no,013(TQ!!)
やさしいてのひら
静かなので窓を開けて見ると雪が降っていた。 粉塵だかただの埃なのか真っ白とはいえない、だがそれでも夜空には映える白さで。 しばらく外気にさらされたままそれを見ていると、どうかしましたかと後ろから声がかかった。 どこまでも伸びやかな、嶋本の声。 「雪だ」 「えーー、寒いと思たら…隊長、窓閉めてもらってええですか」 「ああ」 振り返ると嶋本は炬燵(嶋本が持ち込んだもの)に肩まで埋まるようにしながら蜜柑(同じく嶋本がダンボールで持ち込んだもの)を剥いていた。他にも(嶋本が持ち込んだ)毛足の長い絨毯や、(嶋本が買ってきた)酒瓶なんかが転がっていたりして。 「…誰の部屋か分からんな」 「なんかいいましたか?隊長も食べますか蜜柑」 見当違いのことを言う嶋本から、それでも蜜柑は受け取って、炬燵の前に座り込む。 四つ角があるのになんで隣に座るんですか、対角で座ると足が邪魔になるだろう、でもそんなに広い炬燵やないし、まあいいだろう気にするな。どうでもいい会話が落ち着いてから、前からおもっていたことを口に出した。 「嶋本は冬になると楽しそうだな」 「え?俺冬はあんまりすきやないですよ」 「そうなのか?」 こんなに満喫しているくせに? 「そうですよ。だって寒いですやん」 「冬が寒いのは当たり前だろう」 「そうですけど、でも寒いから嫌いです」 凄い風の吹いてる日に防波堤に立ってたりするのは…ちょっとすきですけど。 なぜかと尋ねると刺激的だからと返された。 「飛ばされそうでか?」 「…隊長って結構ひどいですよね」 さすがに、飛びませんよ。体重はそれなりにありますし身長低い分風の抵抗も受けづらいし…って俺もあんまりいいこといってませんね。落ち込んだような顔をしながら、でも飄々と言葉をつなげる。 「なんていうか…この時期の風の音って気が滅入りませんか」 「そうか?あまり意識したことはないが」 「俺はすきやないです。なんかこう、敵意があるような 気がして」 敵意? 「だけどなんか、俺がそこに…防波堤とか、波の聞こえるところにいれば敵意を持っているのは俺だけにじゃないって、分かるような」 そんな、気が。 相変わらず嶋本は面白い言い回しを使う。 「何笑っとるんですか隊長」 「いや、嶋本は見ていて飽きないなと思っただけだ」 「………隊長もいろんな意味で飽きませんけどねー」 「何か言ったか?」 いいえ何も。とそっぽを向いた顔にまた少し笑う。今度こそ不機嫌になったその顔を見下ろすようにして、嶋本は確かに夏が好きだな、と言った。とたんに緩む頬。やっぱり飽きない。 「夏はすきですよ。俺海好きですし、日に焼ける感触とか汗かく感覚とか…ええなあ」 「仕事でアレだけ海に言っていてもすきだといえる辺りが嶋本らしいな」 「隊長は嫌いですか海」 「嫌いではない、が前ほど好きだとも、な。海難が起こる場所、だ」 「確かにそれは思いますけど…そういえば夏は海難も多いし、好きですけど厄介ですね」 うーん、と一瞬考え込むような顔をしてから、すぐに あ、と声を上げる。 「そういえばこの間神林も言うてましたよ、『冬は寒ければいくらでも上に着られるけど、夏暑いとき脱ぐのは限界がある』て」 「面白いな」 「馬鹿な話ですけどね、確かに裸んなっても暑いときは暑いですよね。それでも奴は夏が好きやそうですけど」 「そうだろうな。そう見える」 「単純ですよね。きっと奴は海も好きですよー」 あ、でも昔は泳げなかったとか、言ってたな。どうなんやろなあ。 柔らかく笑う姿を見て、少しばかり何かが首をもたげた。様な気がする。 表情が硬くなった俺に気付くこともなく、その顔のままで嶋本が問いかける。 「隊長はいつごろが好きですか?」 「お前はどう思う?」 「え?えーと、夏は好きですよねやっぱり、でもこの前冬も嫌いやない言うてたし、秋も情緒があるとかどうとか…」 「分からないか」 「分かりません。四季なんて別にどうでもええとか思ってたら嫌ですねー」 「そんなことは言わないさ」 「そうですか?えーと、じゃあ何がすきですか」 「俺は夏が好きだな」 「へえ?へー、それでええんですね」 「何か不満か?」 「何かもっと捻って来るかとか思ったんですけど」 ああでもええですね、おそろいですねー、と笑う顔にそれは違うと告げた。 何が?と言う顔をする嶋本に。 「俺が夏がすきなのは お前が好きな季節だからだ」 「…わー……夏でもないのにごっつ暑いような、ある意味寒いような…」 「どっちなんだ?」 「正直言って熱いです」 「そうだな、顔が赤い」 「えー…隊長、そういうこと言う人と違うやないですか」 「おまえが神林、というから」 「から?」 「少し嫉妬したかもしれない」 すると嶋本は声も立てずに前のめりに倒れた。嶋本?どうしたんだ大丈夫か、と抱き起こすとあーとかうーーとかそんなうめき声が聞こえる。正常な様だ、良かった。しばらく様子を見ていると、やがてむくりと起き上がって赤みを通り越して真っ赤な顔で言う。 「もうね、顔色も変えずにそゆこと言うのやめてくださいね。ただの雑談だったのになんでこんなに恥ずかしくなるん…」 「悪かったな」 謝ると、いいえ、といって肩の辺りにしがみついてきた。 熱いんじゃなかったのか?と言うと。 「今は冬なのでそれでもええです」 と、やけにきっぱりと言い切ってから、もう一度ぎゅうと強く俺を抱きしめた。 END
冬のさなしま。 炬燵で蜜柑はいいですよね。わたしは色素が沈着するくらい食べます。だけど蜜柑て意外とカロリー高いんですよねー正月太りと蜜柑太りでいろいろアレです。どうでもいいか。 ⇒御題提供*「7」 |