秋は空を吸い込むように

秋は空を吸い込むように



「いい天気だなあ」

日当たりの良い い組長屋の縁側に腰掛けて、小平太は幸せそうに呟いた。
ともすれば朝夕はずいぶん冷え込む今日この頃、日中の日差しはとても気持ちがいい。小平太さえいなければ文次郎も縁側で日に当たっているところだ。
自分のものより幾分色素の薄いその髪に光が当たってはじける。
座っているだけなのになぜこんなにも生命力に溢れているように見えるのだろうか、と 文次郎は暗い部屋の中からただそれを眺めていた。

何も返さない文次郎を不思議に思ったのか、小平太は振り向かずに首だけ倒してこちらを見る。まるで、かくんと首が折れたようで少し嫌な光景だ。

「文次?」
「なんだ」
「私の言葉聞こえなかった?」
「いい天気だな」
「聞こえてるんだよねえ。なんで返事してくんないの?」
「独り言かと思った」
「いくら私でもあんなでかい声で独り言は言わない」

こんなに近くにいるのにさあ?

首を倒した状態でじっと見つめられて、返事をする前に苦しくはないのだろうかと余計なことを考える。
いや、というか文次郎と小平太が近くにいるわけではない。
文次郎のいる場所に小平太がやってきて、そこに居座っただけなのだ。
一緒にいるわけではない。ないと思う。

「そう思うなら返事をしてくれる奴のそばにいればいいだろう」

遠回しにどこかへいけ、と言うと小平太は首を元に戻して、改めてこちらに向き直った。
先ほどまでのへらりとした顔よりは少しだけまともな顔で。

「私がここにいるのは邪魔?」
「別に」

別にどうでもいいという気持ちを込めてそう言うと、小平太はふっと立ち上がってこちらに近づき、文次郎の横にぺたりと座った。

「文次はさあ、なんでいつもそんなにつまんなそうな顔してるの?もっと笑ってくれればいいのに」
「楽しくもねえのに笑えるか」
「今楽しくない?私と一緒にいて」
「楽しくない」

きっぱりと否定してやったのに、小平太はさして興味もなさそうに頷いてふうんと言った。

「私は楽しいけどなあ」

休日で天気が良くてお昼食べた後でそこに文次がいて、気持ち良いくらい楽しい。
やっぱり笑って言う。

別にどうでもいいが、満腹感と俺といることは同等の幸福なのか?

俺もお前がいなくなればそれなりに気持ち良くなると思うんだがな、と心の中で呟く。口に出したらきっと喚くだろうから声には出さない。
気持ち良い、というか気持ち悪いのが消えるというか。
とりあえず小平太が消えてくれればこのわけの分からない気分は収まるだろう。

「うん。すごく楽しい」

何をどうしたのかは分からないがとりあえず自己完結した様子でもう一度そういうと、小平太は全開の笑顔で文次郎に抱きついた。

俺はお前なんか嫌いなんだ。といってしまえればどんなに楽だろうか。
俺に笑いかけるその顔を突き放して滅茶苦茶に壊してしまえればいいのに。
一緒にいても少しも楽しくない。いつも笑っている小平太の顔に妙な感情でいっぱいになってどうしようもなくなるばかりだ。
嫌いだと、嫌だと ただ一言。告げてしまえれば良いのに。

どんなに振り払っても追いかけてくるその手に、軋むほどに抱きしめられてしまうと何も言えない。
しばらく目を閉じてそれを受け入れていると、満足したのか小平太はゆっくり離れて行った。
すぐ近くにあるその笑顔にやっぱり何とも言えない感情を抱いた。

「文次」
「なんだ」
「文次も一緒にひなたぼっこしよう」
「なんでだよ」
「だってここ薄暗いしさー、文次笑わないしさ。日向にいれば気分も晴れるんじゃないか」

こんなところにいないでむこうへいこうよ。
一緒に行こうよ。

差し出される手をとったのはきっと一瞬の気の迷いだったのだろう。

たぶん俺はそっちへはいけない。その手をとりながら文次郎は思う。
たぶん、きっと、けれど確実に。
日向とも小平太とも相容れることはない。

日向のように笑う顔を見ながら苛立ちと共に少しだけ哀しくなった

END.


文こへ…かな?これはそうかな?どっちでもいいけどそっちかな?
両思いなんだけど文次郎が悶々としてる話。(なんてことだ
だからいつでもそんなんばっかり書いてるんだって… だれも報われないんだって…


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