※574話以降捏造話 ものすごい捏造 微妙に性描写を含みますので苦手な方はご注意ください
あと微妙にエーマルを示唆していますがマルエーなのでご安心ください
現 十 夜 / 第 玖 夜
星のない夜だった。空にはひとつだけ、嘘みたいに大きな白い月だけがぽっかり浮かんで、水面を淡く銀色にさざめかせている。洗って干して交換したシーツをマルコの部屋のベッドに置いたエースは、机に向かうマルコを置いてマルコの部屋を後にして、ぐるりと船内を一周した。エースがきちんと目を覚ますまではベッドに乗せられて、歩けるようになってからはルフィと一緒に、ルフィが降りた後はマルコと一緒に、飽きもせずに巡った船である。外見だけでなく、内装も出来る限り白く塗られたモビー・ディックは熱心に磨きこまれて、今日も褪せることなくエースの足取りを追っていた。やがて小さな船窓から一瞬顔を出したエースは、次に大きな樫の扉からするりと甲板に踊りでて、鯨を象った船首から船尾までゆっくりと歩き、ひょい、と飛び乗ったハンドレールからからぐるりと帆桁を伝って食堂の屋根の上に降りて、すたすた歩いて屋根の端までたどり着いたところで、ようやく息を吐いて腰をおろす。人出の多い白ひげ海賊団は、夜でも航海を止めることはない。速度と光源に注意を払いながら、それでもざぶりと真っ暗な水を掻き分けるモビーは、だから通常の倍の速度で進むはずで、けれどもシャボンディ諸島を発ってからもう2週間以上も経つというのに、暗い海原には島影一つ浮かんではいない。そのくせ、気候は初夏で安定している。島の気候海域を抜けて、2週間も同じ気候が続くことはことグランドラインではほとんど考えられないことで、けれどもエースは今日までその異様さに気づかなかった。エースだけではなく、誰もそれを指摘しないことに、白ひげ海賊団に乗る優秀な航海士たちが何も言わなかったから、と言うだけでは済まされない不穏さを覚えて、エースはまた溜めていた息を吐く。エースは何かを忘れている。つい数日前まで忘れていることすら思い出せなかったエースは、この二日間でひとつ、エースも怪我をすれば痛いのだということを思い出した。赤犬に貫かれた時、”実を食ってから初めて”と思ったのはその圧倒的な熱さだけで、だからほんとうは痛むはずの胸に何の感覚もないことに気づいて、少しばかり愕然としている。そっと抑えた、薄いガーゼ一枚に覆われたエースの胸は、そこだけエースのものではないような気さえして、エースはまたそっと手を離した。不思議と、焦る気はなかった。エースの世界はもうエース一人のものではなくて、ルフィも、マルコも、サッチも、親父も、白ひげ海賊団の仲間も、皆がエースを構成している。だからもう、エースにはそれでよかった。
それだけで良かった。
夜は静かにエースを乗せて朝へと近づいていく。このまま眠って目覚めるだけなのはもったいないな、とエースが少しばかり首を傾げた途端に、かつん、と誰かの足音が聞こえてエースはゆっくり振り返った。屋根の端に座ったエースの対角線上、帆桁から一歩進んだ場所に佇んでいるのは面倒くさそうな顔をしたマルコで、エースは「ようマルコ」と手を上げながら、どこか冷静な頭の隅でやっぱりな、と考える。「ああ」と頷いたマルコは、すたすた歩いて、屋根から足を垂らすエースをじっと見降ろしながら「こんなところで何してんだよい」と尋ねるので、「夕涼み?」とゆるく首を傾げながら疑問形でエースは答えた。「嘘付け」とばっさり切り捨てたマルコに、「まあな」と短く答えたエースは、ごく自然に差し出されたマルコの手を取って立ち上る。