それは正解も間違いもない

本当の存在 は

いなくなって もここにいる



「人は最後に光るらしい」
「…何それ?」
「ちょっと思い出した」

人は 死ぬときに一瞬だけ光る。
悪人も善人も男も女もどんな人間も最後は皆一人で光って消えるんだ。
唐突に文次郎が語ったのはそんなことだった。

「それって 何が光るの」
「最後の力なのか、意識なのか」

なんなんだろうな。お前には分かるか?
質問に質問で返されても困るんだけど。とりあえず分からない。
ただそれだけのことだったのだけれど、文次郎の様子がなんとなくおかしかったので尋ねてみる。

「それがどうかしたの」
「別に…ただ思い出したから」

そういって文次郎はごろりと横になった。
何が言いたいのか良く分からなかったので光について考える。
ひかり。
夜だったら綺麗だろうけど昼だったら目立たないんじゃないかな。そこは本質とは違うのか。ていうか本当に光るんだとしたら戦場なんて眩しくていられないんじゃないか?それも本質じゃないか。

「それ誰に聞いたの?」
「誰だったかな。母親だったか父親だったか祖母だったか、それとも別の誰かだったのか」

嘘だろうと思った。直感だけれど。
文次郎はその誰かが誰なのかをちゃんと覚えているし、それを口に出すことを恐れている。それくらい大切な人で、だからこそふとしたときに口をついて出たんじゃないか。もしかしたらその人は死んでいるのかもしれない。それはちょっと飛びすぎかな。いやだけど。

「それを 見た人はいるの?」
「さあなあ。でも人魂とか、そういうのがそういうあれなんじゃないか」
「ひとだまーー?」
「お前はそういうの信じないか?」
「うーーん、信じるとか信じないっていうか見たことがないからなー」
「分かりやすいな」
「…もしかして馬鹿にしてる?」
「してねえよ。それがなんにしろ、確固たる何かを持っている奴はそれだけで凄いだろ」
「?文次郎だってそうだろ?」
「…いや、」

いや、と否定とも肯定ともつかない呟きを最後に、それきり文次郎は黙り込んでしまった。
明らかにおかしい。いつもだったらこんな顔はしないし、こんなことは言わないし、とにかくこんなことはしない。やっぱりいつかの誰かが関係してるんじゃないか。文次郎に光を語った人。そういえばいつか仙蔵から聞いた気がする。文次郎にはおかしくなる日があるんだ、と。自分で気づいた訳ではないことが悲しいけど。いや別にそこが問題なわけじゃないけど。気になるなら直接聞いてみればいいんだろうけれど、内面に関わるようなことを尋ねるのは忍の法度だ。そうでなくても文次郎がおかしくなるほどの何か。やっぱり死んだのかな。聞けないなあ。
文次郎の大事な誰か。

(文次郎は その光を見たかった のか な?)


「小平太」
「んっ、何?」

不意に声をかけられて変な声が出た。
慌てて飛ばしていた意識を元に戻すと、いつのまにか文次郎がこちらを見ている。射抜かれるような眼。私はそれが好きだ。

「俺が光るときはお前に見せてやるからな」
「それは 死ぬまで一緒にいてもいいということ?」
「それでもいいし、お前が俺を殺すんでも俺が死ぬときにたまたまそこにいるんでもいい。最後はお前に見せてやる」
「私には見えないかもしれないよ?」
「それでもいい。そこにいてくれるだけでいいんだ」

「でも、だけど私のほうが先に死ぬかもしれないよ?」
「その時は俺がお前の光を見てやる」
「私は光らないかもしれないよ」
「それでも」

いつになく真剣な声。熱意ではなく理性の。
やはりどこかがおかしいのだろうけれど、文次郎がそれを私に伝えようとしないなら私が慮るのもおかしい。だからこれはただの感想。

「それは いいね」
「いいだろ」
「いいな」

約束でも契りでもなんでもない。いいね、とただそう言っただけだ。でもそれはきっと守られるはずだ。そう思う。思いたい。
光なんてなくても最後まで文次郎と一緒にいられたらいいのに。
END.



なにこれ?
妙な文次郎を書こうとしたら予想以上に小平太がおかしくなった。
誰かが死んだとき、潮江は幽霊でもあいたいとおもう。小平太はホンモノじゃないと嫌だ。そういうことを書きたかったです。

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