レンタルラヴァー:05

スイートルームでそう甘くもない夜と昼を過ごし、少なくない報酬を確認した翌日、銀時は懐にいくらかねじこんで、吉原へ向かった。昼間から出歩くことに関して、また神楽に何か言われるかとも思ったが、土方がいなければどうでも良いらしい。卵かけご飯も毎食食い放題だしな、と毎食ちゃんとおかずが付く最近の食卓事情を思い返しながら、銀時はぶらぶら坂を下って、今は完全に解放された朱引きの大門をくぐる。訪れたのは、晴太が番をする店だった。
「邪魔するぜ《と、銀時が入り口から声をかけると、「あっ、銀さん《と、子どもらしい素直な笑顔で晴太は振り返る。両手にえげつないものを握る晴太の姿は、自他共に認めるマダオな銀時でもどうかと思うが、いろいろな意味での自立を促す教育方針なのだと言われたら口を挟む余地はない。それに、晴太がいるからこそできることもある。
「どうしたの?月詠姉ちゃんなら今は見回りだよ《と、寄ってきた晴太の頭を軽く撫で、「今日はここに用があんだ、ちゃんと金は払うからサービスしろよ《と、銀時が言えば、「恋人と使うの?《と、晴太は返した。「馬ァ鹿、ただの仕事道具だ《と、答えた銀時が二、三歩店の中へ踏み出したところで、「やだなあ銀さん、水臭いんだから。銀さんに男の恋人が出来たって、吉原じゃもう皆知ってるよ?《と、背後から晴太の声が突き刺さって、銀時は足を止める。「今なんて言った、晴太くん?《と、銀時がぎこちない動作で振り返れば、「だから、銀さんに彼氏が出来たんでしょ《と、曇りの無い目で晴太は重ねた。
「おま、おまっ、お前、それ誰からァ?!《と、銀時が思わず晴太の腕を掴むと、「誰からって言うか、吉原は情報の街だから、上であったことが流れてくるだけで…でもちゃんと聞いたのは、母ちゃんと月詠姉ちゃんからだよ《と、晴太は言う。マジか、と漏らした銀時は、額に右手を当てて俯いた。薬指に光る指輪については、正直ノーコメントを貫きたい。
そりゃまあ、別に隠してはいなかったよ、俺もアイツも顔が広いのは仕事柄だし、むしろどこかの誰かですら知ってるような関係になるのが目的だったよ。でもこんなふうに知り合いの口から聞かされると、わりとキッツいんですけど?!これ来月末になっても簡単には払拭できそうにないんですけどォォ?!と、銀時が顔を赤くしたり青くしたりして唸っていれば、「大丈夫だよ銀さん、今さら銀さんが男好きだろうが何だろうか、吉原では誰も差別しないよ。ほら、こんなのはどう?《と、晴太が差し出したおもちゃには、『初心者用八連アナルビーズ、柔らか素材でアナルを傷つけません!便利な個包装ゼリー四袋付』などと書かれている。
「他にもアナルプラグとかローターとか、バイブもアナル用が良いと思うよ。あっ、もしかしてもうこんなんじゃなくて、こっちだった?拘束衣とバラ鞭と蝋燭のセットとか、尿道バイブ?《と、晴太の勧める商品がろくでもないものになっていくので、「お前の中で俺ってどういう存在ィィ?!そんなもん出したら冗談じゃなく切り刻まれるわ、何がってナニが!《と、銀時は大声で突っ込みを入れてから、「…最初に見せてくれたアナルビーズと、そのバイブと、良い感じのローションとコンドームくれ《と、銀時は言った。「コンドームはこれがイイらしいけど、数はどうする?グロスで?《と、可愛らしい色の箱を見せた晴太に、「ダースで《ともういろいろ諦めた銀時は告げて、最後に「…あと、全部二つずつください《と付け加える。
商売人の顔で会計を済ませた晴太は、これオマケ、と小分けのローションとコンドームをいくつか一緒にして黒いビニール袋で包んでから、無地の紙袋に入れてくれた。「手慣れてんな《と、銀時が言えば、「こういう店は守秘義務が売りだからね!オイラも、銀さんが何を買ったかは母ちゃんたちにも言わないから《と、晴太は誇らしげに銀時を見上げた。「あー、それは助かるわ。ありがとな晴太《と、どっと疲れた銀時が七割死んだ目で言うと、「がんばってね銀さん!《と、晴太が店の外まで銀時を見送ってくれるので、銀時は緩く手を振る。早く帰りたかった。

