君となら行き先なんかいらなかった

no,019(TQ!!)            君となら行き先なんかいらなかった

珍しく休日が合うという水曜日、盤君とふたりで出かける約束をした。やる気のなさそうな声と顔で、それでも誘われたから少し驚いたのだけれど、予定もなかったので二つ返事で了承する。盤君の欲しいものを買って、特に理由もなくふらふらして、その辺で御飯食べて帰る、という計画。…計画?っていうのかこれは。まあいいか。

というわけで水曜日、薄曇りの空の下。盤君は相変わらず面白くもなさそうな顔で俺を迎えに来た。さすがに今日は音楽は聴いていなくて、そっか盤君も人と出かけるときは人の話を聞こうとするのか、なんて失礼なことを思った。少し待ってもらって靴の紐を結んでいると、盤君がぼそりという。

「本当に行くと?」
「?行きたくなくなったの?」
「俺じゃなくて兵悟くんの話ばい」
「俺は別に暇だし、休みの日にただ寝てるのも暇だからいいよ?」
「なら よかたい」

声の調子に何か、得体の知れない何かを感じて、しゃがみこんだまま盤君の顔を見上げた。一瞬捕らえた視線はごく自然に反らされて、横顔から伺えるようなものは何もなかった。なんなんだろう。歯切れが悪いのはいつものことだが、今日はなんだか遠慮がちに見えて首を傾げた。どうしたんだろう、何かあったのか?でもそれならこんなふうじゃないだろうし、あ、もしかして俺の服装?可哀相になるほどひどかった?
でも別にいつもと変わんないよなそれが悪いのか、なんてあちこち見回していると、何を挙動不審になっているのかと突っ込まれて慌てて居住まいを正した。まあいいや機嫌は悪くないみたいだし、と思いながら立ち上がる。軽口を叩きながら盤君のあとを追い掛けた。

「ところでさあ」
「何ね」
「何で俺なの?」
「…何が?」
「何か買いに行くのも、食べに行くのも、皆のほうがよく知ってるんじゃない?」
「何で、いま、ほんなこつ言うと」
「今思ったから」

硬くも柔らかくもない丁寧な声が聞こえてちょっと新鮮だなんて思った。でもほんとに。
俺はほんとにただついてくしかできないんだけど、あっそうだよ、ひとりで行ったほうが効率が良かったんじゃない?そういうと、盤君は背を向けたまま。

「帰りたいなら帰ればよかよ」

迷惑だったら、来なくて。さよなら、誘って悪かったばい。
そしてそのまま早足で言ってしまおうとするから、慌てて追いかけて腕をつかむ。一度振り払われて、もう一度つかんで、また振り払われたから最後には手に指を絡ませて握りこんだ。俺なら真冬だってしない(というかできない?)ような格好の盤君の手はやけに冷たくて背筋が震えた。

「帰りたくはない!一緒に、行っていいなら一緒に行きたい」
「……なら変な事言わんときてくれたらよかろーもん」
「うん、ただ思ったから」
「思ったこと全部口に出してよかと?」
「ごめん」
「たまたま、休みが合ったから。それだけばい」
「うん、わかった。行こう」

行く先なんて知らないのに、立ち位置を変えて俺から歩き出す。あれは地雷だったみたいだ、俺にはわからないけど。いつだってどでも良いことばかり告げて傷つけているような気がする。きちんと線引きもできないまま、隣にいていいんだろうか。考えたところで、俺に答えは出せない。

「兵悟くん」
「ん?」

しばらくずんずんと歩いていたら、後ろから小さく声がかかった。振り返ると、盤君はなんだかものすごく困ったような顔をしていた。わあ珍しい。ていうか、

「ひとりで、歩けんと」
「え…っあ!」

無意識のまま、手を引いて歩いていた。ごめんと言って慌てて手を離す。あまりにも冷たかったから、強く握ってそのまま。少しずつ体温が近づいていたから分からなくなっていた。だって温かいから。佐世保ではいつも手を引いていたから。様々な言い訳を口にすると、兵悟くんはうっかりさんじゃな、なんて皮肉な口調で。笑って。今日初めての、レンズ越しに見る笑顔に少し見蕩れる。盤君はいつも笑ってるほうがいいんじゃないかな、口調がどれだけ冷めてても笑ってたら赦される気がする。だって綺麗だから、口には出さずに俺も笑った。

