レンタルラヴァー:06

どろりとしたローションを指に絡め、いくらか温めた銀時は、「たぶん後ろからが入れやすいけど、どうする?」と、土方に問いかける。仰向けに寝転がって両足を抱えるよりは、四つん這いになる方が土方の矜持もいくらか保てるかもしれない。
「ああ、位置が違うのか」と、何かに納得したような顔の土方は、少し考えてから横向きに寝転がって、片足を立てた。「これでどうだ?」とシーツの上で首を傾げる土方に、「ばっちりだな」と頷いて見せた銀時は、あらわになった土方の肛門へと、まずはたっぷりローションを塗りこめる。ひくり、と穴の縁が蠢いたのは条件反射だろうか。
自分で試したときは手探りなのでわからなかったが、薄桃色に色づいたローションが尻穴を濡らす様はひどく淫靡で、銀時は知らずにごくりと唾を飲む。それしかない、という状況に陥ったときでも、男を抱ける人間と抱けない人間がいるらしいが、銀時は明らかに前者だった。
立て膝の間からそっと陰嚢にも手を伸ばしてみれば、ごく柔らかい感触が気持ち良くて、銀時はしばらく土方の股間と肛門付近を撫で回す。僅かに強張っていた土方の肩から力が抜けるのを待って、「指、入れていいか」と銀時が問いかけると、土方は何のためらいもなく頷いた。
「ヤだったらちゃんと言えよ」と前置いてから、真新しいコンドームの箱を開けた銀時を見て、おい、と土方が顔色を変えるので、違う違う違う、と銀時は慌てて首を振る。「爪切ってやすりもかけてきたけど、何があるかわかんないだろ。指にもコレはめて入れんだよ」と、銀時がなだめるように土方の胸を撫でると、土方はゆるく頷いて、起こしかけた体をまたシーツに沈めた。
ばらしたコンドームの袋を破り、右手の中指でいくらか口を広げた銀時は、もともとついていたゼリーにもう少しローションを足して、土方の後腔に押し当てる。
「ゆっくり、息吐いて」と言いながら、銀時がゆっくり中指を突き入れると、土方はびくりと背中を震わせた。「痛ぇ?」と、第二間接で指を止めた銀時が土方の顔を覗き込めば、「…正直、内臓なんだよな、そこは」と、硬い声で土方は言う。そんなとこで無茶したのは誰だよ、と言いたかったが、銀時にその権利はない。
代わりに、「そういう言い方をすると、そうだけどよ」と、なるべくなんでもない声を作った銀時が、「でもここも性感帯だっつうし、もっと太いモンも出るし」と続けると、「出入りはしねえけどな」と、土方は薄く笑った。息を吐いた拍子に土方の後腔がわずかに解けて、「そうそう、その意気」と頷きながら、銀時はもう少し指を進める。
土方の中は狭くて熱い。この間は土方の表情に気を取られてそれ以上感じる暇もなかったが、今は違う。「ゆっくり、吸って吐いて」と、銀時が土方の腹を撫でながら言うと、はーっ、と細く長い息を吐いた土方は、投げ出していた腕を上げて顔を覆い、「いっそ斬り付けられる方がまだマシだ」と、うわ言のように呟いた。
確かに、と納得しかけた銀時だったが、ここは自分を練習台にしてまで磨いてきた腕の(というか指の)見せ所だろう。柔らかくて狭い腸壁からずるりと中指を引き出した銀時は、コンドームの中に薬指を足すと、揃えた指を一息に奥まで押し込んだ。ぎち、とゴムが音を立て、口元しか見えない土方の顔がぎゅっと歪むのがわかる。
悪ィ、もうちょっと、と土方の中で軽く指を曲げた銀時は、指の腹で腸壁を押しながら、逆の手で土方の下腹を軽く押さえた。中と外の両側から徐々に探りを入れた銀時の指が、ようやく見つけたしこりを押さえれば、「んっ、」と土方の胸がひとつ跳ねる。