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四日後、いつもの居酒屋で顔を合わせた夜に、「最近見かけねえな《と土方が言うので、「仕事の下準備が忙しくて《と、銀時はそっと目を反らす。「まともに働いてたんなら、呼び出さねえ方が良かったか?《と、ほんの少しだけ目を細めて煙草を咥えた土方に、「いんや、もう終わったから気にすんな。それより飲もうぜ《と、銀時が徳利を傾ければ、「おう《とまんざらでもない顔で土方は盃を手に取った。色づき始めた土方の頬を眺めながら、銀時はそっと足元の紙袋に触れる。中身は何かと言われたら、もちろん先日購入した大人の玩具である。
それなりに楽しそうな顔でワカメサラダ(元は中華ドレッシングが掛かっていたが、今となってはマヨネーズの匂いしかしない)を突く土方の声を適当にやり過ごし、銀時は砂を噛むような気分で揚げ出し豆腐を口にした。今日の約束は二十時から十二時間で、やはりどう考えてもご宿泊コースである。もろもろ準備はしてきたわけだが、正直気は進まない。土方の目的が単純にセックスだと言うのなら、数日前の挿入で一応の目的は達成できている。それ以上のことは銀時が勝手に宣言しただけで、土方からは何の答えももらっていなかった。土方との接触があの一夜で終わりなら、銀時の四日間は何としても闇に葬らなければいけない。
悶々とする銀時に、「どうした、酒が進んでねえぞ《と土方は言う。二人掛けのテーブルに通されたので、今夜は手も繋いでいない。おかげで、両肘をついた土方の右手薬指にも銀時と同じ銀色の光が見えて、銀時はますますいたたまれなくなった。ぎゅっと膝の上で拳を握った銀時が、「あんま呑みすぎっと、あとが困るからな《と、努めて適当に笑えば、「あと?《とやはりマヨネーズまみれの牛タタキを口へ運びながら、土方は首を捻る。土方にそのつもりがないのか、それとも銀時が遠回りしすぎなのか、じれったくなってきた銀時は、思い切り身を乗り出して土方の耳元に口を寄せた。
「途中で中折れしたら困んだろ《
一言だけ告げて、ついでにフッと耳に息を吹きかけて銀時が椅子に戻ると、土方は箸の先を咥えたまま銀時を見つめている。先ほどまでよりいくぶん鋭い視線は、でもいつもの土方を思えばまだ柔らかい。どっちだ。あとで殴られるのか、それとも今ここで張り飛ばされるのか。どちらにしても殴られることは回避できない気がする、と銀時が土方の動向を見守っていれば、思いがけず土方は、くっ、と小さな笑いを落として、「赤くなるか青くなるかどっちかにしろよ《と言った。へっ?と間の抜けた声を上げた銀時に、「テメェみてーな体力馬鹿が、多少飲んだ程度で勃たなくなるとは思えねえな。そもそも、この間もさんざん飲んでただろが《と土方が続けるので、「あの、じゃあやっぱり今夜も試してみるってことで良いんでしょうか《と銀時が畏まると、「なんで敬語だ《と、土方はまた少し笑う。それから、「テメェがそのつもりならありがたい《と、土方は目を反らさずに続けた。
気の抜けた銀時が、あからさまにほっとしたような溜息を吐くと、「お前、ずっとそんな事でそわそわしてたのか?《と、言いながら土方は銀時の杯に酒を注ぎ、次の徳利を注文する。「だって、俺から言えるような話じゃねえだろ《と、銀時がちびちび酒を啜れば、「言えよ。少なくとも今は、恋人同士だろうが《と、土方は狭いテーブルの上で銀時の手を握った。銀時の指を柔らかく撫でた土方が、「ちゃんとしてくれてんだな《と、薬指の指輪を突くので、「お前だってしてんじゃねえか《と、銀時も土方の指に触れる。時給の分だけ、と土方は言ったが、一度外したら最後だと思ったので(どこへ行くかわからない)、銀時はあれから一度も外していない。せいぜい風呂で少し緩めて、指を洗う程度だ。どこからどう見てもペアリング以外の何物でもないそれは、もうすっかり銀時に馴染んでいた。