「決済はもういいのか」と問いかけるエースに、「まあな」とそっけなくマルコは返すので、「あの書類、俺の分と、あとサッチの分もあったのか」と、ついでのようにエースが尋ねれば、マルコは無言で頷いた。「へえ」と溜息のように呟いたエースが、マルコの手を引いて食堂の屋根から飛び降りながら「いつから」と尋ねると、「…お前が船を降りてからだよい」と一拍置いてマルコは答える。ああ、やっぱりな、と重ねて思うエースが、それ以上追及はせずに「じゃ、マルコもう暇だよな?」と軽く振り返って笑みを浮かべれば、「まあ、そうだな」とマルコもごく普通の顔で返すので、「うん、なら俺の部屋でセックスしよう」と、マルコの手を強く握ってエースは言った。マルコは少しばかり目を見開いたが、「な」とエースが重ねると、「構わねえが、どうしてお前の部屋なんだよい」と返すマルコの疑問は至極真っ当なものだったが、「次に洗うシーツは俺のだって決めてるんだ」とエースが返せば、マルコは普段と同じだけ目を細めて「そうかい」とだけ言う。どうも諦められたらしいな、とエースは見当を付けるが、どちらにしてもマルコが肯定したならどうでもいい、と結論付けて、エースとマルコは月明かりの眩しい甲板をすたすた歩いて、メインマスト脇の上げ蓋を上げて一息に飛び降りた。手を繋いだまま。「なあ、確かいつかもこんなことあったよな」と、顔色一つ変えないマルコにエースが声をかければ、「お前が俺に懐く前の話だな」とさらりとマルコが言うので、「そうだったか?」とエースは記憶をたどったが、どうにも思い出せない。まあいいか、切り捨てたエースの右手を握るマルコの左手は、かなり熱い部類に入るエースのものよりは少しばかり冷たくて、エースはいつだってその数℃を埋めたくて仕方がなかった。手を繋ぐ時も、肩を組む時も、背中あわせに戦う時も、抱き合う時ですら、エースの方がずっとマルコをすきなのだと思い知らされるようで、無性に寂しかったからだ。エースとマルコのまとう化生が同じようで正反対であることも、エースの思いに拍車をかけていた。マルコの炎は、生き物を焼かない。マルコが意図的に伝えようとすればそれなりに暖かいが(羽毛だから)、触れたら傷つけるだけのエースの炎とは明らかに質が異なる。それでいて、エースにはマルコを焼くことができないのだ。炎は、炎を燃やせない。ずっとそう思って生きてきたエースが、いっそ傷つきたかった、というのはただのわがままで、そして、だからこそ赤犬の攻撃に衝撃を受けたのだということは誰にも言えない秘密だった。エースはマルコを、エースの炎で燃やしてしまいたかった。再生し続けるマルコを、塵一つ残さないくらい、完全に。そんなことも、エース自身が燃やされてみなければわからなかったことだ、と考えるエースはごく冷静に静まり返った船内を進んで、3段の階段を降りて、左に折れてすぐのエースとマルコの部屋の前まで帰り付く。エースがエースの部屋の扉を開いたところで、マルコはエースの手を離して、「中で待ってろい」と言ってマルコの部屋に入って行った。ぱたん、と律儀に閉じたマルコの部屋の扉はエースがもう何百回と潜った場所で、眺めるだけでその向こう側の景色までありありと思い浮かぶほど馴染んでいる。何も無いエースの部屋とは別の意味で、インパクトの強い部屋だった。
