか」と重ねた沖田に、「いいからさっさと済ませろ、後が支えてんだ」と土方は告げて、沖田が切り捨てた死体に背を向けた。
あーあ、とわざとらしい溜息を吐いた沖田が、「なにをぐずぐずしてやがんでィ、土方。それはいつまでもそこにあるもんじゃねェって、あんたが一番よく知ってるでしょうに」と、いつになく真剣な調子で言うので、土方が思わず沖田を振り返れば、「手遅れになる前にさっさといけっつってんでさァ。俺ァ幸せなあんたをどん底に突き落としたいんであって、最初から湿気た面ァ晒されると萎えるんです」と、沖田はひらひら手を振って、土方の手から攘夷志士のリストをむしり取る。
「あんたほんとは非番なんだから、行けよ。行っちまえ」と、ほとんど命令するような調子で言われた土方は、弾かれたように動いて二、三歩行きかけたが、そこで振り返って、「てめェはいい男になるな」と沖田に笑いかけた。
「なに馬鹿なこと言ってんでィ、俺はとっくにいい男だろ」と返した沖田は、土方の姿が見えなくなるまで見送ってから、「あんたと近藤さんがいるからでさァ」と小さく呟く。呆気に取られたような隊士たちに、「ここで騒ぎを起こしたら、あの人の監督不行き届きになるよなァ?」と沖田がにやりと笑えば、むしろほっとしたような顔で止めてください、と隊士たちは口々に首を振って、仕事に戻った。

▽ ▽ ▽

土方に促されて駆けだした土方が辿りついたのは、性懲りもなく雨の万事屋で、前回と違うのは今が夜でなく昼だということだけだった。立てつけの悪い外階段をカンカン登り、引き戸の前に立った土方は、大きく息を吸って古びたチャイムを鳴らす。一度目は反応が無く、二度、三度、四度目に鳴らそうとしたところで、「聞こえてるよ、うるっせぇな。小便くらいゆっくりさせやがれ」と、寝間着らしい甚平姿で、銀時ががらりと扉を開けた。
よ、と口を開きかけた土方の前で、銀時は勢い良く扉を閉めたが、土方もいまさら後には引けず、素早く扉の中に足を差し入れて勢いを殺す。ぐぐぐぐ、としばらく攻防を続けてから、は、と肩を落とした銀時が、「…何の用だよ。やっと笑いに来たのか」と、暗い声を出すので、なにも準備していなかった土方は何度か口を開けて、そしてようやく「すきだ」と絞り出す。
は?と銀時が力を抜いたことで、抵抗を失くした引き戸は大きく開き、今度は土方が銀時の首に腕を回した。「うそ、だろ」と震え声をだした銀時に、「嘘じゃねェ。あの夜からずっと、こうしたかった」と土方は返して、さらに強く銀時を抱きしめる。
やがておずおずと土方の背に回った銀時の熱は、雨を介さずとも充分暖かく、そして気持ち良かった。理由も言い訳も、ひとつで充分だった。


( 雨の日に銀さんを拾った土方さんのはなし/ 土方十四郎×坂田銀時 / 140908)