そろりと腕をずらして、何か問いたげな目で銀時を見上げた土方に、「たぶんこれが前立腺」と銀時が言うと、「たぶん?」と土方は不審そうに眼を細めた。「いやさ、自分のしか触ったことねえし、人に聞くのもどうかと思うし」と、銀時がいくらか気まずそうに返せば、「道具は二組も買ったくせに」と、土方は小声で言う。
「ばっ、これは別に女相手でもおかしくねーだろが!」と、購入時のやりとりを思い出した銀時が上擦った声を上げると、「確かに女に前立腺はねェな」と土方は思わず、と言う風情で笑って、強張っていた体の力を抜いた。
土方が目を閉じるのを待って、銀時はまたそっと前立腺(と思われる膨らみ)を内側からそっと撫でると、同時に土方の陰茎に指を絡める。わずかに芯を持ち始めた土方の陰茎をゆるくしごきつつ、銀時は丁寧に後腔の指を動かして狭い腸壁を拡げた。
とにかく無茶をしなければ指の二、三本で入口が(出口だが)切れることはない、と実感している銀時は、土方が何も言わないのを良いことに人差し指も重ねて差し込み、ローションを足してぐちゃぐちゃ掻き混ぜる。ここまでくると、技術も何もあったものではない。
ときおり震える土方の背や肩や腹や髪を撫でながら、もういいだろう、というところまで後腔を濡らした銀時は、「お疲れ」とごく軽い口調で土方の腰を軽く叩いて、すべての指をずるりと引き抜いた。はーー、と大きく息を吐いた土方は、薄く上気した顔で銀時を眺めて、「次は」と短く問い掛ける。
もういいんですか、と問い返したかったが、銀時としても早く済ませたいのはやまやまなので、「次はこれです」と、もう一枚ゴムを開けると、どぎついショキングピンクのアナルビーズに被せた。最初から最後まで玉の大きさが変わらない、晴太曰く『初心者用』のアナルビーズは、ごく柔らかいゴムでできている。
こちらもローションでたっぷり濡らしてから、念のため土方の顔に近づけて、「入れていい?」と銀時が尋ねると、「いいから早くしろ」と、土方は顔を背けて吐き捨てるように言った。
こいつすげェな、と土方の態度に腹を立てるよりむしろ感心した銀時は、「気持ち悪かったら言えよ、指よりイイと思うけど」と前置いてから、土方の尻を軽く掴んで、軽く窄まった後腔にアナルビーズの先端を押し当てる。
と、ひくり、と反射的に後腔が収縮して、ひとつ目の玉を柔らかく咥え込んだ。ごく、と土方の喉が鳴って、所在無げに投げ定されていた腕が白いシーツに皺を作る。形の良い眉をわずかに顰めながら、土方はさらにきつく目を閉じて、手の甲を唇に当てた。
土方の後腔をぐるりと指でなぞり、どこも切れていないことを確認した銀時は、こちらも大きく深呼吸しながらアナルビーズを押し進めて、さらに三つの玉を土方の中に埋め込む。前立腺(だと思う場所)を掠めた時は、土方がまた喉の奥で音を立てた。
土方の下腹を撫でて、指では届かなかった位置に達したことを確認した銀時は、軽くアナルビーズを回して土方の反応を確かめる。不快ではあるようだが、頬を染めた土方は、土気色をしていた前回とは比べ物にならない表情をしていて、銀時はよし、と頷いた。ここまでは順調である。
土方の呼吸が落ち着くのを待って、「あと四つ残ってっけけど、入れてみる?それとも今日は止めとく?」と銀時が尋ねれば、「こんなことに何日もかけてられるか。全部済ませろ」と、苦しい息の中から、それでも不遜に土方は返した。
そうですか、と頷きかけた銀時が、「けど俺のチンコこれより短いから、もう入ると思うよ」とアナルビーズの長さを指で示しつつ、恥も外聞もなく言うと、土方は閉じていた目を開いて、「でもこんなに細くねェだろが」とごく嫌そうな声で告げる。
