※ 性描写を含みますので、苦手な方はご注意ください。



交 じ り 合 わ な い 夜 の 下



マルコが精液と共に深い息を吐いてエースの体から離れた時、時刻はすでに深夜12時を廻っていた。エースとのセックスは、いつも唐突に始まる。仕掛けるのはマルコだったりエースだったり、その時々でまちまちだが、しかし エースが「したい」と言うときはマルコもそろそろ人肌が恋しい時だったし、マルコがエースに手を伸ばす時にエースがそれを振り払ったことは一度もない。エースがマルコを好きなことを知っているマルコは、それでもエースがマルコのすべてを許すわけではないことも知っていて、だからエースとマルコのバイオリズムは重なっているのかもしれない、とマルコは思う。マルコとエースの事を、「正反対のようで良く似てる」と称したのはサッチで、それは焼ける焔と燃える炎を持つマルコとエースをひどく適切に表しているので、マルコは随分楽になった。マルコとエースは別々の人間で、通じ合わないこともたくさんあるのだが、それでもわかることがたくさんあると言うのは幸せなことだ。何しろマルコはエースのことを、あいしているので。と言いうようなことを考えながら、寝転がるエースの裸の肩を無表情に撫でたマルコの腕を叩いて、「なあ」とエースは言った。言ったエースの声が少しばかりかすれているので、水を飲ませなければいけない、と頭の端で考えながら「なんだよい」とマルコが応えれば、「今夜は冷えるな」とエースは言う。2日前まで上陸していた島は常夏のジャングルで、ある種熱狂的なまでに夏が好きなエースは、いつものようにほぼ半裸で島中を駆け回っていた、らしい。伝聞なのはマルコが少しばかり隊長を崩した親父と宿に籠っていたからで、それでも親父もマルコも毎日のように宿の窓から顔をのぞかせるエースを楽しみにしていたから、不満はない。だから、夏島の気候海域を抜けて不安定なグランドラインの季節にさらされたエースが「寒い」と言うのは当然で、今日は特にひどい寒波に見舞われる、と航海士も言っていた。白ひげ海賊団の航路と気候を操る彼らは予測不可能なグランドラインの気候もある程度測れるようになっていて、それは極秘裏に海軍から流出した科学技術のおかげだ、と言う話もマルコは聞いている。

というわけでマルコは、健康的に色づいたエースの首筋をゆるりと摩って、「寝るときは毛布を追加してやるよい」とあやすように言った。ん、と頷いたエースが、でも何かに気づいたように身を起こすので、エースの上にいたマルコは軽く身体をずらしてエースに場所を譲る。「どうかしたかい」と尋ねたマルコに、「静かだなと思って、」と言った全裸のエースが、当然のようにそのままベッドを降りようとするので、マルコは慌てて手近にあったマルコのシャツをエースの背中に放った。「ん?」と、ずり落ちそうになったシャツを掴んだエースは不思議そうな顔をするので、「寒いんだろい、羽織っとけ」とマルコが答えれば、エースは特に反論もせずに「おう」と頷いて、素直に袖を通している。マルコとエースにそれほど体格差はないが、それでも裾の長いマルコのシャツはエースの背中や尻を越えた足の付け根まで届いていた。見えそうで見えないぎりぎりの位置を、見るともなく、を装いつつ凝視しながら、(これが彼シャツってやつかよい)とろくでもないことを考えるマルコの前で、素足のエースはぺたぺた歩を進めて、すぐそこの丸窓を覗きこんで「やっぱりな」と呟く。エースがそのままかちり、と小さな窓を開けるので、冷たい風と空気が一度に流れ込んで、エースが羽織るマルコのシャツを持ち上げた。お、と思ったマルコは、シーツをまとうことも忘れてエースの、具体的にはエースの足の付け根あたりを眺めている。わりと良い眺めである。が、一拍置いて振り返って「雪降ってるぜ」と笑ったエースの顔があんまり健全なので、マルコはどうにかほとんど丸見えのエースのエースから視線を剥がして、エースがしたように丸窓の外を見上げた。ぼんやりと靄がかかったような、紫とも灰色ともつかない奇妙な色の空からには、たしかに淡いコントラストの雪がちらついている。

