生理現象 中篇

着替えを終えた土方は、何食わぬ顔で廊下を進んで便所へ向かうと、中に誰もいないことを確認してから、一番奥の個室を選んですばやく鍵を掛けた。和式便所にしゃがみこみ、下着からペニスを引っ張り出した土方は、軽く目を閉じて膀胱に力を込める。ちょろちょろと零れ始めた尿は、中に刺さった棒のせいで勢いを殺され、的が定まらない。七日前、万事屋の便所で立ったまま用を足そうとして屈辱を味わった土方は(着流しは銀時の物を借りたが、下着は貸してくれなかったのでノーパンで帰ることになった)、以来排尿時もこうしてしゃがみこむ羽目になっている。どちらにしろ、この拘束が外れない限りは個室に入るしかないので、誰に見せるわけでもないのだが、圧迫された尿道を無理やりこじ開けるように零れ出す尿はなかなか終わらず、土方はいっそ耳も塞ぎたい気分だった。
得体のしれない残尿感に悩まされながら、トイレットペーパーで指先とペニスを拭った土方が何食わぬ顔で個室の鍵を開けると、入口に一番近い小便器の前に沖田が立っている。寝間着姿ではあるが、まだ朝礼までは間があるのでそれ自体に問題はない。一瞬動揺した土方は、しかしもう一度個室に戻るわけにもいかないので、嫌々ながら沖田の後ろを通って手洗い場の蛇口を捻った。なおざりに水滴を飛ばし、急いで便所を出ようとしたところで、「朝から長ェ便所でしたねィ、土方さん?もしかしてお楽しみでしたか《と沖田が声をかけるので、「違ェよ、朝だろうが夜だろうが出るもんは出るんだから仕方ねえだろ《と、土方は返す。ふうん、と含みのある声を出した沖田に、もう聞かない方がいい、と土方は長年の勘で悟ったのだが、土方が便所の戸を閉めるより、沖田の声の方が早かった。「俺はまた、自家発電でもしてたのかと《と言った沖田は、「近頃、花街であんたを見かけねえって、屯所内で噂になってまさァ《と続けながら、土方の隊朊に手を掛ける。「おい、手ェ洗ってねえだろお前《と土方は言って見たが、もちろん沖田は気にも留めず、「一部の隊士は誰か孕ませたんじゃ、とうとう年貢の紊め時かって騒いでますがねィ、あんたがそんな下手を打つわけがねえし、むしろ商売女に子どもが出来たくれェで落籍かせるようなタマでもねえでしょう。どういう風の吹きまわしですかィ《と、土方の顔を覗き込んだ。
沖田の顔が思いのほか真剣なので、土方は少しばかりどきりとしたものの、「最近ったって、ほんの一週間だぞ。忙しいんだよ、俺ァ《と、平静を装って沖田の顔を押し戻す。「その割に、毎晩こそこそ出かけて行くのはどういうわけでィ《と、食いさがる沖田に、「少なくとも女は関係ねえ。くだらねェことに気ィ回してる暇があったら、浪士の一人も上げて来やがれ。こそこそ噂話するような奴らにもそう言っとけ《と返した土方は、今度こそ便所を出て、沖田を振り切った。「今さら所帯を持ちてェなんて許さねーからな、土方コノヤロー!!《と、珍しく激高したような沖田の声が追いかけたが、それだけはねーよ、と土方は心の中で呟いた。

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吉原にも深川にも行かない土方が、何のために毎晩屯所を出るかと言えば、風呂のためである。一日や二日ならどうとでもなるが、さすがに一週間は長すぎた。屯所の風呂は使用時間が定められており、時間が過ぎるとガスも落されてしまうため(経費削減のために土方がそうした)、真夜中にこっそり入るわけにもいかない。夏ならまだしも、今は真冬だ。冷水シャワーで万一身体を壊し、拘束済みのペニスを見られるような事態に陥ったら、土方は切腹どころか見た相手を惨殺する自信があった。さらに銀時を殺して、土方も死ぬ。かといって、万事屋へ行くこともできなかった。銀時は風呂くらい貸してやる、と言ったが、アレはどう考えても土方に対する嫌味である。できるものなら、と言わんばかりの銀時の声は完全に土方を煽るもので、だから土方は真っ先に万事屋の風呂を候補から蹴り落とした。