うわぁ、と思った銀時が、「もしかして褒めてくれてんの?」と捻れば、土方は冷たい目で銀時を睨んで、「ばか」と的確な一言をくれた。「すみません」と項垂れた銀時に、「…てめェは全部入れたんだろ」と、ごく細い声で土方が言うので、「いや俺は指を入れるまでに三日かかってっから、これ使うまでに一週間かけたから」と銀時は頬を赤らめながら告白する。
臆病者と笑うなら笑え、何しろ排泄器官なのだ、覚悟が決まるまで丸三日悩んだ。慣らしもせずに乗っかるような相手にそこまでの気遣いが必要か、と自問したことも付け加えておく。土方が本当に銀時の恋人だったら、きっと躊躇わずに土方で試しただろう。それくらいのことだった。それでも銀時には、土方の処女を最悪の形で散らした責任を取る義務がある。金を詰まれた以上。
瞬きもせずに銀時を見つめていた土方は、やがてむくりと起き上がると、銀時が止める間もなく後腔からアナルビーズを引き抜いて、無造作に放り投げた。粘ついたローションが音もなく飛んで、銀時の頬を濡らす。
指先で銀時の頬を撫でた土方は、ベッドの下からさっき脱いだシャツを拾い上げると、銀時の膝の脇に千円札一枚と百円玉二枚を並べた。「な、なに?手切れ金?」と銀時が身構えると、「前払い」と土方は返して、銀時の胸に手を当てると、「最中に辛くなったら噛み付いてやるから、その分な」と続けてにやりと笑った。
それはもう入れて良いってことですか、と瞬いた銀時は、「えっと、」と百円玉を摘まんで、「夜勤手当もあるから、これでいい。あとはキスに回してくれ」と返す。次のキスに回してくれ、と言いたかった銀時に他意はなかったのだが、「辛くなったらキスしろって?」と土方に問い返されて、「えっ、お前がそれでいいなら!」と妙な反応を返してしまった。
一瞬しまった、と思った銀時だったが、土方はふはっ、と吹き出して、「なら四回分、百円は負けろよ」と言うと、銀時の髪をさらりと撫でて、百円を持ったままの銀時の手にコンドームを握らせる。  
はい、と神妙な顔で頷いた銀時は、コンドームを破る前に正座を作ると、「告白するけど、俺男はお前が初めてで、女ともケツでしたことはないです」と硬い声で告げた。
銀時は真面目な話のつもりだったのだが、シーツに寝転がろうとしていた土方が「んだよ、脱童にも付加価値が欲しいのか?いくらだ」と面倒臭そうな声を出しながらまたベッドの下へ手を伸ばすので、「どどどど童貞ちゃうわ!じゃなくて、うまくできなかったら悪ィって話をしてんだよ」と銀時は返して、土方の手を掴んで止める。ローションで滑る手はお互い様だった。
それがどうした、と言う顔で眉を顰め、「中折れしても一発は一発だから心配すんな」とさらに見当違いの言葉を吐いた土方に、「だから俺じゃなくてお前の心配ィィィ!!!」と銀時が突っ込みを入れると、「いい」と土方はあっさり首を振る。
「…はい?」と、一瞬沈黙を作った銀時が問い返せば、「俺のことは気にしなくていい。そもそもてめェにこんなことを頼めるとは思ってなかったしな」と、土方はなんでもない声で言った。
それから、「この間の話だが、…騙し討ちみてェな真似して悪かった。てめェが俺相手でもこんな全力だとは正直思ってなくてよ」とバツの悪そうな顔で土方が肩を竦めるので、「いま俺完全にけなされてるよね?少なくとも褒められてはいないよね?」と銀時は返す。
銀時の言葉は気にも止めず、「誤解して悪かった、金に見合う分は働く人間だったんだな」とさも感心したような声で続けた土方に、「ああああああもおおおう、そうだけど!そうなんだけどよ!」と銀時はがりがり髪を掻き毟った。間違ってない、間違ってはいないが、それだけで片付けられても困るのだ。何が困るのかは言えないが、アレでソレがそうなるので、つまり、アレなのだ。