窓を開けた瞬間から先は海風もなく、雪の一ひらが舞い込むこともない。「ああ」と、感嘆とも応えともつかない声を漏らしたマルコに、わずかばかり微笑んだエースは窓の外に視線を戻して、さらに手を伸ばして雪を捕えようとしている。マルコの部屋の窓はモビー・ディックの全ての窓と同じようにごく小さなもので、せいぜい腕と、どんなにがんばっても顔を出す程度にしか開くことはない。だからマルコだって、二の腕から先を出しただけのエースがそこから夜の海に落ちるような心配は欠片もしていなくて、それでも嬉しそうに雪を追いかけるエースの横顔に、「そろそろ俺も寒いよい」と声をかけたのは、ただマルコの独占欲である。抱き合う回数を重ねるたびにセックスに慣れて行くエースは、始めのうちのようにマルコを納めたまま眠るようなことも少なくなった。エースに負担をかけたくないマルコにとって、それは決して悪いことではないのだが、思考と感情はまま別のものである。つまるところ、セックスしたすぐ後に別のものに気を取られているエースが面白くないマルコは、「悪い」と短く答えてかたん、と窓を閉めたエースを黙って手招いた。やはり素直にすたすたとマルコの前までやってきたエースは、当たり前だがマルコが着せたマルコのシャツ一枚で何か口を開きかけたが、エースが「あ」とも言わない内にマルコは左手でエースの右腕を掴んで、右手でシーツを取ってぐるりとエースを覆ってしまう。引き倒されるようにすっぽり抱き込まれる形になったエースは、「うえっ」と潰されたカエルのような声を上げて身体を起こそうとしたが、マルコがエースの背中を撫で下ろすと、「…そんなに寒かったか?」とエースは言って、もぞもぞと体制を整えてマルコの肩に顎を乗せた。マルコの胸に触れるエースの胸があんまり冷たいので、「寒かったのはお前だろい」とほとんど八当たりに近い感情でマルコは吐き捨てる。その声がエースにかけるものとは思えないほど殺伐としていたことに、マルコ自身が驚いた。しばらく沈黙が続いていたが、やがてそろそろとマルコの背に手を廻したエースが「俺が、寒かったから怒ってるのか」とわりと的を得た発言をするので、もう冷静になっていたマルコは「さっきまで熱かったのにもったいねえっていう話だよい」とあまり表情のない声で答える。エースほどではないが、平均から見てそう低くもないマルコの体温はじわじわとエースに伝わって、布越しでも「うん」と頷いたエースの緊張が解けたことがマルコには分かった。マルコに身体を預けるエースの頭をあやすように撫でて、「そもそもどうして雪だって気づいたんだよい」とマルコは尋ねる。エースの上にいたマルコはともかく、エースの位置からはヘッドボードに隠れて窓は見えなかったはずだ。ああ、とひとつ頷いたエースは、「静かだったから」と、ベッドから立ち上がる前と同じことを言う。よく理解できないマルコが「静かだと、雪なのかい」と重ねれば、エースは少し間を開けて、「雪だと、甲板の奴らがだいたい中に引っ込むだろ?向かう先はほとんど食堂だからここから遠いし、下の、」とベッドを叩くエースは隊員たちの船室を指して、「連中もだいたい寝棚に潜るから、音は減るだろ。雨だったら、水の音が聞こえる。聞こえないから雪だ」と言った。エースが綴る理由がきちんと筋道立っていることにたいしてマルコは少しばかり目を見開いて、けれども口では「そうかい」と述べるだけに留めておく。マルコが、エーースの「隊長らしさ」を見つけるのはいつもこんな時だ。何も見えていないような顔で先頭を走りながら、そのくせ仲間全員に細心の注意を払っている。マルコの下にいた時から、マルコよりずっと大人で、物わかりが良くて、そのくせこどものような顔をして笑う。だからこそマルコは、誰のものでもあって誰のものでもないエースをマルコ一人で抱え込める時間をことさら大事にしたがった。それがエースの意にそぐわないことであっても、と思うマルコは、それでもエースがおよそいつでもマルコを受け入れることを知っている。

ぎゅう、とある種の意図をもってマルコがエースを抱く腕に力を込めると、「いてえよマルコ」と言うエースの声が聞こえて、けれども柔らかく笑いを含んだその音に咎める色は欠片も浮かんでいない。マルコがそのまますぐ横にあるエースの首に頬を摺り寄せれば、「だから、腕も髭もいてえって、言いたいことがあるなら口で言えマルコ」と、エースは律儀にマルコの名前を呼ぶ。「言ったら叶えてくれるかい」とマルコが尋ねると、「内容による」エースは言って、「まあでも、たぶん大丈夫だから言えよ」と、促すようにマルコの背を軽く叩いた。もう十分暖かいエースの掌は、年齢を重ねても傷がないマルコの手よりよほど厚みがあって、マルコは深く呼吸する。いつでも気持ちのいい手だった。それから、「セックスしてえよい」と何の躊躇いもなくマルコが言うと、「いいよ」と何の躊躇いもなくエースは答えて、マルコの肩に埋めていた顔を上げる。向き合ったエースの顔が、躊躇いのない言葉に反して少しばかり赤くなっているので、マルコは右手の親指でエースの頬を撫でて「ありがとうよい」と言った。マルコとエースのセックスは、普段一度きりで終わる。それは別にマルコに体力がないとか、エースに持久力がないとかそう言う問題ではなくて、どちらもそれ以上を求めることがないからだ。マルコはエースをあいしているが、エースを蹂躙したいわけではないし、エースはエースで能力を使うたびにいろいろなものが発散されているようである。そもそも船旅の中ではほとんど右手(左手かもしれないが)にお世話になるばかりなので、今の状況は恵まれていると言えないこともない。そうしてマルコとエースの間には何の約束もないので、島に降りたエースがどこかで性欲を満たしていたとしてもマルコは驚かない。気にしない、とまで言ってしまえば嘘になるが、マルコにはエースを止める理由があっても権利はないのだった。何も言わないマルコには、それを淋しいと思うことすら許されはしない。エースが赦しても、マルコ自身が。

