no,010(TQ!!)
少しだけすくって
「隊長」 「なんだ」 俺に圧し掛かる形の隊長へ、見上げる形で声をかけた。こんなときでも隊長、なのはいろいろアレだと思うけれど、今更真田さんなんて名前で(苗字でも、名前)呼ぶのはもっとアレなので隊長。こんな格好で何か喋るのも恥ずかしいけれど何か考えていられるうちは喋らないのも恥ずかしいので(複雑な心境なのだ)どうでもいいことを話すことにしている。 「俺たち、婚約も結婚も妊娠もしないしできませんよね。それなのに、こんなことして、何が生まれんのかなあ、思って」 変に喘がないように、律動に合わせて言葉を紡いだ。何をしてもこの人は気にしないというだろうが俺は気にする。かえっておかしな喋り方になってしまったような気もするがその辺はスルーしておこう。良くある話だ。良く聞くし良く見る。同性同士なら誰でも一度は考えるはずだ(目の前のこの人はまあ別として)。それでどうしようというわけでもないし特に答えを期待した訳でもない。ただこの人の何かを考える顔が(普段よりさらに)かっこよくてすきなだけだ。 で、隊長は期待通り、いつもよりさらにかっこいい顔でしばらく考え込んでからわからないといった。 「悪いが、急には思いつかない」 「まあ、そうでしょう、ね」 また切れ切れに答えて、続けて特に意味はない戯言に付き合ってくれてありがとうございます、と言おうとしたところで、隊長の顔がまだ考え込んだままなのに気付く。隊長? どうかしましたか、という意味を込めて顔を覗き込むと(形としては見上げていても意味はそういうことだ)、やっぱりかっこいい顔でお前は、と言われた。 「嶋本は何か生まれるものがあると思うか?」 「俺ですか?…えーと、」 自分で聞いておいてアレだが、考えてはいても答えが出ている訳ではない。別に特に生まれるものとかは…気持ち良さとか繋がってる感覚とか、そういうのは口に出したくないしな。考えるだけでも恥ずかしい。が、答えないわけにも行かないので。 「ええと、……強いて言うなら愛、とか」 「そうか」 うわー流されたんかなそれともまんま納得されたんかなー…どっちにしても真顔でやられるとものっそ恥ずいなー、などということを三秒くらいで考える。定番な答えですいません。ていうか生まれてるんですか俺たちの間には。というようなことも続けて考える。そんなかっこいい顔で見下ろされても軽く言ったことなんで…いやまあ本気ですけど笑ってくれたらもっと良かったんだけどなあ、なんて。考えるだけで口には出さないまま。 「嶋本」 「はい」 「愛、といったな」 「はい」 「生まれたか?」 「…ええと」 それは、だからそんなかっこいい顔で聞かれても。それを聞きたいのは俺の方なんですよ。恥ずかしいなあ。なんで隊長は恥ずかしくないんだろうか。そういう風プログラムが組んであるのか?凄いな。 「それは、知りません、けど」 「けど?」 「俺は、隊長のことがすきです、よ」 今更何言ってんだ俺。いやでもこれで間違ってないような気が、する。 「隊長、は?」 「俺も嶋本のことが好きだ」 「じゃあ…生まれたんと、違いますか」 「愛が?」 「愛が」 「そうか」 今度のそうか、は流されたわけではないことが分かる。 「嶋本」 「はい」 「生まれているといいな」 「…そう、ですね」 そうですね。ああほんとに。愛でも何でもいいけど何か生まれてて欲しい。愛じゃなくても、信頼でも快楽でもなんでもいい。この人と俺の間に何かがあって欲しい。そしてできればそれがずっと続いて欲しい。ずっとは無理でもせめて俺が好きな間は。 (たぶんそれはずっと) (だと思) (いたい) 「嶋本」 「はい」 「動いてもいいか?」 「あ、はい」 戯言はこれで終わりだ。何も考えずにすむならそのほうがいい。世界が終わるならこの時がいいなあ、なんて誰にも言えないようなことを思いながら隊長に背中に手を伸ばした。 END
しあわせなかんじのさなしま。…は、いいんですが、なんかこういうのばっかり書いているような気がする…お前らいい加減レスキューしろよ。(それは言っちゃいけない) タイトルのすくって、は「救って」じゃなくて「掬って」のイメージで書きました。どういうのかと聞かれてもまあ答えられないわけですが。 ⇒御題提供*「7」 |