コール・オン・ミー_02

「だった、って何だよ」と、銀時が体を起こせば、「今のてめぇとは口論にもなんねえだろうが」と土方はなんでもない声で言って、「閨では別だけどな」と、続けた。重い、と途中で上着を脱いだ土方の背は良質な筋肉に覆われ、引き締まった腰を通って尻に続く。何度も触れて、触れるたびに幸せで仕方がなかった身体だ。ぼろり、と銀時がまた涙を零せば、「てめぇは泣きすぎだ」と、土方は苦笑して、咥え煙草のまま銀時の目元を擦る。「なんで笑う」と、銀時が搾り出すように訴えると、「さあな、これが最後だからかもな」と、歌うように土方は言い、銀時の髪から桜の花びらを一枚摘み上げた。「それも嘘、だよな?」と震える手で土方のベストを握った銀時に、「このままてめぇに話が通じねえなら、どの道長く保たねえだろ」と、土方はやはり優しい声で言う。
冷たい水を浴びせられたような感覚に、ざっと蒼白になった銀時は、「俺…おれ、何かしたか?何が悪いの?嫌なところがあんなら直すから、言ってくれよ、なあ」と、土方にすがりつくが、「そういうところが嫌いだ」と一言で切り捨てられて、ぐしゃりと顔を歪めた。「ひじかた、好き」と銀時が言えば、「知ってる」と土方が答えるので、「ひじかた…すき、すき、すき、すき、すきなのに、なんで」と、銀時はそこで言葉を止めた。この先を口に出してはいけない。けれども、「『なんでお前は俺のことすきになってくんねえの』?」と、押し込めたはずの続きが土方の口から聞こえて、銀時はぱかっと口を開いた。「間抜け面」と、やけに楽しそうな顔で銀時の舌をきゅっと引いた土方は、「言やあいいじゃねえか、なんで止めた」と、銀時の唾液で濡れた指を舐める。薄い唇から赤い舌がちらりと覗いて、こんな時だというのに銀時の胸はとくんと跳ねた。
あえぐような呼吸の中から、「だって、そんなの聞いても意味ねえだろ。お前のことが好きなのは俺の勝手なんだから、お前が俺のこと好きじゃなくたって文句は言えねえし」と、必死に紡いだ銀時へ、「本当にろくでもねえ気しかまわさねえな、このクソ天パ」と、土方は吐き捨てるように言って、「惚れた相手に惚れ返して欲しいってのは、当たり前の話だろ。なんで言えねえんだ」と、頭痛を堪えるようにこめかみを押さえる。「言えよ、文句でも何でも。それに俺がどう反応するかはまた別の話だがな、てめぇが言いたいことも言えねえような関係に、先はねえだろうが」と、噛んで含めるように続けた土方は、ベンチからスカーフを取って、銀時の頬をごしごし拭った。
「好きだから、で出来ることには限界があんだろ。そのうち音を上げんだろうと思ってたのに、てめぇはいつまでもにやついた顔でいやがって…本当はドMなんじゃねえのか」と、苛立った声で重ねられた銀時が、「なんで俺怒られてんの?」と、「て・め・え・が、鈍いからだろうが!」と、土方は憎憎しげに、銀時の濡れた頬をぎゅう、と力任せに抓る。「い、いたいいたいいたい、取れちゃう、肉取れっから!」と銀時が悲鳴を上げれば、「取れちまえ」と土方は無情に言い放って、ぱんっと銀時の両頬を叩いた。ひでえ、と先ほどまでとは別の涙を浮かべながら頬を擦った銀時に、「それで、どうする」と、土方が問いかけるので、「どう…?」と涙目のまま銀時が首を捻れば、「別れんのか、別れねえのか、どっちだ」と、土方はすっかり短くなった煙草をもみ消しながら言う。
「付き合ってたのか、俺たち」と、銀時が尋ねると、「…てめぇはどういうつもりだったんだ。週一で飲んでホテル入って、ときどきは家で飲んで、誕生日もクリスマスもバレンタインも一緒に過ごしたような相手を、てめぇはなんだと思ってる」と、土方は据わった目で返した。「こっ、恋人だと思ってます、付き合ってます」と、思わず姿勢を正した銀時に、「だったらそれでいいだろうが、ごちゃごちゃ御託並べんじゃねえよ」と、土方が毒吐くので、「なに怒ってんの、お前」と、銀時はもう一度問いかける。「よし、千切る」と、やけに爽やかな表情で銀時の頬へ手を伸ばす土方から、身をよじって逃げた銀時は、「だっ、だってなんかおかしいもん今日のお前!なんか、まるで俺のこと好きみたいに見えんだもん!」と、ビニールシートの端で叫んだ。
