※ 性描写を含みますので、苦手な方はご注意ください。



恐 ろ し く 晴 れ た 夜 に



敵船とやりあった夜、いつも通り船をあげての宴会になだれ込んだ。本船を丸ごと焼き払ったエースはほとんど英雄扱いで、あちこちで飲まされている。いつものことだがお祭り騒ぎだった。皆で騒ぐことも、ほとんど誰も欠けずに勝てたことも嬉しくて堪らないエースは、勧められるままにグラスや瓶や杯や徳利を空にしていく。白ひげ海賊団の宴はいつだって笑いに包まれている。これだけの人数が一斉に笑い、歌い、そして生きる姿はいつだって壮観で、そして愛しい。目の前にいる人間全員を抱きしめてキスして押し倒したいくらいだ。昔はやってたなあ、とスペード海賊団にいたころのことを思い出して、今でもあいつらだったらいいかなあ、とエースはかつての船員たちを探したけれど、危険を察知したのか手に届く位置には誰もいなかった。残念だ。
ぐうう、と差出しかけた手を誤魔化すようにあげて、エースは軽く伸びをする。アルコールのまわった頭はあまりうまく働かない。甲板を渡る風が頬を撫でて、開け放した扉に吸い込まれていく。そういえば、とエースは思う。マルコがいない。宴の初めには、エースの隣にいたはずだ。エースが焼きつくして崩れかけた船から、エースをモビー・ディックまで連れ帰ったのがマルコだ。足場を考えてから行動しろよい、と、あの眠そうな目と嘴で諭されて笑いそうになったのはマルコには内緒だ。せいぜい神妙な顔をしていたつもりだ。サッチには笑われたから成功していたのかは怪しいところだが、エースは努力した。うーん、と首を捻ってから、エースはマルコを探すことにした。宴会の席に、隊長がいなくては締まらない。というよりもエースがマルコに会いたかった。まだまともに礼も言っていない。助けることも助けられることも、仲間であれば当たり前のことだけれど、それと感謝することは別のことだった。いつもあまり感情を見せないマルコのことだから、きっと何も言わないのだろうけど。少しくらい笑ってくれねえかなあ、と思うエースは、とりあえずマルコの部屋に向かうことにした。手土産として、その辺に転がっているワインを二、三本抱えて。

風が吹き込んだ扉を潜り、階段を下って南廊下まで辿り着くと、エースの部屋の向かいにあるマルコの部屋の扉が細く開いて、隙間から灯りが漏れている。よし的中、と笑ったエースは、躊躇わずに足音を忍ばせてそっと扉を押した。マルコは入り口に背を向ける形でベッドに腰を下ろしている。さらにそうっと近づいて、エースの気配に気づいているだろうに振り返らないマルコの背中に思い切り抱きついた。厚くて固い背中だ。この船で、親父の次に強い、一番隊隊長の背中。抱えていたワインごとぎゅう、と抱きしめると、マルコが飲んでいたらしいアルコールの匂いがした。あまりにも強く匂うので肩越しに覗きこむと、グラスがシーツに落ちて濃い染みを残している。あ、と思ったエースの腕からワインをもぎ取ったマルコは、まず手が届かない位置まで瓶を避難させてから思い切りエースを殴りつけた。殴られた部分を炎に変えたエースにはまるでダメージはなく、当然予想していたらしいマルコはそのままエースをシーツに押し付けた。あっはっは、と笑うエースの上で、マルコは無表情だけれど少しは動揺したらしい。シーツに零れたアルコールは上等なもののようだ。もったいねーことしたな、と思ったエースが少しだけ舌を出して零れたアルコールを舐めると、殴り飛ばされたときと同じだけの勢いで体が引き起こされて、そのままマルコにマルコのベッドの下へ突き落とされた。痛くねーけどひっでえ、と落とされた形のままエースがマルコを見上げると、マルコはエースが持ってきたワインを開けている。「何か言って飲めよ」とエースが言うと、「人の部屋に入ってくるときは何か言えよい」と顔色も変えずにマルコも言った。