それから電車を何本か乗り継いで、俺なんかには一生縁がないだろうと思っていた服屋に入ったりして、盤君が服を選ぶのを見ていたらいつの間にか俺の服を見立ててくれてたりして、俺のセンスとか好みは鼻で笑われたりしてーーー楽しかった、素直に楽しかった。そういえば俺、同世代の男友達って今までほとんどいなかったんだ。こんなの初めてかもしれない。そういうと、可哀相なものを見るような目で眺められて少し痛かった。

「兵悟くんて、ほんとにレスキューだけして生きてきたんね……」
「そんな哀れみの目で見なくても…ていうかいいよ、今は友達も盤君もいるし!」
「ほー。俺とは友達じゃなかと?」
「へ?」
「へって…なに?」
「え?」
「?」
「友達だとおもってくれてるの?」

揶揄するような言葉を吐く盤君に心のそこから驚いて妙な声を出したら妙な声で返された。え、ていうか、え?俺は友達であってほしいと思うけど盤君はそれでいいの。なんでそんなに驚くの。…なんでそんな目で見るの?

「……俺は、友達と思ったことは一度もなか」
「あーもう、やっぱそう言うんだろ」

そういうこと言われるの嫌だから区別しといたのに。なんか仲良くなれたみたいだなんて錯覚する身にもなってほしい、もう慣れたけど。ぼやいている俺から目をそらした盤君は薄く笑っていて、俺のことなんて本当にどうでもいいみたいに見えた。だから、

「兵悟くんは、ほんとに酷か」
「ええ?なんで」
「分からないならよか」

かけられた言葉の意味も、俺には本当に分からなかったのだけれど。
ただ、投げやりな盤君の口調に少し腹が立ったので少しだけ食い下がった。

「酷いのは盤君じゃん、いつだって何も言わないで人の子と笑ってるくせに」
「誰が笑っとうよ。笑われるようなことするほうが悪いんじゃなかか」
「俺だって頑張ってんのに!」
「成果が出なきゃ努力なんて意味がないばい」
「何でそういうこというの?」
「兵悟くんが言わせとう!」
「はあ?!意味わかんない」
「だからわからなくてよか、言っと、」

いつもみたいに不毛な言い合いが始まってしまう。盤君の言っていることは、正しいと思うけどそれを正しいといってしまったら何かが終わってしまう気がする。だから、俺はさらになにがいいんだと食い下がろうと…したのだけれど。

「楽しそうやなー」
「だからなにがっ……へ?」
「えっ?」

盤君にとっては記憶に新しい、俺にとってはいまだに馴染み深い声が聞こえて、揃って動きを止めた。ええ?関西弁?この声?しかも微妙に近くない?…ええ?

「…ねえ盤君俺今すっごい振り返りたくないんだけど」
「奇遇じゃね、俺もそう思っとう」

なんて、思ったところで振り向かないわけにも行かない。ここで声を無視して歩き出したりしたら次に会ったときにどんな目に合わされるか、というか聞こえたことはもう丸分かりだろうから歩き出した時点で何をされるかーーー脳が想像を拒否した。それくらいの恐怖だ。というようなことを1秒で考えて振り返る。もしかして幻聴とか、あるいは似た声の人とかドッペルゲンガーとか。いろんなことを期待したけれどそこにいたのはやっぱり嶋本さんだった。あまり見ない私服の嶋本さんは、それでもいつもの顔で笑って、

「なんじゃ、そんな怯えることもないやろ」
「それは今までの行動を振り返ってから言ってほしかー…」
「何か言ったか?」
「あ、いえっ何も!」
「石井に聞いたんやけど、まあええわ。何してたん、自分ら」
「えっと、今日は買い物に…」

ただ普通に会話をしているだけなのに、尋問されているような気分なのは何故だろう。
習性って怖い、っていうかこれって条件反射?もしくは刷り込み?うーん…一生この人に逆らえないのは決定項なんだけど。なんて冷や汗をかきながら答えていると、あとを盤君が引き継いでくれた。

「俺が付き合ってもらっとう」
「そうそう、朝からいろんなとこに行って、ねえ?」
「うん」
「ほーう、ふたりでか?珍しいな」
「そうですか?」
「反りが合わん思っとったわ」
「別にそんなことはないですよー」

言いながら、ちらりと盤君を盗み見る。仲が悪そうに、見えるだろうか。いいとは思わないけれど、気があうとはこれっぽっちも思わないけど、そう悪いものでもないと思う。というか、最初の印象はとてもよかったのだ、人当たりが良くて話術も巧みで元消防の凄い人で。それが一気に覆されたから物凄く嫌な奴に見えたのだと思う。ふかく付き合ってみれば嫌味な口調もそれなりに、こんな風に出かけたり真田さんの話ができるのは素直に楽しいと思う。

