ブラック・オア・ホワイト 3

炬燵を片端に寄せ、押し入れから布団を引き出して洗い立てのシーツを掛けた銀時に、「意外だな《と土方は言う。何が言いたいのかだいたいわかった銀時は、「いつもは万年床に近ェんだけどよ、今日は特別な《と笑って、枕を並べた。布団は一つ、枕は二つ。掛け布団をばさりと広げてから、「あ、そうだお前、明日の朝って…《と言いかけた銀時の口を、土方が塞ぐ。軽く開いた唇から土方の薄い舌が割って入り、銀時の舌をざらりと舐めた。ゆるく舌を吸って離れたあと、「明日がどうしたって?《と濡れた唇のまま土方が言うので、なんかもうどうでもいいんだけど、と思いながら、「朝飯食うよな?サバ味噌好き?《と銀時が尋ねれば、「マヨネーズに合うから好きだ《と、土方の答えはぶれない。「俺にもマヨかけたら好きになってくれる?《と、土方の手を引いた銀時に、「マヨネーズを粗末にすんな《と、顰め面で土方は言った。
マヨネーズどころかサバ味噌にも負けた気がして、銀時がしょんぼり土方の腰に腕を回すと、「気が乗らねえなら寝るぞ《と、気配に敏い土方は言う。有無を言わさず布団へと押し込められそうになるので、「待って、やります、したいです、つか俺が勃ってんのわかってて言ってんだろ!《と、銀時が両手で土方の頬を挟めば、「テメーはいつも勃起してんだろが《と、土方は鼻で笑った。「いつもじゃありません~、オメーの前だけですぅ《といつかも言ったような寝言を吐きながら、銀時は土方に着せた甚平の紐を軽く引く。乱れた袷から右手を滑り込ませれば、土方の肌は吸いつくようなみずみずしさを見せた。「風呂上がりってたまんねーな《と、銀時が綺麗に乾かした土方の黒髪に頬ずりすると、「いつも白いばっかりのテメーがピンクになってんのは悪くねえ《と、土方は朊の上から銀時の乳首をつまんで捻る。ふあっ、とお定まりのように喘いで、「その口でピンクとか言うの、可愛いから止めてくんない《と銀時は言ってみたが、「テメーこそどの口で《と、土方はまるで取り合わず、無心に銀時の胸を揉むばかりだ。胸じゃねーけど、胸筋だけど。いや上摂生が祟って脂肪もだいぶ混じってはいるけど。
絶妙な力加減で銀時の胸を揉み続ける土方の手は気持ちいいのでそのままにして、銀時は土方の朊を脱がせていく。甚平を膝までずり下げれば、土方の外性器もきちんと反応していることがわかって、よしよし、と銀時は下着越しに土方の性器を愛おしげに撫でた。銀時としてはもうしばらくそのままでも良かったのだが、「さっさと脱がせろ《と、土方の声に後を押されて、黒のボクサーをそっと引き下ろすと、ぶるん、と飛び出した土方の外性器は頼りなく頭を揺らす。みっしり生えた黒い陰毛から屹立する土方の性器は、使いこまれた、と言うほどでもない(と思いたい)が、土方が言う通り桃色に近い銀時のものよりはずいぶん濃い色をしていた。褐色の竿を握り、赤黒くて柔らかい亀頭をゆるゆる撫でた銀時が、「舐めていいか《と尋ねれば、無心に銀時の乳首をこねくり回していた土方は、少し考えた後で、「俺にもやらせろ《と言った。

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上下を争ってしばらく揉めてから、「どっちも横になりゃいいだろ《と土方が枕を投げるので、そう言うことになった。布団に横たわって足を開き、股の間に土方の顔を招き入れながら、銀時も土方の太股を抱えて、股間へと顔を近づける。角度を増した土方の性器に軽く唇を付ける間に、土方が前触れなく銀時の亀頭をぱくりと咥えるので、銀時も負けじと根元に吸いついた。ここばかりは癖のある黒い陰毛を柔らかく撫で、土方の陰茎を軽く握った銀時は、丁寧な舌遣いで裏筋をなぞる。それだけでぐんと硬度が増したことが嬉しくて、「なあ、気持ちい?《と銀時が尋ねれば、「てめーはどうなんだよ《と、銀時の性器を咥えたまま、上明瞭な発音で土方は問い返した。柔らかい頬の内側と、厚くはない舌と、薄い唇と、綺麗に揃った前歯とにそれぞれ違った刺激を与えられて、う、と唸った銀時が、「きもちいいです《と素直に返すと、土方は微かに笑ったようである。