「だって驚かせたかったからさあ」
「何のために」
「なんとなくだ」

へらっと笑って、アルコールに濡れたベッドに上がりこむと、エースはマルコが飲んでいた瓶を奪ってごくりと一口飲んだ。ああ安物だ。若くてきついばかりで、ろくに香りもしない。マルコが飲んでたやつが欲しいなあ、とエースは強請ったが、酔っぱらいにはソレで十分だとマルコは相手にしなかった。ち、と舌打ちしながら、期待はしていなかったエースはマルコにワインを返して、マルコの部屋を眺める。天井から床まで、作りつけた棚にみっしりと物が詰まっている。一番多いのは本だが、武器も服もアルコールもわけのわからないガラクタも、全てが整然と、そして隙間なく詰め込まれている。どこか一か所でも不用意に抜いたら崩れそう、というのがエースの見解だ。壁面収納は収納の完成形らしいけどよくやるよなあ、と、ベッドの下以外に物を置いていないエースはほとんど感嘆している。で、もう一口、と伸ばしたエースの手は、ぱしりとマルコに叩き落とされた。ケーチ。でも、ベッドの下に転がるあと2本に手を伸ばす気にもならなかったので、エースはそのままマルコの胸に寄りかかる、つもりが避けられてまたベッドに転がった。ケーーーチ!!

「それで?」
「何が?」
「何しに来たんだよい」
「ありがとうって言いに」
「何の礼だ」
「連れて帰ってきてくれただろ、船まで」

舞い上がった火の粉と煙と、そして轟音。崩れ落ちる船の上で、エースはほとんど正気を失っていた。全身を炎に変える、それはつまり人を、捨てているということだ。全て燃やしていいと思った瞬間、エースは簡単に理性を手放した。それがエースを海に誘うことになったとしても、あの時のエースに後悔はなかった。全て。そしてその全てを、エースを、連れ帰って正気に戻したのはマルコだった。ばさり、と羽ばたく音で我に返ったエースは、青い翼が舞い降りる姿を、ほとんど陶酔した目で見つめていた。美しいのだ。マルコの炎でできた翼は、星のように輝く。エースの火が全てを灰に変えるものだとすれば、マルコの炎は全てを包み込むものだった。何しろ再生の光だ。何もかも飲み込んでゆくエースとは、根底から違い過ぎる。エースが焼きつくせない、唯一の炎だった。敵船の真ん中で、半分炎に包まれたエースと、青い不死鳥が向かい合ったのは一瞬のことだった。一瞬後には、エースを連れたマルコは空高く羽ばたいていた。そうして、船が崩れたのは、やはりすぐ後のことだった。モビー・ディックに帰る頃にはエースの炎はほとんど消えていて、ばさりと羽ばたいて人型に戻ったマルコは、エースの頭をぐしゃりと撫でて、一言だけ呟いた。いつもと同じ、眠そうな目で。青い焔の不死鳥と、同じ目で。

「だから、ありがとう」
「礼を言われるようなことでもねえな。お前が沈んでも、飛び込む奴はいくらでもいた筈だ」
「でも沈む前に来てくれたのはマルコだけだ」
「俺以外は燃えるからな」
「うん、燃えないでくれて、ありがとな」
「何の礼だよい」
「わかんねー!」

あははは!!!とエースが笑うと、能天気な声出すんじゃねえよい、とマルコは疲れたような声で言った。ともかく礼は言った。詫びの品も(一方的にだが)受け取ってもらった。たとえ伝わらなくても。エースはマルコに感謝している。マルコだけでなく、親父にもサッチにもスペード海賊団の元船員にも、そして船に乗る全隊員に感謝している。エースを世界につなぎとめているのはそれら全ての愛しいものたちだ。エースが大切にしないものを、大切だと思わないものを、マルコや親父やサッチやスペード海賊団の元船員にや船に乗る全隊員が守ってくれている。いつだって心から感謝している。ありがとうありがとうありがとう、と呪文のように唱えたエースの頭を、マルコの手がぐしゃぐしゃと掻きまわした。嬉しくなって、へらへらとエースが笑っていると、マルコは言った。