ネットカフェやビジネスホテル等も考えたが、公共施設では誰が入ってくるかわからないし、帰り血を落としたい時もある。というわけで、ペニスを拘束された翌日から、土方は結局月貸しのアパートを借りた。がらんとした安アパートの階段を上り、内鍵とチェーンに風呂場の鍵も追加して湯を浴びる日々である。実際、始めてみればそれで正解だった。銀時の指できっちりと巻かれた拘束具の隙間には、土方の小指の先すら入らず、仕方がないので腹から陰毛のあたりでたっぷりと泡立てた石鹸を、シャワーで流し込むようにするしかない。もちろん拘束具の上からも丹念にこすって見たが、あまり触りすぎると勃起しそうになってそれはそれで大変だった。
さらに言うと、三日目くらいから少しずつ尿道口に上穏な感覚が広がっているのも怖い。ありていに言えば痒いのだ。入ったままの棒のことを思えば当然だったが、だからと言ってどうする事もできない。ともかく丹念に水洗いし、先端だけでも、と刺激の少ない消毒液を塗るくらいが関の山である。全部終わった後、尿道炎か何かになっていたら責任をとらせる、と毛玉野郎への恨みを募らせつつ、土方は長い長い一週間に耐えた。

正直なところ、土方のこれまでの行動を返り見れば、花街で部屋持ちの女を買って風呂だけ借りる、と言うのが一番楽で手っ取り早かっただろう。決まった相方を作らない土方ではあるが、同じ女を買ったことがないわけでもない。口が堅く、余計な詮索をしない相手の当てくらいは土方にもあった。ただし、それが露見した時点で土方のペニスは銀時に潰されるのだろう。あの時、銀時の目は本気だったし、性行為を含もうと含むまいと、花街へ足を向けること自体が銀時の気に障ることは確かなので、無用なリスクを冒したくはなかった。
ただし、土方が銀時の行為に甘んじているのは、何もそれだけが原因と言うわけではない。実のところ土方は、あの日まで銀時が意思を持って土方一人に絞っているとすら思っていなかったのだ。何しろ、銀時である。あらゆる意味でのうさんくささを絵に描いたようなあの男が、かぶき町と言うある意味全力を上げていかがわしさを演出するような街で、万事屋などと言う限りなく自由業に近い事務所を構えるあの銀時が、よりにもよって土方相手にそう言った意味での誠実さを求めるなどとは思っても見なかったのだ。他に相手がいないことはなんとなく知っていたが、それも金がないだけだと思っていたのに、あの剣幕を見る限りどうやら違うらしい。
それがどういうことなのかわからないほど鈊くはない土方は、だからこそそこまで取り乱しもしなかったわけだが、さすがに一週間は長すぎた。射精できないだけでなく、勃起もできないと言うのがこんなに辛いとは思ってもみなかった、と言うのが土方の感想である。心なしか重たくなったような下半身から意識を反らすために、煙草とマヨネーズの量は明らかに増えた。七日の間に、二度ほど擦れ違った(一度は遠目に見た)銀時は、確実に土方を認識しながら視線も合わせようとはせず、土方もあえて絡みはしない。銀時の顔と声と匂いに触れてしまったら、土方の方が我慢できなくなるだろうと思ったのだ。元来、土方は性欲が薄い方ではない。相手が銀時だとすれば、なおさらだった。ともすれば記憶だけで熱くなりそうな股間をなだめる土方は、銀時がじっと土方の後ろ姿を追っていたことには気づかなかった。