また怒鳴られる、と衝撃に備えていた銀時は、「気づくのが遅ぇ」と土方から面倒くさそうに返されて、ぽかん、と口を開く。「…えっ?」と、銀時がやっとのことで声を出せば、「最初に伝えただろうが、てめぇでいいって」と、土方があっさり言うので、「ちょっ、ちょっと待って、聞いてねえよ?!だって最初は俺が強姦したようなもんだし」と、銀時は這うように土方へ詰め寄った。少し考えてから、「あれが強姦なら、俺は今まで強姦しかしたことねえぞ」と、土方は言って、「いくら酔ってようが、尻にあんなもん突っ込まれたら誰だって目ェ覚めるわ」と、重ねる。「ご、合意だったの?だって、楽だからいいって、それしか言ってくんなかったじゃん」と、銀時が土方を咎めるような言葉を口にすれば、「てめぇが何か言ったのも半年後だったよなぁ?」と、土方は目を細めた。
「えっ、それってもしかして、もしかしなくても、俺お前とずっと両想いだった…?」と、銀時がおそるおそる尋ねると、「都合が良いだけの相手が欲しいなら、てめぇなんざ選ぶわけねえだろ」と、言いながら土方は新しい煙草に火を点ける。それは、その通りだった。土方は元来異性愛者だろうし、セックスの相手に困っているとも思えない。行きずりの相手として割り切るには、土方と銀時の関係が少し近すぎた。片手で目元を覆った銀時が、「これ、夢じゃねえよな」と呟けば、「今夜だけの夢にしてやってもいいぞ」と、土方は腕を伸ばして、銀時の襟首を掴む。「俺の答えがまだだったな。てめぇがいつまでも煮えきらねえ態度を取って、俺のためにてめぇを蔑ろにするんだったら、てめぇとは別れる。てめぇが俺を甘やかすのと同じくらい、俺もてめぇを甘やかしてぇんだってことを理解しろ。俺がお前に何もしなかったくらいで喜ぶな。俺とお前は対等だろうが」と、言い切った土方は、銀時の唇に吸い掛けの煙草を押し込んで、銀時を開放した。
気の抜けた缶ビールを煽り、「ちょっと寒ィな」と呟いた土方は、銀時の荷物を探り、大きな膝掛けを取り出して被ると、「てめぇも入るか」と、片側を持ち上げる。煙草の灰を落としてから、銀時がそっと土方の隣にもぐりこめば、土方は銀時を背中から抱きしめて、「てめぇは抱き応えがあっていい」と言った。力を抜いた銀時が身体を預けても、土方はびくともしなかった。春の風が桜の木を揺らし、花びらをはらはらと散らす。フィルターまで吸いきった煙草を咥えてぼうっとしていた銀時の手を、土方は柔らかく握り、「俺はそんなに難しいことを言ってるか」と、少しばかり困ったような声を出した。
土方の声の響きに、「なんでお前はそんなに落ち着いてんだよ」と、銀時がきゅっと眉を顰めれば、「何でも何も、てめぇが相手だからだ」と、土方はごく穏やかな声で言い、銀時の手を持ち上げてちゅ、と唇を落とす。「わっ、別れたいって奴の反応じゃねーぞ!」と、やけくそのように喚く銀時に、「誰が別れたいなんて言ったよ」と、呆れたように土方は返して、「てめぇがもっとわがままになりゃ、それでいいだけの話だろうが」と、銀時の肩に顎を置いた。「だ…だって、」と銀時が震える声で切り出すと、「だって、じゃねえ。『はい』か『いいえ』で答えろ。てめぇは俺と別れたいのか?」と、土方が言うので、「いいえ」と銀時は即答する。ん、と頷いた土方に、「だったら、これからは俺のことだけじゃなくて、てめぇのことも大事にできるな?」と重ねられた銀時は、「大事にって、具体的にどういう…」と言いかけたが、「返事は」と土方に促されて、「はい」と反射的に答えた。