「ところで、嶋本さんは何しとったんね」
「ひとりでですか?」
「おう」
「寂しかねー。彼女とかおらんと?」
「男二人でおる奴らに言われたくはないわな。っつっても神林は佐世保に彼女おるんか」
「えっ、や、あのユリちゃんは友達なんで…っていうか彼女とかなら盤君のほうに聞いてください」
「はあ?なんで俺に振ると」
「もともと持ちかけたのは盤君じゃん!」
「情けなかー、それくらいでテンパるんじゃなかよ」
「べっつに、テンパってるわけじゃ…」

あああもう、顔が赤い気がする。気がするというか確実に赤いのがわかる。だってほんとにユリちゃんは友達で、凄くかわいくていい子だと思うけど…あと柔らかかったんだけど、って何考えてんだ俺!しっかりしろ!!

「あーもうええわ。なんやお前ら、ちゃんと仲良うなったんやな」
「ええ?今の会話のどこを見てそう思ったんですか」
「なんか全体的に。自分ら、なんかこのあと予定あるん?」
「や、ただご飯食べに行こうかって…」
「よっしゃ、じゃあ今日はなんか気分ええから奢ったるわ。着いてきいや」
「え、ええ…って、?!痛!痛いよ盤君」

それは別にいいんですけど、っていうか何のお祝いですか。といおうとしたら物凄い勢いで盤君に小突かれて思わずつんのめりそうになった。横暴なのは嶋本さんだけ十分なのに、なに?

「なし、余計な言ば言いよると」
「ええ?な、なんで?」
「もうよか。嶋本さん、俺ら普通に飯食いに行くんで、気ィ使わんでください」

不自然に硬い声が響いて、盤君は行ってしまおうとした。えと、盤君はそれでいいかもしれないけど俺は明日もこの人と会うんであって、そのときにどんな目に合うのかは脳が拒否するような恐怖映像なわけで…だいぶ慣れはしたけれどそんなことは何度もあってほしいものではない。というわけで引き止める。盤君は心から嫌がっていたけれど。

「なんや騒がしいな。何不機嫌になっとるん」
「別に、俺はいつもこうばい」
「あいかわらず捻くれとるのー、そんなに神林とふたりっきりがええん?」
「へっ?そうなの??」
「なしそうなるん?!兵悟くんも、反応せんでええから」
「ほーう、じゃあそんなに俺の顔が不愉快か」
「…そんなこと言うとらん」
「したら、ええやないか」

嶋本さんは満面の笑みで、これは見覚えがあるヒヨコのときも今現在もしごかれる前はいつもこんな目をしてる。と条件反射で全身に鳥肌が立った。なんでこんないい顔で人に恐怖を与えられるんだろう、俺にはそのほうが不思議…なんてもう半分以上諦めの境地でふたりを見ていたら、盤君がなんだか困ったような怒ったような目で俺を見る。何もいえずに、何を言ったらいいのか分からなくてとりあえずがんばろうねと言ったら盤君は唇を噛んで思いっきり嫌そうな顔をした。うん気持ちは分かるんだけどさ…っていうか、あ、あれ?

「ふたりで、行けばよか。俺はもう帰る」
「おーう、したらまたな」
「えっ、ちょっ、嶋本さん、ていうか盤君!」
「さよなら!!!!」

うろたえながら叫ぶと不機嫌な声がたたき返されて立ちすくむ。え、ええ?ちょっとまってひとりにしないで俺を置いていかないで!!おろおろしていると、嶋本さんはやけに楽しそうな顔で俺を眺めて言う。

「さー、どこ行こか?どこでもええぞーなんでも言え」
「それはうれしいんですけど」

ひとりじゃなかったらうれしいんですけど、ああもう何で帰るなんていうの盤君!
どんどん遠くなっていく盤君の後姿と嶋本さんを見比べて(きょろきょろすんな、って怒られるんじゃないかなあ)(でも)考える。怒られるのは怖いけれど、このままっていうのも何かよくないような…気が、する。気がするって言うか。

