ハード・デイズ・ナイト

その日、銀時は朝から浮き足立っていた。怪訝な顔で銀時を遠巻きにしていた万事屋の子供達は、暦を確認してようやく今日が十月十日、銀時の誕生日だと言うことを思い出す。これまでは、銀時の方が数週間前からケーキが食いたいパフェが食いたいパチンコに行きたいと騒ぎ立てるものだから(いつものことだが)、できる範囲で祝っていたのだが、今年はまるでそれが無かったので、忘れていたのだ。銀時はこれでいて、記念日を大事にしている。誕生日を祝ってもらった新八は、神楽とばつの悪そうな顔を見合わせると、「銀さん、誕じょ…」と言いかけたのだが、その瞬間がばりと銀時に抑え込まれて息をのんだ。「馬鹿、止めろ、言うな!」と叱責する声はひどく鋭くて、抱き込まれた新八は身をすくめる。「銀ちゃん?」と戸惑ったような神楽に、「どこで誰が何聞いてるかわかんねーだろ。今日が終わるまで、もう何も言うな。っていうか俺今から出かけるから、お前今日は新八の家に泊まりな。これで酢昆布でも肉まんでもフライドチキンでも買ってもらえ」と、銀時は言って、新八に五千円札を握らせた。万札でないところが物悲しい。「ぎ、銀さん?」と、新八はずれた眼鏡を直しながら銀時を見上げたが、「まあ、だから、うん、今日一日俺はいないってことで、万事屋は休業だ。また明日な!」と、言い募る銀時に気圧されて、はい、と頷く。よし、と真剣な顔で頷き返した銀時が、いつもと同じ姿で家を出る姿を見送りながら、「…もしかしてどこかで祝ってもらうのかな、銀さん」と新八が呟けば、「良いって言うんだから、ほっとけばヨロシ。定春、フライドチキン買いに行くヨ!」と、神楽が傘を手にするので、待ってよ神楽ちゃん、と新八も後に続いた。

万事屋を出た銀時は、どこへ行っても顔なじみに出くわすかぶき町の喧騒を抜け、人気のない河原に落ち着いた。銀時は、木刀を引き抜いて傍らに置くと、手枕でごろりと寝転がる。十月の風は少しばかり冷たいが、陽が落ちるまではここにいた方が良いだろう。新八と神楽を辛くもかわしきったのだから、おそらくは大丈夫だと思うが、銀時は自分が悪目立ちすることを良く知っていた。大丈夫、今日まで何の音沙汰もなかった土方のことだから、きっと何の問題もない。この日のために、銀時は半年間の沈黙を守ったのだ。今夜への期待にこみ上げる笑みを押さえながら、銀時は幸せな気分で目を閉じる。約束の時間まで、あと五時間だった。

十九時ちょうど、初めての店で土方と落ち合った銀時は、土方が銀時に何も言わず、何も持っていないことに気を良くして、「お前はそういうところがお前だよな!」と上機嫌で土方の背を叩く。「痛ェよ」と、土方が無造作に銀時の指を掴んで逆に曲げるので、「あっすんまっせん調子乗りました離してくださいィィ!!」と、今まさに折られかけた指を救出した銀時は、それでも笑顔で土方の盃に酒を注いで、「乾杯」と酒杯を打ち鳴らした。熱燗が美味くなる季節である。新八がどうの、神楽がこうの、沖田がどうの、真撰組がこうの、だらだらと飲続ける間に土方も薄ら笑い出して、今夜はいい夜だった。頃合いを見て店を出た銀時は、土方と連れ立って宿へと足を進める。定宿と言う程通い詰めているわけでもないが、お互い顔が売れている身なので、人目を気にせずすむ裏通りのラブホテルは使い勝手が良い。いざとなれば裏階段から逃げられるところもポイントが高かった(一度やったことがある)。特に変わりばえのない部屋を選び、鍵を取った銀時に、「煙草買うから、部屋の前で待ってろ」と土方は言う。「おう、迷子になるなよ」と手を振った銀時の頭を一つ殴って、「なるか馬鹿」と首をすくめた土方は、いつもと同じ顔をしていた。本当に、いつもと同じ顔だったのだ。だから、銀時はそこまで本当に幸せだったのに。