ううう、と唸った銀時の膝をぺしんと叩いた土方は、「なに気負ってんだ、俺はてめェを金で買ってる。それ以上でもそれ以下でもねえだろ」とごく気安い声で言う。「仕事相手を見下していて悪かった。てめェなら、…まあ悪いようにはしねェよな」と目を細めた土方に、「やっぱ全然褒められてる気がしねェんだけど帰って良い?」と、ふて腐れた顔で銀時が返すと、土方はちょいちょい、と銀時を手招いた。
銀時が素直に土方へと顔を寄せれば、土方は銀時の耳に唇を寄せて、「褒めてはいねェが信用はしてる」とごく低い声で囁く。ぞわ、とした銀時が、「そんなんで誤魔化されると思うなよ」と耳を押さえると、「ならしかたねェな、今からでも上下逆転するか」と、土方は無造作に銀時のわし掴んだ。
ぎゃっ、と叫んだ銀時が、「ばっか、そんないきなりで裂けたら笑い事じゃすまねえだろが!痔はクセになんだからよ」と土方の腕を握れば、「そうか…てめェも大変だな」と、土方が心底同情したような顔で頷くので、「俺じゃねーよ!顔見知りのフリーター忍者が言ってたの!!」と銀時はぶんぶん首を振る。
まあ元気出せよ、と素知らぬ顔で銀時の肩を叩いた土方に、はあ、と息を吐いた銀時は、「…も、ローション乾かないうちに入れるから、歯ァ食い縛れよ」と、返事も待たずに土方をシーツへと押し倒した。  それなりにスプリングの利いたベッドは大きく弾んで、土方と銀時を受け止める。
土方に手渡されたコンドームを食い破った銀時は、土方の片足を掴んで大きく広げると、後腔にローションを注ぎ足して指を入れ、泡立つほど掻き混ぜた。
「ちょっ、待っ、」と土方はここへきてようやく制止の言葉を口にしたが、「待ちません」と銀時は土方の足を掴む手に力を込めて、土方の顔を見ずに銀時自身の陰茎を二、三度扱く。どろどろになったコンドームは惜しげもなく放って、新しいゴムを陰茎に被せた銀時は、土方の濡れた下生えを柔らかく撫でてから、後腔に亀頭をぴたりと押し当てた。
ぐ、と土方が息を呑む気配がして、銀時もごくりと唾を飲む。大丈夫、この間も見た目はひどかったけどそこまでひどく切れてたわけじゃねェし、今回はちゃんと慣らしたし、ダメそうだったら途中で止めればいいし、と再三言い訳を重ねた銀時は、土方の尻たぶに手を宛がいながらゆっくり腰を進めた。
指を入れた時とは比べ物にならない圧力を感じて、「ひじかた、ごめんもうちょっと力抜いて」と、銀時は土方の足から手を離し、薄い胸をそっと撫で下ろす。吸い付くような動きを見せる土方の後腔に包まれて、銀時はくっと眉を寄せた。
はっ、と荒い息を吐いた土方が、「後ろから入れるんじゃ、なかったのか」とゆるく目を細めるので、「悪い、忘れてた」と、銀時はわずかに緩んだ土方の中へ、ずるりと陰茎を納めてしまいながら悪びれずに答える。腰を高く上げる形になった土方は苦しそうだが、正直構っている余裕は銀時にもない。
せめて早く終わらせよう、と勝手に決意した銀時は、土方の呼吸に合わせて律動を始めた。最初はゆるく、慣れて来たら半分ほど陰茎を引き抜いて、さらに意図して前立腺を擦るようにすれば、「あっ、あっ、んんっ、…クッソ、てめェ覚えてろよ!」と、堪えきれなくなった喘ぎ声の合間から土方が言うので、「言われなくてもこんなん忘れられるかよ」と、額に汗を浮かべながら銀時は返す。
ぎゅう、と一際強く締め上げられた銀時は、少しばかり姿勢を変えて、土方の背を抱くように片腕を回した。銀時が、しっとりと汗ばんだ土方の背を撫でれば、土方の呼吸が少しばかり落ち着いて、同時に後腔が収縮する。何度もそうする内に、銀時の汗が土方の頬へ落ちて、土方のそれと混ざって流れた。
