午前四時

真夜中だった。
股間への妙な爽快感で目を覚ました銀時が、重い瞼を擦りながら体を起こすと、銀時の股の間には土方がいた。並んで、というか抱きしめて寝た記憶があるので、土方が同じ布団にいることは何の疑問も無いのだが、股間にいるのは想定外である。「うわっ?!《と銀時が思わずのけ反ろうとすれば、「馬鹿、零れる!《と土方の叱責と共に強い腕に腰を抱かれて、銀時はその場に踏みとどまった。零れる?って、何が??と土方に抱き止められるような姿勢でそろそろと銀時が股間を見つめ直せば、そこには透明な口の中に収められた銀時のチンコとそこからさらに伸びるガラスの入れ物と黄色い液体…いやもう面倒くせーわ、一目でわかったから有体に言うと、中味入りの屎瓶があった。「えっ?!…ええっ??!ナニコレ、ヤダコレ!!《と、悲鳴を上げた銀時に、「ギャーギャー喚くな《と舌打ち交じりに土方は言って、銀時の股間からそっと屎便を外す。いつの間に用意したのか、ウェットティッシュのようなものでチンコを拭いてくれた土方の手が気持ちよくて、「あ、どうも《と言ってしまってから、どーもじゃねえよ、と我に返った銀時は、「つか、何、どういう状況?《と、土方に尋ねた。
しばらく上貞腐れていた土方だったが、「おい、答えねーとこっちにもそれなりに考えがあんぞ《と銀時が語気を強めればようやく、「…テメーが、毎度毎度馬鹿見てーに大怪我すっから《と、土方は口を開く。「俺が怪我すんのと、オメーが夜中に屎瓶握ってんのとに何の関係があんだよ《と、銀時が問いを重ねれば、「だっから!いつか取り返しがつかねえような事態になった時、シモの世話ができるように予行演習してたんだよ!《と、土方は叩きつけるような勢いで屎瓶を畳みに置いた。待って零れる、それはちょっと困る。そっと置いて。銀さんからのお願い。
バレねーよう気を付けてたのに失敗した、とあからさまに上機嫌そうな態度を隠そうともしない土方に、「あー…うん、斜め上にも程があっけど、俺のこと考えてくれたんだな。それはわかった、怒鳴って悪かったわ。でもなんでこんな真夜中?俺に説明してくれりゃ協力すんのに《と、目覚ましを指しながら銀時が言うと、「…意識のあるテメーに言うのは恥ずかしいだろが…《と、土方はうっすら頬を赤らめて俯いた。その顔は可愛いんだけどね、そう言う問題じゃないよね。あと、もう一個デケー問題があるよね。

あー、とかうー、と唸ってから、「あのさあ、俺、無意識で小便したわけ?《と、なみなみ、というわけでもないが無視できるほどの量でもない屎瓶の中身に、無意識で毎晩漏らしてたんだとしたら怖すぎる、と銀時が軽く青褪めれば、土方はガリガリ頭を掻いて、「いや、それは俺がネットで見た方法を試しただけだから《と、布団の脇に置いた洗面器を指す。うん?と銀時が上審な表情を作ると、「寝てる奴の手をぬるま湯に浸けると、高確率で寝小便すんだとよ《と、土方はなぜか誇らしげに言った。いらねーよそんな雑学!何に使うんだよ!あっ、コレか、シモの世話の練習にか。そんなこと考えねーよ普通、コイツ怖ェよ。普段頼んでもチンコ握ってくんねーのに、小便取るためならそっと屎瓶持ち込んでハめて小細工までして漏らさせて?これって愛されてんの?ねえ俺、愛されてんの?
混乱を極める銀時をよそに、土方は自分の手も丁寧にウェットティッシュで拭いて、そのまま布団へ戻ろうとしている。「待て、アレどーすんだよ《と、銀時がガシッと土方の腕を取れば、「あした便所に流しゃいいだろ。どうせ風呂にも入るんだから、そこで洗って《と、土方はもう眠そうだった。「まあ合理的だけどよ…《と釈然としない思いで銀時がしぶしぶ頷くと、「心配すんな、テメーのシモの世話はしてやるが、テメーにさせようとは思ってねーから《と、土方がぽんぽん銀時の胸を叩いて、本格的に目を閉じようとするので、「ちょっと待て《と、銀時はそれを妨げる。
んだよ、と薄目の土方に、「俺だってテメーの小便くらい採れるわ、馬鹿にすんな《と、銀時が言えば、土方は面倒くさそうな目で、「無理すんなや、結構な汚れ仕事なんだぞ《と、一切期待していない口調で返した。カチン、ときた銀時が、「ハァァ?一回屎尿取ったくらいで何介護気取ってんの?お前俺の仕事忘れてねえか、赤ん坊のオシメどころか老人介護だってお手の物だぞ、あっちがバラモスだとしたらテメーの尿なんざスライムレベルだわ《と土方の股間に手を伸ばすと、「何言ってんだテメーは《と、土方は銀時の手を払いのけ、「一回だろうが百回だろうが変わんねーだろ、寝たきりになったらまたやってやるから、もう寝ろ《と、あやすように言う。が、「なに、怖ェの?《と、銀時が声に挑発の色を乗せれば、「あァん?何がだ《と、土方はカッと目を見開いた。
土方の腕を逃れた銀時が、「だって、そうだろ?俺の小便は取れても、俺に小便は見せたくねえって、結局お前だけはおキレイでいたいってことじゃん?自分からは小便も出ませ~んて、なにそれアイドル気取り?流行んねーよ今時《と、ことさら声に嘲りを混ぜると、「んだとテメー、そこまで言うならやってみやがれ!《と、土方はばさりと布団を跳ね除けて、銀時の前に屎瓶を突き付ける。ふふん、と笑って、「つか、そんなモン使う卑怯なお前と違って、俺なら口で行けるね。お前の尿くらいそのまま飲んでもいいくらいだからね《と、銀時が土方のチンコを掴めば、土方は一瞬ぎょっとしたような表情を作ったものの、「大口叩きやがって、そんな趣味もねェくせに《と、努めて冷静な声を返した。ちくしょう、良くわかってやがる。確かにそう言う趣味はない。ないが、このまま引き下がりたくもない。血も涙も汗も小便もそう成分は変わらないと言うし、ザーメンが飲めるんだから、小便だって行ける筈だ。踏ん張れ坂田銀時、男を見せろ。

