おやすみからおはようまで 

深夜、ソファにひっくり返った銀時がそう面白くもない深夜番組をザッピングしていると、玄関の引き戸がガタガタ鳴った。風にしては激しすぎる音に、またか、と銀時が渋い顔を上げれば、ダンダンと床を踏み鳴らす男がちょうど居間兼応接室のドアをがらりと開けるところだった。
「お前ね、入って来るにしても一言挨拶とか、ねぇわけ」と文句をつけた銀時には構わず、土方は上着とベストをまとめて脱ぎ捨て、スカーフを首から抜きながら銀時に五千円札を突き付ける。「尻貸せ」と切羽詰った表情の土方から、「……毎度」と釈然としない顔で札を受け取った銀時は、ソファに俯せで寝転がってぺろんと着流しをめくった。
近付いてくる土方の気配を感じながら、なんでこんなことになったんだ、と銀時はぎゅっと手にしたままだったリモコンを握った。

▽ ▽ ▽

はじめてそういうことになったのは、とある居酒屋での飲み比べのあとだった。混み合う店のカウンターで、最初は離れていた銀時と土方の距離が客の入れ替わりでどんどん近づき、とうとう隣り合わせになったのが運の尽きである。お互いもう帰りたかった(と思う)のに相手より先には引けず、味など分からないまま酒を呷ったふたりは、結局看板まで居座った挙句店主に叩き出されてしまった。
路地裏で吐くだけ吐き、電信柱相手に管を巻いていた銀時がふっと我に帰れば、ごく近い場所で胡坐をかいた土方がじっと銀時を見つめている。
「んだよ、見せモンじゃねーぞ」と身体ごと振り返りかけた銀時は、土方に腰を掴まれて「ばか、後ろ向いてろ」と低い声で縫い留められた。思わず動きを止めてしまってから、なんで俺がこいつのいうことを聞かなきゃなんねェんだ、とムカムカした銀時は、力任せに土方を押し退けようとするが、次の瞬間むにっと尻を掴まれて力が抜ける。
「…いいケツしてんな」と、ぽつりと零れた土方の声がなかなかに真剣で、銀時はざっと血の気が引く音を聞いた。「ちょっ…おい、離せ」と銀時が身を捩れば、「逃げるんじゃねえよ」と土方は両腕で銀時の腰に抱き着いて、ばふっと尻に顔を埋める。
ぐり、と尻の割れ目に沿って頬ずりされた銀時は、きゃあああ、と衣を裂くような悲鳴を上げると「やめっ、おい、話せばわかる!マジほんと止めて!」と後ろ手にぐいぐい土方の頭を押し戻したが、土方の腕は一向に離れない。
そのまま地面に引き倒された銀時が、いざとなったら木刀でカチ割って逃げるしかない、と覚悟を決め掛けた時、土方は銀時の尻に具合良く頭を乗せて、すかー、と気持ちよさそうな寝息を立て始めた。
どっどっどっどっど、と今にも駆け出しそうな音を立てた鼓動を押さえつつ、土方の下敷きになっていた銀時は、しばらくしてからそっと抜け出そうとしたが、土方の指は銀時のベルトをがっちり掴んで離れない。ああああもおおおう、とだんだん面倒になってきた銀時は、酔いに任せて全てを放置することに決めた。
あしたどうにかなっていたら土方に慰謝料を請求してやる、と念じた銀時は、埃っぽい地面に俯せて目を閉じる。妙に熱い土方の体温が不快だった。
翌朝、銀時が自分のくしゃみで目を覚ますと土方の姿はどこにもなく、ただ腰帯に千円札が三枚捻じ込まれている。「おひねりかよ」と呟いた銀時は、ゲロ臭い路地裏からよろよろ立ち上がり、そのまま万事屋へ帰ってまた寝た。三千円は、翌日パチンコですってしまった。



次に銀時が土方とまともに顔を合わせた場所は、真撰組の留置所だった。