よしよし、良くできたな、と犬を褒めるような手つきで髪を撫でられながら、「わがままって、どこまで言っていいわけ」と銀時が尋ねると、「とりあえず何でも言ってみろよ。叶うかどうかは別の話だがな」と、土方が返すので、「俺のどこが好きか教えて」と、銀時は言う。少し考えてから、「…雨の日にな、見廻りに出かけんだろ。傘差して歩けねえから車なんだが、そうするとたまに、腑抜けた面の白髪頭がビニール傘でぷらっぷら歩いてるわけだ。仕事もねえなら家でおとなしくしてろや、って見てるとな、そのうちそいつも俺に気づいて、その瞬間光が差すみてえに笑うんだよ。たかが俺の、公務中でにこりともしねえ面を見て。そういうところが好きだ」と、土方が紡いだ言葉に、銀時はぶわっと耳まで赤くなった。
ずるり、と土方の胸まで滑り落ちながら、「お、お前急にデレんのやめて…溢れちゃう、銀さんもう土方供給過多で死んじゃう」と、銀時が喘げば、「今までもツンデレを目指してたんだがな」と、なんでもない顔で土方は言う。「嘘ぉ?!デレねーよ、ツンドラだったよ!」と、思わず振り返った銀時に、少し遊びすぎたか、と不穏なことを呟いてから、「金払いは良かったろ」と、土方が言うので、「それ最底辺の口説き方だからな?!よそでやんなよもう!!」と、銀時は勢い任せに正面から土方に抱きついた。
「やるかよ、てめぇがいんのに」と、膝掛けで銀時の肩を覆いながら返す土方はひどく楽しそうで、銀時は悔しい思いをする。土方の膝に乗り上げつつ、「ひじかた、今日の弁当美味かった?」と、銀時が尋ねれば、「焼き魚が醤油味で美味かった。花見寿司も風流でいいな。あと、てめぇの煮物は好きだ。でもな、こんなに詰めなくていい。握り飯と漬物のひとつもありゃあ、あとはてめぇの顔ひとつで充分だ」と、土方はさらりと並べた。好き、という言葉にじんわり頬を染めつつ、「それさあ、もうちょっと早く言ってくれても良かったんじゃない?俺半年間も…なんか…ひとりでさあ、泣いてたわけでさ」と、銀時が恨み言を紡ぐと、「てめぇの泣き顔はわりとそそる」と、土方は熱を持った銀時の目元に、そっと唇を当てる。
「そっ、そういう問題じゃねえだろ!」と、柔らかい唇の感触で一瞬誤魔化されそうになった銀時が声をあげれば、「ならどうしろって?」と、面倒くさそうに土方が問い返すので、「お前も泣けよ」と、銀時は言った。怒られるだろうか、とドキドキする銀時の前で、土方は面白そうに目を細めて、「泣かせてみろよ」と、銀時の目を見つめる。ここでいいんですか、と聞きたかった銀時だが、野暮なことを言うとまた殴られるな、と判断して、土方の顎を押さえて唇を合わせようとした… 瞬間、ぽたり、と銀時の鼻先に水滴が落ちた。んっ?と思う間もなく、「振ってきた」と、土方は銀時を押しのけて立ち上がる。銀時の荷物を引っ掻き回して、「傘はねえのか」と舌打ちした土方は、手早く重箱を包むと、「おい、てめぇも呆けてねえでさっさとシート畳め」と、銀時を促した。
「ああ…うん」と、がりがり頭をかいて起き上がった銀時が、「わかってたけどね、どうせこんなことだろうと思ってたから、悲しくないけどね」とぶつぶつ呟いていれば、「早くしろよ、帰ったら存分に鳴いてやるから」と、土方は銀時の背中を軽く叩く。えっ、と声を上げた銀時が、「今字が違わなかったか?」と首を捻ると、「どっちでも似たようなもんだろ」と、土方はにやりと笑った。
「お前、それも嘘だったら今度こそ物理的に泣かせてやるからな」と、頬を染めた銀時に、「だから、できるもんならやってみろ」と土方はなんでもない声で言い、「おら、行くぞ。濡れねずみはごめんだろ」と、ブーツを履きかけた銀時の尻を蹴飛ばす。重箱を提げて走り出す土方に、「ちょっと待って、置いてかないで!」と情けない声を上げた銀時は、少しずつ強くなる雨に濡れながら、真夜中のかぶき町へと踏み出した。桜はもう、振り返らなかった。

▽ ▽ ▽

平均以上の体躯をした男ふたりが全力で走ったところで、叩きつけるような豪雨から逃れることは出来ず、万事屋の看板が見える頃には銀時の着流しも土方の隊服もぐっしょり水を含んで、肌にまとわりついている。このまま中に入っても良いことは何もないので、銀時と土方は庇の下で上着を脱いで絞った。すっかり重くなったブーツを脱いでひっくり返しながら、ちらりと土方に目を向けた銀時は、「水も滴るいい男ってやつだな」と、呟いて見るが、ベストまで脱いでシャツ一枚になった土方は、「馬鹿言ってねえで早く開けろ」と、相変わらず冷たい。