ふ、と唇の端に笑みを浮かべたエースは、マルコの言葉に従ってエースの部屋の扉を開いて、初夏だというのに寒々しいエースの部屋に身体を滑り込ませる。目を覚ましてからこっち、前半分はルフィと、後半分はマルコと一緒に寝ていたから、エースがひとりでエースの部屋に入るのは久しぶりだった。それでも、1年に満たない時間を過ごした部屋はエースにとってかけがえのない場所で、際にぴったり沿わせたベッドまですたすた歩いたエースは、かちりと留め金を外して小さな丸窓を押し開ける。薄く夜風が吹き込んでエースの癖毛を揺らしたところで、立てつけの悪い扉がギイ、と軋んでマルコの訪れを告げた。くるりと振り返って、壁に背を預けたエースがちょいちょい、と手招けば、グラディエーターを脱いで素足になったマルコは少しばかりエースから目を反らして、それでもぺたぺたとエースに近づいて、膝立ちでベッドに乗り上げる。エースの膝に手を置いたマルコの表情がどことなく不安そうなので、エースが笑ってマルコの顔に手を伸ばせば、マルコは目を閉じてするりとエースの掌に頬を寄せた。冷静に考えればわりと笑える図だとは思うのだが、愛に侵されたエースにはずいぶん可愛く見えて、どう見てもおっさんなんだけどな、と心の中で突っ込みながらもう片方の腕をマルコの首に掛けて引き寄せる。目を閉じたマルコの、唇ではなく額に口付けたエースに、ゆっくりと目を開いたマルコが「珍しいことをする」と言うので、「たまにはな」と澄ました顔でエースが返せば、マルコはゆるりと唇に笑みを上らせて、「そうかい」と頷いた。それから、マルコはエースの顔を両手で挟んで、とても丁寧に口付ける。ほとんど触れるだけのキスは、エースにマルコの体温をゆるゆると伝えて、やっぱり冷たくてもいいなあ、と力を抜きながらエースは思った。やがて離れたマルコは、ずる、と壁からずり落ちるエースの顔を見降ろしながら、「ものすごく丁寧にやさしくするのと、ただ突っ込んで出して終わるのと、どっちがいいよい」と尋ねるので、うーん、と考えるようなふりをした後で「いつも通りっていうのはどっちに入るんだ」とエースが問い返せば、「俺は優しいつもりだったが」とマルコは答えて、「だったら、今日は突っ込んで終りでいい」とマルコの耳元でエースは囁く。痛いくらいでちょうどいい。ロギアのエースに痛みを与えることはわりと難しいと知って、けれどもマルコならきっとエースの好きにしてくれる。無言でエースを抱きとめたマルコに、「で、ひとつだけ頼んでいいか」とエースが声をかければ、「なんだよい」とマルコは言うので、「ひとつでいいから痕つけてくれ」と、首筋をとんとん叩いてエースはせがんだ。「いや無理だろい」とマルコが即答するので、「覇気使って食いちぎったらたぶんつくだろ」とエースが返せば、マルコはしばらく沈黙した後で、「お前そういう趣味があったのかよい」とわりと引いた声を出すので、「ねえよ馬鹿」とエースは否定して、どっちかと言えば付けてえけど我慢してんだよ、とは言わずに、「でも付けてくれ」と重ねると、やはりまた黙り込んだ後で、「はいよ」とごく軽くマルコは答えた。「この辺で良いかい」と尋ねたマルコが、エースの首筋をざらりと舐めるので、エースは薄く背筋を震わせた後で「いいよ」と返す。生温かい舌が離れた後で、固いエナメル質のマルコの歯がエースの皮膚を伝って、躊躇いなく、ごく薄く食い破った。傷口をまた舐められて、ちり、と痛みが走るので、エースが思わず首筋に手を当てれば、滑るのはマルコの唾液だけではないことが分かる。身体を離して、「これでいいかよい」とエースを睥睨したマルコの唇にエースの血が飛んでいるので、エースはまず手を伸ばしてエースの血を拭ってから、「ああ満足だ」と大きく笑った。ら、「…やっぱりそう言う趣味があるのかよい」と本気で嫌そうな顔でマルコが呟くので、エースはマルコの背中を器用に蹴り飛ばして、「ドMな能力してんのはそっちだろ」と揶揄する。「ろくでもねえことを言うんじゃねえよい」と顔をしかめたマルコが、「これで満足なら俺は帰って寝るよい」とあっさりエースのベッドを降りようとするので、「いやいやいや、これでイけるほど人生投げてねえし俺」とエースはマルコの手を引いて、本気ではなかったマルコを簡単にベッドに押し倒した。