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二軒目で飲みを終わらせたふたりは、いつもよりずっと早い時間に(といっても十時は回っている)ラブホへとなだれ込む。どちらもある程度酔ってはいるが、これから何をするかがわからないほどではない。オートロックのドアが完全に閉まってから、「もう一度確認するけど、また俺が突っ込んでいいんだな?お前が俺に挿れんじゃなくて、いいんだな《と、銀時が尋ねれば、「何度も言わせんな。テメェにそこまで求めねえっつったろ《と、安っぽい照明の下で土方はきっぱり頷いた。「お前さあ、そういうとこマジで男前だよな《と、銀時は素直に感心したが、「馬鹿なこと言ってる暇があったら、さっさとシャワー浴びて来い《と、土方はベッドに腰をおろして、カチリと煙草に火を点ける。今夜ばかりは、土方の気遣いがありがたい。「そんじゃま、お先に《と、紙袋を手に風呂場へ向かった銀時は、手早く身体を洗うと(股間と手は特に念入りに)、バスタオル一枚で土方と交代した。「ごゆっくり《と、銀時が意図を込めて囁けば、「良い子で待ってろよ《と、土方は軽口を叩いて風呂場の戸を閉める。
ダブルベッドの端に座った銀時は、水音が聞こえるのを待って、ずっと持ち歩いていた紙袋の中身をばさっとシーツにぶちまけた。目に痛いショッキングピンクのアナルビーズと、それほど太さはないアナル用のバイブの包装を剥がし、風呂場で絞ってきたタオルで丁寧に拭き上げる。本当はしばらく湯に浸けると良いのだろうが、そこまでの余裕はなかった。コンドームの箱を開け、ローションも一度蓋を外して、中身に異常がないことを確かめる。ぬるぬると無色透明な粘液を指先で遊ばせた銀時は、濡れタオルでローションを拭ってから、腰に巻いていたバスタオルをシーツに敷くと、全ての道具を並べて、土方を待った。全裸で正座を作ったのは、銀時なりの誠意である。伝わるかどうかはわからなかった。
しばらくして、先ほどまでの銀時と同じように、タオルを巻いただけの姿で戻ってきた土方の第一声は、「領収書を寄こせ《だった。ぶわっ、と溜めていた息を吐いた銀時が、「もうちょっと何かねえの?怒るとか照れるとか、それをどうすんだとかさ《と、ヘラリとした口調で言えば、「何に使うかくらいはわかるし、そんなもんで恥ずかしがるような年でもねえよ《と返しながら、土方もベッドに乗り上げて、「まあでも、テメェが良く準備したとは思う《と呟く。「この間約束しただろ《と肩を竦めた銀時が、「半分で良いから《と財布から出した領収書(宛吊は上様だ)を渡せば、土方は薄く目を細めて、「…なんで、同じもんを買ってんだ?《と、上可解そうな声で言った。やっぱそこ突っ込むよなァ、と思った銀時は、わけもなくガリガリ髪を掻くと、「だから、下準備してたっつったろ《と、土方から目を反らして俯く。
土方の視線が刺すように鋭くなったかと思えば、「テメェ…どこで試してきやがった《と、険しい声を出すので、「どこの誰で試すんだよ、そこらの男娼じゃ意味ねえし、素人に声なんかかけらんねーよ!《と、銀時は怒鳴り返した。「じゃあどうしたっつーんだ《と、苛立った様子の土方に、「…かった《と、銀時は小声で言う。「ああん?はっきり喋れ、聞こえねえ《と、土方がいよいよベッドを蹴りあげそうな声で言うので、「だっから、テメーで使ったんだよ!こんなもん一度使ってみなきゃどういうもんかわかんねーし、お前を善くすんのにお前で試すわけにゃいかねーし、だったらもう俺しかいねーだろが!もうワンセット買って、今日までせっせとケツ穴でオナってたんだよ、言わせんな恥ずかしい!《と、銀時はいっそやけくそで叫んだ。
自分でも馬鹿なことを言っている自覚はあるが、後悔はない。間違っても挿れられたかったわけではないものの、この関係が始まった時から、突っ込まれるのは銀時だろうと思っていたのだ。そこまでの覚悟は無かったし、伸しかかられたら殴ってやるつもりだったが、金額を提示した以上はほぼ受け入れたも同然だった。実際、あの時はそれでも良かった。雰囲気に飲まれていたのは否定しないし、冷静だったかと言われたら首を振るが、それでも金を理由に身体を任せてもいいかと思うくらい、あの時の土方は男前だったのだ。だと言うのに、土方は銀時の予想を裏切って、青白い顔で銀時の外性器を咥えこんだ。物理的に傷ついた筈の土方は、それでも銀時へ金を振り込み、何事もなかったような顔で今夜も銀時の前に立っている。だから、そんな土方のためだから、銀時はためらいなく自分の肛門で性具を試したのだ。今度こそ間違いなく、土方へと性感を与えられるように。
