no,014(TQ!!)
くるまったしあわせ
「っ痛ぁ…!!!」 何気なく机の角を曲がったら、嫌というほど腰骨をぶつけた。 痛い。これは痛い。ぶつけた瞬間はなんでもないような気がするのだけれど、二秒後にじわじわとそれがやってくる。痛い。それはもう。ということで蹲って痛みに堪えている。と上の方から(いつだってそうなのだけれと屈んでいる分尚更うえのほうから)声がした。誰かは見上げなくても分かる。 「どうした嶋本、腹でも痛いのか」 「…いえ…腹じゃなくて腰が…」 「腰痛か」 「いや、ただ今そこの」 そこの、と憎い(物に当たってもしょうがないが比喩でもなんでもなく当たったばかりではあるし)机を指した。 「机」 「の、角にやられまして」 こうやって蹲っている次第です。 くぐもった声で説明すると、ため息とも了承ともつかないような返事がした。呆れられたかな。 そうっと見上げると、隊長は机の角を見ている。その隊長を黙って見ていた。そうしているとだんだん良くなってきた…ような。小さく息を吐くと隊長が振り返った。 「もう大丈夫か?」 「あ、まあ」 「そうか」 まだ少し痛む箇所をそっと撫でてから立ち上がる。恨みがましく机を眺めてみたが、仕方がない俺の不注意だ今度からは避けて歩こう。と思っている間は大丈夫なんだよなあでも忘れた頃にまたやるんだよなあ、と腹の中で呟いてみる。 「…嶋本は」 「はい?」 「面白いな」 「なにがですか」 「一々の行動が」 「へ?…ああ…確かに蹲ったのはちょっと大袈裟でしたけど」 けど、と切って。でもそれは誰もいないと思ったからで隊長がいると分かっていたらあんなことはしませんでしたよ、とこれもまた心の中で呟く。口には出せない言葉。代わりに真面目な顔で言ってみる。 「こう、低い机に脛を思いっきりぶつけたときとか、机の縁にひじを思いっきりぶつけたときとか、机の角に腰骨がクリティカルヒットしたときって同じように骨がしびれませんか」 「ああ、たしかに打ち所が悪いとそうなるな」 「そういうときの痛さって、ものすごく痛くないですか?」 「…そうか?」 「なんていうかこう、理不尽な痛みって言うか…理由は明確なんだけれどそれをぶつける相手がいないから却って痛みが増すというか」 「机を睨んでも何にもならないしな」 「そういうことです」 すると隊長はまた妙なため息だか了承なのか分からないような声を出して目を反らした。話が終わりということなのかなあと思って机に阻まれる前の行動(倉庫にいる高嶺さんの手伝いをしに行く)に移ろうとする。と。 「嶋本」 「はい?」 「昔考えたことがあるんだが、痛みというのは確かに厄介だが良く考えてみればただそれだけなんだな」 「…はあ?」 「痛いから死ぬというわけでもないだろう。我慢しようと思えばできるわけだ」 「まあそりゃあ…そうですけど」 「それならばはっきり言って痛いから何かが出来なくなる…のはおかしいと思わないか?」 「はあ…まあ」 あ、でも俺なんかの漫画で死んだ方がマシだと判断して死んじゃうような痛みもあるって読みましたよ。などとは言えそうにない雰囲気だった。経験に裏打ちされた話じゃないと恥ずかしくていえない気がする。どうでもいいけれどこの人は漫画とか読むんだろうか、…読まないだろうなあたぶん。小さい頃からこんなだったら嫌だけれどこんな風じゃない隊長は想像できないな。 「どうかしたか」 「ちょっと、隊長の幼少時代について考えてました」 「?どうしてそういう話になるんだ?」 「やー…ははは」 どうして、といわれても隊長の発想についていけないから、なのだけれど。 笑ってごまかして次に移ろう。 「そうなると、隊長は口内炎とかも平気なんでしょうねー」 「いや、それは嫌だ」 「はっ?」 嫌だってアンタ。今滔々と持論を述べたばかりじゃないですか。おっと、隊長に向かってアンタとかいっちゃいけないなあ。心の中でも。 「ある程度大きな傷はいいんだが口内炎とか紙で切った傷とか、そういった微妙に痛み続けるものは嫌だ」 「…なんでですか?」 「我慢するためのエネルギーと痛みとが吊り合わない気がしてな」 「はあ」 「比率の問題だ。例えば動脈を切るような怪我のときも口内炎のような小さな傷のときも我慢するという行為自体には代わりがないだろう」 「そうですね」 「それならば大怪我のときのために我慢という行為自体を取っておいた方が効率がいいような気がする」 「…はあ」 隊長、なんか、それ、違いませんか?と言ってやりたかったけれど、大真面目に言われてしまうと反論の余地がない。まあ人それぞれということで納得しよう。 「…ていうか隊長口内炎なんて作ることあるんですか」 「当たり前だろう」 「あー…そうですよね…」 へえ、できるんだ…隊長にも口内炎。不摂生とかストレス…なんてことはないだろうから噛んでできるんだろうなあ、チョコラBB飲んだりするのかなあ。なんか微笑ましいな。 「あ、じゃあ俺倉庫に行くんで」 「気をつけていけよ、また机に襲われないように」 「はは、ありがとうございます気をつけますー」 机は襲わないけど、俺がぶつかるんだけど、あれは隊長なりの冗談なのかな。なんて微妙ににやけながら当初の原因だった机の角に目を向ける。もう痛くないし睨まないから安心しろ。って相手は机なんだけど。スキップでもしたいくらいの心持で薄暗い倉庫の扉を開けた。 END
わたしの書く真田さんはどうしてこうずれてる…というか変人なんだろう。原作のも大概だと思うけれど結構常識人だったしなあ(当然だよ)夢見すぎって事かな…主に嶋本さんに。 蛇足ですがコレを書いている後ろ(パソコンは家族共用なので居間に)で弟が炬燵に脛をぶつけて呻いていました。タ、タイムリー!良くやるんですけどね家族全員。血吸いの炬燵…(違) ⇒御題提供*「7」 |