寝転がったマルコを見降ろして、「一回くらい、俺が抱いてみてもいい気がするけど」とわりと真剣にエースが言えば、「別にかまわねえよい」と本当にあっさりとマルコが肯定するので、「なあそれずっと言ってるけど、本気なのか?」とエースが尋ねると、「お前になら抱かれても抱いても大した差はねえよい」とさらりとマルコが言うものだから、エースは思わずキュンとした。言ってることかっこいいようで全然かっこよくはねえんだけど、こういうマルコだから好きなんだよなあ、と再認識したエースは、「じゃあそれはまたの機会にするので、今日は抱いてください」とマルコの胸に突っ伏す。ぎゅう、と肩口に腕を廻して抱きつけば、「今日は一段と何がしてえのかわかんねえよい」とマルコは苦笑しながらエースの頭を撫でて、「マルコとセックスしたいんだよ」とエースが答えると、「じゃあちょっと降りろ」とマルコがシーツをぽんぽん叩くので、エースは素直にマルコの隣に寝転がった。ばき、と首を鳴らしながら起き上ったマルコは、「さっさと済ませたいなら早く脱げよい」とエースに告げて、自分もばさりとシャツを落とす。ことマルコ相手に、たいして羞恥心を持ち合わせていないエースは、ざっとベルトを外して枕元に放り投げて、軽く腰を上げてハーフパンツを脱いで、続けて下着も脱いで、これは足元に追いやった。「ほんっとに色気のかけらもねえよい」と、一瞬で素っ裸になったエースを眺めながら、エースの脇腹に手を滑らせるマルコは呟くので、「色気がなくてもマルコが勃起するならそれでいいだろ」とごく簡単にエースが言えば、「口の減らねえガキだよい」とマルコはエースの頬を掴んで軽く引く。それから、「間違っちゃいねえから仕方ねえかい」と溜息のように言ったマルコがエースに屈みこむ込むので、エースは目を閉じてマルコの唇を受け入れた。ぬるり、と滑り込んだマルコの舌をエースが舐めている間に、マルコはきゅい、とローションの蓋を開けて、今日は最初からエースの胸にぶちまける。え、と思ったエースがマルコの背を掴むと、マルコの手は滑るエースの肌をゆるゆると這いまわって、冷たいローションをエースの身体中に塗りつけて行く。えええ、小規模なローションプレイ?と、第三倉庫で仕入れたろくでもない知識を思い出しながらエースが身体を強張らせれば、マルコは何を思ったのか一瞬エースの口から舌を離して、「あとで拭いてやるから心配するなよい」と見当違いの言葉を吐いて、いやいやいやそんなこと聞いてねえよ、とエースが返す間にまた口を塞いだ。ぷは、とエースが息を継ぐ間に、「摩擦が減ればすぐ好くなるだろい」と平然とマルコは言って、「ああ、…そう」と、ガーゼ濡れたらどうしよ、とエースは別の事を心配しつつ、ぬるぬる動くマルコの指に集中する。…三分でいたたまれなくなった。ああうん、恥ずかしい。普通に恥ずかしい。女を相手にする時もたいして前戯に時間をかけなかったエースは、マルコがあんまり丁寧にエースを開こうとするものだから、いつもどうしていいかわからなくなる。正直なところチンコと前立腺だけで十分気持ちいいです、とはさすがに言いがたくて、エースはつ、と太股の内側をなぞられる感覚に背筋を泡立たせた。これって気持ちいいんだろうか。いや悪くはねえし、勃ってきてるのも確かなんだけど、そんでマルコが楽しいならそれでいいんだけど。はあ、と熱い息を吐いたエースを見降ろして、「何でいつもお前はそうやって微妙な顔をするんだよい」とマルコが尋ねるので、自覚のないエースが「え」と声を上げれば、「もうちょっと余韻を大事にしろい」と真面目な顔でマルコが言って、いや無茶言うなよ、とエースは思わず笑ってしまった。