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二十二時過ぎだった。ベッドの上で正座した銀時の前には、小さめの白い箱が置いてあり、中にはカットケーキが四つ収まっている。いちごのショートケーキが二つに、チョコレートケーキとチーズケーキが一つずつ。誓って言うが、土方を待っていたのはほんの二分足らずで、こんな場末のラブホ街周辺にケーキ屋は存在しない。「ナニコレ」と、銀時が抑揚のない声で尋ねれば、「見てわかんねーのか、ケーキだろ」と、何でもない顔で土方は返して、銀時にビニール袋と紙袋を二つずつ手渡す。「…なに、これ」と、もう一度銀時が尋ねると、「プレゼント」と土方は答えた。小さいビニール袋からは、コンビニのどら焼きと芋ようかんと大福といちご牛乳が現れ、「好きだっつっただろ」と言う土方の言葉通り、これはラブホで飲むビールを買う時、何度か買ってもらったものである。大きなビニール袋からは大量の板チョコをはじめとした駄菓子が現れ、「ちょっとずつ食えよ、そんでガキ共にも分けてやれ」と、土方はマヨボロに火を点けた。大きな紙袋からはいかにも高級そうなクッキーとチョコレートの詰め合わせが現れ、「そりゃケーキと同じ店で買ったもんだ。テメーが好きそうだったんでな」と、土方は携帯灰皿の灰を備え付けの灰皿に落としながら言う。最後に、小さな紙袋から現れたのはゴーグルで、「この間事故って割ったとか言ってろ。新しく買ったかもしれねーが、どうせまた壊すんだろうから予備にでもしやがれ」と、土方は大きく煙を吐いた。
ぎゅっ、とシーツを握り締めた銀時が、それでも一縷の望みをかけて、「土方、なんで今日、俺にこんなものくれんの?」と、土方を見つめれば、「何って」と土方はそこで言葉を切って、「先に言って欲しかったのか?」と、銀時の顔を面白そうに眺める。やっぱり言わなくていい、と首を振りかけた銀時の声より一瞬早く、「誕生日、おめでとう」とごく低い声で土方は言った。言われてしまった。固まった銀時をどう思ったのか、土方は軽く笑って、「んだよ、ずっと上機嫌だったのはさんざん祝われたからなんだろ?何驚いてんだ」と銀時を小突いたが、銀時は動けない。甘味に囲まれたまま蒼白になった銀時が、「…なんで?俺、お前に誕生日の話なんか一度もしてねーよな?誰かから聞いた?誰から?」と、絞り出すような声で言うと、「テメーが何度捕まってると思ってんだ」と、呆れたような声で土方は返す。「免許証で一発だろ」と、続けた土方に、「だから!なんでそんなことをお前が覚えてるかって聞いてんだよ!!俺は、お前に俺の誕生日が伝わらないようにって、半年前からずっと隠してて!そんでお前もさっきまで何も言わなかったから、ああ無事にやり過ごせたんだってすげーほっとしてたのに!なのに、なんだよコレ、どこから出したんだよ、こんなもん!!」と、銀時がわめくと、土方は瞬きひとつ間を開けて、「ここのフロントっつーか、管理人室にねじ込んどいた」と答えた。
それから、「そんなに俺に祝われたくなかったか。つーか、テメーは俺の誕生日にマヨネーズ寄越しただろが、何が不満だ」と、土方が言うので、「違ェよ、祝って欲しかったよ、めちゃくちゃ祝ってもらう気満々だったよ、俺の誕生日を知らないお前に、形のあるプレゼントの代わりとして『好きだ』って言ってもらうつもりだったんだよ、なのにこんな、こんなたくさんもらっちまって、もうこれ以上要求できねーじゃねーか!どうすんだよこんなに、俺どうやって返すんだよ!!?こんな、こんな嬉しいのどうしたってお前に返せねーよ。ケーキ四つ食っていいのかよ!」と、銀時はぐちゃぐちゃになりながらシーツを掴む。