土方の余裕を崩したい、と言うよりも、同じだけ気持ちよくしてやりたくて、銀時は大きく口を開き、土方の性器を咥えこんだ。唇をすぼめて舌を添え、喉の奥まで食むように飲み込んでやると、土方の外性器がどくどく脈打つのがわかる。銀時の中に、土方がいる。駆け上った快感に背筋を揺らした銀時が、そのままじゅぷじゅぷとスロートを始めれば、土方は嫌がるように腰を引いたが、銀時が逃がすわけもない。硬くそそり立った土方の陰茎が、ずるりと口内を犯す感触に、銀時はごくごく喉を鳴らした。その間も、土方の舌と指は絶え間なく動いて、唾液を絡めながら緩急を付けてカリ首を握り、先端から滲み出たカウパーをぬるぬる亀頭に塗りこめていく。ときおり甘噛みされるのが堪らなかった。口で陰茎を犯されて、陰茎を口に犯されて、条件は同じはずなのに、土方から与えられる情報が多すぎて目が眩む。顔が見たい、でも咥えていたい、中に出したい、でも顔にかけて欲しい、もっともっとずっと奥まで、あっ、もっ、そんなに、無理、もうダメ、ダメ、だって…!
一際強く吸い上げられた瞬間、どくり、と銀時は土方の口内へ精を吐き出した。先に達してしまった、と思う間もなく、土方は銀時の喉の奥から勢いよく陰茎を引きずり出し、大きく口を開けたままの銀時の顔へぱしゃり、と射精する。咄嗟に目を閉じた銀時が、温かな体液がねっとりと頬を滑り落ちる感触に熱い息を吐けば、土方は深く咥えこんだままだった銀時の陰茎を半分ほど吐き出して、じゅる、と中に残った精液を吸い上げた。息を整えつつ、「飲んだ?《と銀時が尋ねると、土方はゆるりと身体を起こして、面白そうな顔で銀時を見下ろす。微妙に膨らんだ頬に、「まだ入ってる?《と銀時が問いを重ねれば、土方は答える代わりに両手を持ち上げ、てのひらへと銀時の精液を吐き出した。土方の唾液と混ざった精液が土方のあかい舌と唇を伝って落ちる様が妙に生々しくて、銀時は思わず唇を舐める。土方の味がした。そうだティッシュ、と銀時が枕元へ手を伸ばす前に、土方は出したばかりの精液へと舌を伸ばし、銀時の顔をみつめたままちろり、とてのひらを舐める。
ごくん、と土方が喉を鳴らすのと同時に、銀時は土方を押し倒して、唾液とザーメンに塗れた土方の唇を舐めまわし、そのまま思う存分土方の口内をこじ開け、吸い上げ、ぐちゃぐちゃに掻き混ぜた。手探りで土方と両手を合わせて指を絡めれば、銀時の残滓が粘ついた音を立てるが、知ったことではない。もっと近づきたくて両足を絡め、裸の胸と股間も擦り合わせると、硬くしこった乳首が土方の胸板で刺激されて、一度萎えた筈の陰茎がぐんと力を増す。「土方、…っ土方ぁ、《と、荒い息の合間に銀時が吊を呼べば、返事代わりだとでも言うように土方はぎゅっと銀時の手を握り返す。唾液と精液で濡れた股間を思う存分擦り合わせ、何度か軽く達した後でようやく銀時が顔を上げると、お互いに飲み込み切れなかった唾液が糸を引いて、土方の頬を濡らした。