「え、え、ええ…っと、あの…」
「ん?」
「お、俺も…今日は…ちょっと…」
「なんや、石井が心配か」
「やっ、ていうか…盤君、なんか良く分からないんですけど、機嫌悪そうだったから…」
「はー…あそこまでしても”機嫌悪そう”なんやなー…石井もかわいそうにな」
「え?」
「なんでもあらへん。お前にそんなこと言われたくないやろと思っただけや」
「ええ?俺そんなにアレですか?」
「そうやないと思う奴がいたら見てみたいな。ええわ、早く追いかけたり」
「う、え、はい、ええと今日はすいませんでした」
「おう、また今度付き合わせたるわ」
「はい、それじゃ失礼します!」

いつもより少しだけ柔らかく笑う嶋本さんに一礼して、盤君を追いかけた。まだ見える背中めがけて走りながら、何でこんなことになったんだっけと考える。嶋本さんに会うまでは盤君も楽しそうだったし、嶋本さんにあってからだって驚いてはいたけどおかしくはなかったし、御飯だって人数が多いほうが美味しいと思…いや、嶋本さんと一緒で美味しいと思える量ですむかどうかは問題なんだけど…嶋本さんには、悪いし。うーん。やっぱり俺にはわからない。盤君がいたら俺は全部楽しいから。
そういうことは言ってもいいんだろうか。言ったら怒られるんだろうか。

そうして走って追いついて、「盤君」と呼んだ。すでにイヤホン装備の盤君には聞こえなかったみたいで、もう一度呼んでから肩に触れる。
何ね、と物凄く不機嫌そうに振り返った目が一瞬面白いくらい見開かれて、ああ綺麗だなあなんて場違いなことを思った。我に帰ったらしい盤君はipodを切って、俺を見て、俺の後ろを気にして、それからまた俺を見た。

「…何、…に?」
「ごめん、帰ろ、盤君。ていうかご飯、食べに行こう」
「…嶋本さんは?」
「盤君がいかないなら、俺もいい」
「え?」
「えっ、て」
「だって」
「だって、って、だって盤君と一緒に来たんだし。盤君が帰っちゃったら意味ないし」
「…よかと?」
「いいんだよ」

いいんだよ。
呆然としている盤君の目を見て繰り返す。なんでだろう、いつだって自信満々なのにいつだって不安そうに見える。何だってできるくせに、何も出来ていないような顔だ。不機嫌だから、それともプライドが高いから?どっちも当たっているようで、本質からは外れているような気がした。だからもっと笑えばいいのに。いつも笑っていればいいのに。
もう一度、「いいから行こう」と促すと、盤君はようやく頷いて歩き出してくれた。うん、よかった。これで嶋本さんと会う前に…戻ったか?そういえばあの時は何を話していたんだっけ?

「…あ」
「なん?」
「さっき、嶋本さんに会う前に何はなしてたか思い出した。喧嘩してたんだっけ」
「喧嘩…?っていうか、兵悟くんが言いがかりつけてきただけったい」
「ええ??俺のせい???」
「俺のせいか?」
「だって、わかんなくていいとかいうから」
「…それは、…兵悟くんが分かってくれんから」
「だから何を?」
「〜〜〜〜、友達じゃなかったらなんなのかってことを話しとったろー?」
「うん、で俺たちは友達じゃないんでしょ?それが?」
「だからそれはそれでもうよか、言っただけったい。ただそれだけ」
「???なんでそれであんなにこじれたの?」
「だから兵悟くんがごねるから、………や、…俺が悪かったばい」
「うわっ」
「何ね」
「盤君にはじめて謝られた」
「それでその反応?!ひどか!!笑うとこじゃなかよ?!!」
「ごめっ、だってびっくりして…面白くて」
「…もうよか!!」

兵悟くんなんてもう知らない!!と芝居がかった口調で言い捨てて早足で先に行く。でも声が笑っていた。ていうか何それ、なんのメロドラマ?なんて笑いながら俺も後を着いていく。あれ、なんかデジャヴ?今日はこんなことばっかりしている気がする。
冬の陽は随分早くに暮れて、夕日なんてあっという間に消えてあたりはもう薄暗い。さっきまで青空だったのに早すぎないか、ああでもあの変の金色が綺麗だ。なんて余計なことを考えながら白い息を吐いた。

「さむいね」
「そう」
「盤君の手は冷たかった」
「兵悟くんと比べれば」
「うん、俺は熱いってよく言われる」
「…誰に?」
「兄弟とか、姉ちゃんの子とか、クラスメイトとか……あ、ユリちゃんとか嶋本さんとか一ノ宮さんにも言われた」
「手なんて握っとーと?」
「うん?握るって言うか…不可抗力?」
「偶然?」
「うん、なんかそんな」
「ふうん」

