あ る 証 明



冷たいコンクリートの壁に意識を奪われながら、俺はしばらく海馬の顔を眺めていた。今コイツの口から出た言葉が、信じられないというか単純に理解できなかった。たった三文字。俺そんなに、そこまで頭悪かったか。ひらがなだって三文字だ。でも無理もない、と思う。だってコイツだぜ?海馬。これが、俺に。
好きだなんて。

「お前俺のこと好きなの?」
「そう言っただろう」

ああ聞いたけどさ。でもお前だろ?そんで俺だろ。ありえないだろ。俺はもう少し海馬の顔を眺めていた。良く見ると綺麗な顔をしている。無表情な分迫力があった。まああの高笑いなんかも充分迫力だけど。つうか引くけど。俺が眉を寄せて海馬を見ていても海馬の顔がまったく崩れないので、結局俺のほうが値を上げた。はいはい、俺の負け。背を預けていた壁から軽く身体を起こして、口の片端だけ上げる。ふふん。割とムカつく表情だと思うけどどうだろ。海馬はまだ無表情だ。

「それはヤりてえってこと?」

即物的な俺の言葉に、海馬は少しだけ考えるような顔をして、それからはっきり頷いた。マジでか。俺と?海馬が?お前男に興味あったのか。すげえ意外。笑いもしないってことは冗談でもないの。性質の悪い。いろんな意味を込めてふうん、と言ったら海馬が僅かに身じろいだ。えー。何、ちょっと緊張してんの?海馬が。俺の前で。へえへえ。ちょっとかわいい、かも?もう一度ふうん、と言って完全に立ち上がった。海馬の顔が近くなる。

「いいよ」
「…何がだ?」
「好きだ嫌いだって言うなら俺はお前のこと嫌いだけど、お前が俺を好きならヤるのはいいぞ」
「は、…?」

海馬はぽかんと口を開いて、さっきの俺みたいな顔をした。信じられないって、まあそりゃそうか。だって俺とお前だもんな。海馬。でもじゃあ、言うなよ。いいけど。いいよ、ともう一度海馬に告げると、海馬の顔はゆっくり無表情に戻っていった。理解したらしい。冗談でも嘘でもねえよ。大丈夫。大丈夫なのか?わからない。でも俺は海馬とSEXしたっていい。嫌いだけどな。お前が俺を好きって言うなら。

「あと4日待てよ」
「4日?」
「おう、それで四週間経つからな」
「四週間?」
「四週間。そんじゃ、またな」

ひらひらと手を振って、まだ何か言いかける海馬に背を向けた。梅雨時の空気は湿っていて重い。コンクリートにも染み込むくらいだ。水っぽい呼吸を繰り返しながら、でも俺アレとちゃんとできるのかなあ、と思った。
だって海馬だった。


4日後、病院帰りの俺の前に音もなく黒塗りの高級車が止まった。本当に4日目に来るとは思っていなかった。学校にもいなかったから今日はないかと思っていたのに。黒光りする扉が開いて、降りてきたのは当然のように海馬だった。普段着のような珍妙なコートでも、チンピラのようなジャケットでも制服でもない。私服似合わねーな、と思ったことは口に出さず、よお、と手を挙げた。海馬は黙って頷いた。

「ぴったり4日だな。なに、待ち遠しかった?」
「…」

青い眼を覗き込んで、茶化すように言った俺の言葉には答えず、海馬は少し困ったような顔をした。あ、やっぱちょっと可愛いかも、と思ってしまった俺は、精一杯譲歩して海馬の手を取った。男の手だった。身を引こうとする海馬の手を握って笑う。

「いいよ。ヤりにいこう」

海馬はやっぱり黙って頷いた。俺これからコイツとヤるんだよな。そうなるんだな。革張りのシートに腰掛けながら、隣の海馬を眺める。まっすぐ前を向いた海馬は、俺のほうを見ない。こいつ俺のこと好きだって言ったよなあ。いいのか?ほとんど会話もせずにホテル直行で。…ホテルだよな?こいつの家逆方向だし。俺の家…は海馬を入れるような場所じゃねえしな。俺はいいけど。あ、でも一個確認忘れてた。なあ海馬、と袖を引くと、かすかに海馬の首が俺のほうを向く。ちゃんと聞いてる?よな。

