※メフィストと藤本の過去捏造話
※なんてことはないですが微妙に下品なのとリバっぽい表現がありますのでお気を付けて


生  き  て  る   間   全   て   遠   回   り


ある秋の日、備品の請求書を持って理事長室の扉を開いた藤本は、メフィストが妙に難しい顔をしてPCの画面を眺めているので、「どうしたんだよ、メフィストフェレス」と声をかけた。画面から顔を上げて、「いえ、ネトゲでの友人からメールが届いたのですが、写真が添付されていまして」と、メフィストが返すので、「はあ?」と藤本は首を捻る。足音が響かない絨毯の上を足早に進んで、机のこちら側からPCを覗き込めば、藤本の視界にはまだ年若い男の顔が映った。「…ちょっとかっこいいな」と藤本が呟くと、「そうですねえ、かっこいいから困ってまして」と、メフィストは机に肘を突いて首を傾げる。「何で」と藤本が短く問いかければ、えーと、と顎に手を置いたメフィストは、「たぶんこの方は、私のことを女性だと思っているので」とにこりともせずに言った。「…なんで?」と藤本が疑問符を浮かべながら尋ねると、メフィストは藤本を手招いて、表示画面を常時起動させているゲーム画面に切り替えると、メフィストが使っているキャラクターのステータスを見せてくれる。

『名前:†メッフィー† 職業:女教皇 レベル:121』

と言った文字を追いながら、「え、…だってこれ女じゃねえか」と、藤本は無機質に微笑むグラフィックを突付いた。「パラソルとニーハイソックスを装備させられるのが女性キャラだけだったのですよ」と、メフィストはフリルだらけではあるものの、概ねメフィストの正装と似たような服装のキャラクターをカーソルでなぞって一回転させる。「女教皇ってのは」と、わりとドン引きながら藤本が続ければ、「ああ、これは僧侶系の最高位です」と、嬉しそうにメフィストは答えた。へええ、と対して興味もなさそうに頷く藤本が、「それで、向こうがお前を女だと思ってる理由はだいたいわかったが、それで何が困るんだよ」と首を傾げると、少しばかり考えた後で、「あちらも私の写真が欲しいというのですよ」とメフィストは言う。「…どういう関係なんだ?」と、目を細くした藤本が尋ねると、「いえ、たいした関係ではありませんが、同じギルドに所属していて、よく話をして、よく物をくれるだけです」と澄ました顔でメフィストは答えた。藤本がさらにじっとりとした視線で「その、物って」と突き詰めていけば、メフィストはにこやかに「課金アイテムとか、数時間のクエストでいただけるレアアイテムですとか」と返すので、「それって完全に貢がせてるんじゃねえかこの悪魔!!」と、藤本は乱暴に机を叩く。「何を怒っているんです、別に私から強請っているわけではありませんよ?」とメフィストがわずかに藤本から身を引きながら弁解すると、「そこはたいした問題じゃねえよ」と、苛立ちを隠そうともせずに藤本は眉間を抑えた。「そうでしょうか」とメフィストが白々しく呟けば、

「だからお前も困ってるんだろうが」

と、藤本は固い声で告げる。「男が女に金品を送って、見帰りに何が欲しいかなんてお前が一番良く分かってんだろ」と藤本が続けるので、「ええまあ、だからどうにか今回は誤魔化して写真は送らずに済むようにと…」とメフィストは言ったのだが、藤本の顔は険しいままだった。「…本当に、疚しいことは何も無いのですよ、彼とは」とメフィストが呟くと、「じゃあ何があったんだ」と藤本は問い質すので、少し考えたメフィストは残してあった字ログを呼び出して藤本に示す。やたらと短いスクロールバーをかちかち下げながら、かなりの勢いで文字を追う藤本が、低い声で「この『嫁』ってのはなんなんだよ」と尋ねるので、「ゲームでカップルにならないと参加できないイベントがありまして、その名残です」とメフィストは答える。「…へえ〜?」と嫌な顔で笑った藤本は、さらに2、3度画面をスクロールしてからおもむろにメフィストに向き直ると、「なあ、お前女にもなれたよな?」とその嫌な笑顔のままメフィストに言った。「ええなれますけれども、それが何か」と、逃げる隙を伺いながらメフィストが返せば、「じゃあなれよ、なって写真撮ってこいつに送って喜ばせてやろうぜ?」と、藤本が何故か袖をまくりながら近づいてくるので、「…いえ、それは流石に彼が気の毒だと言うか、あなたは一体どんな写真を撮って送るつもりなんです」と圧し掛かって来る藤本の身体を押し返しながらメフィストが言うと、「決まってんだろ?ハメ撮り」と、藤本はそれはもう良い笑顔で答える。予想通りの答えが返ってきたことに脱力しかけたメフィストが、それでも押し切られるわけにはいかないので、「い、や、で、す、というかそれは一向に構いませんがあなた女の私が好きではないでしょう」と告げれば、藤本は一瞬笑いを引っ込めて、「だってお前じゃねえし」と言った。「でしたら止めておきましょう、人に見せるものではありませんし、あなたの嫌がることはしたくないですし」とメフィストが続けると、「…随分庇うよなあ、『旦那』を?」と、藤本はとうとう座った目でメフィストの膝に乗りあげる。「何を拗ねているんですか」と、メフィストが戸惑うように藤本の頭を撫でれば、藤本はメフィストの手を振り払おうとして、途中で留めてメフィストの手を握り込んだ。