あははは、と声を立てるエースに、マルコはむっと眉を潜めて、「笑うんじゃねえよい」とエースの口に指を突っ込むので、エースの口には何とも言えないローションの味が広がって、けれどもなんとなくただ吐きだすだけではもったいないような気がしたので、ちゅ、と吸い上げれば突っ込んだ時と同じだけの早さで指が引き抜かれて、エースはぺろりと唇を舐めながら「まずい」と感想を述べる。唾液とローションで濡れた指をエースのシーツに擦り付けつつ、「俺はお前が良くわかんねえよい」とマルコが肩を落とすので、「大丈夫、俺もお前が良くわかんねえから」とエースがにっこりほほ笑めば、「ああそうかい」と投げやりにマルコは答えて、一瞬射竦めるような目でエースを見つめたが、すぐに反らして、たらりとエースの下半身にローションを追加した。さすがに股間は冷たくて、びく、と背骨を揺らしたエースの足の間からたらたらと粘性の液体が滴って、白いシーツに筋を残している。「も、入れるか?」と、エースが足元からぬるりとした液体を掬ってマルコの裸の肩を探れば、マルコはエースの手を取ってひとつ口付けてから、「それが希望みてえだからな」とマルコは返して、それから「このままするか?それとも、起き上がるか」とマルコが尋ねるので、エースは少し考えて、「起きる」と言ってマルコの首に手を廻した。エースの思考を正確に汲んだマルコが、エースの背中に腕を通してぐい、と引くので、エースはシーツに胡坐をかくマルコの胸に顔を押し当てる形で身体を起こす。滑る身体でエースがマルコに擦り寄れば、「ちょっと待ってろい」と言ったマルコがマルコのマルコにローションを擦り付けているのがわかって、それ俺がやりてえのにな、と思ったエースが手を伸ばすと、「お前は自分の根元でも握ってろよい」と素っ気なくマルコに押し返されて、えええ不毛、とエースは心の中で嘆いた。せっかく抱き合ってるのに。なんとなく悔しいエースが、目の前にあるマルコの首筋にがぶ、と歯を立てると、「いてえよい」とこれまた簡単にエースの頭はマルコの手に押し返されて、「すぐ治るんだからいいじゃねえか」と言うエースの主張は無言で却下される。心の狭い奴だ。
なおもエースがマルコに手を出そうと画策している内に、エースの手首をひとまとめに握ったマルコが「いいから集中しろよい」とわりと静かな声で一喝するので、ああこれ以上は怒られるな、と思ったエースは、黙ってマルコの肩に顎を乗せた。おとなしくなったエースの背筋を撫で下ろして、「よい」と頷いたマルコが、ぺろ、と先ほど食い破った首筋の傷を思い出したように舐めるので、薄く走った痛みを予期していなかったエースが「ぁ、」とか細い声を上げると、「…やっぱりそうなんじゃねえかい」としみじみとしたマルコの声が聞こえて、否定しようとしたエースの後腔にするりと指が伸びる。まだ窄まったままの、それでもローションで濡れる尻穴を撫でられて、もう何度も触れられてるというのにエースはまたぎゅう、とマルコに縋りついてしまって、気配だけで笑うマルコの顔を思って少しばかり頬を赤らめる。意識を無くすほど集中してしまえば炎を吹き上げることが分かっているエースは、適当にマルコで気を紛らわせて熱を下げるしかなくて、けれどもこうしてマルコに穿たれる前はどうしたって胸が痛い。エースはマルコがすきだったから、マルコを受け止めることに何の異存もないし、マルコとするセックスも好きだったが、だからこそ一度でいいから何の気兼ねもせずにマルコとしてみたかったな、と思うことはあって、しかしそれはエースがエースである以上いつまでも叶うことはない。