「ホテル代はお前持ちでいいか?」
「当たり前だ」

当たり前なのか。こいつが連れてってくれるところなんて俺には想像もつかないし、半額出せるような場所でもないんだろうけど。その一言で海馬はまた角度を戻してしまう。こっち見ればいいのに。酔うのか?まさかな。ヘリも運転できる奴がな。ふうん、と思いながら柔らかいシートとかすかな揺れに眠くなってきた頃、車はゆっくり止まった。明らかにラブホではないホテルの前だった。ていうか高い。建物が。広いロビーを抜ける間、薄っぺらい制服姿の俺はとてつもなく浮いている。海馬と一緒だとものすごく援交っぽいな、と思いつつ、辿り着いた部屋もやっぱり豪華だった。無駄に広い。正直、ヤるだけなのにこんな場所って。金持ちの考えることは違う。俺の部屋とか言わなくてよかった。だってもう空気が違う。

やっぱりやたらと広いベッドの端に腰を下ろして、ほとんど何も入っていない鞄を足元に落とした。キングサイズ?ってやつ?これなら男ふたり寝ても、それ以上のことをしても壊れないだろう。腰も痛くならなそう。ぽんぽん、と無駄に弾むスプリングを確かめて顔を上げると、海馬はまだ入り口あたりに立っていた。動かない海馬を見上げてへらっと笑ってみる。海馬は無表情だ。ばふっと枕を叩いて口を開いた。


「なんか、豪華だな。汚していいのかよ」
「問題ない」

また一言か。いいけど。ふうん、と答えてベッド脇の机をごそごそしていると、ローションとゴムを発見した。数種類。味付きとか。ゴムはともかくローションの味つきはどうしろっていうんだ。味付け?抵抗感を失くすため?い、いいけど。下の引き出しにはもっと別のものも入っていそうだった。そういう場所でもいいのかなー、と思いながらローションとゴムをならべて、なあ、と海馬を呼んだ。

「これっきり?それともこれからも?」
「それは、お前次第だ」

静かな声だった。意味深だな。俺の好きなようにしていいってことか?それとも、俺の具合がよくなかったらそれっきりってことか?どっちでも似たようなもんか。うーん。どっちにしろいい思い出にしてやれればいいか。まあ、俺も記念てことで。いいホテル泊まれるし。ローション味付きも試せるし。ぱしっと頬を叩いて立ち上がった。まだ隅にいる海馬をちらりと振り返って言う。

「じゃあ先風呂入ってくるな」
「ああ」
「あ、それとも一緒に入るか?」

頷いた海馬に、思いついて言うと無表情が一気に強張った。ん?とすくい上げるように笑ってやれば、海馬はさっと目を反らす。えー。照れんなよ。これから何すると思ってんだ。風呂場でしたってよかったのに、と思いながらバスルームに篭ると、猫足のバスタブには既に並々と湯が張られていた。っていうかかけ流し?源泉?ちょっと違う?金持ちが考えることはやっぱり違うよなあ、と思いつつ手早く服を脱いだ。立ち上る水蒸気でも曇らない鏡に薄い体が映る。貧相だよなあ。そんで男の身体だ。海馬はこれ見て起つのか。ここまできて出来ないのはちょっとアレだな。俺はいいけど。まあ咥えてやればイけるか。上で?下で?両方やってやればいいか。

「…うし」

準備も必要だし、まずは体洗うのが一番だ。ボロアパートとは比べ物にならないほど広いバスタブに浸かりながら、しばらく使っていない後ろのことを考えた。とりあえずローション突っ込んで、ゴムも使って捻じ込めば…捻じ込む…うーん。っつうか俺今ちょっと怖いこと考えた。あいつ始めてじゃないよな?金持ちだもんな?遊んでるよな?男は初めてでも…あっれ、男が始めてだったらやっぱりダメなんじゃないのか?うーん。

ぐるぐる考えているうちに、少しのぼせた。なんでも仕方がない。茹だった頭で覚悟を決めた。切れるのは、困る。じゃあすることは、決まってる。…様な気がする。ちょっと疑ってるのは熱さのせいかも知れない。タオルを巻いて出ると、ベッド脇へ移動していた海馬が露骨に嫌な顔をした。なんだよ。服着ろってか。嫌だよ、これから脱ぐのに。海馬を無視して身体を拭いていると、ばさりと背中にバスローブを放られた。振り返ると、せめて羽織れ、と苦々しい表情で海馬が呟く。いいけどさ。見たくないのか。せっかく晒してやってるのに。袖だけ通して髪を拭う作業に戻ると、海馬は溜息をついてバスルームに入っていった。なんか雰囲気悪いなあ。でも俺と海馬だしな。当たり前か。