さらに、シーツを掴む土方の手にてのひらを重ね、上から握り込むようにした銀時が、ぴったりと胸を付けて、ゆるゆると律動を繰り返せば、土方は深く息を吸って、「この前とは、ずいぶん、違うな」と独り言のように呟いた。
「そりゃ、ひとりでするもんじゃねえからだろ、こういうのは」と、銀時が一方的だったこの間の騎乗位を指すと、「…そうか」と、ひどく透明な声で土方は言って、銀時の首にそっと腕を回した。締められるのか、と一瞬身構えた銀時の予想を裏切って、ほんの少し身体を持ち上げた土方は、銀時の鼻と頬と唇と顎に一度ずつ唇を当てて、「噛むのは止めだ」と薄く笑う。
思わず頬を染めた銀時の前で、土方はゆるく目を閉じると、シーツの上で銀時の右手を握り返した。土方の中も、前回とは様変わりしている。食いちぎるような強さで締め付けるのではなく、銀時の性器を引き込むようにうねって絡み付いた。
は、と息を吐いた銀時は、火照る頬を土方の髪に押し当てながら、もう何度か腰を動かして、土方の中で果てる。コンドーム越しでも素晴らしく気持ちが良くて、銀時はそのまま土方の上に崩れ落ちそうになった。
土方はさすがに後ろだけでは達せず、銀時は陰茎を土方の中に収めたまま、はちきれそうな土方の性器を何度か擦り上げて、精液をてのひらで受け止める。土方は二度目だったが、一度目とほとんど変わらない量のそれに、銀時は少しばかり照れくさくなった。
それからずるりと性器を引き抜き、「大丈夫か?」と、銀時が土方の体を半分抱き起こすと、土方は緩慢に頷いて、「風呂、もう一度入って来い」と、銀時の胸を軽く押す。
いやいや、と首を振った銀時は、「お前からでいいよ。中気持ち悪いだろ」と、土方にタオルを手渡した。使ったローションは体に害のあるものではないが、洗い流したほうがいいのは確かである。長く入っていると下す可能性もあるし。
一応気を使った銀時の前で、「いいから」と土方はまたベッドに突っ伏す。さすがにむっとした銀時が、「こんな時まで意地張んなよ」と土方の腰を掴めば、「…だから、動けねえんだよ。あんま触んな」と疲れたような声で土方は言って、銀時の手を軽く叩いた。
「てめェはバイブ使った後もなんともなかったのか?」と逆に問い返された銀時が、「すみません…」とベッドの隅でしょんぼりと正座すれば、軽くため息を吐いた土方は、「ちょっと来い」と銀時を手招いて、枕の下から出した三百円を手渡す。
「お前、どこにどんだけ小銭仕込んでんの?」と思わず聞いてしまった銀時には答えず、銀時の首に両腕を回した土方は、触れるだけではないキスをして腕を離した。
良いようにあしらわれた気がしなくもないが、「なんか今のすげー自然だったな」と簡単に浮上した銀時が首を捻ると、「ごっこ遊びが板についてきたんだろ」と、土方の答えは軽い。「わあ、嬉しくねえ」となんでもない声で返した銀時は、まだはめたままだったコンドームを引き抜いて、ぎゅっと口を縛る。
点々と落ちたコンドームを拾って、一応ティッシュに包んでゴミ箱へ放り込んだ銀時は、「なあ、洗ってやるから風呂行こうぜ。歩けないなら運んでやるし」と、土方に声を掛けた。
少し考えてから、「手だけ貸せ」と土方が肘を付いて身体を起こすので、「意地張るなよ」と銀時は笑って、弾みをつけて土方の背と膝の裏に腕を差し入れる。横抱きではなく、いわゆる幼児抱きという奴だ。
銀時とほぼ同じ体格の土方は、いくらか嫌そうな顔をしたが、「もういまさらか」と諦めたように呟いて銀時の腕の中で力を抜く。「そうそう、いたたまれねーのはわかるけど、いまさらだろ」と、銀時が土方の背を軽く叩けば、「なんでもいいから早くしろ」と、土方は爪先で銀時の脇腹を突いた。