トラックに接触して跳ね飛ばされた銀時のスクーターが、間の悪いことに並走していた真撰組のパトカーを破壊し、もちろん保険になど入っていない銀時が散々にゴネてとうとう檻の中へ放り込まれたのだ。
いや、べつに慣れてるから辛くねーけど、つうか元はトラックが悪いんだから大人しくしてりゃ良かったんだけど、なんか涼しい顔した土方がパトカーの中に見えてむしゃくしゃしたから、と簡易ベッドに寝転がった銀時がぐるぐる考えていると、がしゃん、と檻の戸が開いて、「いいザマだな」と土方が顔を出す。
「うるっせぇ、早く出せよ」と銀時が土方を睨み付ければ、「態度が悪ィ。このまま十日位放り込んどいた方が世間の為だな」と土方がまた鍵を掛けようとするので、「待て待て待て、それはさすがに職権乱用だろ?!」と銀時は慌てて鉄格子に追いすがった。
「スピード違反に前方不注意、公共物破損に公務執行妨害、罰金も払えねェんだから併せりゃ十日じゃきかねえ気もするがな」と銀時の罪状を並べた土方に、「や、半分くらいは俺のせいじゃ…ねーじゃん?」と尻つぼみになる声で銀時が返せば、「半分でも免停だ」と土方は言う。
「マジか、また取り直し?勘弁しろよ、試験代も馬鹿になんねーのに」と銀時が喘ぐと、「まずは反省しやがれ」と土方は吐き捨てて、「とにかく出ろ、取り調べだ」と扉を解放した。
「…お前がやんの?」と尋ねた銀時に、「うちの連中はどうもてめェに甘いからな。俺より総悟が良けりゃ代わるか?あいつは尋問と拷問を混同してる節があるがな」と土方が返すので、「オメーで我慢します」と銀時は項垂れる。
とはいえ、土方の取り調べは至って普通だった。パトカーの賠償までは求められず、いくらかの罰金と免停を告げられた銀時は、薄い財布からなけなしの札を掴みだして持ってけドロボー、と毒吐く。
「てめェと一緒にすんな」と言われた銀時はにわかに腹が立って、「良く言うぜ、男の尻揉んで喜ぶ変態のくせに」と土方を嘲ってから、はっと口を噤んだ。その変態と、銀時は今一つ部屋の中で向かい合っている。拘束こそされていないが扉には固く錠が下りているし、
窓には鉄格子が嵌っていて、当然ながら銀時の腰には木刀もない。
アレ、これもしかしなくても貞操の危機?と銀時が背中に嫌な汗を浮かべれば、土方は本当に嫌そうな顔で「覚えてやがったか」と舌打ちした。
ざあっとまた音を立てて血の気が引いた銀時は、喧しい音を立てて椅子から立ち上がると、格子の嵌った窓に取り付いて「だだだ誰かァァァ!犯されるゥゥゥ!」と大声で喚く。
と、「うるっせェェェ!何勘違いしてんだ、俺の目的はてめェの尻肉でそれ以上でもそれ以下でもねえよ!」と銀時の背中を思いっきり蹴飛ばしながら土方が言うので、「何が違うんだよ、何も違わねーだろが!怪しいと思ったら、やっぱホモの巣窟だったのかよ!」と銀時は尻を押さえて部屋の隅に陣取った。

「やっぱりってどういうことだこのクソ天パ野郎!だから俺ァてめェの薄汚ェケツ穴になんざ微塵も興味はねーんだよ!」とまくしたてた土方は、「ただその尻が、ちょうど良い枕だっつうだけで」と小声で付け加える。
「ま、まくら?」と若干上擦った声で返した銀時に、「おう、枕だ」と鷹揚に頷いた土方は、「まあ座れ」と銀時が倒した椅子を足で立てた。有無を言わさぬ態度に、銀時がそろそろと、それでも尻を庇いながら椅子に座り込めば、土方は椅子の背に手を掛けて、「てめェには一度尻を借りた義理があるからな」と前置いて、こんなことを言う。
昔まだ小せェ頃にな、俺ァ母親と死に別れて父親に引き取られた。珍しい話でもねェだろ、つまりお袋は囲い者だったんだよ。父親は裕福で、さらに子福者だったから、俺はまァ道端の石っころみてェなもんだった。そういう扱いをされた。