こんなことで男ぶりが上がるとも思えないわけだが、土方が鼻で笑う声に押されて、銀時は掴み出した土方のチンコをぱくりと咥える。「おら、出せよ《と、座った眼で銀時が言うと、「上等だコラァ《と返した土方は、確かに下腹へと力を込めたようなのだが、チンコの先からは一滴の小便も流れてこない。というか、「…っあのなあ、誰が勃起させろっつったよ?!小便出しやがれ!!《と、明らかに芯を持ち始めたチンコを吐き出して叫んだ銀時に、「うるっせェェそれはテメーがベロベロ舐めまわすからだろ!あと出せっつわれて出せるもんじゃねーよ、さっき便所に立ったばっかだしよォ!《と、土方は叫び返して、「俺と同じ条件でやりてえっつーなら、俺は寝るからテメーは俺が寝てから何とかしろ《と、また布団に戻ろうとした。
「それってお前が完全に寝こけてるとこを見計らって、ぬるま湯用意して手ェ浸して、お前が漏らすまでチンコ咥えてスタンバってろっつーことか?!なんだよそのプレイ、特殊すぎんだろ!《と、銀時がカクガク土方を揺すってみれば、「知るかァァァ!つかプレイじゃねーんだよ、プレイだったら勃起したって何の問題もねーだろが!《と、土方は銀時へと右ストレートを繰り出す。っぶね、と辛くもそれを避けて、クッソ、と舌打ちした銀時は、「…じゃあひとまずザーメンで我慢すっから足開け、ほれ《と、土方の膝を割った。土方が射精した後、「じゃ、まあ一応チンコから出るもんも飲んだわけだし?俺よりお前の愛の方が深いってことで良いな。足腰立たなくなったら面倒見てやっから、末長くよろしく《と、銀時は満足そうに頷き、土方を抱きしめて横になろうとしたが、「待ちやがれ《と今度は土方の手がそれを止める。
「んだよ、まだ何かあんのか《と、銀時が大あくびと共に尋ねれば、「その結論には紊得いかねえ。精液なんざ、俺ァ毎回受け止めてやってんだろが《と、土方は真顔で言った。いや、うん、たしかに今夜もさんざんしましたし、途中でゴム足りなくなって中出しもしましたけど。そういや後始末忘れて寝ちまったから、土方が自分で掻き出したんじゃないかって気もするけど、それはさあ、今言うことじゃないよね?フェアじゃないよね?
唇を尖らせた銀時だったが、「ちょっとそこ座れ《と土方が畳みを指すので、おとなしく正座を作る。同じく正座を作って銀時と顔を突き合わせた土方は、「何の相談もしなかったのは悪かったがな、俺はこれでもちゃんとテメーを思ってこれに踏み切ったんだよ。何に腹ァ立てたか知んねえが、セックスの延長にすんな。たとえテメーが勃たなくなっても、俺はちゃんとテメーの面倒見てやんよ《と、切々と語った。それから、「あとなァ、テメーがどうしてもっつうなら、俺だって飲、…飲めねえこたァねえ《と、顔を真っ赤にした土方が続けるので、「嘘付け、お前俺の咥えてくれたこともねーじゃん《と、銀時は思わず全力で否定する。
「直接チンポに口つけんのと、の、飲むのとはまた別の話だろ!《と、耳まで赤い土方は叫んで、「これなら飲める《と、すっかり放置されていた屎瓶とその中身を指した。いやちぃっと待て、と一瞬呆気にとられた銀時だったが、小便はいいのにチンコは口に入れたくねえのか、そんなに汚ェと思ってんのか、と完全な汚物扱いにイラっとして、「ああそうかよ、そんな言うなら飲んでみろよほら《と、土方の手に屎瓶を押しつける。ごく、と息を飲んでから、「男子に二言はねえ。ただし条件がある《と土方が言うので、「んだよ《と銀時が土方を睨みつけるようにすると、「テメーも飲め《と、完全に血走った眼で土方は答えた。「ちょっと待って、その条件はおかしい《と、さすがに銀時が情けない声を出せば、「あん?テメーいつだったか糖尿だから便器から甘い匂いがするだなんだ言ってたじゃねえか。自分の膀胱から糖分が摂取できるなんざ、最強のエコだろ《と、やはり凶悪な目で土方は言う。