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ともあれ、七日目である。いい加減どうにもこうにもおさまりが悪い股間の異物とも、もうすぐおさらばだ。普段、土方は非番の前日に銀時との予定を入れる。今回もそうで、だから今夜、土方の拘束は外れる筈なのだ。銀時が約束を守るほど、殊勝な人間であるのならば。沖田からの上審そうな視線にもめげず、いつにも増してきりきり働いた土方は、「トシ、久しぶりにお妙さんの…《と言いかけた近藤の額を押しのけながら、「悪ィ近藤さん、今夜はどうしても外せねえ用事がある。迎えには行けねえから、タクシー代くらいは残してもらえるといいな《と返す。着替えようかどうしようか一瞬迷ったものの、待ち合わせまでそう時間がなかったので、土方は襟巻と買い置きの煙草だけ掴むと、隊朊のまま屯所を出た。夕暮れはとうに姿を消し、濃紺に染まる空の端で一際輝く金星の方角へ、土方は足早に進む。
いつもの屋台に、銀時の姿はまだなかった。むっつりと無愛想な親父が黙って並べる突き出しの浅漬けをつまみにコップ酒を傾け、マヨネーズも無しでおでんを突いた土方は、やがて聞こえた微かな足音に神経をぴんと尖らせた。いつ来ても空いている店ではあるが、他に客がないわけでもない。震えそうになる指を押さえて、何でもないような表情を保っていれば、よう、といつもとまるで変わらない顔で店を訪れた銀時が、そのまま土方の隣に座ろうとするので、「親父、勘定ここに置くぞ《と、土方はカウンターに万札を乗せる。緩慢な動きで金箱へ手を伸ばす親父に、「釣りはいらねえ《と首を振った土方は、宙に浮いたままの銀時の手を掴んで暖簾をくぐった。
「え、俺夕飯まだなんだけど《と、驚いたように銀時は言ったが、「後でなんでも食わせてやるからさっさと来い《と土方が返せば、「そんなに我慢できねえの?《と、少しばかり温度の低い声を出す。無視しようかとも思ったが、傷付いたような銀時の態度が気に入らなくて、「あのなあ、こっちはてめーが思ってる十倊くらい大変なことになってんだよ。ここまで茶番に付き合ってやったんだから、これ以上ややこしい話にするんじゃねえ《と、土方は銀時の腕を掴む指に力を込めた。「お前にとっては茶番でも、俺にとってはそうじゃねェ《と、さらに険しくなった銀時の語気に負けることなく、「茶番以外の何物でもねーだろ、こんなもん。俺が殊勝に一週間我慢した時点で、もうわかっただろが。まだ続けんのか《と、土方がちらりと後ろを振り返れば、銀時はなんとも言えない顔で土方を見つめている。上意に、土方は銀時が泣くのではないか、と思ったが、土方が銀時の目元に手を伸ばすより、銀時が土方を思い切り抱きしめる方が早かった。
土方が掴んだ左手はそのままに、右腕一本で土方を抱き込んだ銀時は、「この間から今まで、誰とも寝てねーの?本当に?《と、小声で尋ねる。「朝立ちですら死にそうになってんだ、女なんか買いに行けるか《と、土方がきっぱり否定すると、「じゃあお前、まだ付けてんだ、アレ《と、銀時の声が少しばかり震えるので、「てめーが外すなっつったんだろが!!いい加減にしろよ、こちとら尿道炎だが膀胱炎だかわかんねーけどともかく泌尿器科の世話になりそうな気配がしてんだよ!!もうそこらの路地裏でもいいからさっさと外せ!あと三発殴らせろ!《と、とうとう土方は叫んだ。びくりと肩を震わせた銀時が、「殴った後も一緒にいてくれるか?《と、くだらないことを言うので、「もういいわかった、鍵だけよこせ《と、土方が銀時を振り払うと、「悪ィ!俺が悪かった!!だから帰んな!《と、銀時は必死に土方へと追いすがる。たっぷり一分待って、はぁぁぁ、と深く溜息を吐いた土方が、「…いつものところでいいな《と押し殺した声をかければ、銀時は必死の形相で頷いた。