「おい酔っぱらい、寝るなら部屋に帰れ」
「酔ってねーし、寝ねえよ?」
「嘘つけ」
「嘘じゃねーって」

エースはひらひらと手を振った。本当だった。浮遊感と若干の眠気には襲われていたが、概ね気持ちいいだけで酩酊はしていない。意識もはっきりしている。起き上がりたくないのは、マルコのベッドとマルコの隣が心地良いからだった。零れたアルコールはシーツを冷たくしているけれど、ベッドの真ん中まで逃げてしまえばそれも分からなくなった。どけ、と言ったマルコに、やだ、と返して、エースはマルコの枕を抱え込んだ。マルコの匂いがする。少しだけ煙の匂いも混じっている。全部燃やしてもマルコだけは残るんだろうな、と思ったエースは、ひとりでくつくつ笑った。笑っていたら、不意にマルコがエースの手を掴んで引き上げた。何、と思う間もなく、マルコの顔が目の前にいて、それから生暖かいものが唇に触れた。ええ?と思ったエースが何かを言う前に、マルコはエースの手を放して、エースは背中からベッドに落ちた。安いワインの味がした。エースからも同じ味がしたと思う。ぺろり、と唇を舐めたエースの上で、マルコは呆れたように言った。

「酔ってねえなら避けろよい」
「…なんで」
「何でもなにも」
「違ェって、なんですんの」
「お前が避けないからだろうが」

ああそうか、と納得しそうになって、いや違うよ、とエースはぐらぐら首を振った。髪がシーツに擦れて、ぱさぱさと音を立てる。そんな雰囲気でもそんな関係でもなかった。エースはマルコがすきだったが、性的対象として好きなわけではないし、親愛の情を示すためにキスされたこともない。というかマルコにそんな愛情表現はない。と思う。というわけで、エースは特に気を悪くしたわけでもなかったが一応反論した。

「理由になってねェぞ」
「そうか?」
「そうだ。…マルコ」
「なんだよい」
「お前こそ、酔ってんだろ」

そうだ、酔っているのだろう。そもそも甲板にいなかった時点で、飲み過ぎたから帰ってきた、のではなかっただろうか。聞いたわけではないが。エースほどではなくても、それなりに付き合いの良いマルコが、宴会の途中で姿を消すほうがおかしかったのだ。具合でも悪いのか、と尋ねたエースの顔を、マルコは得体の知れないものを見るような眼で眺めている。なんだよ、と言ったエースには答えずに、「どうして」とマルコは言った。

「どうしてそう思う」
「普段ならこんなことしねえだろ」
「こんなことってのは、こんなことか」

言葉は問いの形を取りながら、エースの答えを待たずに、マルコはエースの両手を握った。今度はエースをシーツに押し付ける形で唇を合わせたマルコは、さっきよりずっと深くエースの中に入り込んでいる。性急に動くわけでもなく、ゆるく開いたエースの唇からもぐりこんだマルコの舌が、エースの舌の形をなぞるように滑っている。あ、気持ちいいかも、と思ったエースは、目を閉じてマルコの動きに集中することにした。うん、気持ちい。もっと、と思ってエースから舌を動かそうとしたところで、マルコはするりとエースから体を離した。ゆるりと目を開けば、マルコはバツの悪そうな顔でエースを見下ろしている。やっぱり酔ってるんじゃねえかな。それとも溜まってるんだろうか。だったら、急な行動にも頷ける。

「んー…」
「だから、避けろっての」
「なんで?」
「もっとすごいことするよい」
「すごいことってなんだよ、SEX?」
「お前な…」

がりがりと頭をかいたマルコの下で、エースはへらりと笑みを零した。男所帯の海賊船に乗っている。という時点で、エースにはSEX=性欲処理、という図式が成り立っている。幸か不幸か、エースは強かったので、今まで組み敷いたことはあっても組み敷かれたことはなかった。じゃあこの状況って結構貴重なんじゃねえの、と思っているあたり、やっぱり酔っているのか、と思わないこともなかったが、エースは若いので好奇心のほうが先に立っている。普段涼しい顔をしているマルコがどうやって人を抱くかについても、少なからず興味があった。実を言えば年齢もよくわからない。30は越えていると思うが、それが40に近いのか越えたばかりなのか、はっきりしたことは聞けない。エースが若いからかもしれない。まあ何にせよ、エースに異論はなかったので、腕を広げてマルコに抱きついた。ら、ものすごい勢いで引っぺがされた。いや、2回もキスしといて。けれども、ひっぺがいた形でマルコの腕が止まっているので、エースは腕を掴まれた形でもう少し笑っておいた。

