それがやさしさだとどうしてきみはしんじられるの

004/TQ!!           それがやさしさだとどうしてきみはしんじられるの


「盤君のまえにたつと時々俺のほうが間違っているんじゃないかとおもうよ」

盤君があまりにも清々したかおで俺を罵倒するから 
素直にそれを受け入れない俺のほうが悪いにんげんなんじゃないかと

兵悟は、あの真っ黒な目で俺を見ながらそんなことを言った。
突拍子もない台詞で核心を突く。それはとてつもなく不愉快な感覚であるのだけれど。
思い切り眉を顰めた盤には構いもせず(それはいつものことであるからなのだが)に続ける。

「そんなことあるわけないのにね」
「…何が言いとおと」
「俺が全部正しいなんて言わないけど、俺は君より正しいよ。そして誰がどう思っても何も思わなくても、君だけはそれを知ってる」
「それがなんね?」
「なんだろうね?俺は知らないよ。でも盤君は知ってるだろ」
「正しいことが何になるっちゃ。正しいことだけで世界が回るわけでもなかろー」
「そうだね。でもそんなことは皆口に出さなくても知ってるよ。盤君じゃなくても知ってる。皆 正しいことだけを言って正しくないことをするんだ」
「それが なんね」
「俺は俺が馬鹿だって知ってる。でも盤君は知らないだろ。君は俺と同じくらい馬鹿だよ」

奇麗事を言って生きていくくらいの力はあるだろうに、それをしようともしないで反発して。
これ以上ないくらいのプライドで自分を卑下して、そのくせ綺麗なものに執着して。

「…は、」

それはどうしようもなくまっすぐな目で、まっすぐな言葉で、深く胸を突いた。
止めてくれそんな言葉は聞きたくない。兵悟の口から聞きたくはない。
正しいことだけを主張してくれればいいんだ。
正しいことを正しいままに語ってくれればいいんだ。
世間知らずと笑い飛ばせるようなことを、哀れむことが出来る次元で話してくれれば
頼むから いつかの誰かと同じようにただ 俺を嫌ってくれれば

「頭がよすぎるのも困りものなのかもね。もっとずっと簡単に出来てるんだよ人間は」

ただしくないことすら俺に告げようとするのはどうしてなの
きみにとっての真実ではないものまでそうなのだと俺にしんじさせてどうするの
いらないものを背負い込んで俺がわらうことがそんなにくるしい?

「苦しい、わけがなかろ?」

本当だ。苦しいというよりは息が詰まる。そんな綺麗な場所で笑えることが羨ましい訳ではなく、ただ理解することが出来なくて。苦しいわけじゃない、それはただ純然たる感触。同情でも嫌悪でも嫉妬でも、そんな感情ならいくらでも受け流せる。でも今兵悟が言おうとしているのはそのどれでもなくただの事実。正しかろうがそうでなかろうがただそこにある全てを、
そんなことまで 暴かないで くれ。

「そんな不機嫌そうな顔で俺を見ても意味ないよ。俺はちゃんと笑えるから」
「俺だってちゃんと笑っとーと」
「一歩引いた場所で傍観者になって?」
「それは兵悟君に関係なかろーもん」
「そうだね。でもそんなこと言ったらこの話は最初から成り立たないはずだよ。俺と君が関係ないならここを立ってどこか別の場所に行けばいい」

ここは俺の部屋で。
訪ねてきたのは盤君のほうなんだから。

「それとこれとは関係なかね」
「すきなの?」
「は?」
「関係ないって言うのが」
「…別に」

すきとかきらいとか、そうした類の言葉ではないだろう。意識せずに口を吐いて出てくる言葉をすきというならつらかーとかきつかーとか、そういった言葉の方がずっと好きになるだろう。


「あのさあ」
「なんね」
「盤君もちゃんとわらえるようになるといいね」
「何ば言いよっとね」
「だってきっと今よりはずっと楽になるよ」

その清々したかおの裏側でないているよりは きっとずっと。
ね。

清々と、といったその口でそれこそ清々しく笑う。
字面は同じでも意味はあまりにも異なっていて、口角を上げることでそれに答えた。
楽をすることはあっても楽になりたいなんて思ったことはない。
ここに来ている時点でそれはもう確定だ。聞きたくない言葉を聞くために会いたくない人間の顔を見ている。それはすべて蟠るための行程だ。打ちのめされることを望んでいるだなんて、あまりにも自虐的過ぎる。そしてそれは何をどんなに暴かれても兵悟には分からないだろう。
兵悟はしらない。
真実という優しさを振りかざすことがこの上もなく残酷な時もあるということを しらないから。
突き放されることによって救われることがあるということを しらないから。

「誰かに強制されても笑ったことにはならんばい」
「いいじゃん、練習しとけば」
「俺は綾波レイか?」
「なにそれ?」
「しらんと?」
「知らないから聞いてるんじゃん」
「あんまり説明しとうなか。大羽君あたりに聞けば教えてくれようよ」
「なんで大場君…?なんでもいいけどさ、ほらもっと唇上げて」
「うるさかー」

その美しい場所でいつまでもわらっていてくれたらいい。
傷つけることも知らないで 笑っていてくれたらいい。

END

とほうにくれる盤、を書きたかったようなそうでもないような…とりあえずわたしは兵悟君より盤君のほうが いいひとだとおもっています。いい人というか人として誠実というか<捻くれてるな 盤兵、のつもりで書いていましたができあがってみたら兵盤にみえます。べつに  どっちでもいい(ほんとに毎回そういってるね!)。うんでもこの二人はほんとにどっちでもいい。