そうなのだ。銀時は、半年前、なし崩しで土方と関係を持った時から、ずっとある計画を練っていた。土方が銀時を愛していないことは明白だが、しかしある程度の愛着はあるように見える。だから、誕生日というネタをダシにしたベッドの中でなら、戯れのように言ってくれることも、もしかしたらあるのではないかと、半年間ずっとそれを楽しみにしてきたのだった。その間にまあなんやかんやあってベッドインすら収束しそうになったことを思い出せば、これが最初で最後のチャンスだろうと、銀時はずっと息を詰めるように周囲の意識から銀時の誕生日を取り覗いたつもりだった。だというのに、まさか本人が、土方自身が銀時の誕生日を知っていて、今日がそうだと言うことを忘れず、しかもプレゼントまで用意した上にそれがサプライズなどと、誰が予想できただろう。どうしよう、立ち直れない。土方に、好きだと言ってもらえる、唯一のチャンスだったのに。
いっそ泣き出しそうな銀時に向かって、ひどく面倒くさそうな顔をした土方が、「好きだ」と投げやりな声を上げるので、「違うの、そういうんじゃなくて、もっと演技でいいから感情込めて言って欲しかったの、そういう風にお願いしたかったの、付け込みたかったの」と、銀時は首を振る。好きになって欲しいなんて言わないから、好きだと言って欲しい。これも重い話だろうか。重くても構わないと土方は言ったが、しかしそれも度が過ぎればどうなるかわからない。どうしよう、こんなに好きなのに。「…おい」と、声を掛けた土方に、「なに」と顔を上げずに銀時が返すと、「感情はこれ以上込めようもねえがな、それでもこれは、テメーのために俺が選んだんだ」と、土方はシーツに散らばる様々な甘味を指す。
「テメーはこれ全部より、嘘でしかねえ言葉の方が嬉しいのか?」と、続けた土方は、ショートケーキをひとつ取って、添えられていたプラスチックのフォークをいちごに突き刺した。口元に差し出されたいちごと、土方の顔を交互に見詰めた銀時が、かぷりといちごを咥えて、「…美味い」と呟けば、「当然だろ」と土方は返す。手渡されたケーキを手づかみで頬張った銀時が、「美味い。スゲー美味い。ありがとう、土方」と重ねると、「さっさと食っちまえ。それが空にならねーとできねえだろ」と、土方は二本目の煙草に火を点けつつ、銀時の唇から生クリームを掬って舐めた。少し考えて、「あーん」と銀時がショートケーキの一片を差し出せば、土方が嫌な顔一つせずにフォークを咥えるので、「お前、甘いの嫌いなんじゃねーの?」と銀時は首を捻る。「別に嫌いじゃねーよ。テメー程の量は食えねーが、そのサイズのケーキくらいなら」と返した土方と、箱の中身を見比べた銀時が、「もしかして、ショートケーキは俺とお前の分?」と尋ねれば、「さあな」と、面白くもなさそうな顔で土方は顔を背けた。「テメーが四つ食えるんなら、その方がいい」と土方が手を振るので、銀時は三種類四個のケーキを瞬く間に食べ終えて、「ごちそうさま」と土方に手を合わせる。
「俺が作ったわけじゃねえよ」と、かすかに目を細めた土方の手を取り、「でも、お前が買ってくれたんだ。嫌いじゃねえだけの俺のために」と、銀時が耳元で熱を込めると、「相変わらずテメーは、ろくでもないことしか覚えてねえな」と、土方は溜息交じりに銀時の背に手を回した。熱い手をしていた。