アレ、戻っちまった?と少しばかり不安になりながら、玩具のような鍵を開けた銀時が、「風呂立てんのは時間がかかるし、シャワーでいいか?お前がこの前置いてったパンツも洗ってあるし、」と、土方を振り返れば、その瞬間土方は銀時の足を払って、銀時を玄関先に押し倒す。とっさに受身も取れなかった銀時だが、一緒に倒れこんだ土方が頭と腰を支えてくれたお陰で、大事には至らなかった。「いっ、てえよ土方」と、それでも泣き言を漏らす銀時に、「少し黙ってろ」と土方は返して、そのまま銀時の唇を唇で塞ぐ。雨に濡れた土方の唇は一瞬冷たく、けれども即座に滑り込んできた舌は圧倒的に熱い。
ぬるり、と銀時の歯列を舐めた土方の舌は、ゆっくり銀時の口腔へと侵入し、頬の内側を丹念になぞってから、銀時の舌に触れた。ごく、と喉を鳴らした銀時だったが、その時点で飲みきれなかった唾液は唇の端から溢れ、耳の後ろを伝って雨水とともに床を濡らす。それでも、銀時には後始末について考える余裕はなく、夢中で土方の舌を受け止めながら、何度も角度を変えて口付けを繰り返した。
ずいぶん長い時間が経ち、もう限界だ、と銀時がくらくらする頭で土方のシャツを引けば、土方はようやく顔を上げて、銀時の頬を撫でる。優しい指に、銀時が目を細めると、土方も目元だけで微笑む。それから、土方は銀時の頬に当てた手を首から胸へと滑らせ、銀時のインナーに指を掛けた。軽い音を立てて肌蹴られたジッパー付のインナーを、銀時がもどかしく身を捩って腕から落とすと、土方は宥めるように銀時の肩へと唇を落とし、繊細とは言いがたい指先で、それでも羽のように優しく乳首を摘む。敏感な先端をきゅっと捻られて、銀時が思わず「あっ」と声を漏らせば、「相変わらずだな」と土方は舌なめずりして、もう片方の乳首にむしゃぶりついた。
ほとんどふくらみのない胸を無理に寄せ集め、色素の薄い先端にふっと息を掛けられた銀時は、それだけでぴんと乳首を尖らせてしまい、ひどく赤面する。冷えた身体を這い回る土方の指は熱く、わざとらしい水音を立てる土方の舌は、銀時の乳首を丁寧にしゃぶりつくして、じわじわと性感を高めていった。ちゅっ、と最後に盛大なリップ音を残して、銀時の胸を開放した土方は、硬くしこった乳首を爪先で弾くと、「てめぇはここだけでイけんじゃねえのか」と、挑発的な顔で笑う。はっ、はっ、と荒くなった呼吸を整えながら、「もっ、いい加減、お前も脱げよ」と、銀時が力の入らない目で見上げると、土方は首元のボタンをふたつ外して、びしょ濡れのシャツを頭から脱ぎ捨てた。あらわになった土方の裸体に、銀時が唾を飲めば、「どうしたい?」と、土方は銀時にまたがったまま問いかける。
「触りたい」と即答した銀時は、床に落ちていた腕を上げて、土方の引き締まった腰を掴んだ。「触るだけか?」と重ねた土方に、「触って、しゃぶって、絡めて、吸って、飲んで、舐めて、入れて、抉って、出したい」と、銀時が欲望のまま羅列すれば、「じゃあしゃぶれ」と、土方はがちゃりとベルトのバックルを外し、ボトムのジッパーを下げて大きく寛げる。布越しでもわかるふくらみに、じわりと唾液を溢れさせた銀時は、土方の腰をぐっと引き寄せて、軽く口を開いた。無造作に押し付けられた土方の股間を、まずは布ごと食む。水を吸った黒いボクサーパンツの感触は不快だったが、その奥に息づく土方のペニスを思えば、銀時に否やはない。
しばらくそうして質量を確かめてから、銀時はおもむろにボクサーパンツのウエストを咥え、一気に引き下げる。勢いよく飛び出した土方のペニスに鼻先を当てて、銀時が思い切りその匂いを吸い込めば、「犬みてぇ」と、土方は銀時の眉間を軽く押した。わん、とでも鳴いてやろうかと思った銀時だったが、しかし鳴くのも泣くのも土方のほうだと思い直して、目の前のペニスを咥える。角度がついているので、先端ではなく竿の中ほどを口に入れた銀時は、あくまで唇と舌だけを使って土方のペニスを攻めた。