俺も可愛げのねえガキだったから父親に媚を売ることもしなくてな、結局あの家で俺に優しくしてくれたのは、…てめェも知ってる腹違いの長兄だけだったよ。冬の寒い夜は同じ布団に入れてくれて、夏は夏で薄掛けが肌蹴ないようにしながら―尻枕を貸してくれたんだ。

「… で、その為兄とてめェの尻は良く似てんだ」と、しみじみ土方は結んだ。「もう二度と巡り合えねえと思ったが、その厚み、固さ、張り具合、どれをとっても瓜二つだな」と熱っぽい声を出した土方がじろじろと銀時の下半身を見つめるので、銀時は尻の守りを強化する。情けない話だが、土方の目が本気過ぎて怖かった。
「いや…あのさぁ…うん、事情はわかった、そんな嘘吐いてもしかたねーしな、人には一つや二つや三つくらい妙な性癖があるもんだよな。誰にも言わねえから銀さんもう帰って良い?良いよな?」と、銀時は脂汗を流しながら、それでも冷静を装って土方の腕をすり抜けようとしたが、「まあ待て」と土方は銀時の腕をぎゅっと掴む。
例によって、銀時の手は尻を押さえていたので、土方の手は計らずも銀時の尻に触れて、銀時はぎゃっと悲鳴を上げた。「何絞められた鶏みてーな声出してんだ」と言った土方は、けれども手を離すどころか明らかな意思を持った様子で銀時の尻を撫でる。
ちょっと止めて、ほんとに助けて、神様仏様近藤様!と、もう恥も外聞もなく泣きそうになった銀時に、「てめェ本当に何か勘違いしてんだろ」と土方は言った。
「な、なにが?なにが違うんでしょうか」と銀時が思わず敬語になると、「だから、俺はてめェの尻たぶを枕にしたいだけでそれ以上でもそれ以下でもねェ」と土方はきっぱり言い切る。
いやそんなこと宣言されても、それが嫌だし、と銀時は声も無く首を横に振ったが、「悪いようにはしねェよ」と、土方はひどく凶悪な顔で笑った。



まあ一応な、と何でもない声で銀時に手錠を掛けた土方は、厚くて重い上着を銀時の頭から被せると、銀時の視界を塞いで背中を押した。
取り調べ室を抜けて、かなり広い敷地の中をしばらく歩かされた銀時は、「靴、脱げ」と促されてようやく、自分がどこかの縁側までやってきたことに気付く。銀時がもそもそとブーツを脱げば、土方はそれをひょいと掴み、「くせェな」と顔をしかめるので、「なら触んなよ」と銀時は言ったが、土方はブーツを離さない。
縁側から、さらに襖を二枚開け、土方が銀時を連れ込んだのはごく小さな薄暗い部屋だった。
狭いっつーか、ここ布団部屋じゃねーの、の乱雑に積まれた布団や座布団の山を眺めていた銀時は、無造作に突き飛ばされて頭から敷布団に突っ込む。頭は平気だが、下敷きにした手首に手錠が擦れて、そこは痛い。
何すんだよ!と喚こうとした銀時は、「なにって、枕だろ」といっそ優しい声の土方に腰を掴まれて、ぴたりと動きを止めた。銀時の背後に跪いた土方は、銀時の尻に頬ずりしながら「これだよこれ、こんな近くにあるなんてな」と、どこか感嘆したように呟き、「なあ、為兄」と銀時の尻に話しかけている。
いやそれは俺の尻であっててめーの兄貴じゃねーし、この絵面はどうかと思うし、何より着流し越しですらはっきり感じ取れる土方の鼻息がきもちわる「つーかこれ邪魔だ。脱げ」
気持ち悪い、と結ぼうとした銀時の思考を遮った土方が、銀時の着流しをばさりと払いのけ、黒いズボンにも手を掛けようとするので、「いや、それはねーだろ、お前いつも兄貴の生尻で寝てたのかよ?!」と銀時は必死で身を捩った。