そこまで考えたところで、手を止めたマルコの顔を見下ろすエースが「するんじゃねえのか」と促すので、マルコは思考を止めてエースが羽織るマルコのシャツの裾からするりと手を滑りこませた。つい先ほどまで抱き合っていたエースの熱を探り当てるのは至極簡単なことで、つう、とマルコが背骨をなぞれば、それだけでエースの喉は鳴る。続けてマルコがエーースの胸に唇を落とそうとすれば、「そういうの、もう大丈夫だからすぐ挿れろよ」と、エースは随分男らしいことを言った。たしかに、先ほどエースが音を上げるまで丹念に解してマルコがマルコのマルコを突っ込んだ場所は、まだ何の後始末もしていないので柔らかく潤んでいることはたやすく想像できて、ただそれではあまりおもしろくない、とマルコが思うのも道理である。いれて、出すだけなら、右手だけで(左手でもいいが)事足りる。そうではなくエースと、というのは少なからずエースの全身に触れて、舐めて、齧って、咥えて、摩って、濡らしたいからだった。だからマルコは素直に頷いてエースの要求をひとまず受け入れた上で、エースから完全に手を離してマルコのベッドに寝転がる。「マルコ?寝るのか?」と、マルコの膝に乗るエースが不思議そうにマルコを覗き込んで、「俺も」とマルコの隣に倒れこもうとするむので、「寝ねえよい」とエースの身体を突き返した。「じゃあどうするんだ」と首を傾げたエースに、内心ほくそ笑みながら、「もう十分なら、お前が上に乗ってくれるかい」と表面上は真面目な顔を装ってマルコが強請れば、「え、」とエースは一瞬動きを止める。

「なあまさかとは思うが、それは俺が挿れていいって意味じゃねえんだよな?」
「まあ、お前がしてえならそれでもいいが、違うな」
「騎上位ってやつですか」
「まあ、そうなるな」

マルコが泣いて頼めばがんばって抱いてくれるだろうエースが、でも別にマルコの身体にたいして欲情しないことを知っているマルコは、エースが眉根を寄せている顔に溜飲を下げた。人生には踏み外すことで解決するものもたくさんある。 「えー、」と何か言いかけたエースに、「できねえかい」と先回りしてマルコが尋ねれば、「できなくはねえ!…と、思う」とエースが応えるので、「それはどっちだよい」とマルコが重ねると、エースは明後日の方向を向いてぶつぶつと何事か呟いて、なぜか何かを指折り数えて、それから「えーーーーーーと、…騎乗の方でお願いシマス」と、なぜかエースは頭を下げた。「こちらこそどうぞよろしく」とマルコが笑えば、エースは毒気を削がれたような顔でがりがりと頭を掻いて、「なんかそれ、あってるけど嫌だな」と気の抜けた声を出す。そうして、マルコの上に立て膝で座り直したエースが思い出したようにマルコのシャツを落とそうとするので、「それはそのまま着てろよい」とマルコは言った。「背中が寒いだろい」と取ってつけたように付け加えれば、「すぐ熱くなるけどな」と安いエロ本のような台詞でエースは答えて、おもむろにマルコのマルコに手を掛けた。勃ち上りかけた性器は、エースが数回手を滑らせるだけで簡単に硬度を増して、「これが入るんだからすげえよなあ」と、エースはいらない感想を漏らしている。そこはそれ、マルコの努力の賜物だった。どちらかといえば、エースはマルコと顔を合わせてセックスをする方が良いらしくて、けれども正常位は位置が悪いし、座位に持ち込めばエースが首をそらしたり、逆にマルコの首にしがみついたりするのであまりうまい方法ではない。とすればこの体位はそれほど悪くない、と結論付けるマルコは相変わらず無表情で、ぬるぬると手を動かすエースは少しばかり呆れたような顔で笑い、「もういいか」と言った。「いいよい」とマルコが軽く頷くと、エースはマルコの腹に手をついて、マルコのマルコの上にゆっくりと腰を落とす。まだ潤んだままのエースの粘膜に、あたらしく潤んだマルコ粘膜が触れた瞬間にかすかな水音が立って、それは音のないマルコの部屋にとてもよく響いた。冷静を装いながら、さあっ、と劇的なまでに色を変えるエースの顔を見上げながら、マルコも内心鼓動を速めている。位置が変わるだけで予想以上に見えるものが変わるものだ、と思いながらマルコがマルコの腹筋の上に置かれたエースの左手の甲にマルコの右掌を重ねると、エースは微かに身体を震わせて、「結構緊張するな」とぎこちなく笑った。そうだな、と答えるわけにはいかないマルコが「ゆっくりでいいよい」と目を細めれば、エースは一瞬何とも言えない表情をして、それからマルコの先端を粘膜に納めたままぐうっと身を屈めてマルコの唇にエースの唇を押し当てる。ほんの数秒、触れるだけで離れて行った感触を確かめるようにマルコが右手の親指でマルコの唇をなぞっていると、「もう大丈夫だ」とエースは軽く息を吐いて、ゆるゆる膝を折って、ずぶずぶとマルコのマルコを飲み込んだ。はあ、と息を吐いたのはマルコとエースの両方で、重なった吐息がおかしくて少し笑う。エースの中はマルコのために作られたわけではないのに、まるでそれがあるべき姿のようにマルコを納めて、欠けたところも緩んだ部分もない。上体を少しばかり倒して手をつくエースのエースが、寝転がるマルコからは見えなくて、だからマルコはやっぱりマルコの中にエースが挿入っているような錯覚に襲われて緩く目を閉じた。このまま眠ってしまってもいいマルコが本来の目的を思い出したのは、「もう動いていいか?」と問いかけるエースの声を聞いてからである。