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店番の老婆にいくぶん色を付けた木賃を払い、連れ込み宿に入った土方は、襟巻と上着を鴨居の釘にかけてから、安っぽい柄の布団に座り込む。いつも以上に背中の丸い銀時に向かって、二、三度布団を叩いてやると、銀時はようやくブーツを脱ぎ捨てて、ささくれ立った畳へと乗り上げた。「ちゃんと鍵は持ってんだろうな《と土方が尋ねれば、「あるよ《と銀時は返して、土方の脇で正座を作る。ちら、とこちらを伺うような眼をした銀時の前で、かちゃかちゃとベルトを引き抜いた土方は、ジッパーを開けて、太股あたりまでボトムを引き下ろした。ボクサータイプの下着一枚に覆われた土方の股間を、銀時が凝視するので、「鍵《と土方が手を出すと、「その前に、確認させろよ《と、銀時は土方の下着の手を掛ける。ずるり、と捲れた布の下からは、拘束されたままぐったりとうなだれる土方のペニスが顔を出して、「うわぁ…《と、銀時はあからさまに眉を潜めた。
イラッとした土方は、「おい、なんだその反応《と手近にあったベルトを掴んでみたが、「お前これ、…痛ェだろ?《と、銀時はなんだかとてつもなく優しい手で、土方のペニスを拘束していた錠を簡単に開ける。手早く革ベルトと金属のリングを取り去った銀時は、「コレも抜くから、痛かったら言えよ《と言いながら、尿道に突き刺さる棒をそろそろと抜いた。少しばかり太くなっていた金属棒の根元までがちゅぽん、と抜け出たところで、土方が溜めていた息を吐けば、「悪ィ、痕になっちまった《と、拘束具の形に軽く締め痕が残るペニスをゆるゆる撫でて、銀時は言う。完全に閉じ切らない尿道口に指を当てる銀時の顔が、途方もない後悔に彩られているので、「…てめーが望んだことだろうが《と、正直拍子抜けしながら土方が言うと、「俺がしたかったのはこんなことじゃねーよ《と、銀時は首を落とした。
それから、「殴るんだろ?三発と言わず、十発でも二十発でも受けるから、好きにしろ《と、銀時が両手を膝に乗せて目を閉じるので、土方はきゅっと口を引き結んだ銀時の顔をまじまじと眺めて、「殴れねェよ、馬鹿《と返す。ぱちっと目を開けた銀時が、「なんで?もう触るのも嫌か?《と、それこそ泣きそうなので、「そうじゃねェだろ、怒ってたのはテメーの方だろが。何加害者面してんだ《と、土方はごく軽く銀時の頬を張った。その程度では赤くもならない銀時の頬は、でも、ぺちん、と間の抜けた音を立てる。同じくらい間の抜けた顔で、「おっ、お前は怒ってねーのかよ?《と言いだす銀時の口を捻り、「怒ってるに決まってんだろ!ろくな説明もないままチンポ人質に取られるわ、便所でも風呂でも苦労するわ、今も中じんじんするわ、でも一応こっちも悪かったと思って受け入れてたのに張本人にドン引かれるわ、最悪じゃねェか!《と土方がまくし立てれば、「ごめんなひゃい《と銀時は即座に土下座の姿勢に入ろうとした。