「為兄は褌で、夜着も薄くてめくりやすかった」と懐かしそうな声を出す土方に、「無理、それは金を積まれても嫌だ勘弁しろ」と、銀時はぶんぶん首を振る。「チッ」と盛大に舌打ちした土方は、「まあ俺もてめェの尻に触りたいわけじゃ…ねェからな」と、微妙な間を開けて銀時のベルトを狙うのは止め、元通り尻の上に頭を乗せた。ちなみに、着流しはめくられたままだった。
うつぶせの姿勢が少し苦しくなってきたので、銀時はもぞもぞ動いて上半身を捻り、おおきく息を吐く。ちらり、と目を向けた下半身はがっちりと土方に固められて、どうにも動けない。
これは何のプレイだ、といつも半分死んだ目をさらに半分殺した銀時が、「なあ、こんなこと女に頼めよ。物凄ェムカつくけど、てめェならやりたい放題だろ」と、疲れた声で言うと、「ばか、女なんかだめだ。あんな柔らかくて弾力のある尻じゃ頭が沈んで疲れるだけだろうが」と土方は力説した。
あ、もう試したことあるんですね、と泣けばいいのか笑えばいいのかわからなくなった銀時が、「こんな時どういう顔をすればいいかわからないの」と口走れば、「笑えば良いんじゃねェか」と土方はドヤ顔で返す。畜生、誰だこいつにエヴァ見せたの。
どうせトッシーの影響だろ、次に出て来たらボコボコにしてやる、と銀時が薄暗い復讐心を燃やしていると、「なに緊張してんだてめぇは」と土方が銀時の脇腹を撫でるので、銀時は「うひっ」と妙な声を上げて身を捩った。
「…」
「……」
「………」
しばらく気まずい沈黙が走って、「…お前、脇弱ェのか」と零した土方に、「何の話でしょうか」と銀時は恍けて見せたが、もちろんそんなことで誤魔化せる相手でもなく、土方はがっちり銀時の腰をホールドしたまま、おもむろに銀時の脇をくすぐる。
絶妙な位置に入った土方の指先のせいで、「うっ、ふひっ、くくっ、うぐ、うあっ、あ、あははははっ、はっ、ちょ、あ、っはぁ、はははっ、やっつ、やめ、くひっ…」と銀時がもがくと、「喘ぎ声みてぇに笑うなよ」と土方が嫌そうな声を出しつつ手を止めないので、自分でも若干そう思っていた銀時は、かぁっと頬を染めた。
さらに二分ほど喘いで、「いっ、い加減にしやがれ!」と、苦しくなった銀時が力任せに体を反転させて土方に蹴りを入れると、土方の身体は面白い程飛んで、隅の布団山にぶつかって落ちる。
あ、ヤバい、と今現在相手のテリトリーで拘束された身だということを思い出した銀時は、ともかくここから出れば、と立ち上って走ったが、襖に手を掛けたところで足首を掴まれて倒れてしまった。また下敷きになった手錠のおかげで、胸が痛い。「いい度胸だな」と笑った土方の目が怖い。
「元はと言やぁてめぇが悪いんだろ…」と反論しかけた銀時の声は、ぎろりと睨み付ける土方の眼光のせいで尻つぼみになり、「申し訳ありませんでした」と謝罪に変わる。じっと銀時を見つめていた土方が、「たかが尻ごときで騒ぎすぎだろ…まさか犯されたことでもあんのか」と面倒臭そうに言うので、「ねぇよばか、銀さんの尻は新品です」と銀時が即答すれば、「ふぅん?」と土方は首を曲げて、今度はじっと銀時の尻に視線を送った。
腕も足も痛い銀時が、「もー、俺が悪かった、尻でもなんでも貸すからさっさと済ませてくんない」と畳に突っ伏すと、「なんでもか」と土方は不穏な声を出して、銀時の尻に手を這わせる。むぎゅ、と片尻を無遠慮に掴まれて「ぎゃっ」と叫んだ銀時に、「うるせぇ、じっとしてろ」と土方は言って、今度こそ銀時のベルトに手を掛けた。