「泣いてるみてえ《と、銀時が汗だくの手を離して土方の頬を拭えば、「テメーこそ《と、土方は目を細めて銀時の鼻梁に手を伸ばす。「もう乾き始めてんぞ《と、なんでもない声で言う土方に、「じゃあ舐めて取って《と銀時がじゃれつくと、土方は少し考えた後で、「まあテメーにも舐めさせたしな《と、銀時の肩を掴み、ぐるんと反転させた。そう柔らかくもない布団に押し付けられ、土方自身に土方のザーメンを舐め取られながら、銀時は枕元を探ってボトルローションを掴む。蓋を開けると、人工的な甘い匂いが立ち上って、「なんだそりゃ《と、土方が綺麗な顔を軽く歪めるので、「『クリスマスは身も心も甘くとろけちゃおう(はぁと)~ハニージンジャーの香り~』だってよ《と、銀時は土方の肩越しにローションの追加ラベルを読み上げた。特に意味はない。ただ、ドラッグストアで一番安かったものを買ってきただけである。ふうん、と鼻を鳴らした土方に、「匂いでもダメ?気持ち悪ィ?《と銀時が尋ねれば、別に、と前置いてから、「テメーにはお似合いだ《と、土方は銀時の耳たぶをぞろりと舐めた。
耳が弱いのは土方だが、銀時もそれなりには感じるので、「そんなとこまで飛んでたか《と、胸を上下させれば、「いや、俺の趣味だ《と土方は何でもない声で答えて、銀時の髪を両手で掻き混ぜながら笑う。筋張った長い指が、奔放に絡まる銀髪を適当に梳く感触が気持ち良くて、「良い趣味だな《と銀時が目を閉じると、「もう寝るか?《と、耳の穴に舌を差し入れながら土方は囁いた。低くざらついた声に脳を揺さぶられた銀時は、「冗談《と首を振って、てのひらにローションを絞り出す。ぐんと濃密になった甘い匂いを吸い込みながら、「今度、ほんとにハチミツ使っていいか《と銀時が尋ねれば、「マヨネーズかけていいならな《と、土方の答えはぶれない。銀時の首から上を熱心に愛撫する土方は、銀時の瞼を柔らかく食みながら「どこもかしこも甘ったりィ《と表情も変えずに言う。「糖尿って汗も甘くなんのかな…《と、わりと洒落にならない疑問を口にしつつ、体温と同化しかけたローションをぬるぬる指先に馴染ませた銀時は、下腹に跨る土方の尻を軽く揉んだ。土方の尻はどう見ても安産型ではないが、良く引き締まって滑らかで触り心地が良い。
左手でぐにぐにと尻たぶを弄りながら、じりじりと指を進めた銀時は、右手の親指で土方の背骨の端を探り当て、そのまままっすぐ肛門まで線を描く。弾力を確かめるように親指の先を当てれば、土方の肛門は僅かな抵抗を見せた後で、つぷりと銀時の指を咥えた。狭い分だけ、口の中よりずっと熱い気がして、銀時は第一関節まで埋めた親指でぐるりと中を掻き混ぜる。ローションのおかげで引き攣れるような感触はないが、それでも土方の括約筋は一抹の抵抗を見せた。ここはもう土方の内臓だ、と改めて意識した銀時は、ひとまず親指を抜いて、代わりに中指と人差し指を揃えて差し込む。少しきついものの、土方が軽く腰を落としてくれたおかげで、銀時の指はじんわり飲み込まれて行った。熱くて柔らかくてときおりうねる土方の腸壁に、銀時が大きく息を吐けば、「何興奮してんだ《と、土方は銀時の頭をぎゅっと抱きしめる。「これで興奮しねーなら股間のバベルが泣くわ《と、軽口を叩きつつ、銀時が慎重に内部を探っていけば、ほんの僅かな隆起に触れたところで土方の背がびくりと震え、銀時の肩口に押し当てられた胸の鼓動が一気に高まった。ばらばらに動かしていた中指と人差し指で僅かな隆起を挟むようにすると、銀時の腹に当たっている土方の陰茎がぐんと硬度を増すので、「いいなあ《と銀時は零す。
「…やって、やろうか?《と、銀時の髪に顔を埋めたまま言った土方に、「えっ、クリスマスプレゼント?《と銀時がひどく嬉しそうな声を出せば、「今日じゃねえよ《と、土方は簡単に銀時の期待を斬り捨ててしまった。ですよね、と肩を落としつつ、銀時は格段に柔らかくなった土方の後腔へと左手の指もねじこむと、ぐちゅぐちゅ音を立ててほぐし、「もう挿れていいか?《と、言いながら土方の首に唇を当てる。ん、と頷いて銀時の頭を解放した土方は、銀時の胸に手を付いて起き上がると、布団の脇からコンドームの箱を拾い上げた。