はむはむ、と唇で竿を伝い、やがて先端までたどりついた銀時は、大きく口を開けて土方の亀頭を咥え込むと、そのまま思い切りペニスを吸い込む。規格外というわけでもないが、それなりに大きなペニスは、銀時の喉を隙間なく埋め、銀時はみっちりとした肉の感触でえづきそうになったが、吐き出すつもりはない。んっ、んむ、と銀時が精一杯喉を動かせば、土方は薄く笑って、「頑張るじゃねえか」と、銀時の髪に指を絡めた。褒められた、と銀時が思う間もなく、「でも弱ぇな」と続けた土方は、銀時の頭をつかみ、銀時の喉奥へと、さらに深くペニスを突き立てる。「んぐっ」と目を見開いて喉を鳴らした銀時には構わず、土方はギリギリまでペニスを引き出し、銀時の息継ぎを待たずにまた腰を突き出した。
ごりごり喉を擦られる感触に、銀時がぼろりと生理的な涙を流せば、「やっぱり、てめぇは泣き顔が一番興奮する」と土方は言って、銀時の喉を思う存分蹂躙してから、びゅるびゅると銀時の咥内で射精する。ずるり、と土方のペニスが引き抜かれてから、げほげほと咳き込みながら精液交じりの唾液を零した銀時に、「飲みたかったんだろ?吐くなよ」と、ごく優しい口調で土方は告げ、銀時の口に指を入れる。銀時の咥内をぐちゃぐちゃかき混ぜた土方が、「これはこれでセックスみてぇなもんだが、次はどうする」と尋ねるので、銀時は土方の指を咥えたまま、「お前に入れたい」と不明瞭な発音で答えた。張り詰めた銀時の股間は、濡れたボトムに堰きとめられて痛いほどである。
すう、と目を細めた土方は、銀時に圧し掛かったまま器用にボトムを片足から引き抜き、銀時の唾液で濡れたペニスを持ち上げて、銀時にその奥を晒した。淡く色づいた土方のアナルはきゅっと締まって、とても銀時のペニスが収まるとは思えない。コンドームもローションもない挿入は初めてで、銀時は少しばかり怖気づくが、今それを言い出したら二度と土方には触れられない気がした。土方の腰を掴んでいた右手を放した銀時は、じわりと溢れた唾液と、飲み切れなかった土方の精液とをたっぷり指に絡めて、土方のアナルにたっぷり塗り付ける。すぐに乾いてしまいそうだったので、いつもよりずっと性急に中指を押し込めれば、土方のアナルは銀時を拒むように蠕動した。弾力のある土方の腸内を探りながら、「なあ、後ろ向いてくんねえ?」と銀時が言うと、土方は黙って銀時の胸に手をつき、銀時の指を収めたまま、ぐるりと反転して銀時に背を向ける。「で、四つん這いになって尻だけ上げて欲しい」と、銀時が重ねれば、「注文が多いなてめぇは」と面倒くさそうな声を出してから、土方はぺたりと銀時の股間に顎を乗せた。
角度が変わったことで、視界いっぱいに広がった土方の尻をひとしきり撫で回した銀時は、先に入っていた右中指に左手の親指を添えて、少しばかり強引に土方のアナルを抉じ開ける。反発するような土方のアナルを宥めるように、銀時がゆっくり肉壁を割り開けば、土方は不意に銀時の股間を握って、ガチャガチャとベルトを外し、力任せにトランクスを引き下ろした。締め付けから開放された銀時のペニスを上から下まで撫でた土方は、ぎゅうっと根元を握ったまま、柔らかい亀頭に軽く歯を立てる。直接的な刺激に、銀時が思わず手を止めると、「どうした、早く挿入れたいんじゃないのか」と、土方は飄々とした口調で言葉を紡ぎ、尖らせた舌先で銀時の尿道口をぐりぐり捏ね回した。
はあ、とそれだけで腰が砕けそうになった銀時だったが、なんとか堪えて、さらに追加した右手の人差し指で、土方の前立腺を探る。いつもは土方が探してくれるので、銀時はペニスで擦ることしかないのだが、それでも間を開けずに見つけたしこりを銀時が軽く押せば、土方は銀時のペニスを握る手に力を込めた。「そっ、れは反則だろ!」と、銀時が前立腺を捏ね回しながら膝を立てると、「てめぇこそ、そこばっか弄るんじゃ、ねえ」と土方は言って、意趣返しのように銀時のペニスを咥え込む。じゅっ、じゅぷっ、と唇を窄めて吸い上げられる感覚に、腰が浮きそうになった銀時は、なりふり構っていられずにひじかたのアナルへと舌を伸ばした。ぴんと張ったアナルの縁にぬるぬると唾液を塗りつけ、指を足して、騙し騙し何とか奥までの道を付けた銀時が、「もう入るから、それ離して」と、ひじかたの太ももに手を掛ければ、土方は舌打ち混じりに体を起こして、「もうちょっとだったのに」と、唾液とカウパーで唇を濡らしながら振り返る。
