機械があいした熱

001/SS/TQ!!                       機械があいした熱


天井を見つめながら、嶋本はいつのまにか溜めてしまった息を吐いた。 眼を閉じるのは負けているようで嫌だ、と思いながらも、 目の前にある真田の顔を凝視する訳にもいかなくて(真田は気にしないだろうが)無理やり顔をそむける形になっている。実は結構苦しいのだが、他の動きがさらに苦しいので今更だ。
何をしているかというと、脱がされて突っ込まれて喘がされる。いつの間にかそういうことをする仲になった。なったというか、させられたというか、無理やりされているというか。とにかくその時はあっと言う間のことで、言葉も行為も全く艶めいたものではなかったから、最初のときは殴られるのかと思った。なにか悪いことをしただろうかと不安になったのを覚えている。だが気がついてみればそれはそういうことだったわけで、次の瞬間には何か気に入られるようなことをしただろうかと別の意味で不安になったことも。

今ではどちらでもないことを知っている。翌朝、どんな顔をすればいいのかと途方にくれる嶋本を前に、真田は何も変わらなかった。謝る訳でも横暴に振舞う訳でもなくただ一言、嫌だったかと聞かれた。嫌だったら次はそういって欲しいと、ただそれだけ。次があるのかと眼を見開いたのは確かだが、深く考えてみて別に嫌ではなかったと結論付けた。不安にはなったが嫌悪感はなかった。だからいいか、と。
と・いうわけで今もただそれだけの関係が続いている。体格が違いすぎてほとんど浮くような形で揺さぶられることになるのが情けない。なんだか酔いそうだなとぼんやりと宙を見ていると、これはただの自慰行為のような気がしてくる。真田はどんな気持ちでこちらを見ているのだろうか。顔を見られないまま考えていると、普段と全く変わらない声で呼びかけられた。

「嶋本」
「はい」

反射的に返事を返す。この人に呼びかけられたら返事ははい、しかない。それはもう脊髄反射といっても良いくらいのスピードで。これも仕事病といえるのだろうか。ちょっと違う気がする。

「すきだといってくれないか」
「…はい?」

なんですと?
すきだ、と言ってくれ?
緩く口付けたその口でそんなことを言う。顔にも人柄にも全く持って似合ってませんよと思うけれど、嶋本の知っている真田はこういう人間なので何も言わない。ロボに人間の言葉が通じると思うから空しくなるのだ、最初から人間だと思わなければ腹も立たないし痛みも―まあ許容できるくらいには―なくなる。いいこと尽くめじゃないか。
真剣にそんなことを考えていることが逆に空しくなることもあるのだけれど、とにかく真田に言葉は通じないのだから仕方がない。向こうに通じないものをこちらには解かれと言うのだから始末におえないと思う。
最初の頃に比べれば随分負担は軽くなった、と思うけれどそれは嶋本が慣れた所為であって真田が上手くなったわけではない(というか行為自体は最初から物凄く上手かった。それはもう最初から後ろだけでイけるくらいには)(それはとても珍しいということを後になって知った)。

それで何の話だったか。そうだ、すきだ、と言え?この人は本当に回路の一部がショートしているんじゃないだろうか。何を考えているのかさっぱり分からない。嶋本が真田をすきだと思っているのか、それともただ単にその言葉をききたいのか、そして聞いてどうするのか。
すきだといったらすきだと返してくれるのか?別にそんなことを言われたい訳ではないけれど、そういえば何も言われずにここまできてしまった。嫌いな相手にそんなことを仕掛けるような人ではないと思うが、いかんせんロボなのだ。そんなことを期待―期待というか予測―する方が間違っている。だからまるでどうでもいいことのように。

「口にしたら優しくしてくれるんですか」
「いいや」
「なら 言いません」

きっぱり告げると、真田は特にたいしたことでもないような顔で(それはいつものことなのだけれど)そうか、と言って行為を続ける。最初の頃、それはまるで侵食されるような感覚だった。内側を食い荒らされるという意味では間違っていないなあと今になって思う。
とりあえず嶋本自身の限界は近いようだ。それにしてもこの人はこれでいいんだろうかと最初から最後まで顔色の変わらない真田を見上げながら考える。

「隊長」

こんなときでも呼称は隊長だ。これも脊髄反射のようなものだろうか。違うんだろうなあ。どうにもこうにも仕方がない。

「なんだ」
「楽しいですか?」
「楽しいとは違うかもしれないが興味深いものではあるな」
「そうですか」

そりゃよかった。一人ごちると、ひときわ強く突き上げられて思わず妙な声が出た。あ、とかう、と言ったおよそ色気のないものではあるけれど、いつもより幾分高めな―普段だってそれほど低い訳ではないから本当に高い―この声はどうなんだろう。真田はともかく嶋本自身はこの行為になんの価値も意味も見出せてはいないのだけれど、快楽を追うという意味ではそれほど悪いものでもないような、そうでもないような。やはりこれは自慰行為のような気がする。

「嶋本」
「はい」
「嶋本」
「はい」

負けているのは最初から分かっていたことだ。そう思って眼を閉じる。鮮やかな音だけが意識を覆った。ひたすら名前を呼ぶ真田になにか他の言葉をかけたいと思ったが、 出てくるのはただひたすら 脊髄反射のような呼応だけだった。

END

真嶋。嶋本は別に隊長のことを好きではないけれど突き放すほど嫌いでもないのでなあなあで関係を持っています。そして隊長も別に嶋本のことが好きなわけじゃありません。 自分で手をだしたくせに拒まれないのが不思議で、嶋本は俺が好きなんじゃないかとか思ってる。なにそれ?
とりあえずあまりにも説明口調な内容で申し訳ない限りです。これから書いていく上での自分設定のようなものだと思ってくだされば幸い。


⇒御題提供*「