まさかほんとに生尻に頭を乗せる気か、と、「ま、待って、今日は勝負下着じゃねえから恥ずかしいなー…なんて…」と、銀時が土方を振り返ると、「どうせいちご柄なんだろ、近藤さんに聞いた」と土方は真顔で返して、「安心しろ、俺はいつも勝負下着だ」と、銀時の身体を仰向けに転がしながら続ける。
はっ?と展開について行けない銀時が、「尻枕にしか興味ねぇんだよな…?」とおそるおそる尋ねると、「気が変わった。どうせ大人しく枕になる気がねぇんなら、犯してからひん剥いた方が早い」と土方はさらりと最低なことを言って、「心配すんな、男ははじめてでもケツにぶち込んだことは何度もあるから」と、銀時の股間をぐりっと膝で割り開いた。
いやいやいやいや、そんな理由で処女喪失したくねーし、っつうか相手がお前だっつうのがものすげェ不本意だし、畳で背中が痛ェし、何より犯罪だし!!と青ざめた銀時は、「おっ、お巡りさんに言いつけるぞ!沖田くん辺りに売ったら格好のネタにされんぞ!」と、不自由な腕で精一杯土方の顔を押し返したが、土方は銀時のてのひらにちゅっと唇を当てて、「最終的に和姦になりゃ問題ねェだろ」と手際良く銀時の服を剥いでいく。
「ちょっ、土方、冷静になれよ?俺だぞ??万事屋の坂田銀時だぞ、お前俺のこと嫌いだろ?セックスなんかしたくねぇだろ?!」と、銀時が必死で土方を宥めようとすれば、「お前の尻は愛してる」と土方は真顔で言って、肌蹴た銀時のシャツから脇腹に指を這わせると、「そういや知ってるか?擽られて感じんのは好きな相手にされた時だけなんだとよ」と、今一番聞きたくなかった豆知識を披露した。
どばっ、と大量の汗を掻いた銀時に、「良かったな、両想いじゃねーか」と、土方が笑って見せるので、「何も良くねーよ、お前俺の尻だけが目当てじゃねーか!あとべつに俺はお前のことはいけすかねェけど一目置いてるってだけで全然好きとかじゃないからね!」銀時が叫ぶと、「どうせヤることは同じなんだから、今だけでも好きだってことにしとけよ」と、土方は銀時の乳首を探り当てて、がりっと引っ掻く。
銀時がびくっと背筋を震わせると、「乳首もイける口なんだな」と言った土方が当たり前のように銀時の顔に手を添えて唇を落とそうとするので、こっの野郎、と銀時は右足を振り上げたが、「同じ手は食わねェ」と、土方はぱしっと銀時の足を受け止めると、太腿の裏を掴んで胸に押し付けた。
いってぇ、と顔をしかめた銀時に、「身体硬ェな」と土方は薄く笑って、懐からもう一本手錠を取り出す。どうするのかと思えば、土方は太腿の裏から回した手錠を銀時の手首にかちんと嵌めた。自身で足を抱えるような形になった銀時は、がちゃがちゃ手錠を鳴らして見るが、市販のジョークグッズとはわけが違う。
くっそ、と軽く涙目になった銀時が、「あ…とで覚えてろよ!てめーも同じ目に合わせてやっからな!」と唯一自由の利く左足で床を踏みつけると、「できるもんなら」と土方は銀時の舌を摘まんでべろりと舐めた。噛み付いてやりたかったが、銀時の舌が邪魔をして、できなかった。
実際、土方は手馴れていた。暴れても仕方がないと悟った銀時が大人しくなると、土方は銀時のズボンとトランクスを膝まで下げて、銀時のアナルを軽く指で揉み解す。今までいろいろなものを突っ込まれてきた銀時は、その度に流血沙汰を起こしているので、土方の動きは予想外だった。
くにくにとアナルの襞を確かめるようにした土方は、おもむろに隊服の内ポケットに手を入れて、小分けになったローションとコンドームを掴みだす。「おいちょっと待て」と、そこで口を挟んだ銀時に、「文句なら後で聞いてやるから」となおざりに土方は言うが、そうではない。