「なー、俺下やんの初めてなんだよ、ちょっと緊張」
「お前は何をはしゃいでるんだよい…」
「や、何事も経験かなあって。マルコは黒髪がいいのか?手近だったから?」
「うるせえよい、まだするとも言ってねえのに」
「え、しねえの?」

俺せっかくやる気になったんだけど、と真面目に言ったエースの上で、マルコは深くため息をついて、どうしようもないくらいの呆れ顔をしている。いやその顔俺がするべきなんじゃねえのかな。あっ、と唐突に思い当たって、「もしかして俺が上か?」と真顔で聞いたエースの頭を、マルコは無言で殴り飛ばした。痛い。こんなところで覇気使わなくてもいいんじゃねえのか、とエースは思ったが、とりあえず上じゃなくてよかった、と安堵した。マルコが悪いわけではないが、マルコで欲情するかと言われたら少し難しい。まあ別に俺は、どっちでもいいけど。殴られて涙目になったエースを無言で見下ろして、マルコはまた溜息を付いている。エースは少しばかり口を尖らせて言った。

「溜息とかひでえ」
「もう黙ってろ」

と言ったマルコは、言うだけでなく物理的にエースの口を塞いだ。3度目。もう慣れてしまったエースは、やっぱり押さえられた両手指をマルコの指に絡ませて目を閉じた。今度はエースも参戦する。ぬるぬると這いまわる舌を追いかけて、絡めて、つないで、呼吸の間に零れた唾液を追いかける。はあ、と少し離れた唇の間でゆるく息を吐いて、エースの唾液で濡れたマルコの唇を舐める。気持ちいなあやっぱり、とエースは思う。マルコに触れられるのは気持ちが良いのだ。性的なものを伴わない接触が、頭を撫でられたり肩を叩かれたり背中に乗って空を飛んだり炎で焔を包んだり、そうしたことがあれだけ心地よかったのだから、粘膜に触れられて良くならないはずがない。この船に乗る誰に組み敷かれても組み敷いても良いとエースは思っているのだが、中でもマルコならさらに良い、と思ったのは本当である。親父の次に強い男の舌で喘ぐのならいっそ本望だった。あーもしかして俺抱かれてみたかったのか?あっていうか、皆親父の息子なんだけど俺の上にいるのってマルコだけだから、つまりマルコは俺の兄貴?と、2度3度と重ねる呼吸の合間に、ろくでもないエースの妄想は膨らんで、4度目にマルコと舌が離れる頃にはすっかりあがった声で、噴き出しそうになるのをこらえながら言った。

「優しくしてねお兄ちゃん」
「妙な声出すなよい…」

マルコはなんだか疲れた声をしていたが、それでもエースの両手から手を放して、ほとんど裸のエースの胸に触れた。体温の高いエースの肌に、マルコの指は少し冷たかった。ふるり、と震えたエースをなだめるように髪を撫でたマルコの指は、見かけよりずっと細やかにエースの上を滑っている。最初はむず痒いだけだった感覚が少しずつ別のものに変わって、エースに確実な熱を孕ませていく。あー、と開いた唇はすぐにマルコの唇に覆われて、反射的に目を閉じたエースの瞼にも頬にも首筋にもゆるいキスが落とされた。うっわあ俺こんなことしたことねえよ、と思いながらエースがじっとしていると、上半身を這いまわっていたマルコの右手が一瞬離れて、ハーフパンツの隙間から太ももを撫であげた。ぞわりと背筋を何かが駆け抜けて、えっちょ、これって何、鳥肌立ったのか?と思うエースには構わず、マルコはゆるゆるとエースの足を擦っている。アルコールのせいではない高揚感がエースを包み始めていた。マルコの唇はエースの顔を離れて、首筋を伝って肩を通り、裸の胸まで降りてきた。一瞬、ちらりとエースを一瞥したマルコは、そのままエースの乳首をぺろりと舐める。かっ、と顔を火照らせたエースをまた一瞥して、マルコは音を立ててエースの乳首に吸いついた。ちゅ、ちゅう、と、ほとんど膨らみの無い胸を舐められて、エースは背筋を上る感覚に追いつけずにいる。直接性器を弄られるより、余程直接的な感覚に、どうしていいかわからなくなった。舌って、そして下ってすげえ。いつも空気にさらしている部分が、粘膜に包まれるだけでまるで別のものになったような気分だった。そうして、しばらく経ってからマルコが口を離すと、エースの乳首は見てわかるくらいに存在を主張していた。マルコの左手の指先で捏ねるように摘ままれて、あ、と、エースの口から初めて喘ぎ声のようなものが漏れた。