薄ピンクの箱をじっと見下ろして、「…いちごみるく味…《と呟いた土方の声が明らかな蔑みを含んでいるので、「いや、ためしに舐めて見たけど大して甘くなかったから、ていうか別に咥えなくていいから。下の口だけでも甘党になって欲しいとか思ってねーから《と銀時はしどろもどろに言い訳を重ねるが、土方は欠片も聞いていない。「好きにしろよ《と、どうでも良さそうな顔で言った土方は、いちご柄のパッケージをびりっと破いて中身を取り出すと、銀時の陰茎を二、三度擦って、ショッキングピンクのコンドームをぐっと引き下ろす。
期待で胸を股間を膨らませる銀時を上から下まで視線で舐めた土方は、蓋が開いたままのボトルから銀時の股間にローションをぶちまけてから、銀時の指が埋め込まれたままの肛門で銀時の陰茎をゆるゆる撫でた。はぁう、と息を呑んだ銀時が慌てて指を引き抜けば、土方は片手で銀時の陰茎を掴み、軽く腰を揺すって位置を確かめている。「ひじかたぁ《と、情けない声を出した銀時の顔を見下ろして、「ばぁか《と笑った土方は、んっ、と緩く目を閉じて腰を落とし、銀時の亀頭を咥えこんだ。銀時が手持無沙汰に手を伸ばせば、土方は銀時の両手を握って、大丈夫だ、とでも言うように軽く揺する。親指の先で手の甲を撫でられる感触が気持ち良かった。はぁ、と土方が息を吐いたことによって、土方の肛門がきゅっと閉じるので、敏感な先端を締め付けられて銀時は喘ぐ。焦らすように何度か収縮を繰り返してから、ゆっくり腰を進めた土方の陰嚢がぺたりと腹に触れたところで、銀時はようやく気を取り直して、ぐん、と腰を突き上げた。
あっ、と一声漏らした土方も負けじと腰を揺らして、銀時の陰茎を限界まで抜いては落し、落してはまた引き抜いて、ばちゅばちゅ水音を響かせる。今は真冬で、ほとんど暖房もない部屋だと言うのに、土方に触れた部分が全部熱くてたまらない。じわりと汗が滲む土方の額を見上げながら、「ひっ、じかた、ちょっ、早い、《と、気を抜けば持って行かれそうな締め付けに銀時が泣きを入れてみれば、「いいぞ、もうイって《と、ひどく土方の答えは軽かった。まだ嫌だ、と首を振った銀時に、土方は可笑しそうに笑って、「これが最初でも、今日最後でもねえんだから、好きに出せよ《と、繋いだままの両手で銀時の乳首をきゅっと捻る。同時に、ぎゅう、と土方の最奥で絞られた銀時が呆気なく吐精すれば、「このままもう一度、できるよな?《と土方が言うので、銀時は声も出さずに頷くしかなかった。
とりあえず、その後また咥えてくれた土方に、いちごみるく味のスキンは上評だった。

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銀時が汗とザーメンとローションに塗れたシーツを引き剥がして洗濯機へ放り込み、風呂を覗く間に、土方はその辺に放られていたコンドームの口を縛ってティッシュに包んでくれた。土方の手からずっしりと重みを感じるティッシュを受け取りつつ、「風呂入るよな?と銀時が声を掛ければ、「もう冷めてんだろ《と土方は言うが、万事屋の風呂にだって追い炊き機能位はついている。「温まるまでもうちっとかかるけど、シャワー浴びてりゃすぐだから、先どうぞ《と、銀時が適当に干しておいた使用済みのバスタオルを差し出すと、土方は物も言わずにじっと銀時を見つめた。
「新しいのがいいか?待ってろ、ババァが寄越した引き出物のタオルがどっかに…《と、土方の視線を曲解して踵を返そうとした銀時の腕を、土方はがしっと掴んで引き止める。え、と思う間もなく、「だから、察しが悪ィんだよ。今度は俺が洗ってやるから一緒に来い《と、土方は言って、濡れタオルを手にしたまま、銀時の腕を引いて歩き出した。特に抵抗せず、「オプションはどのくらい付けていただけるんでしょうか《と銀時が下手に出れば、「垢擦りくらいは請け負ってやる《と、土方は肩越しに振り返って言った。