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二十三時過ぎだった。全ての甘味を薙ぎ払おうとした土方をすんでのところで止め、鏡張りのヘッドボードに移動させた銀時は、土方の着流しの両脇にずぼっと腕を突っ込む。そのまま銀時が土方の胸に顔を埋めれば、「くすぐってェよ」と、土方が遠慮のない手つきで銀時の髪をかき混ぜるので、銀時は頬ずりしながら土方の匂いを目いっぱい吸い込んだ。しなやかな筋肉が乗る土方の身体は、細身だが固すぎなくて気持ちが良い。アレだ、枕だってあんまり柔らかすぎても寝辛いわけで、抱き心地の良さにだって好みがある。その点土方はひどく優秀だった。銀時が思い切り抱きしめても、壊れたりしない。「いや、テメーが全力で掛かってきたら背骨折れるから止めろ」と、銀時のだだ漏れな心の声に突っ込みを入れた土方が、「いいからさっさと脱げ、俺にも触らせろ」と銀時の襟を引っ張るので、銀時はほんの少しだけ土方から離れて、ばさばさ着物を脱ぎ捨てた。いまさら恥じらいも何もない。土方は、銀時の身体とセックスだけが気に入っているのだ。そこが辛い時期もあったが、土方は銀時が土方を好きでいても構わないと言ってくれた。だとすれば、銀時は全力で土方を満足させるべきだろう。
ばさっ、と勝負下着(プリン柄)を放った銀時が土方に向き直れば、土方もすでにボクサーパンツまで脱ぎ捨てて、銀時を見つめている。にや、と笑った顔がひどく楽しそうなので、銀時がまた土方の胸にしがみつこうとすれば、一瞬の隙を突いて土方が銀時の胸に抱き着いた。そのまま乳首を咥えられて、「あっ」と高い声を出した銀時に、「相変わらず感度の良いことで」と、土方はくぐもった声で言う。「そこで喋んな」と、銀時は土方の髪に片手を差し込み、さらりとした感触を確かめながら何度か首筋まで指を滑らせつつ、もう片方の手で土方の乳首を抓んだ。とたんに、土方が気の抜けた声で吹き出すので、「だっ、からそこで笑わないで止めて」と、銀時は土方の顔を引き剥がす。「あのさあ、なんでお前乳首感じねーの?俺結構がんばってるよね??」と、釈然としない顔で銀時は土方の乳首を指先で押し潰したが、「知らねーよ、つかなんでお前はこんなになるんだよ、こっちしか触ってねーだろ」と、土方に赤くしこった乳首を弾かれて「んっ!」と背を反らした。そのままぐにぐにと胸を揉まれる感触に、銀時は荒くなった息を整えながら、「うるせえ、お前だってここは感じるくせに」と、銀時が土方の耳をかぷりと噛んで声を吹き込むと、「っふ、」と土方が息を詰める音がして、銀時は溜飲を下げる。
そのままお互いに耳と乳首を散々舐めて噛んで擦ってしゃぶって啜って、泣きが入ったのも同時だった。「なっ、もっ、もう、そこはいいから、次行こうぜ?」と、銀時が浅い息を吐きながら土方の額に手を当てると、「奇遇だな、今俺もそう言おうと思ってた」と、銀時の乳首と唇の間に唾液の糸を引きながら土方は返す。しっかりと抱き合っていたおかげで、お互いの股間の状態はばっちり伝わっており、「耳だけで完勃ちってどうよ」と手を伸ばした銀時に、「テメーこそ乳首で半イきじゃねーか」と、土方は銀時の鈴口に軽く爪を立てた。それだけで達しそうになった銀時が、射精感をぐっと堪えて土方をベッドへ押し倒せば、「今夜は随分おとなしいな」と土方が言うので、「お前こそ」と、土方の目元に唇を落としながら銀時は返す。普段なら、耳に息を吹き込んだ時点で蹴りが飛んできてもおかしくない。銀時だって、乳首で達かされそうになる前に土方を抑え込んでいたはずだ。「どういう心境の変化?」と、ラブローションを取りながら銀時が首を捻ると、「まあ、誕生日くらいは」と、土方は伸び上って、銀時の胸(の谷間)に口付ける。