「色気のねえ声だな」
「…っあ、……、…………悪、い?」

反対側の乳首を舐める作業に戻ったマルコが、乳首を咥えながら言った言葉に答えようとして、色気のない喘ぎ声を押さえることに集中したが、そうすると必然的に息を止めることになって、元からあまりなかったエースの余裕はどんどん削られていく。その間にも、マルコの右手は太ももを伝って足の付け根までたどり着いているし、空いた左手はエースの脇腹を擦っている。すげえ!なんかマルコすげえ!と思いながら、いやでも、もうちょっと何かするなら早くしてくれねえかな、と思ったエースの上で、ちゅ、と音を立ててマルコの顔がエースの胸元から離れて行った。はーー、と深く息をついたエースの息は浅く、胸元は赤く色づいている。そこで、マルコは「で?」と言った。は?と首をかしげたエースの上で、マルコはいつもと同じ眠そうな目でエースに告げる。

「このまま続けるか、それとも止めるか、どうする?」
「…いや、……こんな状態で止められても、……俺部屋で抜いて寝ることになるんだけど」
「触ってもいねえのに元気だな」

と、ハーフパンツ越しに性器を撫でられて、エースはびくりと体を震わせた。マルコの指が、固くなり始めた性器をゆっくりと伝う。うあ、とまた妙な声が漏れて、エースはばっと口を塞いだ。マルコの唇がゆるく吊りあがって、眠そうな目をしたままエースを笑った。うわ。腹が立った。仕掛けたのはマルコだった。乗り気になったのはエースだとしても、先に手を出したのはマルコだ。だから、マルコはエースをせめて一度くらい、いかせる義務がある。と思う。かっとなったエースは、腹筋の要領でがばりと上体を起こして、やわやわとエースの性器に触れるマルコの手を振り払い、その勢いでマルコの股関を握った。

「あ、」
「おい…」
「なんだ、マルコも勃ってんじゃねえか」

ぎゅむ、とエースが布越しにマルコの性器を擦ると、エースのものより余程切羽詰まった固さ(いやマルコにとってはまだまだなのかもしれねーけど?)に行きあたって、エースはにやりと笑った。マルコは笑みを消して、エースの手を振り払ったが、エースの笑いは止まなかった。だって、かっこつけてる場合か。性器を半勃ちにして、エースに至っては乳首まで起てて向かい合っている姿があまりにも滑稽だったので、先ほどまでの空気をかき消すくらい盛大にエースは笑った。ひとしきり笑ったところでマルコがまたエースを殴ろうとしたので、その腕を避けて、今度はエースからマルコにキスをした。もう何度目か分からない。もう一度、今度はやんわりとマルコの性器に触れて、「なあ」と、色を含んだ声でエースは言った。

「コレ、どうすんの」
「…」
「お前も一人でするんだったら、二人でしたほうがまだ生産的じゃねえ?」
「尻に突っ込むことのどこに生産的な要素があるんだよい」
「まあ、気持ち良さとか、会話とか、俺とお前の信頼関係とか」
「あのなあ」
「あんまりごちゃごちゃ言うなら俺が入れていいか?」
「それは断る」
「じゃ、しようぜ」

な、とエースがマルコの首に手を掛けると、マルコは明後日の方向を見て深く溜息をつく。「やっぱりお前酔ってるよい」とマルコが言うので、「酔ってねえよ」とエースが返すと、「酔ってることにしとけ」とマルコは小さく呟いた。どういう意味だ、と尋ねようとしたエースを、マルコは思い切り引き寄せて、強く抱きこんだ。エースの裸の胸と、マルコのはだけた胸が触れて、温かくて乾いた感触が気持ち良かった。「後悔するなよ」と耳元でマルコが囁くので、「しないくらい気持ち良くしてくれるんだろ」とエースは言った。耳元で聞こえた音が溜息ではなく、低い笑い声だったので、エースの挑発は成功したようだった。エースの背中に回っていたマルコの腕が、するりとハーフパンツの端を押し下げて、尻に回る。思わずエースがマルコにしがみつくと、なだめるように頭を撫でられる。下着ごとハーフパンツを下ろすマルコの動きに合わせて、エースも腰を浮かせて足を抜いた。狭いベッドの上で、エース一人が裸になるのはしゃくだったので、エースがマルコのシャツを引っ張ると、マルコも腕からシャツを落とした。向かい合わせに座ったまま、マルコはエースの性器に指を絡める。視線を落として、ゆるく扱かれる様を見たエースは、それだけでまた性器を固くしてしまった。改めて見るとマルコの指はえろい、と、えろい指でえろいことをされながらエースは思う。特別細いわけでもきれいなわけでもないのに、長くて節の目立つマルコの指がばらばらに動く様は視覚的に来るものがあった。