「それとも何か?グダグダ言ってたわりに、テメーで飲めねェようなもんを俺に飲ませようってか?そんなんで介護云々語ってたのか、とんだお笑い草だな《と耳障りな音で土方に嗤われた銀時は、「ハァァァ?!!俺のチンコも咥えられねーようなプチ潔癖の癖に良く言うぜ!あーあーわかった、わかりましたよ、もともと俺から出てきたもんだからな、俺だって飲んでやるよ。半分ずつな!《と、屎瓶をぐっと握りしめ、注ぎ口…と言うか何と言うか入口?に口を当てようとしたが、微妙な生温さと視覚的な問題で、なかなか先へ進めない。
「んだ、やっぱ口だけかよ《と、盛大な溜息を吐いた土方に、「いや、あのさ、やっぱこうこれって、このままじゃ飲み物って感じには…なんねえじゃん《と、銀時が言うと、「じゃあどうすんだよ《と、土方は首を反らして銀時を見つめた。お前もちょっとは考えようとしろよ、と思いつつ、銀時が素っ裸のまま立ち上がれば、「おい?《と土方が訝しげな声を出すので、「コップに入れたら、ちったあマシになんだろ《と、銀時は返す。一瞬土方は忌々しげに目元を歪めたが、「やっぱできねーの?《と、銀時が振り返ると、「なわけねえだろ、さっさと注げ《と、尊大に言い放って、台所までついてきた。そこまで多くない真夜中の小便は、小さめのグラス二つでちょうど空になる。銀時が無言で一つを手渡せば、土方は何とも言えない表情で受け取って、「…ぬるい《と言い放った。
ぐずぐずとグラスを玩んだ挙句、「氷《と銀時が水を向けると、「そうだな、冷たくなりゃ喉越しも良くなるかもしれねーし《と土方も頷いて、冷凍庫から取り出した氷を二つずつ放り込み、「やっぱ、座って飲むべきだよな《と、ソファへと向き合って腰を下ろす。が、やはりどうしても口を付けることはできず、時計の針が半周した辺りで、沈黙に耐え切れなくなった銀時が、「だァァァ!!いい加減にしろよお前!どんだけ意地張る気?!飲めねーだろ、こんなんしたって小便だぞ!!?正直これならまだ直接口付ける方がノリで行けるわ!つかこのコップ共用なんだよ、明日このコップを使うかもしれない神楽と新八の気にもなって見ろや!!《と叫べば、「それはこっちの台詞だ!!なんなの、普通テメーの小便飲めって言われた時点で断んだろ、何普通に流してんだよ!!氷とか馬鹿じゃねーの?!引くに引けなくなんだろが、あとコップなんか俺がいくらでも買ってやるわァァ!!《と、土方も激昂して立ち上がった。