そのための施設だからだろうが、ホテルの風呂は広かった。男ふたりが浴槽に納まって足を伸ばすことができる程度には。先にシャワーは浴びてるわけだしな、といろいろ面倒になった銀時は、土方とふたりで湯船に浸かったまま、土方の後腔からローションを掻き出した。
「どこも切れてねェ…と思うけど、どっか痛ェとか変な感じがしたら言えよ。良い肛門科紹介してもらうから」と、銀時がつとめて軽い声を出すと、「薬が出たらてめェに塗らせてやるから覚悟しとけ」と、土方も軽口を返す。はいはい、と頷いた銀時は、ついでのように土方を隅々まで洗って拭いてやった。
ラブホの安っぽい寝間着を着せ付けて、シーツを代えたベッドに座らせた土方へと「はい水」と銀時がペットボトルを渡してやれば、「至れり尽くせりだな」と水を一口飲んでから土方は言う。
「これでも恋人ですから」と澄ました声で言った銀時に、「自給二千五百円の?」と土方が言うので、「今は夜勤手当がついて四千円の」と銀時が返せば、「待てこら、夜勤手当は千円だから三千五百円だろ、ナチュラルにぼるんじゃねえ」と、土方は手を伸ばして銀時の頬を引く。
そうだっけ、と銀時がとぼけて見せると、「欲しいならくれてやるけどよ」と土方がまたどこからともなく五百円玉を取り出すので、「あー、もう充分だからいいです」と、銀時は硬貨ごと土方の手を握り込んだ。金で雇われているのは確かだが、これ以上金が欲しいわけでもない。土方には屁でもないのだろうが。
どろどろになったバスタオルとその他準備した道具を片付けるために、銀時もう一度バスルームへ立って戻ると、土方は枕に凭れて煙草の箱を弄っていた。
「吸わねえの?」と、ベッドに乗り上げながら銀時が尋ねれば、「寝ちまいそうだったんでな」と土方は返し、流れるような動きで煙草を咥えて火を点けた。
 一瞬間を置いて、銀時がいれば咥え煙草のまま眠っても問題がないと思われている、と気付いた銀時は思わず赤くなったが、だからどうということもない。
一本の煙草を美味そうに吸い切った土方は、枕元の灰皿にぎゅっと吸殻を押し付けて、「面倒くせェな」と呟いた。「なにが?」と問いかけた銀時に、「仕事が」と短く返した土方は、ばふっと枕に顔を預けた。まだ少し湿っぽい髪が邪魔そうだったので、銀時は何の気なく手を伸ばして、土方の前髪を耳に掛けてやる。
そういえば、土方はうつぶせで寝ることが多い。別に知りたくなかったし、この先も役に立つ情報ではないだろうが、ともかく土方の横顔はひどく憔悴していて、「俺はこれが仕事だけど、お前は金払ってまでこんなことしなくちゃいけなくて大変だな」と、銀時はいつになく穏やかな気分で土方の頭を撫でた。
銀時の顔をちらりと見上げた土方が、「リップサービスは一回いくらだ?」と目の端に笑いを浮かべながら返すので、「夜勤手当五百円増しで相殺してやるよ」と、銀時もゆるく笑う。もちろん、冗談のつもりだった。
ふわあ、と大きく欠伸をした銀時に、「てめェももう寝ろ、俺も寝るから」と土方は言って、枕元の灯りのスイッチを捻る。真っ暗になった部屋の中で、銀時は手探りで布団を引き寄せると、土方を抱き込むように布団を被った。土方は何も言わなかった。
その夜も、夢は見なかった。



翌朝銀時が目を覚ますと、土方はもういなかった。枕元にはきちんと畳まれた寝間着が一組と、万札が一枚と三百円の塔がふたつ残っている。宿代は先払いなので、これはいつものタクシー代だろう。 
合計六百円の硬貨を指で崩して掻き混ぜた銀時は、「どこにしたんだよ」と呟いて、唇に手を当てた。土方の温もりはどこにも感じられなかった。


( ようやく入りました / 坂田銀時×土方十四郎 / 140803)