いっそ海楼石でもつけてみるか、と考えるエースの中にはもうマルコの指が埋め込まれて、ゆるりと動くたびに節の目立つ指の細部まで想像できてしまうエースは目を見開いて、マルコの後ろの古びた壁を凝視した。羽目板に残る傷跡をかなり良い視力でひとつふたつと数えながら、エースはマルコの指と、首の後は肩に移動したマルコの舌がもたらす感覚に耐えて、ついでにそろそろ溢れそうな射精感にも耐えてみる。何しろ一度も触られていないというのに、滑る体温と指の動きだけで達しそうなエースは、もうMでもいいか、とかなり投げやりだった。だってマルコがそう言ってるし。もうそれでいいかなあ、と思うエースの視界は少しずつぼやけて、は、と上がる息を抑えて目を閉じたエースが「…マルコ」とマルコの名を呼ぶと、マルコは熱心に肩をなぞっていた舌の動きを止めて、ついでに指もずるりと抜いて「何だよい」と返すので、エースはまずびくりと震えた身体を抑えてから、「そろそろ入れて欲しいですマルコさん」と訴えれば、「なんで敬語だよい」と呆れたようにマルコは言って、エースの肩に両手を置いて、マルコに凭れたエースをぐい、と引き剥がす。離れたエースの顔を見たマルコは、「お前がいつもそう言う顔してりゃ世話はねえんだけどな」と面倒くさそうに言うので、「どんな顔だよ」とだいたい見当はついているエースが素知らぬ顔で尋ねれば、「お前を抱いてる時の俺みたいな顔だよい」とあっさりマルコは答えて、それってどう言う、とエースが思う間もなく、「腰上げろよい」とマルコが促すので、エースは軽く膝立ちになってマルコの頭を抱いた。肩から背中に、そして腰へと移動したマルコの掌が軽くエースの双丘を割って、確かめるように押し当てられたマルコのマルコがあんまり熱いので、エースはマルコの髪を握りしめてしまって、「痛ェよい」と素っ気なく言うマルコに「悪い」と返したエースはそろそろと両腕をマルコの肩に降ろす。爪を立てないようにしながら、それでも力を込めたエースの尻をするりと撫でて、マルコはゆっくりと腰を進めて、ついでに両腕でエースの身体を引くので、エースも腰を落としてマルコの膝に体重を預ける。湿った穴と、滑る棒は簡単にぴたりと合わさって、隙間なく埋め込まれたところでマルコとエースはどちらともなく大きく息を吐いた。音のない部屋での吐息はやけに耳に付いて、「はは、」とエースが軽く笑い声を立てると、「何がおかしいんだよい」と言いながらマルコが軽く腰を揺すって、きゅう、と奥の方でマルコを咥えるエースは窒息しそうな錯覚に陥って「マルコが中にいることが嬉しくて可笑しい」と震えながらエースが答えれば、「もう何度もしてるだろい」とマルコは返して、それでも言ったマルコの頬が僅かに赤いので、エースはそれ以上重ねずに「うん」と頷く。うん、そうだな。それきり黙ってしまったエースをしばらくマルコは眺めていたが、やがて思い切りよくエースを引き寄せて、びくつく粘膜をかき混ぜるようにエースを突きあげながら唇を塞いだ。息継ぎに失敗したエースは、深く重ねられたマルコからどうにか酸素を吸って、もうこのままずっと上下繋がっていてえな、とあまり廻らない頭で考えて、そしてゆるく閉じた目で嗤う。そりゃあ今までだってそんなことができた筈はないけれど、もう二度と、仮定ですらそれはできないのだとわかっていたからだ。嗤った拍子に生理的ではない涙が滲みそうになって、慌ててエースはマルコの舌に集中する。今、エースはとても気持ちがいいのだ。全身をぴたりとマルコに重ねて、上の口も舌の口もマルコで埋められて、それがひどくいとしくてたまらない。マルコをあいして、マルコにあいされて、生きていたことを思う。しあわせだった。エースは、とても幸せだった。とても。