オプションはともかく、人に髪を洗ってもらうのはひどく気持ちが良い、と言うことを学んだ本日二回目の入浴の後で、「一杯飲む?《と銀時が台所を指すと、「ふたりで一本だな《と、バスタオルを被ったまま土方は言う。コップを出すのが面倒だったので、土方の言葉通り三五〇mlの缶ビールを交互に傾けながら、「なんかさぁ、今日のお前サービス過剰じゃね?クリスマス仕様?《と銀時が尋ねれば、「手作りケーキまで焼いて待ってた奴に言われても《と、土方は銀時を鼻で笑った。「あー、やっぱ気合入れすぎて気持ち悪ィかな《と、軽く苦笑した銀時に、「誰もそんなことは言ってねえ《と土方は返して、銀時の頭をぐしゃぐしゃ掻き混ぜる。「テメーは鬱陶しいくらいでちょうどいい《と、言いながらにやりと笑った土方の顔がひどく男前なので、ああ好きだな、と思った銀時は、黙って土方の肩にすり寄った。成人男性である銀時が寄り掛かっても、土方はまるで揺らがない。「馬鹿、濡れんだろが《と、土方は言ったが、銀時の頭が押し戻されることはなく、缶ビールが空になるまで銀時はそうやって土方に寄り添っていた。生乾きの銀時の髪には、土方がまたドライヤーをかけてくれた。



土方が否やを口にしなかったので、結局布団は一組のまま、枕だけ二つ並べて掛け布団の下に滑り込めば、「カーテンもねェんだな、ここは《と、出窓を見上げた土方は言う。だいぶ傾いた月の光が差し込む和室はそれなりに明るくて、「眩しいなら代わる《と、銀時は身体を起こしかけたものの、「月明かり程度で眠れなくなるほど神経質じゃねーよ《と、土方は布団の上から銀時の胸を軽く抑えた。土方と同衾した数は両手で足りない程度になるが、宿のベッドや布団は腐ってもダブル以上だったので、こんなに近くで眠るのは初めてである。身体は十分満たされたはずなのに、目が冴えてしまった銀時の隣で、土方は気持ちよさそうな欠伸を落とし、「あしたが楽しみだな《と独り言のように呟いた。「ラストサムライVSやくざ?《と、銀時が微笑ましく水を向ければ、「サバ味噌《と予想外の方向から帰ってきた土方の答えに、「…精一杯早起きするわ《と、銀時は返す。
はは、と軽く笑った土方が、「面倒ならいいぞ。朝飯位どこででも奢ってやる《とまるで期待していない調子で言うので、「作るよ、お前のためのサバだし《と、銀時は告げて、ちらりと土方に視線を送る。と、いつの間にか銀時に顔を向けていた土方とばっちり目が合って、銀時はさっと頬を染めた。「好きだ《と、銀時が思わず声に出せば、「知ってる《と土方は返して、銀時の前髪を軽く引く。くすぐったい感触に、銀時が目を閉じると、「いいこにしてろよ《と、土方は言った。土方の指は何度も銀時の髪を梳き、意味も解らないまま銀時はこくこく頷く。土方の手から力が抜けるまで、銀時はじっと身体を縮めていた。
土方の寝息が聞こえ始めてから、たっぷり六百秒数えた銀時は、そっと布団を抜け出して奥の押入れを開く。土方の様子を伺いつつ、布団袋の下に隠してあった細長い紙包みを取り上げた銀時は、ぐるりとそう広くもない和室を見回した。こういう時は枕元がセオリーなのだろうが、いかんせん相手は土方である。途中便所へ立っても蹴とばされたりしないよう、出窓の下にそっと紙包みを立てかけた銀時は、また忍び足で土方の隣に戻ると、土方の頬に触れるだけのキスを落とした。メリークリスマス、と声を立てずに口を動かして、満足そうな笑みを湛えたまま眠りについた銀時は、それからしばらくしてゆるりと起き出した土方の気配に欠片も気付かなかった。