ていうか握られて気持ち良くないわけねーしな、と、荒くなる息を抑えながら、エースもマルコの股関に手を伸ばした。一方的に、と言うのはあまり良くない。むしろどれだけのものを突っ込まれるのか、先に確認しておきたい。というわけで、もう随分窮屈なマルコのホックとチャックを下ろして、下履を脱がせるのは諦めて、下着をずらすと、マルコの性器が勢いよく飛び出してエースの手にぶつかった。だから、元気じゃねえか、マルコ。ひとりで、っていうのも、良くないわけじゃないけど、他人の手のほうが気持ちいよ、なあ。中だったらもっといいのか?俺の中でも、と、エースは心の中で呟きながら、マルコの性器の先端を擦った。きゅ、と握りこんで、上から下まで何度か往復して、エースはうん、と頷いた。うん、でかい。入るのか。入るだろうけど。うーん、と首をかしげたエースの性器を、マルコがひときわ強く握って、エースはびくりと姿勢を正した。足の指が一瞬ひきつるような感覚がして、あ、うん、気持ちい。マルコの手が滑らかに動くようになったのは、つまりエースの性器から先走りが流れているせいだ。先走りを亀頭に塗りつけるようにぬるぬると親指を動かされて、真っ直ぐ座っていられなくなったエースはマルコの胸に額を押しつけた。それでもマルコの性器を握る手を放さなかったのは、ほとんど意地のようなものだ。俺も早くぬるぬるさせよう、と決意するエースの目にはマルコの誇りが移っていて、エースは何の気なしに誇りを−マルコの胸を−ペロリと舐めた。と、マルコの性器が一気に質量を増して、エースの片手を圧迫した。え、と思ったエースの耳元で舌打ちしたマルコの右手の動きは激しさを増して、エースを追い上げていく。ちょ、待ッ、と喉の奥で悲鳴を上げたエースには構わずに、マルコは空いている左手で柔らかく袋を揉んだ。マルコの右手は相変わらず緩急をつけて性器を攻めていて、エースはマルコの誇りに額を押しつけたままきつく目を閉じた。マルコが性器の先の爪を立てて、あ、と思う間もなく訪れた一瞬で、エースはマルコの手の中に精液を吐き出した。びく、と背中を震わせたエースの、一気に弛緩した体を受け止めて、マルコはベッドの下に手を伸ばした。はあ、と深い息を吐いているエースが顔を上げると、マルコが取り出したものが目に入る。ローション。しかも新品の。使い切った後なのか、使う機会がなかったのか、どっちだろうな、とエースが埒も明かないことを考えていると、マルコは片手で器用に蓋を外して、粘性の液体をどろりと受けた。