もう何も考えたくなかったエースは、マルコがエースを揺する動きに合わせてがくがくと腰を揺らして、マルコがエースからマルコのマルコを抜き差しするたびに入り口で根元と亀頭を締め付けて、その度にマルコが喉の奥で軽く息を飲むことにほとんど恍惚めいた愉悦を覚えて、ことさら深く腰を沈めた。やがてぎゅう、と必要以上に強くしがみつくエースを同じくらい強く抱いてマルコが果て、後を追うようにエースも精液を押し出す。すでにどろどろだったエースの腹をしとどに濡らすエースの体液はエースの体温よりずいぶん温くて、サッチの掌を濡らした水の温度に似ていた。しばらく唇を重ねたまま呼吸を整えていたマルコは、最後にちゅう、とエースの舌を吸い上げてからエースの顔から離れて行き、余韻のように零れ落ちたエースとマルコの唾液は慌ててエースが舐め取っていく。「拭いてやるから待ってろい」とエースの口を押さえたマルコは、適当にマルコのシャツを取ってエースの口元をぐいぐい拭って、それがまだ入っている時の仕草とはとても思えなくてエースはむしろ安心した。好きあっていると、愛していると告げたところでマルコはエースに何も期待していないようだし、マルコも何が変わるわけではないらしい。それが良かった。エースはマルコとセックスするのが好きだったし、マルコとしかセックスする気がないくらいマルコを愛していたが、それと同じくらいセックスしない時のマルコも愛していたので、いつでも同じ態度で接せられても困る。呆れられて、諦められて、殴られて、蹴り飛ばされて、張り倒されて、頼って、頼られて、あいして、生きているマルコを失くしたくないエースは、エースの口元を拭い終わったマルコがやけに慎重にエースの肛門からマルコのペニスを引き抜く瞬間に、「なあ俺がもし女で、これでマルコの子供孕んだらどうする?」とろくでもないことを尋ねて、「何の話か知らねえが、そうしたら親父に孫ができて喜ばれるだろうな」と、エースが子供を産むことには何ひとつ疑問を持たずにマルコが答えるので、「じゃあマルコが女だったら俺の子供生んでくれるか」とエースが続ければ、「お前が欲しがるんだったらそれでもいいが、そのかわりお前の父親みてえに子供の顔も見ずに死ぬような不義理はするなよい」と言いにくいことをさらりとマルコは言った。どろりと溢れた精液とは正反対に、答えに詰まってしまったエースの顔を呆れたように眺めて、「自分で聞いておいて傷つくなよい」と言ったマルコはがしがしとエースの頭を撫でるので、「でもやっぱ海賊だから、死なねえとは言えねえし」とエースが呟くと、「お前弟には安請け合いしてただろうが」とマルコは突っ込んで、「盗み聞きするなよ」と小さくなったエースがマルコの胸に顔を埋めれば、「あんな大声、聞こえねえほうがおかしいよい」と冷めたような口調とは裏腹に優しい手つきでマルコはエースの背中をあやす。エースの身体から力が抜けたところを見計らって、マルコはエースの下から足を抜いて、ざっと身なりを整えてエースのベッドを降りた。「どこ行くんだよ」と言ったエースを振り返って、「お前はそのまま眠りたいのかよい」とマルコが逆に尋ねるので、とりあえず塗られたローションが乾き始めているエースはああ、と思い当って「いってらっしゃい」とドアを開けかけるマルコの後ろでシーツをひきよせて、どうにか下半身を覆う。ぱたん、と閉まった古い扉を眺めて、そういや拭ってくれるって言ってたな、と思い出したエースは、手持無沙汰にベッドに腰かけていたが、やがて思い立って少しばかり重い腰を上げて、扉の右横に置いた机に歩み寄った。何も乗っていない机の二段目の引出しをエースが開ければ、そこには黒曜石の星座盤が一つだけぽつんと置かれて、少しばかり寂しげに佇んでいる。