「もっ、限界だから入れさせてください」と、指を引き抜いた銀時が懇願すると、土方は膝立ちのまま銀時の下半身まで進んで、そこだけ硬く反り返った銀時のペニスを尻たぶで咥えた。後ろ手にペニスの位置を確認しながら、そろそろと腰を下ろす土方のアナルは、銀時の亀頭がめり込む瞬間に薔薇色の襞を覘かせて、けれどもすぐに見えなくなる。土方が一番太いカリ首まで飲み込んだところで、暖かくて柔らかい土方の腸壁に我慢できなくなった銀時は、がばりと身体を起こして、背後から一息に土方を貫いた。
「うあっ、」と熱い息を吐いた土方が、耐え切れない様子で床に手を着くので、銀時は土方の両腕を掴んでまとめ、腰だけを高く引き上げた形で固定する。肩と頬で身体を支えることになった土方は、「てっめぇ、痕になったら殴るからな…!」と、苦しそうな表情で銀時を睨んだが、「あとでいくらでもやらせてやるから、今は集中しろよ」と、銀時は言うと、土方の腕を手綱代わりに、土方のアナルへばちゅんと腰を打ち付けた。傾斜が付いたことで、土方のアナルはいつにも増してよく絞まり、銀時は浮かれながら、「やっぱ、気持ちが通じ合ったセックスって気持ちいいな」と、身体を屈めて土方の肩甲骨を噛む。
とたんにびくりと身体を振るわせた土方は、湿ったボトムと下着を片足に纏わり付かせ、濡れ髪を埃くさい廊下に押し付けて、いつになく荒い息を吐いた。しばらくは唇を噛んで耐えていた土方だったが、銀時が戯れのように腸壁の奥の曲がった部分を突付き、その余韻が消えないうちに半分ほどペニスを引き抜いて前立腺を刺激する、という動作を繰り返してやれば、やがて吐く息に甘い色が混ざり始め、果ては喉からひどく高い声が飛び出す。「あっ、うあ、っあ、あんっ、んっ、ん、んんっ、んぐっ、うっ、ふあっ、あっあああっ、あぁんっ」と、とうとう抑えることも出来なくなった土方の嬌声を聞いて、「すげえな、ちゃんと鳴けんじゃん」と、屈みこんだ銀時が土方の唇に触れれば、土方はぎりっと銀時の指を噛んで、目だけで不遜に笑って見せた。「痛ェよ」と、薄く笑い返した銀時は、指を抜くのではなく、押し込むことで土方の口を抉じ開けると、引き抜いた手で土方の肩を押さえつけて、さらに律動を早める。がくがく揺さぶられながら、途切れ途切れの喘ぎ声で鳴く土方に、「中で出していいよな?」と銀時が囁くと、「はっ、やくしやがれ、この遅漏」と、苦しい息の合間から土方は毒吐いた。
へえ、と目を細めた銀時は、土方の腕を開放すると、かわりに張り詰めた土方のペニスを握って、先端に指をめり込ませる。「あ、あうっ、」と呻いた土方に、「じゃ、俺がイくまで土方もお預けね。それがフェアってもんだろ」と、銀時は告げて、土方の尿道口を思う存分拡げながら、大きく腰をグラインドさせた。とはいえ、そう長くは持たないこともわかっていたので、銀時は最後にぎゅっと土方のペニスを握り締めると、暖かな土方の腸内にびゅくびゅくと精液を吐き出す。なにも堰き止めるものがない精液は、土方の奥の奥まで届くのだという気がして、銀時はひどく幸せな気分だった。そのまま、土方のペニスを握り締めていた手を何度か上下させるだけで、土方も二度目の頂点に達する。ぱたたた、と勢い良く溢れた精液が床を濡らす音がした。