ちゅ、では終わらず、ちゅうう、と吸い上げられる感触に、「っておい、そこはダメだ!」と、銀時は慌てて土方を引き剥がしたが、もう遅い。赤く痕がついた胸元を擦った銀時は、「うおおおおいい、なんでよりによってここ?!俺ほとんど露出ないじゃん、ここと右腕くらいじゃん、首だって背中だって内まただっていいのになんでここ?!つうか肉薄いのに良くついたな、このテクニシャン!」と、銀時が騒ぎ立てれば、「うるせーな、じゃあこれで消せんだろ」と、土方は思い切り振り被って銀時の胸板に手刀を叩き込む。ぎゃあ、と一声叫んだ銀時が、「っのやろ、誕生日様に何しやがる!」と、土方を投げ飛ばして肩口に噛みつくと、「やめろ馬鹿、歯はシャレになんねーんだよ!」と、土方が股間に膝蹴りしようとするので、「馬鹿はテメーだ、キスマーク消すのに手刀とか聞いたことねーよ!それ消えてんじゃなくて上書きしてるだけだろーが!!」と、銀時は土方の太腿を押さえつけながら、土方の手の形に赤くなった胸元を示した。隙を見て関節を決めようとした銀時の腕を掻い潜り、「いいじゃねーか、痣になりゃその分忘れねえだろ!」と土方が言うので、「んなもんなくてもテメーとのセックスを俺が忘れるわけねーだろが!お前こそ屯所の風呂で歯形見せびらかしてこい、何なら背中に爪痕も付けてやるわ!!」と、銀時は叫ぶ。
「…爪痕は俺がつける方だろ」と、いくらか冷静になったらしい土方に突っ込まれた銀時が、「だってお前爪短けェんだもん」と、深爪気味の土方の片手を取れば、「つけて欲しいのか?」と、銀時の股間に片手を戻しながら土方は尋ねた。「お前がくれるもんなら、俺は何でも嬉しい」と、銀時が正直に答えると、「キスマーク一つで狼狽えたくせに」と、土方が鼻で笑うので、「誰にでも触れるとこに付いてても嬉しくねえよ、お前にしかつけられねーとこに付いてるのがいいんじゃねえか」と、銀時は返す。一瞬無表情になった土方が、「ちょっと、寝ろ」と胸を押すので、柔らかくベッドに倒れ込んだ銀時は、流れるように銀時の股間へ頭を埋めた土方に、「フェラしてくれんの?」と尋ねた。「しねえよ」と答えた土方は、銀時の足の付け根に唇を押し当てて、きつく吸い上げる。先ほどよりずいぶん長い時間をかけて唇を離した土方は、「これでいいか」と顔を上げて、銀時の片足を高く持ち上げた。銀時が股間を覗き込むと、ほとんど性器に接触しそうな位置に赤く印が残っていて、「お前やっぱスゲエ」と、銀時は無理な姿勢のまま土方を引き寄せ、ゆるく口付ける。
土方を上に乗せたまま起き上がって、ラブローションの蓋を取った銀時が、「手伝って」と言えば、「ん」と土方が両手を差し出すので、銀時は土方の手と銀時の手にローションをぶちまけ、ついでにコンドームも渡した。枕を重ねて土方の背にあて、腰が浮く形で固定した銀時は、体温で蕩けたローションを土方の肛門にぬるりと塗り付ける。銀時が尻肉ごと土方の肛門を揉む間に、土方は銀時の股間に手を伸ばして、腹につきそうなほど反り返った外性器を握り、指でコンドームを引き下ろした。あ、と吐息を漏らした銀時に気を良くしたのか、土方の指はぬるりぬるりと銀時の外性器を玩び、下生えを撫でたり指の腹で亀頭を擦ったりカリ首を握ったり、おかげで銀時はどんどん前屈みになって行く。
ううう、と気を抜くと出てしまいそうな感触に背筋を震わせながら、「こっちも手伝ってくんねえ?」と、銀時がようやく中指の先を差し込んだばかりの肛門を示すと、「テメーは自分の便所の準備もできねーのか」と、土方は言った。「その言い方は止めてくんない?俺はテメーに惚れてるわけだし、っつーかここお前の中だし、そりゃここに注ぎ込んでもガキができるわけじゃねーけど、他にも生まれるもんはいろいろあるわけじゃん、ほら、愛とか、なあ?」と、後半はだいぶ照れながら銀時は言い募ったのだが、「テメーに任せてると萎える」と吐き捨てるように返した土方が、何の躊躇いも無く銀時の中指に自身のそれを添わせるので、「…愛はともかく、気持ち良くなるためにやってんだから、便所は止めようぜ」と、銀時は大きく開いた土方の膝にちゅ、と唇をつけた。「ただの軽口を真に受けるんじゃねえよ」と、銀時の首に額を当てた土方が、んっ、と悩ましい声を上げながら進める指は、迷うことなく前立腺を目指す。銀時も負けじと追いかけるが、先に到達したのは土方だった。