クッソ、顔が熱い、と、銀時が頬に手を当てると、「テメェ、顔真っ赤だぞ《と、何でもない声で土方は言った。「うっせえ、わかってるよ《と、銀時が吐き捨てれば、「で、善かったのか《と、土方が尋ねるので、「…それなりに《と、銀時は返す。主語はないが、何を聞きたいのかはわかる。土方の視線を感じながら、先ほどまでとは別の居心地の悪さで銀時が正座の足を動かすと、「素朴な疑問なんだがな、テメェがさんざん慣らしてきたっつーなら、今さら俺を拡張するより、俺がテメェに突っ込む方が話は早ェんじゃねーのか?《と、砕けた調子で土方は言った。それも予想の範囲内だった銀時が、「…スポンサーはお前だから、お前がそうしたいっつーなら…《と、もごもご言いかければ、「馬ァ鹿《と、本当に小馬鹿にした声で土方は銀時の胸を押す。馬鹿とはなんだ、と自覚はある銀時が心もとない視線で土方を見つめると、土方の目がひどく優しいので、銀時は逆にたじろいだ。
馬鹿野郎が、ともう一度しみじみ呟いた土方は、「テメーが先に言ったんだろうが、俺に突っ込むって。自分の発言には責任を持ちやがれ《と言って、どこからともなく取り出した三百円を銀時の膝に積む。ちゅ、と啄ばむようなキスをした土方が、そのまま銀時の首に腕を回すので、「本当にいいのかよ。痛かっただろ、前回《と、銀時が土方の腰のあたりに手を当てれば、「今度は善くしてくれんだろ?テメェがそうなったみてーに《と、土方は銀時の耳元で囁いた。きゅう、とさらに熱くなった銀時は、なんだかどうしようもなくなって、「おう、天国見せてやるぜ《と鷹揚に頷く。言ってろ、と返した土方の笑顔は、それでもこの前のように強張ってはいなかった。銀時は、それがひどく嬉しかった。

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土方の首筋に唇を当てて、身体を離した銀時が、「一回抜くから、足広げてそこ座れ《とベッドの端を指すと、「いらねえよ、さっさと進めろ《と土方が言うので、「あのなあ、そう簡単じゃねーんだよ。何もない状態からケツに指突っ込んだって、ただ気持ち悪いだけだろが。一度出して理性飛ばした方が絶対早ェから、な?《と、銀時は土方の手を握って揺する。「そんなもんか…?《と、懐疑的な土方に、「絶対そうだって。この前だって、俺がお前のチンコ握らなきゃあんなことにならなかったろ《と、銀時が返せば、危ぶみながらも土方は頷いて、床に足を付けた。「これでどうすんだ《と、振り返ろうとした土方の前に回って、「お邪魔しまァす《と言いながら銀時は床に跪く。
おい?と、銀時の意図を察したらしい土方は、銀時の髪を軽く掴んだが、銀時は構うことなく土方の足の間に陣取って、バスタオルをはらりと解く。まだ乾き切らない土方の陰毛は濡れ濡れと黒く、土方の陰茎を彩った。「前も言ったけど、綺麗なチンコしてんな《と、躊躇いなく陰茎を掴んで銀時が言えば、「こんなもんに美醜はねえだろ《と、まっすぐ銀時を見下ろしながら土方は返す。「いや、あるね。なんかスゲー形したチンコも世の中にはあるんだって、お前は知らないかもしれねーけど《と、まだ柔らかい陰茎をふにふに探りながら銀時が断言すると、「…まあその皮はどうなってんだって奴は、屯所でも見かけるが《と、土方は唇に手を当てた。「だろ?ちなみにあんまりヒデーと保険が効くらしいよ《と、銀時が笑えば、「そりゃ包茎の話だろ《と、土方も緩く笑う。あれ、そうだっけ?などと惚けながら、銀時がだんだん擦る力を強くしていくと、土方の吐息に少しずつ色が混じって行った。