「なんでそっからそんなもんが出てくんだよ、おかしいだろ。制服だろ?警察だろ!」と銀時が力の限り主張すれば、「だから、調査で使うんだよ。廓で手っ取り早いのは抱いて女にすることだろ」と、土方はなんでもない声でとんでもない台詞を吐いた。
絶句した銀時に、「なんだ、嫉妬か?」と土方が頭の沸いたことを言うので、「ばーか!ばーーーっか!」と銀時は吐き捨てて、ぎゅっと目を閉じる。土方の指は相変わらず優しく、銀時のアナルに丁寧にローションを塗り付けてから(しかも軽く温めると言う小技付きで)、探るようにほんの少しだけ指を差し入れた。
違和感はあるが痛みはない感触に、銀時が大きく息を吐けば、「そのまま力抜いてろよ」と土方は銀時の尻を鷲掴んで、ぐっと指を押し進める。奥へ進めば進むほど異物感は強くなって、銀時は排泄を我慢しているような気分になったが、もちろんこれで終わるわけもない。腹側の腸壁をあちこち探っていた土方の指が、ある一点を掠めた瞬間、銀時の目の前で星がはじけて、びくんと腰が揺れた。
思わず目を見開いた銀時が、「な、なに?」と呟けば、「何って前立腺だろ。開発しねェと悦くねェって聞いてたが、これなら使えそうだな」と、土方はひとりで納得してずるりと指を引き抜く。抜く瞬間にも、土方の爪の先が同じ場所を抉って行くので、「ふあっ、あ、えっ?」と、銀時は喘いで、喘いだことに驚いで声を上げた。「素質があって良かったな」と、土方は乾いたてのひらで銀時の頬を撫でるが、なにも良いことはない。
「洞爺湖がぶっ刺さったせいか?それともやっぱあの妙な天人が鞘代わりに住んでたから…中で開発されて…」と、目の前が真っ暗になった気分で銀時はぶつぶつ呟いたが、「気持ち良い場所が増えんのは悪いことじゃねェだろ」と、土方はごく優しい声で銀時の頭も撫でてくれた。
うっかりきゅんとしてから、いやいい話になりそうだったけど、俺今こいつに犯されてるからね、手錠二本も掛けられてるからね、そろそろ爪先の感覚ないからね、と銀時はぶんぶん首を振る。絆されてはいけない。和姦になどせず強姦で訴える、そして勝つ、と銀時が念仏のように呪詛を唱える間に、土方はさらにローションを追加して入れる指を二本に増やした。
今度こそはじめから前立腺を目指した土方は、二本の指で前立腺を囲むように撫で、ときおり指の腹で直接触れる。ひぐ、と喉の奥で銀時が喘ぐと、「俺しか聞いてねェんだから声出せよ」と土方は言うが、お前に聞かれたくねェんだよ、と、銀時は苦しい姿勢のまま両手で口を塞ぐ。太腿が胸に触れるせいで、乳首が勃っているのも腹立たしい。
土方の指はゆっくり三本、四本と数を増やし、銀時のアナルからは絶え間なく水音が響いた。中指で奥を突かれるのも辛いが、小指でアナルの縁を探られるのも限界で、んむ、と銀時はてのひらの柔らかい部分を噛んで耐える。早く終われ、終われ、と目を閉じて念じた銀時は、「これくらいか」と呟いて土方の指がずるりと引き抜かれた瞬間にほっとしたのだが、次に来るはずの衝撃がいつまで経っても訪れないので、銀時は薄目を開けて土方の様子を伺う。
と、いつの間にか目の前に土方の顔があるので、動揺した銀時はまた目を閉じようとしたのだが、「どうする?」と土方に尋ねられて動きを止めた。「どう…って?」と、押し殺したせいかいくらか掠れた声で銀時が問い返すと、「てめぇが強姦だっつうならこれで止める。和姦だっつうなら、先に進む。どっちがいい」と、土方は後ろへの刺激だけできつく勃ち上がった銀時のペニスに触れて言った。