潔く前立腺を擦る土方に、「お前器用だよな」と銀時が笑うと、「その内テメーにもしてやるよ、前立腺マッサージ」と、土方は空いた手で銀時の外性器をぐりぐり握る。「お手柔らかに」と返した銀時は、前立腺を土方に任せると、中指に人差し指を足してぐちゅぐちゅ中を掻き混ぜた。もう片方の手で土方の性器を掴めば、一瞬土方の指が止まって、「おい、手伝う必要ねーんじゃねーか」と、掠れた声で土方は言う。「やっ、…そうでもねーよ?」と、きゅうきゅう締め付ける土方の肛門に気を良くした銀時は、「だって、もう入るし」と、土方の耳元で囁いた。びく、と体を震わせた土方の指を挟むように、中から中指と人差し指を引き抜いた銀時は、まだ握られたままの外性器をひくつく肛門へ押し当てる。「ちゃんと入るまで、支えてろよ」と、土方の腰を抱いた銀時は、肉壁をこじ開けるように外性器を押し込んだ。土方が呼吸をするたびに中がうねり、銀時は犬のような息遣いで全てを収めると、「へへ」と土方の顔を両手で挟み込む。「何笑ってんだ」と、土方は銀時の唇を摘まんだが、土方自身も笑っているのであまり意味はない。きゅうきゅうと蠢く中の感触に、「俺このままイけそう」と銀時が土方を抱きしめれば、「それじゃ俺がイけねえだろ」と一際強く絞めつけられて、「あっ、ばか、強くすんなよ!」と、銀時は喘ぐ。
このまま達するとあとが怖いので、改めて土方をベッドに押し倒した銀時は、ちゅ、ちゅ、と大きく広げた土方の太腿にキスをまき散らしながら、土方の呼吸に合わせて腰を動かした。どこに何が当たるのかはどちらも良くわかっているので、土方も腰を揺らして、あっ、んっ、あっ、あっ、んぁっ、はぁ、はっ、あっ、あっ、あーっ、あっ、ぁっ、んっ、と控えめで小刻みな喘ぎ声を(お互い)漏らし、「もう、いって、いい?」と尋ねた銀時の指に、「早くしろ」と土方が指を絡めたところで、銀時が先に達する。絡んだままの指で土方の性器を擦れば、ほんの数度で土方も射精して、その拍子にびくびく肛門が収縮した。最後の一滴まで搾り取られるような感覚を味わってから、ずるりと銀時が性器を引き抜けば、土方の肛門は名残惜しそうに二度ほどぱくぱく動いて、きゅう、と閉じる。ずくん、と腰が重くなった銀時が、土方から目を反らしてコンドームの後始末をしていると、「おい」と土方の両足が銀時の腰を挟んだ。
「なに?」と、銀時が土方を見下ろせば、土方は銀時に向かってコンドームの箱を投げつけ、「今日はそれ全部な」と顔色も替えずに言う。「あの、これ新品だったんで、あと五個入ってるんですけど」と、サガミオリジナルを拾い上げた銀時に、「それも誕生日プレゼントだから」と、土方は尊大に告げた。うわあ、と思った銀時が、「努力します」と前向きに宣言すると、「せいぜい頑張れよ」と、土方はひどく楽しそうに笑って、銀時の首に両腕をまわす。体を屈めて、土方にぬるりと口付けた銀時が、「ゴム付けるからフェラしてくんない?」と頼んでみれば、「テメーもするならな」と、土方の答えもひどく前向きだった。土方にもコンドームを付けていいんだろうか、と銀時が悩む間に、土方はまた深く銀時に唇を合わせ、「誕生日だからな、…テメーのことは、まあ好きじゃない、わけでもない」と小声で言った。
二十三時五十八分だった。


(茶番劇その2_とってつけたような銀誕 / 坂田銀時と土方十四郎 / R18  / 131010)