「お前が良ければいつでも良いよい」とマルコが言えば、「今ちょうどいいところに当たってるからむしろ動かしたい」と割合真剣な顔でエースは答えて、座りこんだ膝をまた立ててマルコのマルコを抜いていく。マルコの腹筋にも若干エースの体重がかかって、マルコはわりと満足だった。「なに、笑ってんだ」と上下運動を繰り替えすエースに「まあ、いい身分になったもんだと思っだだけだよい」とマルコは答えて、エースが腰を落とす動作にタイミングを合わせて腰を突き上げる。と、「おわっ」とバランスを崩したらしいエースの膝が抜けて、連動するようにぎゅう、とエースの粘膜が収縮してマルコのマルコを絞りあげた。仕掛けたマルコも「は、」と思わず息を止めて、こみ上げる射精感をどうにかやり過ごす。そろり、とエースを見上げればエースの歯を食いしばって堪えていて、その顔があんまり必死なので、マルコは堪えることも忘れて「ぶはっ」と吹き出してしまった。「うわちょ、マルコ、揺らすな、って、く、ふ、ははっ」とエースも笑いだして、振動がダイレクトにお互いの粘膜に伝わって、結局そのまま吐精してしまった。エースの中にぶちまけたマルコと、マルコの腹筋にぶちまけたエースは、びくびく震える性器を抱えながらそのままひとしきり笑って、それからマルコの腹筋の上で重ねていた手を握り合う。色気の欠片もない射精だった。

「こんなんで良かったのかよ」と、右手に飛んだ精液を上手に避けながら涙を拭うエースが尋ねるので、「お前とならこれで良いよい」と腹筋に飛んだエースの精液を傍らの布で拭いながらマルコは答える。ちなみにその布は、たしかエースが風呂上がりに頭に巻いていた手ぬぐいである。風呂上がりにまっすぐマルコの部屋にやってきて、眠る準備をしていたマルコにまとわりついたエースが気候の割に少しばかり寒々しい恰好していたので(半裸でいれば何も感じないのに、薄手のパーカーを羽織るだけでどうしてあんなに気になるのだろう)、何の気なしにマルコがエースをベッドに引きずり込んだところから今夜のセックスは始まっている。それはすでに非日常ですらない日常の延長で、マルコは時折エースがマルコのものではないことを忘れてしまいそうになる。マルコが望まなくても、伝えなくても、エースはずっとマルコの隣にいるのではないか、と。けれどもエースに触れるたびにそれが錯覚だと気付くマルコは、いつまでも堂々巡りを繰り返すばかりだ。だからマルコはエースとセックスするたびにマルコが一番大切にしたいことを確認する。エースと寝て、起きて、食べて、笑って、セックスして、何よりマルコはエースと生きて、行きたいのだった。

「俺にも貸して」と伸ばされたエースの手に、手ぬぐいの汚れていない面を乗せてやりながら、お前が笑って生きているならいいよい、と声には出さずにマルコは呟く。マルコの腹とエースのエースに目を落とすエースには届かないことを知りながら。

( マルコは夢見る乙女心を忘れないおっさんです / マルコ×エース / NC-17 / ONEPIECE )