ぐったりと力の抜けた土方の身体を抱き起こし、そっとペニスを引き抜けば、赤く腫れた結合部からごぷりと精液が溢れるので、銀時は慌ててびしょ濡れの着流しを引き寄せる。はっ、あはっ、はあっ、となかなか呼吸が整わない土方に、「大丈夫か?」と銀時がそっと声を掛けると、「大丈夫に見えるか?」と、目元を赤らめた土方は、銀時に背を預けて目を閉じた。「疲れたよな、もう寝る?」と、銀時が腫れ物に触るような手つきで土方を支えれば、「こんな格好で寝られるか、ばか。てめえが出したんだから、てめぇが始末しろ」と、土方は緩慢な動きで足を開き、片手で無造作にアナルを広げる。
中に残った精液がまた零れそうになるのを見て取った銀時は、「うわああああ悪い、謝るから、いますぐ風呂入れるからちょっと待ってて!」と、ひとしきり騒ぐと、土方の足に絡まっていたボトムを脱がせて、土方を抱え上げた。「服も洗っとけよ、明日着て帰るんだから」と、銀時の首に腕を掛けながら土方が尊大に言い放つので、「わかりました、朝までに乾かなかったら角のランドリーで乾燥機に掛けてきます」と、銀時は神妙な顔で頷く。「朝飯」と言い募った土方に、「もうなんでもするから、全部言って」と、銀時が土方の首に擦り寄ると、「あと、寝る前にてめぇの弁当は全部食う」と、土方は薄く笑った。
「美味いもんは美味いうちに食うのが鉄則だからな」と、さらりと続けた土方は、「うわあああんひじかたァ!」と、感極まって土方を抱きしめた銀時の顔を鬱陶しそうに押し返し、「いいから早く風呂に入れろ、寒い」と、言いながら銀時の頬をきゅっと抓る。「締まりのねえ顔しやがって」と、言った土方の顔が、それはそれで楽しそうだったので、銀時ももう言い返しはしなかった。

▽ ▽ ▽

翌朝、銀時が目を覚ますと、万事屋には味噌汁の匂いが漂っていた。がばりと身体を起こした銀時は、慌てて辺りを見回してみるが、隣にいたはずの土方の姿はどこにもない。まさか新八が来て土方と鉢合わせなんて恐ろしいことには、と若干冷や汗をかきながら襖を開けた銀時は、「おう、起きたか」と、銀時の着流しを羽織る土方に迎えられて、ぱちりと瞬く。「目が腫れてるな」と薄く笑った土方に、「泣いたから」と銀時が返すと、「顔洗って、しゃっきりしろよ。飯はできてる」と、土方は広げていた新聞をがさりと畳んだ。
銀時が素直に台所へ向かえば、当たり前のように土方も後へ続いて、味噌汁の鍋を火にかける。「…なにそれ」とびしょ濡れの顔で銀時が呟くと、「ワカメとタマネギの味噌汁。タマネギが使いかけだったから、貰ったぞ」と、土方は言った。「お前が?作ったの?」と、現実についていけない銀時が尋ねると、「味は期待すんなよ」と土方は返して、「いいから早く顔を拭け。床が濡れんだろうが」と、銀時の顔へタオルを投げつける。「にしても、本当に何もねえな」と、冷蔵庫の中を吟味した土方は、「昨日の弁当はなんだったんだ」と、言いながら卵をふたつ取り出した。ふと目を留めた玄関の向こうでは、まだ篠付く雨が降り続いているらしい。
炊き立てのご飯に卵を付けて、ワカメとタマネギの味噌汁と漬物を添えれば、万事屋としては充分立派な朝ご飯である。土方が作ってくれたものなら、なおさらだった。これ夢じゃねえよな、と呟いた銀時の頬を無造作に抓り、「痛いか?」と土方が言うので、「いひゃいです」と銀時が返せば、「馬鹿言ってねえでさっさと食っちまえ」と、土方はどこからともなく取り出したマヨネーズをにゅるにゅる味噌汁へと搾り出す。「…俺も、ちょっと貰っていい?」と言った銀時に、「はっ?」と土方が本当に驚いた顔をするので、「卵かけご飯に、鰹節とマヨネーズ足して食うと美味い」と、銀時はテーブルの下から丸い海苔の缶を取って、鰹節の小分けパックを出した。
鰹節を半分ほど茶碗に振りかけてから、「お前もやる?」と銀時が尋ねれば、土方は無言で茶碗を差し出す。ご飯にマヨネーズがかかっているのか、マヨネーズにご飯が浸かっているのかわからない有様だが、いまさらそんなことを気にする間柄でもない。残りの鰹節を空けてやった銀時が、「これ生卵でも美味いけどよ、柔らかい半熟にしたゆで卵の白身だけ刻んでやると、さらに美味いんだよな」と、土方のマヨネーズを恭しく受け取りながら言うと、「次の朝飯はそれな」と、土方は真顔で返した。