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翌朝、銀時が目を覚ますと、土方はもう隣にいなかった。探すまでもなく出窓に腰かけた土方は、銀時が着せ付けた甚平ではなく昨日の着流しを身に纏って、銀時を見下ろしている。すわ寝坊か、と銀時が慌てて布団を跳ね除ければ、「心配すんな、まだ九時前だ《と、土方は的確な答えをくれる。映画は昼からだと言っていたから、今から米を炊いて朝食にしても十分間に合うだろう。ほっと胸を撫で下ろした銀時は、昨晩置いておいた紙包みがまだ同じ場所にあるのを見て取って、「おい土方、サンタさん来てんぞ《と、わざとらしい声で土方の足元を指さした。ああ、と紺地に銀のリボンを掛けた紙包みを拾い上げる土方が驚きもしないのは想像の範疇だったが、リボンに手を掛けた土方が「ところで、テメーにも来てんぞ《と銀時の背後を指すのは予想外だったし、銀時が振り返った視線の先、炬燵の上に赤と緑の小包が置かれているという状況に至っては、正直理解の範疇を越えている。
「えっ…なんで?《と、零れた声が自分でもわかるほど情けなくて、銀時は途方に暮れた顔で土方を振り仰いだが、「いいこにしてたからだろ《と、土方はいつも通りほんの少しだけ口角を上げた表情で返すばかりだ。土方が先に目覚めていた以上、銀時を起こさずに包みを置く機会はいくらでもあっただろう。けれども昨夜、土方は一切そんなそぶりを見せなかったし、そもそもどこに隠してあったというのだ。土方は昨日、コンビニの袋しか手にしておらず、着流しだって銀時が脱がせたはずなのに。途方に暮れたような銀時には構わず、土方は長い指で銀色のリボンを解き、丁寧に包装紙を剥がして、中から真田紐で括られた木箱を取り出す。「開けていいか《と、銀時に目を向けることも無く土方が言うので、「俺に聞くなよ、サンタさんのなんだから《と、銀時が返すと、「ああ、そうだな《と土方は銀時の言葉を軽く流して、木箱の蓋を取った。
へえ、と一番最初に聞こえた土方の声がそれだったので、「なんだよ、気に入らねえのか《と、銀時がふて腐れたように言うと、「いや?テメーにしちゃ悪くねえセンスだと思っただけだ《と言いながら、土方は中から漆黒の煙管を取り出して、陽に翳す。「だーから、俺じゃねえって。どうでもいい奴に残るもん貰っても困るだろ。俺のプレゼントは昨日の料理とケーキだよ《と、銀時が俯けば、「テメーはほんとに面倒くせえな《と土方は呟いて、ぎしり、と畳を軋ませながら立ち上がった。ほんの数歩で銀時の隣にやってきた土方は、銀時の腕を取って、「ほら《とてのひらに煙管を乗せる。じわりと滲みかけた涙を堪えつつ、「い、要らねえよな、やっぱり。取り繕って悪かったよ、すぐサバ味噌作るから待ってろ《と、銀時が言うと、「違ェよ馬鹿。持ち歩いて失くしたかねえし、屯所は総悟のおかげでプライバシーの欠片もねえからな。テメーが持ってろ《と、土方は何でもない顔で返した。
ぽかん、と口を開いて、「いや、俺煙草吸わねェし《と、銀時がいまさらのように首を振れば、「誰がテメーで使えっつった、ここへ来た時俺が使うんだよ《と、土方は呆れた口調で銀時の頬を軽く抓む。あらゆる意味で動揺を隠せない銀時に、「それとも何か、もう二度と来んなってことか?《と、土方が首を傾げるので、銀時はぶんぶん首を振って、「言ってません、いつでも来てください、ご飯作って待ってます。灰皿だけじゃなくて煙草盆も用意します!《と、声高に宣言した。少し考えてから、「吸わねえのに、灰皿はあんのか《と、上思議そうな顔をする土方に、「万事屋も一応客商売なんだよ《と苦笑してから、「そういや、お前昨日煙草吸わなかったな《と、銀時が首を捻れば、「…ガキのいる家だろ《と、土方は明後日の方を向いて言う。そんなことを気にしていてくれたのか。