「はあっ?ここで止めても強姦は強姦だろうが!」と銀時は抗議するが、「残念だがな、男性器が性器に入んねェと強姦には何ねェんだよ。まあつまり男同士じゃ暴行罪が関の山だが、今んとこてめェは怪我もしてねェし、中出しもしてねぇから証拠も薄いな。この真撰組屯所で、俺とてめェのどっちが信用に足ると思う」と、土方は薄ら笑う。
ぱくぱく口を動かした銀時が、「おっ、お前だって勃ってんじゃねェか」と、足に当たる硬い感触でどうにか言葉を絞り出せば、「俺はどこでも抜けるが、てめェは足りんのか」と、土方は銀時のアナルの縁をぐるりと親指でなぞった。ぱく、と物欲しそうにアナルが震え、土方の指を咥え込もうとしたことが自分でもわかって、「さ、…最悪だ…」と、銀時はまた両手で顔を覆う。
随分長い時間が経ったような気もするが、一瞬だったのかもしれない。「ごういで…いい」と、銀時が呟くと、「聞こえねえ」と土方が銀時を切り捨てるので、「和姦にするって言ってんだよ!早く突っ込めよこの遅漏!」と、銀時はやけくそで叫んだ。「早漏よりはマシだろ」と、ろくに堪えた様子もなく返した土方は、ぺりっとやけに可愛い水玉模様のコンドームを破り、片手で嵌める。
コンドームの先についたローションで銀時のアナルをぬるぬるなぞってから、土方がずぶりとペニスを突き立てるので、「ふあぁっ、」と銀時は今度こそ甘い息を漏らした。一度慣らしたアナルの中はごく容易く土方のペニスを受け入れて、それどころか指より格段に太いペニスの来報を待ちかけたようにきゅうきゅう締め付ける。
土方が動くたびに、アナルの縁がぎゅうっと内側に押し込まれ、皮膚と粘膜の境目が引き攣れるような気がしたが、その刺激すら気持ち良い。
やがて前立腺まで達したペニスが、内側からごりごり前立腺を刺激するので、あっ、あっ、あっ、あっ、と壊れたように喘いだ銀時は、結局そのまま前でも達してしまった。遅れて土方が射精するまでに中で三度イく羽目になった銀時は、ぐったり畳に体を預けて、ペニスを引き抜いた銀時が手錠を外しても殴るどころの話ではなかった。
その日は三万貰った。

▽ ▽ ▽

後から知った話だが、土方は武州時代から枕が合わなくて、ずっと不眠症気味だったらしい。仕事の鬼などと呼ばれていたのもほとんど眠らずに仕事を片付けていたからで、なんのことはない、銀時の尻を狙ったのは本当に切羽詰っていたからなのだ。
あれから目を覚まして正気になったらしい土方が、いろんな意味で腹を斬ろうとするので、「和姦だったんだろ」と銀時が頬を掻きながら言えば、「…責任は取る」と土方は財布の中身を全部取りだしたが、「いいよ、これで」と銀時は中から三万だけ取って、「残りはちびちび集ってやるし、あとてめェのチンポも使ってやるから覚悟しろ」と告げる。
唖然とした顔の土方に溜飲を下げた銀時は、一晩五千円で尻枕も貸し出してやることにしたのだが、何が不満かと言えば土方がほとんど気絶するまで働いてから万事屋へやって来るせいで、枕にしかされないところだった。
お前だって気持ち良くイっただろ、と銀時がリモコンの縁で土方の頬を突くと、土方はむずかるように顔を背けて、銀時の腰にぎゅっとしがみつく。兄の夢でも見ているのかもしれない。
「あーあ、可愛いな畜生」と呟いた銀時は、ほとんど頭に入っていなかったテレビを消して、枕代わりの座布団に顔を埋めた。土方の体温が気持ち良くてムラムラするが、たたき起こすのは忍びない、と思う程度に銀時は土方に情を移している。
残念ながら、今夜もお預けだった。


( 枕が変わると眠れないの / 土方十四郎×坂田銀時 / 140907)