水音が聞こえるまでまって、広いベッドの枕元まで移動した。羽根布団に足跡がつく。どうせ乱れるとはいえなんとなく気になって振るっておいた。よし元通り。さて、と先ほど見つけたローションを選ぶ。味付きって、なあ。これはまああとにしておこう。少し考えて、当たり障りのない無味無臭のものを選んだ。色はピンクだけど。蛍光ピンクだけど。ベッドの上にタオルを敷いて足を広げた。座ったままだとやり辛いけど、できなくはない。きゅ、とどぎついピンクの液体(粘性は強いけど液だよな)を手にとって温める。体温に近づいたところで、まずは中指を湿らせて後ろに手を伸ばした。

「っ…は…」

息を吐きながら指を差し入れる。異物感とともにじわじわ指が飲み込まれていく。や、俺が飲んでるのか。肉を掻き分ける感触がする。膣とは明らかに違う場所だ。根本まで埋めてしまって、中にローションを塗りつけるようにぐるりと動かした。うん大丈夫。気持ち悪くないな。吐きそうでもないし。ローションを追加して、中指に添えるように人差し指も入れる。よしいける。がんばれ俺の括約筋。二本指を広げて、流し込むようにローションを加える。あ、やっぱそのままはちょっと冷たいか。でもすぐ温まるよな、俺体温高いし。風呂上りの上に中だし。指を動かすと、ぐちゅりと卑猥な音がする。体の下からするのは歓迎だけど、足の間でするとちょっと困る。前立腺には障らないように気をつけたけど、やっぱ起つよな。粘膜擦ってるし、そりゃあな。楽しくなってきて少し笑った。SEXの前に自慰でイったら世話はない。

「ははっ、は…うぁっ」

肩を揺らしたらイイところに当たって、ちょっと喘いだ。色気ねえなあ。はあ、と色めいた吐息を溜息に換えて、力が抜けたところに薬指も滑り込ませた。三本入れると圧迫感も酷い。呼吸のたびに指が締め付けられて息が上がりそうになる。気を抜いたら押し出されそうだ。なにが気持ちいのかさっぱりわからないのに、結局前も完起ちだ。ふふ、と笑いなのか痙攣なのかわからない声を漏らして、ゆっくり指を引き抜く。ずるりと抜けた後で、物欲しげにひくりと穴が動いたのは俺のせいじゃない。生理現象だ。多分。はあ、と息をついて、肩にかけていたタオルで指を拭いて、先に一度イこうかどうしようか考えていたところでバスルームの扉が開いた。バスローブ姿の海馬とばっちり目が合う。はだけたバスローブと、蓋の開いたローションと、アレやソレやが全部見えると思うわけだ。あー。えー、と。何か言おうと口を開くより、海馬がベッドまでやってくるほうが早かった。

「何をしている」
「慣らしてた」
「何、を」
「これから使うとこ?」

あんまり直接的なのも萎えるかなあと思いながらぼかして笑った。海馬の目がちょっと恐い。そっと膝を閉じると、さっき流し込んだローションが溢れて内腿を伝う。うっわ。うわ。思わず身震いすると、海馬の手が俺の膝を掴んだ。えっちょっと。力を込めたけれど簡単に割り開かれて、簡単に言えば御開帳って奴か。男にも使うのか。いいけど。視線を下にずらすと、蛍光ピンクがいろいろ染めていてアレだった。卑猥。そうかこのための色か。味付きのほうが良かったかな。くだらないことを考えていると、海馬が口を開いた。

「…自分でか」
「おう」

頷くと、海馬はまじまじと俺の股間付近を眺めている。いや、そんなに眺めても。俺視姦される趣味は。完起ちで言っても説得力ないけど。手持ち無沙汰の俺は、濡れたままの海馬の髪を見ている。お、キューティクル。やっぱ綺麗な顔してるし。睫なげー。鼻高ェー。背高いし。ムカつくような気がするけど、ヤられるならこういう奴のほうがいいのか。しばらく眺めて、眺められていると、「随分慣れているんだな」と海馬が言った。慣れてる。それは褒め言葉だろうか。それとも初めてのほうが良かったんだろうか。初めてで、後ろに指突っ込んで用意して待ってる男がいたら尊敬するな。俺はあいまいに笑って、それから海馬の後ろ髪を引っ張った。

