ザ ・ グ レ イ ト フ ル デ ッ ド 0


その"新人"とニューゲートは、ローグタウンの港で出会った。

とある事情で一度グランドラインを出たニューゲートの船と、これからグランドラインへ乗り込もうとする"新人"の船とが隣同士に繋がれていて、最初はただそれだけの縁だった。ほんの少しの分隊を率いてきたニューゲートの船と比べても、"新人"の船はあまりにも小さく、余計な世話だと知りつつニューゲートが声をかけたのだ。忙しなく出航準備をするほんの数人のクルーを尻目に、船尾でごろりと日を浴びる男が船長だろうと当りを付けて、「なあ、お前」と男の真上からニューゲートが声を落とせば、ん?と言う仕草で麦わら帽子を持ち上げて現れた顔が男と言うよりまだ少年に近いので、ニューゲートは僅かに眉を顰める。「なんだお前、何か用か?」と、人並み外れた巨躯を持つニューゲートに臆することもなく男が尋ねるので、「てめえはこの船でグランドラインに入る気か」とニューゲートが問い返せば、「俺の船にケチ付けるのかよ」と言葉面は威勢よく、しかし大して気を悪くした様子もなく男は笑った。その笑顔があんまりからりとしているので、毒気を抜かれたニューゲートは手すりに付いた肘を少しばかり滑らせて、ベルトに嵌めていたログポースをかちりと外す。「おい」とまた声をかければ、「うん?」と男が少しだけ身体を起こしてニューゲートを見上げるので、「これ持ってけ」と告げて、ニューゲートはログポースを投げ落とした。と、不意に大きな波が船を揺らして、僅かに軌道を反れたログポースは海に落ちる----かと思いきや、危なげない仕草で身を乗り出した男の手に難なく納まった。へえ、と男の身のこなしに僅かばかり嘆息したニューゲートの眼下で、男は手にしたログポースを日に透かして「なんだこりゃ」と首を捻っている。「コンパスだ」とニューゲートが教えてやれば、「これが?」と男は呟いて、しばらく考えてから「北を差してねえけど」と、ほとんど水平に首を倒してニューゲートの言葉をじっと待っているので、「あの海に入りゃわかるさ」とごく僅かにニューゲートは口角を持ち上げた。男から視線を反らして船内に戻ろうとしたニューゲートに、「お前、グランドラインから来たのか?」と男が尋ねるので、「まあな」とニューゲートが軽く頷いたら、「ちょっと待ってろ」と麦わら帽子をひっつかんだ男は、小さな船を飛び降りて細い路地裏に駆け込んでいく。当然のように無人になった男の船を見下ろして、「…待ってなきゃいけねえのか?」とニューゲートは呟いたが、誰も答えてはくれなかった。

結局からっぽの船から目を離すこともできず、「何してんです隊長?」と隊員に声をかけられること3回、時間にして約30分ほど無為に佇んでいたニューゲートは、「待たせたな!」と言う言葉と共に先ほどとは別の路地から飛び出した男に呆れかえった視線を向けて、「てめえ、俺達が略奪目的だったらこんな船あっという間に沈んでたぞ」と語気を強めたが、「あーそれはねえよ、この辺皆俺の知り合いだし」となんでもないように男は返す。ああ?と問い質そうとしたニューゲートだったが、また船に乗り移ってひょいひょいとニューゲートの真下までやってきた男が「ほら!」と何かを投げてよこすので、何も言わずにぱしりと受け取って、見ればそれは酒瓶だった。ニューゲートの掌にすっぽりと収まってしまうサイズの瓶をまじまじと見つめて、「何のつもりだ」と男を見下ろせば、男はさっそく腕に嵌めたらしいログポースをかざして、「礼だ」と大きく笑う。「親父の部屋にあった一番いい奴だから、悪くはねえと思う!」と続けた男に、「自力で買ったんじゃねえもんを渡す馬鹿がいるか!」と怒鳴り返したニューゲートに、「親父にはその内倍で返すから、今は受け取っといてくれよ」と麦わらを脱いだ男の額には汗が滲んでいて、どうしてもではないがニューゲートには男に酒瓶を投げ返すことはできなかった。ハア、と小さく溜め息をついて、「中で会うことがあれば、次は俺がくれてやる」とニューゲートが酒瓶を仕舞い込みながら答えると、「ああ、楽しみにしてるぜ」と屈託なく男は返して、元のようにごろりと甲板に横になるので、ニューゲートは最後に男に一瞥をくれて、今度こそ船内に降りた。間を置かずにニューゲートの船にはばさりと帆が張られて、舵を取るニューゲートの視界に、ごく小さな船と男はもう映らなかった。

 (これが始まり /  捏造第一世代 / ロジャーとニューゲート / ONEPIECE )