ザ ・ グ レ イ ト フ ル デ ッ ド 1


白ひげがロジャーに招かれてやってきたのは、白ひげが馴染んだ航路から大きく外れる絶海の孤島だった。グランドラインの中ではどこもそう変わりはないように見えるが、それでも人の住む島はそれなりに近く引きあう場所にある。むしろそれは、引きあう場所に人が住みついている、と言った方が正しのだろうが。ともかく、どこでどう居場所を掴んだのか、そう派手な動きもしていない白ひげの船に、ある日真っ黒な翼をはためかせる大きな鳥がやってきて、甲板の白ひげにエターナルポースを落として行った。何のまじないだ、と白ひげがエターナルポースをくるりと回転させれば、台座の裏に殴り書きで【酒を待ってる G.D.R】と書かれていて、白ひげは一瞬(いや5秒くらい)このまま海に投げ捨ててやろうかと思ったが、エターナルポースは安価ではないし、今はそう急ぐ旅でもない。また、だからこそロジャーがこれを送りつけてきたのだろうと言うところに思い当って、あの野郎、と白ひげは軽く鼻を鳴らした。応じようが応じまいがロジャーは欠片も気にはしないのだろうが、白ひげの船はつい先日イーストの酒を戦利品として手に入れたところで、その時白ひげの脳裏にロジャーの顔が浮かばなかったかと言えば嘘になる。結局大きくため息をついた上で、白ひげはつい先日2隻に増えた船の針路を大きく変えたのだった。

いつかのように隣り合わせて船を留めた岸辺から、適当に付けられた道を進んでみれば、やがて煌めくような笑い声が聞こえる。アレの声はどこにいても聞こえる、と白ひげがなんとなく苦々しく歩いていると、唐突に大きく木々が途切れる場所に辿りついた。決して多くはないロジャーの船の乗組員の姿が目に入り、そしてなぜかペンキの匂いがする。なんだ、と顔を顰めた白ひげが声をかける前に、背を向けていたロジャーが弾けるように振り返って、「お、来たな!」と当然のように言い放つので、「てめえが呼び付けたんだろうが」と白ひげは心底呆れたような表情を浮かべて見せたのだが、ロジャーはまるで意に介さずに「酒」と手を出した。このやろう、と思いつつ、白ひげが背負っていた酒樽を脇に置けば、おお、とひどく明るい顔で寄ってくる繋姿のロジャーの手には刷毛が握られていて、よくよく見ればロジャーの周りには「…椅子…?」がたくさん並んでいる。「ん、椅子」と軽く頷いたロジャーがペンキまみれのまま樽を開けようとするのを足で止めて、「樽が汚れるだろうが」と白ひげは言った。「細けェこと言うなよ、どうせ燃やすんだろ」と尚も手を伸ばすロジャーを無造作に蹴り飛ばした上で、「これはそもそも水用だ」と、ここで水を汲んで帰る、と白ひげが告げれば、ようやくロジャーは諦めて頷き、ぱたぱたと作業着を掃いながら「じゃ、さっさと飯にしよう」と乱立する椅子の間をすり抜けて乗組員に話しかけている。切り株だらけの広場は、ジャングルが途切れた、と言うより、ジャングルを切り開いた、と言う方が正しいらしい。白ひげも、ひとまず船のコックに「手伝ってやってくれ」と声をかけた。

ペンキだらけの広場は食卓には向かない、としたり顔で言ったロジャーに付いて行けば、船を付けられない浜辺に天幕が張られて、なかなか具合が良さそうではある。ただし、やはりそこにも置かれた椅子が無人島とはどうにも不釣り合いで、軽く強度を確かめて背もたれのないものを選んで腰かけてから、「なんでこんなに椅子がある」と同じく隣に座りこんだロジャーに問いかければ、「作りたかったからな」とどうにか洗った手で今度こそ酒樽を開けながら、ロジャーは平然と答えた。白ひげが腰を降ろしても軋まない椅子にそれなりに感心していたので、「てめえが作ったのかよ」とわりと驚きながら白ひげが声を上げると、「俺、船大工にもなりたかったんだ」と、にかっと笑いながらロジャーは酒盃をつきだすので、間を開けず白ひげにも手渡された盃をかつん、と軽くぶつければ、ぐい、と一息で空にしたロジャーが「うまい」と息を吐くので、「俺の酒だぞ、当然だ」と白ひげも緩く笑ってイーストブルーの酒を含んだ。


 (仲良くやっていたらいいと思った /  捏造第一世代 / ロジャーと白ひげ / ONEPIECE )