想 う に 遠 く 面 映 ゆ く



理由も忘れた宴会四日目、二日酔いが四日酔いに変わろうとするマルコの上に、「マッルコー飲んでるかあ!!」と言いながらエースが降ってきた。酔いを紛らわすために飲んでいた酒がばしゃんと零れて、エースの下敷きになったマルコと、一緒に飲んでいたサッチの膝を濡らす。二日目までは一緒に飲んでいたはずのエースが途中でふらふらとどこかに行ってしまったのは覚えているが、それがいつで、今どこからエースがやってきたのかは分からなかった。とりあえずエースの声が頭に響く。怒鳴りつける気力もなかったので、ぱんぱんとエースの腕をタップした。ギブギブ。「あ、ごめん」と笑いながらマルコから降りるエースの足が震えているので、マルコはひっそり息を吐いた。酔っている。というかそろそろ危ない。アルコール中毒じゃないといいんだが。いつまで続くんだこの宴会は、とマルコが呟けば、「いつまで続いたっていいよな!」と、震える足でそれでもエースは近くの酒瓶を引き寄せて呷っている。

潰れては眠り、起きては酒を飲んでいる。エースの震えが止まらないので、マルコはちょっと安心した。「俺に謝罪はねーのかよ」とサッチがエースに絡み始めたので、マルコは零れた酒を拭こうとして、結局止めた。どこも似たような惨状であることを理由に。エースが飲む酒瓶を奪って、マルコも酒を呷った。ぐらぐらする頭に、エースの抗議が広がって、でもこれはマルコが確保していたのだ。「一本くらいいいだろ」とエースが言うので、「その辺にいくらでも転がってるだろい」とマルコが返せば、「だってマルコが選んだのが欲しかったんだ」とエースは口をとがらせた。「じゃあ俺の奴やろうか」とサッチが差しだした酒瓶を、「やだ」とエースは振り払って、サッチがすこし凹んでいる。別にその辺に落ちているものを飲んだって良かったマルコが、エースの飲む酒瓶を奪った理由は「エースが口付けた瓶が欲しかったから」なので、マルコはちょっとだけ口元をゆるめて、その辺に落ちていた酒瓶をエースに差しだした。

「やるよい」とマルコが言えば、エースはぱぁっと顔を輝かせて酒瓶を受け取った。「ありがとうめちゃくちゃうれしい」と、一升瓶を抱えながらエースは言う。相変わらず足は震えているし、目の焦点も合っていない。おそらくマルコも似たようなものだろう。船に乗る全員が同じ状態だった。しかし、その合わない焦点すら愛しくて、マルコはぐりぐりとエースの頭を撫ぜた。ぐらぐら揺れる頭の下で、エースは楽しそうだ。撫でるついでにちょっと近づいて、かなり近づいて、もっと近づいて、さらにもうひと押し近づいて、酒瓶を抱えるエースを小脇に抱え込んだ。といっても体格がほぼ同じなので、抱え込むというよりは首に技を決めるような形になったが。エースは笑いながら一升瓶のふたを開けて、だばだばと口に流し込んで、その勢いのまま盛大にマルコの膝まで濡らしている。酒臭いにもほどがあるが、マルコからもエースからもすでにアルコール以外の匂いはしなくなっていた。「エース、ひとくち」とマルコが強請れば、「ほら」と口元に瓶が差しだされて、ざぶざぶと浴びるように飲みながらマルコもエースを濡らしている。「ちょっ、顔は苦しい」とエースが言うので、「じゃあ親父に飲ませてやるよい」とマルコはそのままエースの背中の上で酒瓶を傾けた。エースが笑いながら身をよじらせるので、「冷たいか」とマルコが尋ねれば、「もうぬるい」とエースは言った。まあ、それはそうか。甲板に放り出されていたものだし。

