人 を 殺 し た 人 の ま ご こ ろ



まだ喋れるのか、エース。そんな体で、まだ俺がサッチを殺した理由を知りたいのか?知ってどうなる。死人は生き返らねえし、俺とお前はもう仲間には戻らねえし、何よりお前に理解できるとも思えねえ。どれでもいい?…面倒な野郎だな。そもそも俺がお前に応える義理がどこにある。ここで口を塞がないだけでも奇跡だと思えばいい。なるようになるもんだからな、殺しはしねえよ。まあ、元仲間のよしみだ。海軍本部まではまだ時間があるしな。酔狂なお前に応えてやる。どうして殺したか、は何度聞かれても変わりゃしねえよ、ヤミヤミの実を確実に手に入れるためだ。あいつの手に入らなけりゃ、殺すこともなかったんだがな。運が悪かったとしか言えねえ。ああ?殺さなくても良かった、だと?まぁなぁ、サッチだったしな。あいつは実に大した興味もなかったし、俺が頼めば…あるいは快く譲ってくれたかもしれねえな。だが、そりゃあ仮定に過ぎねえ。断られたら終いだろ。"俺が実を欲しがってる"ことがあいつに伝われば、あいつはさっさと実を食っちまったかもしれねえ。そういう意味での確実さを狙ったのさ。…あのなあエース、そもそも俺がどうしてあいつを殺せたと思う。俺とあいつが親友だったからだ。腐っても…いや腐っちゃいねえ、あいつは紛れもなく、能力者でもねえのにお前らと並びたてるだけの化物みてえな実力を持った男だった。白ひげ海賊団の隊長格だぞ?そんな奴を、一介の隊員でしかねえ俺がどうして殺せる。俺が明確な殺意を持って近づいても、まだそれを冗談と思うだけの信頼と友情が、俺とサッチの間にあったからだ。ああ、油断だと言い換えてもいい。だがな、仲間だっただけで、俺とあいつの間にそんなものができるわけもねえ。俺が20年かけて築きたかったのはそういうもんなんだ。誰も俺を疑わねえ、誰も俺を気にかけねえ!どうだ、成功しただろ?なんだよエース、まだ何かあるのか。…うるせえな、偽物なわけねえだろ。白ひげ海賊団の隊長にもなる奴が、あいつやお前が、他人の浅知恵や悪巧みに気付かねえわけもねえ。俺は本気でお前らの仲間だった。白ひげの親父のことだって、いつか倒すものだとは思っていたが、息子だと呼ばれりゃ嬉しいもんだ。本気だったからこそ殺せたんだ。理解できねえって顔してんな。だから最初に言ったろうが。お前らが望むような答えなんて俺が出せるもんか。…だから、俺とあいつが親友だったのは嘘でも間違いでもねえって言ってるだろうが。逆に、あいつが親友でなけりゃ俺はもっと簡単に実を奪うこともできたんだ。それこそ、まずは頼んでみてからだって良かった。あいつを殺すことより、あいつに断られることの方が俺にとっちゃ苦痛だったんだ。そうだな、これは言いたくねえが、実を取ったのがあいつで良かったかも知れねえと思った。あ?あいつには知られなかっただろうが。俺が、悪魔の実ひとつ手に入れるために仲間を殺すような人間だってことをな。あいつ以外の誰かを殺していたら、あいつは俺を殺しに来たかもしれねえ。それは嫌だろ。勝手?理解何ざ求めちゃいねえ。弱ェ野郎が何をほざいたところで、俺には届かねえさ。…だから、なあ、エース、先に言っただろう。どうして俺がサッチを殺せたと思う。どうして、俺がサッチを、自分で殺したと思う。俺もあいつに殺される覚悟があったからだ。あいつが俺を少しでも信用していなくて、俺を殺しても良いと思っていたら、今頃俺はここにいねえ。思ったか思わないか、できたかできないか。世界に"もしも"はねえし"絶対"もねえ。俺はいつだって、自分を掛けて生きてんだ。俺とあいつを秤にかけて、あいつと俺のしたいことを秤にかけて、あいつのほうが軽かった、それだけの話だ。あいつを殺してでもしたいことが俺にはある。お前らには教えてやらねえがな。もういいだろう、このくらいで。まだか。もういい加減にしろよ、俺は喋り疲れたし、お前はもう休んだっていい頃だ。あのなあエース、甘いこと言ってんじゃねえよ。俺が詫びを入れて収まるようなことじゃもうねえだろ。お前だって俺を殺しに来たはずだ。理由があろうとなかろうと、海賊船で仲間を殺すってのはそういうことだ。全部わかってるって言っただろうが。あいつを殺して何も思わなかったわけじゃねえ。だが、何を思おうが、俺はあいつを殺したんだ。重要なのはそれだけだ。悪魔の実ひとつのために仲間を殺した。屑みてえな海賊の中で、さらにゴミ以下の行為だ。だがそれがどうした?俺は生きて、あいつは死んだ。俺が勝って、お前が負けた。これが答えだ。これからどうなるかは知らねえし、どうなろうとも受け入れるだけだが、少なくともこのふたつだけはこれから先も覆えりゃしねえ。覚えておけよエース、俺が生きるのは今だけだ。この後のことなんて、俺には何一つ問題じゃねえんだ。さあついたぜ、お喋りは終わりだ。これから、お前を海軍に引き渡す。お前の首一つで俺の罪が消えるかどうかはわからねえし、下手すりゃ俺たちも監獄行きだが、俺はお前の首に俺の命を掛ける。これから白ひげがお前を助けに来ようが来まいが、白ひげは確実に弱体化するぜ。すでに隊長格を二人、失っているわけだしな。海軍にでも殺されてくれりゃあ、世界はさらに乱れるだろう。楽しみだ。まあ、だからお前らは安心して俺のことを憎めばいい。それも含めて、俺はお前らを裏切ったんだ。最初からそのつもりだったものを裏切りと呼ぶかどうかは知らねえがな。じゃあなエース、俺は確かにお前を尊敬はしちゃいなかった。お前見てえな若造、信頼はしても敬うもんじゃねえだろう。だがな、それでも俺はお前の下にいて、それなりに楽しかったんだ。この実さえ転がりこんでこなけりゃ、あと20年同じことを繰り返したって良かった。手に入らなければいいと思ったことは一度もねえが、今でなくてもいいと思ったことは確かだ。じゃあなエース隊長。あの世でサッチにあったら、よろしく言っておいてくれ。

俺が先に行ったら、俺がよろしく言っておいてやるよ。

(許容もなく慈悲もなく / ティーチ(とエース) / ONEPIECE )