メフィストの手を握りしめたまま、「俺ネトゲに興味無いんだよ…」と藤本が呟くので、「ええ、存じ上げておりますけれども」とメフィストが返すと、「でも俺だってお前に旦那って呼ばれたいし!お前を嫁って呼んで見てえし!!」と叫ぶように藤本は言った。「……どちらかというとあなたが嫁ですね?」とメフィストが訂正すれば、「そこはどっちでも良いんだよ、大事なのは呼び名じゃなくて関係性なんだよ」と藤本は爪を立てる勢いでメフィストに迫る。メフィストは薄く笑うと、「でしたらなおさらあなたが心配なさるようなことはありません、所詮虚構ですから」と言って、藤本に掴まれていない手を伸ばしてPCの電源を切る。「あ」と画面に目を向けた藤本の顔に手を当てたメフィストは、「こんなものはあなたがいない間の暇潰しですから、あなたがずっと側にいれば良いことなのですよ」と言った。「…でもお前この前俺の前で恋愛シミュレーションの予約してただろ…」と半眼で藤本が告げれば、メフィストはこほん、とわざとらしく咳払いをして、「まああれは別の話ですから」と藤本の目を見つめる。「……はあ」と、やがて藤本が諦めたように溜息をつくので、「では、」とメフィストは藤本の首に手をかけたのだが、「やっぱりお前女になれ」と藤本が吐き捨てるように言うので、メフィストは僅かに首を傾げた。「…ハメ撮りはしませんよ?」とメフィストが危ぶみながら告げると、「それはもういいから、相手がもう妙な勘違いしねえように、俺と写った写真を送れ」と藤本は言う。「それなら、そもそも私の写真を普通に送れば良い話ではないでしょうか」とメフィストがごく冷静に藤本の顔を見上げれば、藤本は一瞬虚をつかれたような顔をして、「バカ、お前、お前なら男でも女でも良いって思われたら同じことだろ!」とわりと必死な声で言うので、メフィストは軽く赤くなった。見れば、藤本の耳も赤い。「…それは無いと思いますが、あなた本当に私が好きなんですねえ」としみじみメフィストが呟くと、藤本は赤い顔のまま「うるせえな、放っとけよ」とメフィストのスカーフを蝶結びに結び直した。

メフィストが取り出したデジカメに、せいぜい仲良く写った少し小柄で髭が無くてクマが薄くて貧乳のメフィストと、いつも通りの藤本の写真をメールに添付してしまったメフィストが、「良いカモではあったんですがねえ」と少しばかり惜しむように机に肘をつくので、「お前幾らでも金持ってんじゃねえか」と藤本はメフィストの肩に手を置いて呆れたように言う。「それとこれとは話が違います。悪魔の本領と言うものもありますし」ともう元に戻っているメフィストが藤本の手に指を絡ませながら言えば、「じゃあ俺が金出してやるって」と、メフィストの項に唇を押し当てて藤本は返した。「金の出所は同じような気がするんですがね…」と、しばらく大人しく藤本のしたいようにさせていたメフィストは、藤本がメフィストのシャツに手をかけたところで、「ところで、藤本君」と、良い笑顔で藤本の名を呼ぶ。「なんだよ」と、小器用な指で顔も上げずにメフィストの釦を外している藤本に、「君はさっき彼の写真を見て『格好良い』と称しましたが、ああいった手合いがお好きなのですか」とメフィストが問いかけても、藤本は手を止めずに、「何言ってんだお前」と呆れたような声を返した。藤本の顔をじっと眺めたメフィストが、ふ、と笑みを深くして、「私は真面目な話をしているのですよ、藤本君」と僅かばかり声に棘を滲ませて告げると、藤本はようやく顔を上げて、「…一般論だろ?お前も言ってたじゃねーか」と困惑したように呟く。「それは重々承知していますが、それでも私の前で他の男を評価するのはあまり得策ではありませんね」と、メフィストはさらに大きく笑いながら、藤本の手を取って、PCの乗る机に藤本の身体を押し付けた。「そんな藤本君にはお仕置きが必要だと思いませんか?」と、メフィストが藤本の手の甲に唇を落としてきつく吸い上げると、「いや、先に怒ってたの俺だろ、なんでこういう展開になるんだよ」と、藤本はメフィストの手を振りほどこうとするのだが、メフィストは許さずに軽く噛み痕さえ残す。「っ、メフィストフェレス、」と、藤本がメフィストの名を呼ぶので、メフィストは緩く閉じられた藤本の口の中に強引に指をねじ込んで、「先に君のお遊びに付き合って差し上げたのですから、私の遊びにも付き合って下さいね」と言った。「あそびひゃねえよ」と、くぐもった声で藤本は言ったのだが、「どちらでも同じことです」と、メフィストは対して気にもかけずに指を突っこんだままの藤本の口に噛み付くようなキスをして、「良い機会ですから、しましょうね、ハメ撮り」と、それはもう良い笑顔でカメラを構える。藤本に拒否権はなかった。

女装はさせられなくて良かった、と、ぐったりした顔の藤本は後に語った。



( 藤本40代後半 / くだらないはなしを一生していたら良い / 青の祓魔師 /藤本とメフィスト/111001 )