02.よもぎ摘み

春になったので、山へ草を摘みに来ている。丈の短くなった着物を着てしゃがみこむ桂に、「おーい、髪、ついてっぞ」と、銀時が土を擦る桂の長い髪を指せば、「括るものを忘れてしまった」と桂は言う。あたりを見回して、適当な蔓を引きちぎって渡すと、「ありがとう」と、桂は後頭部の高い位置で髪を結わえた。
「襷を持って、髪紐を忘れるってどういう了見だよ」と、銀時が笑えば、「仕方がないだろう、襷はお前も使うが、髪紐は俺しか使わないんだから」と、桂はわかるようなわからないことを言う。「まーいいけどな」と、わりあいいっぱいになった笊を置いて、銀時はごろりと横になった。
「おい銀時、染みになるぞ」と、色の濃い春の草を指して桂は言うが、「俺の着物黒いし」と、銀時はひらひら手を振る。「しかし、髪に染みたら」と、言い募りかけた桂へ、「それはそれで好都合だ」と、銀時はきっぱり言った。緑の髪は奇異だろうが、銀髪と比べてどちらが良いかと言ったら、どちらでもないと答えるしかない。
寝転ぶ銀時の顔を覗き込み、「そういえば、よもぎがたくさん取れたらよもぎ餅にしてくれると、家人が言っていた」と、思い出したように桂が言うので、「早く言えよ」と、銀時はがばりと身体を起こした。「先に言っておいたら、お前はよもぎしか摘まなかっただろうが」と、重ねていた笊をもう一枚取り出しながら、桂は言う。その通りだった。
すさまじいスピードでよもぎの新芽だけを摘みつつ、「あんこも乗せてくれっかな」と銀時が呟くと、「わからんが、昨日小豆を水に浸けているところは見た」と、桂は返した。「俺もうお前んちのあのひと大好き!」と、感極まったように銀時が叫べば、「俺に言え、俺に」と桂が眉を潜めるので、「お前が作ってくれるわけじゃねーじゃん」と、銀時はぴしゃりと言う。
うぐ、と口をつぐんだ桂に、「まーでもお前が俺と仲良く?してくれるおかげで食えるわけだから、感謝はしとくな。一応」と銀時が続けると、「お前はどうしてそういちいち喉に小骨が刺さるような言い方しかできないんだ」と、桂はふてくされたように脇を向いた。そりゃ面と向かって言えるわけねーだろ、と、思った銀時は、「だから感謝はしてるって」と、桂の背をそっと叩く。
目に見えて強張りの取れた背に、こんどはぐいぐい手を押しつければ、ばっ、と振り返った桂が、「お前今俺の着物で手を拭いたか?」と言うので、「どうだろうな?でもいいじゃん、さっきまで髪で掃除してたようなもんだし」と、銀時は素知らぬ顔でよもぎ摘みに戻った。桂はしきりに背中を覗きこもうとしていたが、やがて諦めて、「ほんとに汚れてたら、お前のよもぎ餅は没収だ」と、銀時に宣戦布告する。
「お前、よもぎ餅もあんこも別に好きじゃねえくせに」と、銀時が半笑いで言えば、「…別に嫌いなわけでもない」と、ばつが悪そうな顔で桂は言った。銀時は、それを見て大いに笑った。
午前に持ち帰った笊いっぱいのよもぎは、八つ時にたっぷりのあんこをまとったよもぎ餅に姿を変えて、塾に届けられた。その日のお茶は賑やかだった。


(桂小太郎と坂田銀時 / 130909)