もともとマルコのものだったそれは、エースが隊長になった次の週にマルコから無造作に手渡されたもので、黙ってその滑らかな盤上を撫でたエースはほとんど取り出して眺めることのなかった非礼を詫びる。だって大事だったのだ。自分が粗忽だという自覚のあるエースは、大事なものを持ち歩く習慣も、大事なものを作る習慣もない。そうして2年も過ごした船で、エースが最後まで残しておきたかったものはこれひとつだけだということを改めて認識したエースは、それでもドーン島には何ひとつ残さなかったことを思い返して満足そうに頷いた。ここはエースの居場所だった。紛れもなく。
やがてひたひた、と闇に紛れるような忍ばせた足音が聞こえて、もう一度星座盤を撫でたエースは、ぱたんと引き出しを閉じてベッドに腰掛けて、扉を軽くノックして開いたマルコを何事もなかったような顔で「おかえり」と出迎える。「ただいま」と含みもなく答えたマルコが、水の入った洗面器とタオルとシーツを持っているので、エースはシーツをぞろりと巻き付けたまま受け取ろうと立ち上れば、「いいからそのままでいろよい」と視線をエースの股間に落としながらマルコは答えた。つ、と中から太股に伝う液体の感触に気づいているエースは、まあそうか、とひとつ頷いておとなしく膝を抱えると、マルコはエースの足元に膝マづいて洗面器の水に浸したタオルを絞って、右足から手早く、でも丁寧にエースをなぞっていく。当然のように股間にも伸びる手に少しばかり身を捩らせてから、「もしかして、寝る前に風呂入んない時はいつもこうやっててくれたのか」と、中に残したまま目を覚ましたことのないエースがようやく気付いて尋ねれば、「だって気持ち悪いだろい」とよく知ったようにマルコが答えるので、そういえばマルコって突っ込まれる方も慣れてんのか、と聞こうとしたエースはなんとなく答えが予想できて口を噤む。どう答えられても、エースにはもうそれを用立てる術がない。マルコを抱くこともできない。ともかく「ありがとう」と頭を下げたエースに、「いいよい」と短く返したマルコは、何度か水を変えてすっかりエースを清めてから、ざっと自分の始末をして、それからエースをベッドから降ろしてばさりとシーツを丸めて新しいシーツを敷いた。これって、と聞きかけたエースに、「俺の部屋のだよい」とあっさりマルコは答えて、「洗濯したばかりだから気持ちいいだろい」といつの間にか着替えていた新しいシャツをまた肩から落として、先にベッドに寝転ぶ。素っ裸のエースをそのまま手招くので、エースが急いで下着とハーフパンツを身につければ、マルコは怪訝そうな顔で「普段そのまま寝てるだろい」と言うので、「まあ、いいじゃねえか」とエースはごく軽く笑って、広げられたマルコの腕の中にぼふり、と飛び込んだ。笑ったまま、ぎゅう、とエースがマルコの腹にしがみ付けば、「重いよい」とマルコはエースの頭を押し返して、それでもゆるく抱き返してくれる。ゆるやかな体温の移動は、マルコの鼓動を確実にエースに伝えて、きもちいいな、と反芻するようにエースは呟いて目を閉じた。マルコはしばらくエースの背中を撫でていたが、エースが規則正しい呼吸を心がけるとやがて手を止めて、エースの瞼を何か暖かいものが掠める。マルコが触れた部分から、溢れるほどの愛情を感じながらエースはゆるりと頬を緩めて、マルコが小さく「おやすみ」と呟く声を聞いた。
星のない夜だった。それでも嘘のように明るい、満月の夜だった。
( さあ奈落の幕開けだ / マルコ×エース/ ONEPIECE )
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