「これからがあるならお前に見せるのも、やらせんのもいーんだろうけど、今日だけなら俺がやったほうが効率的だろ?」
「…効率」
「そう、効率。俺も気持ちいいほうがいいし」

初めての奴に女とおんなじように突っ込まれんの怖いし、とは言わないでおく。血が出る程度じゃ済まないときもある。言及はしないけど。掴んだままの海馬の髪を梳いてみる。おー、さらさら。手入れしてんのかなあ。忙しそうなくせに。してもらってるのか。海馬はまだ俺を見ている。俺の俺って言うか。うんまあ。そんなところを。海馬が何も言わないので、俺はだんだん不安になってきた。あっれ。俺先走った?

「…もしかして俺がいれるほうか?」

準備万全だったけど、そういうことか?王様体質だと思ったら女王様気質だった?できないことはないだろうけどちゃんとイかせる自信があるかといったらNOだ。でもやれっていうならがんばるけど。恐る恐る切り出したら、海馬は火がつきそうな勢いで首を振った。横に。よかった違うのか。安心したら萎えそうになった。いつまで俺はこうしてるんだ。気を取り直して、海馬の髪を撫でていた手を背中に回した。

「なら、ヤろうぜ」
「…城之内」

お、珍しい。名前呼ばれたの初めてじゃねえ?下手すると。ふうん。もう嫌いじゃないかもしれない、こいつのこと。人を嫌いじゃなくなるのは割と簡単だ。相手に嫌われていなければ尚更。何を悩んでいるのか知らないけど、ベッドの上で眉間に寄せるのは無しだと思うぜ、海馬。ほんとに起つまで咥えてやろうか。するりと右手を伸ばして海馬の前に触れる。って、うわ。なんだよ。

「元気じゃん」
「さわ、」
「触らないでできるか。ヤりに来たんだろ?違うのか」
「違わない、が」
「じゃあ早くしようぜ。ローション乾くと辛いんだよ」

いろんな意味で、と笑いながら付け加えると、海馬はまた眉間の皺を増やした。なんだよもう。めんどくせーな。乗っかって腰振ってやったほうが早いか。でもそこまですることもないだろ?だってお前俺のこと好きなんだろ?なあ。海馬。掴んだ右手はそのままにして、左手でベッド脇の机を探る。よし、次こそ味付きにしてみるか。ぴり、と袋の口を開けて、ぬるつくゴムを取り出す。ついでに舐めてみる。いちご。いちごって。いちご味の×××って。くだらなくて少し笑った。海馬の表情は変わらない。なんだよもう。

「口でつけてやろっか?」
「いらん」
「いらん、て」

それは困るんだけど、と言いかけた俺の口を、海馬の口が塞いだ。おお。キス。いいじゃん?それっぽいね。ちょっと唇荒れてて悪いな。栄養状態悪いからな。舌も捻じ込まれて、海馬が俺の歯列を探っている。余裕なくなってきた。うわー。なんか気持ち悪いな。こいつとって。でも気持ちいいな、粘膜と粘膜。呼吸の合間に、自分でつける、と海馬は言った。俺の左手からゴム(いちご味の)を取って、臨戦状態の自分のにつけている。と思う。見えないけど。海馬の片腕が俺の胸を押して、ゆっくりとベッドに倒れこんだ。さっき触った感じだと指三本でも足りなかったような気がするけどどうだろ。俺の括約筋に期待。ローション追加してくれるかな海馬。角度を変えて合わさる唇を受け入れて、薄っすら目を閉じた。なんとかなりそうだった。俺が海馬の初めてじゃなくて良かった。