親父にばかり飲ませていても仕方がないので、酒瓶をエースに返すと、エースは口を付けずに一升瓶を抱いた。マルコが首を決めているので、ほぼ横になった状態のエースの腕の中で酒はもうほとんど喫水線を超えている。零れる零れる、と言えば、「もういいじゃん」とエースは言って、ぐるりと首を仰向かせた。「なあ」とエースが言うので、「ああ?」と、また手近にあった酒瓶-さっきサッチがエースに差し出して拒否された奴だ-を引き寄せながらマルコが答えると、「酔ってんだろ、マルコ」とエースはマルコを指さした。いまさら何を。座っているのか合っているのかもわからない目で指先が震えるエースを眺めて、「お前よりはマシだよい」とマルコは言った。一升瓶を抱えて首を絞められているエースは、「あーまあ、俺、酔ってるけどさあ」と肯定して、それから「今すんごい楽しい」と極上の笑顔で言った。酒臭くてびしょ濡れでかなり青ざめているが、それでも極上の笑顔だった。力を抜いたエースは、マルコの膝に寝転がるような形で、マルコの一升瓶を抱えて笑っている。マルコもなんだか楽しくなって、エースの頭をわしわし撫でて、「俺もだよい」と言った。

そのままふたりでにやにやにまにま笑いながら酒を飲んでいると、「お前ら俺のこと忘れてねえか」と声がするので、マルコとエースが視線を向けると、サッチが膝を抱えていた。「忘れてたよい」「サッチいたっけ」と打ち合わせ無しで声をかけると、サッチはますます小さくなって「そう言う奴らだよなあお前らはァァ」と言いながら甲板に突っ伏した。床には酒が広がっているので、当然サッチもずぶぬれになった。ついでに涙交じりだ。放っておいてもよかったが、マルコは最高にいい気分だったので、エースを突いて合図する。マルコを見上げたエースがにやりと笑うので、マルコも頷いて、エースの首に回していた手を離した。震えながら起き上ったエースとマルコは、酒瓶と一緒にごろりと転がるサッチめがけて、手にした酒瓶を一気に傾ける。主に顔へ。「な、っにすんだてめら!!」と、息次ぎの合間に叫んだサッチに、マルコとエースは盛大に笑いながらのしかった。「ぐえっ」と潰れたカエルのような声を上げるサッチに、「冗談だよ!!」とエースが言い、「忘れるわけねえだろい!!」とマルコが言い、「「あいしてるってサッチ!!」」とハモった。打ち合わせ無しで。もがいていたサッチの動きがその一言で止まるので、マルコとエースはサッチの上で顔を見合わせて「ぱん!」と手を合わせた。

その後、うおりゃあああ、とマルコとエースを振り払ったサッチが、「そんなもんお互いに言ってろよ!」と真っ赤な顔で言うので、「あいしてるマルコ」、「あいしてるぜエース」と言い合ったら、サッチは「違う!!!」と叫んだ。やっぱり真っ赤な顔で。叫ぶサッチの足も震えていたので、どうでも良くなったエースとマルコは、無理やりサッチを挟んで宴会の続きをすることにした。具体的にはサッチの両脇に腕をからめて、その辺に転がった酒瓶を開けて、「「乾杯!!」」と言いながらサッチの口に突っ込んだ。二本まで飲み干したサッチは、三本目の途中で「おぼえてろよ…!!」と言いながら沈んだ。マルコは「お前が覚えてたらな」と言い捨てて、半分残った酒瓶に躊躇なく口を付ける。「あ」とエースが呟くので、「ん」とマルコが目線を合わせると、「それ間接キス」とエースは言った。「お前もするか」とマルコが酒瓶を差し出せば、「俺とサッチってマルコの中で同レベル?」とエースは首をかしげた。どことなく眼がうるんでいる、ように見えるのはエースが酔っているせいか、マルコが酔っているせいかのどちらかだろう。「同レベルと言えば同レベルだが」とマルコが言えば、「そっか」と聞き分けの良いような言葉を口にするエースに、マルコはぐぐっと顔を近づけて、「ただしステージが違う」と言った。近づいた顔のまま、エースの唇に口づける。二秒で離れたマルコが、「サッチは間接でお前は直接だな」とエースに言えば、「俺今ちょうたのしくてうれしい!!」と震える指でエースはマルコに抱きついた。酒臭いエースの背中に腕を回しながら、「ああ俺もだよい!!」と豪快にマルコは笑った。

サッチの、誕生祝い四日目の夜だった。

(サッチの誕生日は3月1日とかどうかな(サ(ンのイ)チ) / 酔っ払いども / マルエーとサッチ / ONEPIECE )