煙管を玩びながら、「良かったのに《と言った銀時に、「次からは遠慮しねえよ《と土方は返して、「つうか、テメーは開けねえのか《と、炬燵の上を指す。す、と一息吸って、「何くれたの《と、銀時が尋ねれば、「開けて見りゃわかる《と、土方は手を振った。そりゃそうだけど、と二か月半前の怒涛のような誕生日プレゼントを思い出しながら、銀時は赤と緑の包装紙をびりびり破く。中に入っていたのは、「…化粧品?《に、見えるリップスティックやクリームのチューブが詰まった紙箱だった。「つうほどのもんじゃねえよ。リップクリームとハンドクリームと、あとボディオイルだな《と、銀時の手から箱を取った土方は、蓋代わりのセロファンを無造作に剥いで、リップクリームを一本取り出す。
「どうせテメーは、こんなもんに金を裂いたりしねえだろ《と、銀時の心を読んだような声で言いながら、土方はきゅっと蓋を取って、銀時の唇にリップクリームを塗った。甘ったるい匂いに、「バニラ?《と銀時は軽く唇を舐めて見るが、味はしない。「俺は御免だが、テメーにはお似合いだ《と、土方が薄く笑うので、「お前がいいなら、いいけど《と、銀時がべたつく唇を擦り合わせて離せば、「客商売なんだろ。ちったぁ身だしなみにも気を遣え《と、土方はハンドクリームも絞り出して、ささくれが目立つ銀時の指へとぬるぬる滑らせている。「そういや、煙草も吸ってんのに、お前は唇柔けェよな《と、銀時が大人しく土方に身を任せながら言うと、「嗜みだからな《と、土方は澄ました顔で言ってのけた。それはどういう、と思った銀時の前で、満足そうな顔をした土方は、最後にぎゅっと銀時の手を握って、「爪切るだけで満足すんじゃねえよ《と、爆弾を落とす。きゅっ、と音を立てるような速さで赤くなった銀時には構わず、「で、サバ味噌はどうした《と、あっさり手を離した土方に、銀時は無条件で降伏するしかなかった。
吊残惜しく立ち上がりながら、「どうせなら飯食ってから塗って欲しかった《と、これからの水仕事を思って銀時が両手をにぎにぎさせれば、「いつでも塗ってやるから早く行け。あと灰皿寄越せ《と、土方の答えはいつも通り横暴で優しい。なんとなく悔しくなった銀時は、「いつでもっつうなら見回り中でもやってもらうぞ!?総一郎君の前でも容赦しねーからな!!《と、もらったばかりのリップクリームを突き付けてみたが、「テメーも巻き込まれる覚悟があるなら構わねえよ。いいから灰皿《と、土方は面倒臭そうに銀時の手を払い除けるばかりだ。ああもうそういう俺に興味ねえところも好きだ、と握っていたリップクリームを懐へ収めた銀時は、「寒かったら炬燵使えよ、コンセントそこな《と言い残すと、台所へ向かう。
洗って伏せておいたガラスの灰皿を取り、ついでに玄関から朝刊も取って土方に手渡せば、「テメーはいい嫁になりそうだな《と、真顔で土方が言うので、「永久就職先ならいつでも募集中です《と、銀時も真顔で答えた。「公募したら物好きのひとりやふたり、引っかかんねえこともねえだろ《と、新聞を広げる土方に、「それじゃ意味ねえし《と銀時は返して、「そういや飯の後、俺は洗濯してくけど、オメーはどうする?《と、思い出したように続ける。少しばかり間を開けて、「急ぐ用もねえし、一緒に出る《と、土方が言うので、「そりゃよかった《と、心の底から銀時は笑った。「サバ味噌、楽しみにしてろよ《と、銀時が浮かれた声で言い残せば、「楽しみにしててやるよ《と、土方も尊大な声で言い返して、そこでようやく煙草に火を点けた。すっかり嗅ぎ慣れた煙草の匂いに、銀時はまた少し泣きそうになった。非日常の匂いだった。


( 銀さんが鈊すぎる / 坂田銀時×土方十四郎 /140114)