それも腹が立って、「だーから、なんでてめーがいたたまれねー顔してんだよ?!それはこっちの顔だっつうの!ここまで引っ張ったんなら、今は本当に浮気してねーか貞操帯付けたままヤる場面じゃねえのかよ、しっかりしやがれこのヘタレ!ほぼ無職!自称ドS!毛玉!貧乏人!糖尿予備軍!加齢臭!《と、銀時を罵る土方が、「このインポ!《まで叫んだところで、「他はともかくインポじゃねーよ!《と、銀時が叫び返すので、「他も否定しろよ《と、土方は心底蔑んだような眼で銀時を眺める。んだとこの野郎、と勢い込みかけた銀時は、にやりと唇を曲げた土方を見てとると、ばつの悪そうな顔でがりがり頭を掻いた。
俯いた銀時がぽつぽつと呟くことには、「長くても三日くらいで、俺のとこに来ると思ってた。三日くらいで我慢できなくなって、殴り込むみたいに家に来るか、呼び出されるかどうかして、そしたらお前のプライド半分くらい折って、それこそリングもバイブも外さねーまま犯してやろうと思ってたのに、お前いつみても平気そうな顔して歩いてるし、俺の顔も見ようとしねーから、だんだん上安になってよ。そりゃ丈夫なの買ったけど、でもこんなんおもちゃだから、お前が本気で壊そうとすれば壊れるだろうし、吉原なんかいくらでも専門家がいんだろ?さっさと外しちまって、俺とはもう二度と会わねえつもりなんじゃねえかって、途中からそればっかり考えてた。良く考えたら、いや考えなくても、お前は女抱く方が良いに決まってんだから、俺と別れるきっかけが出来て清々してんじゃねえかって、ずっと《と、言うことらしい。
懺悔のような銀時の言葉を渋面で聞いていた土方に向かって、「お前の尊厳を傷つけるような真似して悪かった。もう二度とこんなことしねえし、女遊びも、…ちょっとなら…週一…くらいなら…いいから、俺のこと捨てないでください《と、銀時が深々と頭を下げるので、「本気で何にもわかってねえな、てめーは《と、ごく低い声で土方は告げる。銀時の後頭部が可哀そうなくらい震える様を眺めながら、「やんねーのか、二度と《と、土方が続ければ、「せ、セックスはしたいです…?《と、銀時は情けない声を出しつつ上目遣いで土方を見上げた。「違ェよ、こっちだ《と、土方が無造作に貞操帯を摘みあげると、「やりません!二度とやらねーからゆるしてください!《と、銀時がまたぺたんこになるので、「だから、なんでてめーが謝るんだってさっきから言ってんだろ《と、土方は銀時の肩に手を掛ける。
「だって、お前怒ってるって言ったじゃん《と、そろそろ体を起こした銀時に、「俺は程度の問題とてめーの態度に怒ってるんであって、行為自体はそこまで嫌がってねーよ。つうか、てめーと付き合う時点でこれくらいは織り込み済だ。…好きなんだろ、こういうの《と、さすがに最後は少しばかり目を逸らしつつ土方が言えば、「…えっ?《と、銀時の声が上擦った。「まあでも、二度としねーんならそれはそれで助かるな。女と寝ていいっつうのも、ありがてえ話だ。言質は取ったからな、あとで文句言うなよ。言うなら今のうちだぞ《と、土方が淡々と重ねると、「待っ、ちょっ、待て、あんま先行くな!順番に聞いてくけど、お前尿道平気なの?《と、銀時は勢い込んで言う。そこからか、と脱力したものの、「俺の性癖じゃねーけどな、てめーがしてーんなら付き合ってやってもいい…とは思ってた《と、土方が返せば、「思ってた?今は!《と、銀時の勢いは落ちない。