充分芯が通ったところで、銀時がぱくりと土方の亀頭を咥えれば、「っ…ふ、《と土方は微かに呻く。ちろりと先を舐めてから、つつつ、と舌を滑らせて裏筋をなぞった銀時は、上がり始めた双球を軽く揉みつつ、陰茎全体を強く吸い上げた。さすがに喉の奥までは使えないので、全部は入らなかったが、それでも女の口よりは深く咥えることが出来たと思う。頬を膨らませて舌を使い続ければ、「これも、テメーの下準備の賜物か?《と、土方が銀時の髪を掻き混ぜながら言うので、「や、これは今まで見てきたAVの賜物。お前がまんざらでもなさそうってことは、意外とアッチも演技じゃねーのな《と、銀時は土方を口に紊めたまま返した。喋り辛かったが、掠めた歯の感触で土方が軽く喉を鳴らしたので、銀時も悪い気はしない。
こんなものを咥える機会があるとは思わなかったし、これから先も積極的に咥えたいとは思わないが、やって見ると意外と何でもなかった。むしろ、ビクビク動く陰茎の状態がダイレクトに伝わって、わりと楽しい気がする。ちゅぱ、と一旦唇を離して、「俺、セルフフェラに目覚めそう《と、銀時が真顔を作ると、「何の話だよ《と、土方は爪先で銀時の肩を押した。ふはっ、と笑った銀時は、土方の陰茎を咥え直し、口を窄めてスロートを繰り返す。根元を締める指にも緩急を付け、空いた指でさわさわと陰毛や足の付け根を撫で回せば、土方は一瞬太股を閉じて銀時の頬を挟み、すぐに開いた。綺麗に筋肉の乗った太股の感触が、予想外に気持ち良くて、もう一度してくんねえかな、と銀時は上目づかいで土方を見上げたが、片手で口を押さえた土方の顔を見た瞬間、土方の限界が近いことを知る。女だろうが男だろうが、整った顔が欲情しているとそれなりに来るものがある、と銀時の陰茎もしっかり勃っていることを感じながら、銀時は土方の尿道からにじみ出る液体をぬるぬると陰茎全体に塗りこめ、土方と呼吸を重ねた。荒い息を吐く土方が力を抜く瞬間を狙い澄まし、銀時が一際強く亀頭を吸い上げながら陰茎の根元を押さえていた指を外せば、土方はくぐもった声とともに、銀時の咥内に射精する。
そのまま喉には送らず、舌に吐き出された粘つく精液を掻き取ってから、「お疲れ《と銀時が床に腰を落とすと、「ゴム、付け忘れたな《と、土方は柔らかい声で返して、銀時の唇の端を指で拭った。「いや、それはわざと。ゴムくせえの嫌だったから《と、勃起した股間をさりげなく隠しつつ、銀時は数枚のティッシュでてのひらを拭う。しっとりと汗ばんだ土方を振り返り、「んで、どうよ《と、銀時が首を捻れば、「どうって《と、ベッドに足を引き上げながら土方が問い返すので、「その気になった?《と、銀時は含み笑いを落した。醒めた目で銀時を見返した土方は、「ちょっと来い《と、犬を呼ぶような手で銀時を手招く。銀時が素直へと顔を寄せれば、土方はまた手品のように銀時へと三百円を握らせて、「俺は最初からその気だ《と、唇が重なる距離で言った。
深く、柔らかく舌を差し込んでから、「お前のザーメン味だったけど、いいのかよ《と、息継ぎの合間に銀時が零せば、「テメーも舐めただろうが《と、土方の答えはひどくそっけない。銀時自身は、味が気になって自分の精液を舐めたこともあるが、土方はどうなのだろう。聞けば答えてくれそうな気もするし、逆に殴られそうな気もしたが、どちらにしてもそれは今すべきことでは無かった。すっかり熱くなった土方の身体から一度離れて、銀時が性具とローションとコンドームを引き寄せると、土方は軽く溜めていた息を吐く。「意外と入るモンだったし、意外とイけたから《と、銀時が場を和ませようとしてみれば、「それはテメーに素質があるってことじゃねーのか?《と、土方は薄く笑って言った。
ぐ、と一瞬言葉に詰まった銀時が、「や、こういうのってちゃんと計算して作られてるわけじゃん?上感症ならともかく、健康な人間ならきっとどこかに感じるツボがあって、そこを押してくれんだよ。だから大丈夫だ、お前もすぐこっち側の人間になる《と力説すると、「何も大丈夫じゃねえよ《と、土方は呆れたように銀時の腕を取って、てのひらを自分の頬に押し当てる。「…でも、大丈夫にしてくれんだよな《と、続いた土方の声がはっきりと熱を孕んでいるので、「ど、…努力します《と、銀時が居住まいを正せば、「過程じゃなくて、結果で示せ《と、土方は言って、銀時の手にローションを握らせた。夜はまだこれからだった。


( 寸止め。 / 坂田銀時×土方十四郎 /131108) ←前の話