「…は、…」
「冷たいかも知れねえが、我慢しろよい」

と言ったマルコは、それでも掌で軽くローションを温めてから、エースの股関に指をあてる。長くて節の目立つ人差指だ。尻穴の周りの膨らみを確かめるようにローションを塗りつけて、まずは第一関節だけ差し込む。まだほとんど違和感は感じなかった。大きく足を開いて、それでもまだ向き合って座ったままのエースがマルコの性器を握ったままでいると、こっちも準備しとけ、とマルコはエースの手に無造作にローションを流した。準備って、つまり、このチ○ポが俺の尻に入るように濡らしとけってことか?それとも臨戦態勢にしとけってことか。正直一度抜いてちょっと小さくしたいんだけど、それは怒るかな。中で出してえよなあ、男なら。エースの望み通りぬるぬるになったマルコの性器に、ローションを染み込ませるように指を動かした。その間に、マルコの人差し指は完全に中へと埋め込まれた。はあ、と息を吐くと、「辛いか」とマルコが尋ねるので、エースはゆるゆると首を振る。たっぷり濡れた穴は、まるでマルコの指を飲み込むように動いていた。道具って大事だな、と、あまり明瞭でない発音でエースが言うと、道具だけかよい、とマルコはエースの顔を覗き込むので、マルコも大事だった、とエースは笑った。マルコもゆるく笑って、ローションを追加しながら二本目の指を差し入れる。半分抜いた人差指に添わせるように中指をそろえて、ゆっくりと進めていく。マルコの指の節がエースの縁を通り抜ける瞬間がわかって、エースはまたぞわりと背筋を震わせた。気持ち悪くはないが、気持ち良いのかどうかはわからなかった。痛みはなくても、さすがに圧迫感は強くなっている。気を紛らわせるために、マルコの性器をぬるぬると弄ってみるが、あまり触りすぎると出てしまうような気がして、結局両手はマルコの背中にまわすことにした。密着したほうが、たぶん入れられやすい。ぴったりと体を付けると、マルコの性器とエースの性器が触れて、ひどく興奮した。一度射精して、萎えかけていたエースの性器が、また少しずつ固さを増していく。マルコの肩口に顎を乗せて、全体的に気持ちいな、とエースは目を閉じた。エースが体を近づけたことで前からほぐすことが難しくなったので、マルコは一旦指を引き抜いてエースの体を抱き上げた。位置は変えずに、マルコの足の上に乗せられることで、エースの中に指を入れやすい形になる。今度は最初から二本、指を突き立てられて、エースはマルコの背中にまわした腕に力を込めた。下から聞こえる音が、ぬぷぬぷ、からぐちゅぐちゅ、に変わっている。マルコには、どうなっているか見えるんだろうか。見えてもいいが、見えないほうがいい気がする。しがみつく間に指は三本に増えて、粘膜を擦る音もさらに大きくなっていた。あー、なんか、やべえかも。粘膜、気持ちいなあ。前立腺どこだっけ。一度指で擦られたことあるけど(女の子に)(ていうか買った子に)、今度はあんなでけえので、思いっきり。ぎゅう、ともっと強くしがみつくと、ぬるぬるの右手とは対照的に、乾いたマルコの左手が大きくエースの背中を撫で下ろした。怖いわけじゃねえよ、と言おうとして、やっぱり怖いかも、と思ったエースは口を閉じる。背中をさする手も、中で動く手も、どちらもエースがしがみつくマルコのものだった。これだけでこんなに気持ちいのに。

「おい」
「んっ、あ、何、」
「そろそろ、」

入れてもいいかよい。と、耳元で囁かれて、ぞわぞわと得体のしれない感覚が背骨を駆け巡る。頷こうとして、力が入らないことに気付いた。まだ入ってねえのに、腰が抜けそうだ。どうにか気力を持ち直して、うん、と頷くと、マルコの左手がエースの頬を撫でた。そのまま顎を掴まれて、噛みつくように口づけられる。ぬるりとマルコの舌が這いこんで、上と下、どちらの粘膜もマルコで塞がれた。やばいやばいやばいって、と思いながら、エースの体はさらに強くマルコに密着していくので、やばいのはエース自身かもしれなかった。入ってきたときと同じだけの唐突さで舌が抜かれて、同時に、ばらばらに動いていた三本の指もずるりと引き抜かれた。マルコの、ローションで濡れた右手と乾いた左手が、エースの太ももを撫でる。エースとマルコの腹に挟まれた二人分の性器は、ローションとどちらのものかわからない先走りでもうどろどろだった。エースは、抜けそうになる腰を懸命に起こして、ゆっくりと膝立ちになる。マルコの腕に誘導されてゆっくり腰を落としていくと、固いマルコの性器が尻穴に触れて、びくりと一瞬エースの動きが止まる。怖い、ような気がする。すっかりあがった呼吸と、体温と、それから心音で、随分長い時間がたったような気がするが、実際は数秒だったに違いない。マルコは、エースの太ももと尻に手をあてた形でエースの動きを待っている。ここまで来て。マルコは、はあ、とどうにか大きく息を吐いて、そうして一気に腰を…落とそうとして、マルコに止められた。「馬鹿か」と呆れたように呟かれて、「熱い風呂に入る時は一気に、ってのが鉄則だろ」と額に汗を浮かべたエースが返せば、「軽口が叩けるなら大丈夫だな」とマルコは言って、それでもゆっくりとエースの中に、マルコの性器をおさめた。亀頭が入ってしまえば、あとはエースの自重とローションの滑りを借りて、すとん、と先ほどと同じ姿勢に戻った。入っているのが、マルコの指か性器かの違いだ。エースはマルコと顔を合わせて、ふへへ、と笑う。なんだよい、とマルコが尋ねるので、全部入った、とエースは言った。