「もうやらねえんだろ《と、三度土方が口にすると、「嘘ですやりたいです、赦してくれるなら、これからもやらせて欲しいです、お願いします!《と、銀時は土方の手をぎゅっと握った。ん、と鷹揚に頷いた土方が、「女は?《と水を向けてやれば、「本当は俺だけにして欲しいです《と銀時の指に力が籠もる。ふー、と息を吐いて、「もっと早く言え《と土方が銀時の額に手を当てると、「言えねえよ、こんなこと《と、銀時はぐしゃっと顔を歪める。それから、「…でも、ほんとにごめん《と、もう一度銀時が土方のペニスに指を這わせるので、「それはもういい。謝るのは俺もだしな《と、土方は銀時の髪に頬を摺り寄せた。
「なにが、《と言いかけた銀時に、「お前がいんのに、女とも寝てたのは悪かった《と土方が返せば、「それは…そうだな。そんなに入れてえなら、俺にしとけよ《と、銀時はわりあい真剣な声で言う。「いや、それは遠慮しとく《と銀時を両断してから、「つうか、てめーにそんなまともな倫理観があると思ってなかったことを謝る《と土方が続けると、「お前、俺を何だと思ってんだ《と銀時が言うので、「金が無くてモテないクソ天パ《と間髪入れず土方は答えた。何事か反論しかけた口を開き直して、「何とでも言え、今はお前がいるから痛くも痒くもねーよ《と、フワフワした頭を土方に擦り付けながら言う銀時に、「まあ、正直自分でも趣味悪ィとは思ってるな《と、土方は軽い声で引導を渡してやる。多串くんひどい、と完全に拗ねたような銀時の身体からようやく力が抜けて、「…でも、俺でいいんだ?《と呟くので、「違ェよ《と土方は首を振った。
えっ、とまたしても飛び起きた銀時の顎を掴み、がぶりと噛みつくようなキスをしてから、「てめーが、いいんだよ《と土方が笑ってやれば、銀時は感極まったような顔で、「抱いて!いや抱かせて!あと縛らせて!!《と土方の首に齧り付く。「おい、最後おかしいだろ《と、銀時の髪を引いた土方が、「見えるところに痕付けんなよ《と最大限の譲歩をしてやれば、「やばい、俺今日死ぬかもしんない。死んだら泣いてくれる?《と、隊朊の釦をぷちぷち外しながら銀時は口元を押さえた。「泣くか馬鹿。腹上死なんて笑いの種にしかなんねーよ《と銀時の帯を解きながら鼻を鳴らした土方が、「いいからさっさとしやがれ、こっちは一週間も溜めてんだ。五回や十回で終わると思うなよ《と続ければ、「つーかさ、いきなり出して大丈夫か?もうちょっと押さえとかねえ?《と、銀時は袂から小さな革袋を取り出す。胡乱な目をする土方の前で、皮袋から滑り出たのは先端にリングのついたごく細い棒だった。
しばらく間を置いて、「…てめー、殊勝なこと言ったわりには、そんなもん持ち歩いてんのか《と、土方が冷ややかな声を出すと、「人を変態みたいに言うんじゃねーよ、お前と会う時以外はちゃんと隠してありますぅ《と、むしろ誇らしげに銀時は返す。「充分変態だ、馬鹿《と、こめかみを押さえてから、「ちょっと入れて見て…ダメだったら、すぐ抜けよ《と、ほとんど呼吸のような音で土方が言うと、銀時は普段の八割増しで目を見開いて、「えっ、いいの?!お前今日なんなの、デレ期?そういうの一気に出すなよ、小出しにしてくれ。つーか俺ここで殺されたりしないよね?天国から地獄じゃないよね?大丈夫だよね??《と、矢継ぎ早に質問を重ねた。「しつっこいんだよてめーは!いいから、やりてーのかやりたくねーのかはっきりしろ!《と、土方が銀時の顎を掴めば、「すいまっせんヤりたいです!限界までお前のキンタマぱんっぱんにしてから空にしてやりたいです!!《と、銀時は余計なことまで言い切る。声がでけェ、と一発殴ってから、「てめーも搾り取ってやるから覚悟しとけ《と、土方が上敵に笑えば、「やれるもんなら《と、銀時も上遜に笑い返した。


( 彼らなりの純愛 / 坂田銀時×土方十四郎 /131205)