「大体なあ、俺は!さっと尿だけ取って!そんで即寝る予定だったんだよ!なんでこんな茶番に付き合わされてんのかさっぱりわかんねーよ、飲みたいのか?ほんとに飲みたかったのか?!なに怒ってんだテメーは!!《と、コップを叩きつけながら言った土方に、「そっ…れは、お前が俺のチンコを粗雑に扱うから!《と、銀時が勢いで返してしまえば、「俺がいつそんなことした《と、土方の目がさらに鋭くなる。「いつって、だってお前一度もフェラしてくれたことねーじゃん!チンコ握ってくれたのも数えるくらいだろ?!なのに尿瓶は使えるって、お前俺のチンコより小便の方がマシだと思ってんじゃねーの?!!《と、銀時が吐き出すと、「何曲解してんだこの馬鹿!馬鹿!ばァーーか!《と、土方は力を込めて、「フェラしたら口に出されんだろが!俺は一度でも多く中に出されてぇんだよ、言わせんな馬鹿!《と続けた。
はっ?と小便を手にしたまま呆けた銀時を前に、土方はどさっとソファへ沈み込むと、「もういい、テメーがそういうつもりなら、今夜はここで寝てもう二度と来ねえ。良かったな、介護もナシだ、もちろん飲尿もな《と、銀時から顔を背けて横になる。待て待て待て待て!と、それでは治まらない銀時は、零しそうになったコップをもどかしくテーブルに預けて、土方の背に手を掛ける。「触んな《と土方は言うが、「触るに決まってんだろ、斜めに上にデレやがって。何?なにかあった?あったんだよな?《と、銀時はぎゅっと土方を抱き締めた。
「…この間、隊士の見舞いで病院に行ったとき、…休憩所でちらっと聞こえたんだよ。旦那には女遊びで散々泣かされたけど、でも今、旦那のシモの世話ができるのは私だけなんだ、っつうような会話がよ《と、土方はポツリと言う。「テメーに今女がいるとか、そんな話はしてねえ。いようがいまいが、俺にはどうしようもねえ話だしな。でも、いつかテメーがよいよいになって、そうじゃなくても背骨でも折って、どうしようもねー状態になった時、支えてやれんのが俺だったらいいって、そう思っちまったんだよ。悪かったな、気持ちの悪ィ話でよ。もう二度と言わねえから安心しろ《と、最後はほとんど聞き取れない声で続けた土方に、「お前ほんっとに、…俺のこと好きなんだな《と、銀時がしみじみ呟けば、「悪ィか《と、開き直ったように土方は返した。なんにも悪くねーよ、と土方を抱く腕に力を込めて、銀時は告げる。

「でも、俺だってお前のこと愛してんだよ。お前に飲ませようとは思わねーけど、お前の小便ならほんとに飲めるよ、たぶん。もちろんシモの世話だってしてやりてェ。お前が俺に、で、そこで切るな。俺からお前に、もちゃんと受け取ってくれ。今みたいなことも、ちゃんと言ってくれたらわかるから、お前一人で解決しようとすんな。尿瓶だってオムツだって、練習してーならちゃんと協力すっから。あと、お前以外にしてもらうつもりはねーから《
だんだん何を言っているのかわからなくなってきたが、土方の憂いがそこに在るなら、それを解消してやるのが銀時の務めだろう。しばらく押し黙っていた土方が、「それは、テメーがダメになるまで俺と一緒にいるってことで、良いんだな《と小声で言うので、「なってもならなくても、ダメになる前に死んでも、オメーが嫌がっても、何にしてももう離してやんねー《と、銀時は土方の耳に口を寄せた。そうかよ、と返した土方が、ようやく肩の力を抜くので、素っ裸の銀時はもぞもぞとソファに乗り上げて、土方が羽織っていた銀時の着流しを奪う。
「おい《と声を上げた土方に、「もう四時だぜ。いいから、もう黙って寝ろ《と、言いながら銀時が着流しを頭から被れば、「狭い、重い、痩せろ《と銀時を罵りながら、土方はぎゅっと銀時の首に腕を回した。疲れるんじゃねえかな、と思ったが、なんとなく幸せなので、銀時も土方を抱きしめて目を閉じる。明日も一日万事屋は開店休業だし、土方も非番だ。コップと尿瓶の始末は明日でいいだろう。そうして、土方が嫌がらなかったら、起き抜けにまたチンコを咥えてやろう。何を飲むかは土方次第である。もぞ、と銀時の首に擦り寄った土方が、「次、入院したら尿瓶もって押しかけてやる《と言うので、「その時はナースでお願いします《と、銀時は即答した。「わかった《と安請け合いする土方に、マジで?と銀時は飛び上がりそうになったが、「その代わり、俺が入院したらテメーがナースな《と土方が続けるので、数十秒悩んだ挙句、「…わかりました…《と、銀時が苦々しい声を出せば、土方はごく明るい声で笑った。土方が楽しそうなので、ああ本気なんだな、と銀時は思ったが、まあそれも悪くなかった。

余談になるが、件のコップは粉々にして次の燃えないゴミに出した。欠けた食器に新八は首を捻っていたものの、翌週土方が四個セットのグラスを持ってやってきたので、それ以上追及はされなかった。ついでに、尿瓶は綺麗に洗って銀時の押入れにひっそりとしまわれた。それきり、使う機会は無かった。


( 重ね重ね申し訳ありません / 坂田銀時×土方十四郎 /131116)