盤君はなんだか遠くを見ているみたいだった。少しずつ上の空で、投げやりなのにどこか必死で、でも何も言わない。手、なんて。触ったのは少しだけだったけど、凄く冷たかった。まだ、というかまた、冷たいんだろうか。今は何も持っていないけど、体温くらいなら分けられる。
でも触っていいんだろうか。触りたいわけでもないのに、冷たいと思ったからなんて、そんな理由で。
なんとなく次の句が出せずに黙って歩いていると、不意に盤君が溜息をついた。

「…兵悟くんは」
「なに?」
「俺のこと、なんだと思っとーと?」
「???さっきの続き?」
「いいけん、答えは」
「友達だと思ってる」
「兵悟くんは友達とセックスしよるん?」
「えっ?ちょっ、盤君こんなところで…」
「誰も聞いとらんよ。それに別に聞こえててもよか、もう顔なんて分からん」
「そ、ういう問題じゃないと…思うけど…けど、」

何を言い出すんだろうこのひとは。ほんとに、いきなり、何を?
確かに盤君とはそういうことをしているけれど、なんでしているかとかそういうことはあんまり…俺はあんまり考えたことがない。あれ?そういえばなんでだっけ??

「えーと…」
「どうなん?」
「す、るんじゃ、ない?だってめ、盤君と…してるし」
「ふうん…じゃあ俺たちはセフレってことになると?」
「えっ、ええ???」
「身体だけの関係?」
「とっ、友達だって!」
「セックスもするんに?しかも男同士で」
「そういうの、あっても、いいんじゃない、の?」
「俺は知らんよ。友達だと思ったこと、なかから」
「ずるい」
「ずるいのは兵悟くんのほうったい」
「なんで?」
「俺はずるくなかよ、もう分かっとうから。分からない兵悟くんがずるい」
「ええ?」

謎々みたいだと思った。俺は盤君を友達だと思ってて、でも友達とはセックスしなくて、だからってセフレっていうのは…俺が嫌で、盤君は俺のことは友達だと思ってなくて、それで、ずるい?って?何が???
いよいよ途方に暮れていたら、それを見ていた盤君が突然噴出した。それはもう、おかしくて堪らないという声だったから。

「ほんっとに、いっそ清清しいくらい分かっとらんね、兵悟くんは!!」
「だから何なの?教えてくれたっていいじゃん!!」
「こういうのは自分で気付くべきったい。俺はもう持久戦のつもりでいくから」
「エエー??」
「なんで俺とセックスできるのか、そのへんから考えて欲しか」
「なんでって………」

なんで?
また悩み始めた俺を、「今日はもうよか」と盤君が笑い飛ばす。

「いいから何か食べに行くばい」
「そうだね、お腹すいたー」
「今日は兵悟くんの驕りね」
「ええ?なんで?!」
「精神的苦痛??」
「苦痛って…しかも疑問系?」
「ラーメンでよかから」
「安っ!!なら別にいいけどさあ、…今日一日盤君と一緒で楽しかったからいいけどさ」

でもなんで問答無用で奢り?と呟いて、盤君が固まっているのに気付く。
あれ?今日何回目のフリーズ?俺もしたけど。

「盤君?」
「…天然の相手するのは疲れるったい」
「今日の感想がそれ?!」
「あーもー、いいから、早く行くばい!!」
「えっ?ちょっ、待って」

突然駆け出した盤君を追って(何回目??)俺も走り出した。
少しの間並走して、異様に必死なことに気がついて俺もペースを上げる。ちょっと疲れたところで、思い立ったので横にあった手を掴んでみる。ちらりと振り返った盤君の目はまた大きく開いていたから、振りほどかれるかと思ったけれどそれはなかった。冷たい手、だけど俺の体温はすぐに移るから。早く同じ温度になって、それがもっと奥まで届いてしまえばいいと思う。手を繋いだまま、ふたりで目前に迫った駅まで全力疾走で駆け抜けた。

END

兵盤…兵。未練がましくいつまでもリバで。
「ちゃんとできているのによく分かっていない兵悟」第二段。ベタベタなのに兵悟視点だとものすごいまどろっこしいですね! とりあえずデートです。清く正しく手を繋ぐまでのデート。と、盤君は思っています。それでもすきだとかいえない盤がいいと思うよ。ツンデレ!ツンデレ!
嶋本さんを出したのは完全にわたしの趣味です。


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