銀時の味付けより少し濃い味噌汁と、少し固めのご飯を噛みながら、「なんか、俺いま死んでもいい」と銀時が言えば、「いま死んだら腹上死を捏造してやるから覚悟しろよ」と、キャベツの糠漬けに箸を伸ばしながら土方は言う。「それって困るのはお前じゃね?」と、軽く笑った銀時に、「てめぇはそれが一番堪えるだろうが」と、なんでもない顔で土方は答えて、「俺が困るなら、てめぇは死なねえだろ」と、重ねた。「…それってどういう意味」と、箸を咥えた銀時の隣で、「てめぇは死んだあとも俺を困らせたくねえ程度に俺を愛してるってことだな。まあ俺もだが」と、しれっとした顔の土方が言うので、銀時は思わず机に突っ伏す。「二度寝は食ってからにしろよ」と、土方に肩を揺すられながら、「ごめん土方、デレてほしいとか言ってごめん、このままだと心臓もたねぇから、ツンだけの土方に戻って、贅沢言ってほんと悪かったよ」と、銀時が呟けば、「面倒くせえなてめぇは」と土方は喉の奥で笑って、「仕方ねえから小出しにしてやる」と、銀時の頭を柔らかく撫でた。指先から、愛しさが染み込むようだった。
屋根を叩く雨の音を聞きながら、「飯食ったら隊服乾かしてくるわ。寝坊して悪かった」と、銀時が眉を下げて切り出すと、「ばか、こんな雨の中出かける必要はねえだろ」と、土方は返して、銀時の方に頭を乗せる。「え?でもお前仕事…」と、言いかけた銀時の唇を抓み、「このところ総悟の尻拭いで残業続きだったからな、近藤さんに頼んで奴の非番をもぎ取ってきた」と、土方が笑うので、「だ…っから、そういうのはもっと早く言えよ!」と銀時は土方の手をぎゅっと握った。土方と手を繋いだまま、「いいのかよ、沖田くん。帰ったら仕返しされんじゃねえの」と銀時が言うと、「いいんだよ、いつものことなんだから。俺だって、たまにはてめぇと一日過ごしてぇんだ」と、土方は上機嫌で銀時の膝に寝転がる。
「二度寝は食ってからだろ」と、銀時が土方の茶碗の底にちょっぴり残ったおかか卵かけマヨネーズご飯を示すと、土方は無言でぱかっと口を開いた。たっぷり十秒見つめ合ってから、「食わせろって?」と銀時が尋ねれば、「は・や・く・し・ろ」と、土方は不機嫌そうに銀時の腕を叩く。「俺は楽しいからいいけどさあ、お前これ楽しい?」と、言いながら、あーん、と銀時が土方の口へ飯を運んでやれば、土方はそれを二十五回咀嚼してごくんと飲み込み、「ごちそうさまでした」と、銀時の膝の上で手を合わせた。そのまま具合良く丸まり込む土方の髪を撫でながら、銀時もゆっくり食事を終え、薄い茶を啜る。
しばらくしたら恒道館へ電話をして、今日は万事屋も休業だとあのふたりに伝えよう。たっぷり二度寝をした後、土方が嫌がらなかったら一緒に買い物へ行きたい。熱心にせがめば、一本の傘で出かけることも許されるかもしれない。濡れて帰ったら風呂に浸かって、ふたりで昼食を取って、何もない一日を目一杯楽しんでから、次の約束をしよう。桜は半分散ってしまうかもしれないが、週末のお花見も少しはふたりで楽しめるといい。
ふへ、と笑み崩れた銀時の顔を片目で見上げて、「何ひとりで笑ってんだ」と土方が言うので、「違ェよ、お前とふたりだから笑ってんの」と、銀時はがばっと土方に圧し掛かる。「…そういう軽口が叩けんなら、もう平気だな」と、独り言のように呟いた土方は、「寝るなら布団だ、そんでその前にこれ洗うぞ」と、銀時の寝間着を引っ張った。はぁい、と素直に土方から離れようとした銀時は、「で、布団でもう一戦な、銀時」と続いた土方の声に、ぴしっと動きを止める。「ひっ、ひじかた、今なんて?」と、問いかける銀時を押し退け、皿を重ねた土方は、「さあな、一度しか言わねえよ」と、素っ気なく返して、台所へ歩いて行ってしまった。その、土方の耳がうっすら赤いのを見て取って、銀時も真っ赤になった顔を両手で覆う。また泣いてしまいそうだった。でもきっと、それで良かった。


( 「クラップ・ユア・ハンズ」のふたりで花見をするはなし / 完結 /坂田銀時×土方十四郎/ 140401)