002/SS/TQ!!
よごしたくてふれた
最初に何を思っていたかはもう分からない。ただそれは戯れのように始まったはずだ。自分よりも二回りほど小さい体に圧し掛かった時点で度を越しているような気もするが、嶋本は拒まなかったので特に気にしないことにする。 「隊長?」 何ですか? 戸惑いを含んだ声には答えずに、押さえつけて覗き込む。暴れることもなくただ体を硬くするだけの嶋本を見るうちに、妙な思いが沸いた。自分を信じて疑うことのない人間にどこまですれば拒まれるのか。今までそんなことを考えたことはなかったが、押し付けられるような信頼はどこまで保つものなのか、試してみたい気もする。 どこまで、というのが具体的に何をどうすることを指すのかを考える。嫌がらせのようなものといっても、痕が残るような暴力は論外だ。少なくとも、外に見えるような形で残してはいけない。外からは見えず、内側を侵食するようでいてなおかつ誰がされても生理的に嫌だろうと思う行為。といえば。 「隊長」 「なんだ」 「それはこっちの台詞で…何ですか?こんな体勢で聞くのもアレですけどなんか用ですか?」 「嫌なところで拒んでくれ」 「はっ?」 「既に嫌ならそういってくれて構わない」 「いや、会話してくださいよ。前後の文脈と何も噛み合ってないやないですか、つか嫌だったらって何する気ですか」 「何を?…そうだな」 困り果てたような顔で見つめる嶋本の唇に自分のそれを押し当てた。ゆっくりと見開かれた目が零れ落ちそうだなと思ったが、それでも嶋本は否定するような言葉を口にしない。まだ理解できていないのだろうか。それではと、自分より二回りは小さい嶋本の体から丁寧に衣服を剥いでいく。そこまできてようやく嶋本はなぜ、と口にした。なぜこんなことをするのか、と。 「こんなこと、とは?」 「え、…楽観的希望を口にしていいなら隊長自ら臨時の健康診断とか…」 「それはないな」 「ですよねぇ。じゃあ隊長は実はものっそい酔ってて俺のこと誰かと間違えとるとか」 「それもない」 「分かりませんよ、俺の名前呼べますか」 「嶋本進二」 「………ですよねー………じゃあどうして」 「特に理由はない」 「は?」 「理由はない」 「繰り返さんでも聞こえましたよ!じゃあなんですか、端的に言えばこれから俺は理由もなく隊長に犯されるわけですか」 「そういうことになるな」 「…俺何か悪い事しましたか?」 「いや?別に何も」 「したら気に入らないこととか。あるなら直しますけど」 「特にないな。むしろお前の行動は賞賛に値する」 「それはどうも、ってそうやなくて、せやったらなんでこんなこと!」 「だから特に理由はないと」 「返事になってませんて、うっわっどこまで脱がせる気ですか」 「嫌なところで拒んでくれればいい」 「だからそうじゃなくて」 隊長が自主的に止めてくださいよ!!を叫ぶ声を塞いだ喉の奥で聞いていた。 別に行為それ自体が目的ではないの、ただ嶋本自身がそれをーというよりは真田をー拒むことが重要なのだ。嶋本が真田に自主的なものを求める時点では、まだそれは信頼というものでしかなく、嶋本自身の拒絶にはならない。そえれにしても早く拒んでもらわなければ全て終わってしまいそうなのだが。それはそれで構いはしない、と思う真田の耳にまた嶋本の声が聞こえる。 「隊長」 「なんだ」 「分かってます?これ犯罪ですよ?しかも軽じゃなくて結構重いほうの」 「そうだな」 「そうだなって、軽く言わんといてください、俺犯罪者の下で働くのなんて嫌ですよ」 「そうだな。訴えるか?」 「なんでそうなるんですか」 「しないのか」 「しませんよ」 「なら問題ない」 立件されなければ無かったことに出来る。 そう言って終わらせると、いつも以上に眉根を顰めた形でああもうこの人訳分からんわどうにかして、と他人事のように呟いた。 「嫌だ、といえばいい」 「意図が分からない以上それはできません。隊長こそもう止めてください」 「拒否する」 「…何なんや…」 嶋本は諦めたように呟いて、それきり何も言わなくなった。律儀というかなんと言うか、これでは最後まで出来てしまう。と思うけれど、そこまでいけば何か変わるかもしれない。何のために、といえばそれはただの探究心だと答えるしかない。嶋本にとっては迷惑な話だな、とこれまた他人事のように考えた。 男同士ということも何も、始めてしまえばそれほど大きな障害ではなかった。しっかりついた筋肉は、柔らかくはないが触り心地は悪くない。それどころか体の小ささも相まって、抱き心地は良いほうに入るのではないだろうか。経験をつめばそれなりの知識は得られるのだなと妙に感心しながら事を進めた。どういう思いで嶋本がこの好意を受け入れているー拒まない以上はそういうことと解釈するーのかは分からない。だが、くるくると変わる表情の中で大きな目ー挿入したときは本当にこぼれるかと思うくらいに見開かれたーだけは最後まで変わらずに真田を通り越してどこか遠くを見ていた。得るものも失うものも結局何もなかった。 「嶋本」 「はい」 犯されたあとであっても、まるで染み付いたように礼儀正しい返答を返す。それはいっそ清々しいほどに空しい言葉で少し笑った。何も言いたいことなどなかったが、とりあえず大きな目のことは告げておこうと思う。 「目」 「め?」 「目が落ちそうで怖い。次は閉じておけ」 「…はい?」 問い返す声にはもう振り返らずにその場を後にした。次があるかどうかは疑問だったが、とにかく嶋本は真田を拒まなかった。その成果が出るまでは続けなければその行為の意味がなくなるのではないかと考える。忘れられてしまっては意味がないのだ。願うのは心からの拒絶。 その不毛な感情に付ける名をまだ知らない。 END
なんだこの真田…前回の後付で始めてを書いてみたら人間性を疑うような真田像が生まれました。意味もなく部下を犯しておいて嶋本の懐が深すぎるのが悪いと責任転嫁するような真田、意味が分からないので拒絶も出来ない嶋本。嫌だこんなの不毛すぎる。 ここからどうしたら両思いまで持っていけるのかな…まだ片思いすら始まっていないのに。 ⇒御題提供*「7」 |