「入る、もん、なんだな」
「当たり前だろい、お前も入れたことあるんだろうが」
「や、俺、男には、ないし」
「はっ?」
「は、…て、何」
「さっきお前、『下は』始めてだとか言っただろうが」
「う、…ん、っ、言ったな、女としかしたことねえから」
「…………ああ、…そうか…」
「なに?」
「なんでもねえよい」
「え、っでも、っ、うあっ」

動かなくても絶対的な質量と、それから脈動を感じる性器をおさめたまま喋るのは思いのほかきつくて、途切れがちな声で、それでもマルコと会話したくてエースは頑張った。が、「いいから、集中しろよい」と言ったマルコがいきなり腰を揺らしたので、エースの声は色気のない喘ぎ声に変わってしまった。意外と高い声に変わるもんなんだな、と上擦った自分の声を聞きながら、エースは置いていかれないようにマルコにしがみつく。結合部から聞こえる音は、ぐちゅぐちゅところかばちゅばちゅ、にまで発展していて、濡れて密着した部分から空気が抜けるとこんな音になるのか、と、エースはまたどうでもよいことを考えた。マルコ以外の何かに集中したい。マルコの動きに集中したら、すぐに達してしまいそうだった。だって気持ち良かった。触れ合う胸も、しがみついたマルコの背中の体温も、エースの腰と背中にまわされたマルコの腕の力も、マルコの腹筋に擦れるエースの性器も、エースの直腸を抉るマルコの性器も、エースの耳元で聞こえるマルコの荒い吐息も、全てが快楽に直結しているみたいだった。マルコの動きに合わせて、尻穴がびくびくと痙攣しているのがわかる。これって、もしかして達ってんのか、と、他人事のように思いながら、エースは意図的にマルコの根元を締め上げた。すげえ。まだでかくなんのか。ていうかこれは、もしかしなくても、それに俺も。

「っ……エース、」

マルコが達する瞬間に名前を呼ばれて、エースも呆気なく二度目の精を放った。びくびく、とエースの性器が短く射精を繰り返す間に、マルコの放った精液がエースの腹の中を逆流してくる。エースの射精が治まるのを待って引き抜かれたマルコの性器からは、ローションと直腸から溢れた分泌液とマルコの精液が零れ落ちた。エースとマルコの腹も、ローションと先走りにエースの精液が混じり合ってどろどろだった。なんかすごかった、とエースが感想を述べると、マルコは何も言わずにエースの髪をぐしゃぐしゃと掻き交ぜた。それは、マルコがエースを敵船から連れ帰った時とまるで変わらない仕草で、マルコとしたSEXと同じくらい気持ちが良かった。ふひ、と笑ったエースは、気が抜けたのか急激な眠気に襲われて、マルコの胸にまた額を押し当てる。マルコ、と呟くと、後始末はするから寝ちまえ、と言われて、ん、とゆるく頷いた。エースがずるずるとマルコの胸を滑り落ちて、マルコの膝に頭を乗せると、二人分の精液の匂いがした。不快感は感じなかった。額にマルコの指が触れて、薄く眼を開けると、ひどく穏やかなマルコの表情にぶつかる。おやすみ、と唇の動きだけで呟かれて、エースは今度こそ目を閉じた。マルコの指は、エースの髪を梳くように撫でている。気持ちい、とエースも唇だけで呟いた。

眠りに落ちる瞬間にマルコが何か囁いた気がするが、よく聞こえなかった。
マルコの隣では、夢を見なかった。

( お前らもう付き合っちゃえよ / マルコ×エース / NC-17 / ONEPIECE )