俺の期待通り海馬はローションを盛大に追加してくれて、その上俺より太くて長い指を突っ込んでくれたりもして、無遠慮に前立腺擦られたりしてかなり喘いだ。あれだな、喘ぎ声が高いのは、声を出そうとしていないのに喉が締め付けられて出る声だからなんだな。苦しいはずだ。いっそもっと大声を出したら楽なんだろうか。ここは壁厚そうだしそれでも良さそうだ。だけど海馬はどう思うだろう。生理的な涙で前がかすんで、海馬がよく見えない。目の前にいるのに。海馬の背に回していた手で涙を拭おうと顔を覆った瞬間、海馬が俺に。海馬のが俺に。凸が凹に。反射的に目を見開いて、左腕は眼球を押さえる形になった。圧倒的な質量だった。久しぶりだからというのを差し引いたって息が止まるかと思った。海馬は俺が慣れるのを待っているみたいだ。見開いた目をゆっくり閉じて、できる限り大きく息を吸った。途切れそうになる深呼吸を何度か繰り返して、海馬の形を覚える。大丈夫。痛いわけじゃない。ただちょっと規格外なだけだ。ふー、と大きく息をついて、瞼を覆っていた腕を持ち上げる。涙はもう出ない。海馬の海色の目が俺を見ている。ふ、と唇を上げた。

「は、お前でけーなあ…なんかすげーぴったり、してる」
「…余裕そうだな」

切れ切れに口を開くと、海馬も唇の橋を歪めて一気に腰を動かした。うわちょっと。確かにもう慣れたけど、もうちょっとゆっくり。開いたままだった唇から断続的に高い声が漏れる。あっあっあっ。アンアンにはならないあたりAVとは違うな。ていうかこいつのリズムが早い。結合部からも絶え間なく水音が聞こえる。息継ぎするみたいに呼吸した。はっ、はっ、はっ、はー。朦朧とする頭で、海馬と同調することだけ考える。そんなに辛くなかった。思わず声が出た。

「ははっ…ふふ、んっ、っふ、ふ」
「なんだ」
「悪、い、なんか、楽しくなっ…てきて」

は、はっ、はっ、は。あ。笑っているのか喘いでいるのかわからない。呼吸するたびに海馬を締め付けている気がする。そのたびに海馬の表情が少しだけ変わる。お前も喘げばいいのに。なあ?どうなの。気分が乗ってきたので、海馬の頬に手を当てて引き寄せる。んー。舌で触るだけ。顔中をなぞっていたら、海馬が俺の中でまた少し大きくなった。そんなに?ほんとに俺のこと好きなのな。じゃなかったらしないけど。あー。も、そろそろ限界かな。この状態じゃイイところも何も一緒に擦られてどうにもならない。できたら前にも刺激がほしいけど、がんばったら出るだろ。海馬のに集中しようとしたら、海馬がまっすぐ俺の目を見つめるので動きが止まった。…なに?

「辛くないのか?」
「や、っ、きもちーよ?……お前は?」

問い返したのは単純な社交辞令だった。中にいれて気持ち良くないわけがない。男として。海馬が頷いたらそこで終わる話だ。俺も集中できる。けれども海馬はしばらく動きを止めて俺をまじまじと眺めていた。や、ちょっと。そろそろ辛いんですけど。俺お前がシャワー浴びてるときから起ってるんですけど。海馬を飲み込んだ場所は熱を孕んでいるが、それだけではどうにもならない。入ってるだけでもまあ気持ちいいけど、そっちでどうにかできるほどにはなってねーしな。そんなこと海馬にわかるわけないけど。中途半端に煽られてるとどうしていいんだか。これ自分で擦って出したら怒られるか?そーーっと海馬と俺の間に伸ばしかけた手を、海馬の手が握りこんだ。うわっ、と。びっくりした。しかもなんだこれ、恋人つなぎ?両手?いいけど。…ちょっと良くないけど。海馬はそのまま身体を倒した。挿入角度が変わって、より深く海馬を感じる。

「…城之内」

耳元で囁かれて思わず身体が跳ねた。接触する場所が増えている。ゆっくりと律動を始めた海馬の腹筋で俺の前もいい感じに追い上げられていく。っていうか腹筋硬い。気持ちいい。びっくりするくらい気持ちいい。俺たち身体の相性はいいのかも。なあ、海馬。かいば。達する瞬間、海馬の指を痛いほど握り締めてしまったのは、だからそういうことなんだろう。それだけのことだ。腹の上に生暖かい感触が広がる。俺にも着けといたほうが良かったか、味付き。意味ないけど。一呼吸遅れて、海馬が精を放ったのを最奥で感じながら、もう二発くらいはいいかなあ、と俺は笑った。

次はローションの味を確認してやろうと思う。


( 自分で慣らす城之内が書きたかった / 海城 / 遊戯王 / 20090510 )