※メフィストと藤本と奥村兄弟の過去捏造話


あ れ は と ほ い い 処 に あ る の だ け れ ど


10年以上前の夏の日だった。

保育園のバスを降りた燐が道端に落ちた蝉を拾い上げてまじまじと眺めた後、羨ましそうに眺めていた雪男の視線に気づいて蝉を手渡す。その途端、まだ生きていた蝉はジジジジジ、と耳障りな音を立てて雪男の手から逃げていった。あ、と口を丸くして涙を落としかける雪男に向かって、「スゲー!お前が触ったら生き返った!」と、ひどく嬉しそうに燐が声を上げるので、雪男は瞬きひとつで笑顔に戻って、差し出された燐の手を握る。雪男の手を引いて、ふたりを待っていた藤本の元までやってきた燐は、「ただいま!」と勢いよく藤本の足に飛びついた。「おとうさん、ただいま」とそっとカソックの裾を掴む雪男の頭に手を置いた藤本は、「おう、出かけるから支度しろよ」と機嫌の良い声で言う。「どこ?いまから?どこにいくんだ?!」と顔を輝かせた燐とは対照的に、雪男は少しばかり暗い顔で俯いてしまう。藤本はそんな雪男を抱き上げて、「大丈夫だ、怖いものは何もねえから」とごく明るく笑った。雪男にとって、修道院以外の場所は全て怖いところだったので、本当はどこへも行きたくなど無いのだが、燐と藤本がいかにも楽しそうなので、小さく頷くしかなかった。

風呂場でざっと汗を流して、通園服から普段着に着替えた後、一目散に修道院の入り口へと駆け出そうとした燐の体を掬い上げるように担ぎ上げた藤本は、雪男と手を繋いで修道院の奥へと歩いていく。「でかけるんじゃないのか、とーたん?」と口を尖らせてばたばたと暴れる燐に向かって、「今日は車も電車もいらねんだ、魔法を使うからな」と芝居がかった口調で藤本は言った。まほう?!と歓声を上げた燐の下で大きく目を開いた雪男は、藤本の手を引いて「おとーさんは、まほうつかいなの?」と尋ねる。「俺じゃなくて、俺の友達がそうなんだよ」と、どこか誇らしげに胸を張った藤本の前で、燐と雪男はそっと顔を見合わせると、「「おとーさん、ともだちいたんだ」」と声を揃えた。「うるせーな!!どういう意味だよ!!」と声を荒げた藤本は、もう一方の肩に雪男も抱き上げて、やけくそのように進んで行く。雪男は高いところがあまり好きではないのだが、藤本にしがみ付けるこの位置は好きだったので、ぎゅう、と力を込めて藤本に抱きついた。やがて藤本が軽く息を切らせて立ち止まったのは聖堂の前で、こんなところでどうするんだろう、と思いながら、雪男は手を伸ばして木製の扉に触れる。少しだけ冷たかった。雪男と、「なになに、ついたのか?」と暴れる燐を床に下ろして、藤本は鍵がかかっていない筈の鍵穴に古風な鍵を差し込んで廻すと、そっと扉を開く。

―と、その先はもう修道院ではなく、ひどく豪奢な絨毯が敷かれた広い部屋だった。ぱか、と口を開けた雪男の背を押した藤本の後ろで、扉は音もなく閉じて行く。「すげえ!!ほんもののまほう!」と、一足先に部屋へと飛び込んでいた燐が叫ぶように言えば、「すごいでしょう」と不意に薄暗がりから声が聞こえた。燐と雪男が小さく飛び上がって藤本にしがみつくと、「ああ、大丈夫だ、アレが父さんの友達だから」と、藤本はあやすようにふたりの頭に手を置く。それから、「こどもを脅かすなよ」と半ば呆れながら薄暗がりに視線を送る藤本の前に現れたのは、薄紫の浴衣を着た長身の男だった。何故か狐面を付ける男の顔は口元しか見えず、うっすらと笑うその唇があまりに赤いので、雪男がさらに強く藤本にしがみ付けば、「こいつが、父さんの友達で魔法使いだ」と藤本はごく軽い口調で男を示す。「こんにちは、ヨハン・ファウストと申します」と、優雅に腰を屈めたファウストは、黙って見上げるだけの燐と雪男に棒付きのチョコレートをくれた。「これから祭りなんだろ」と咎めるように言った藤本を見上げて、「ええ、でも、こどもには甘い物を差し上げるのが私の流儀ですから」と狐面の下でファウストは笑う。「貴方にはいただいてしまいましたけどね」と独り言のように続けるファウストの声を遮るように、「まつり?なんのおまつり?肉はある?!」と、早速チョコを咥えた燐が尋ねれば、「夏祭りです、牛串の屋台も出ますし、花火も上がりますよ」とファウストは簡潔に答えた。「花火まで用意したのかよ」と驚いたような声で言う藤本に、「珍しく貴方が頼みごとをするので」とファウストは返して、「では、祭りの前に着替えてしまいましょう」と指を鳴らす。

すると、指の音に合わせたかのように隣の薄暗い部屋に明かりが灯るので、雪男が伸びあがって藤本の後ろから覗きこむと、大きなソファの上に浴衣が3組用意されていた。「俺はいらねえって」と、燐と雪男の手を引く藤本は言ったのだが、「こういう時は浴衣が正装ですよ」とファウストは告げて、雪男の前に膝を付く。びく、と身体を震わせた雪男に、「こんにちは、雪男君」とまるで囁くようにファウストは言った。「こ、…こんにちは」と蚊の鳴くような声を出した雪男を見たファウストは、何を思ったのか雪男の手を取って、「君はもう視えるのですねえ」と感慨深く呟く。何が?と首を傾げる雪男の隣で、「じゃあ雪男頼むわ」と藤本が手を離して燐の服を脱がせるので、ファウストは雪男に向かって「浴衣を着たことはありますか」と問いかけた。雪男がふるふると首を振ると、「では、私が着せて差し上げますので、後ろを向いて下さい」とファウストは言う。雪男の手を取る、ひどく長い爪をしたファウストの掌が思ったよりもずっと温かく、そして優しいので、雪男はどこか懐かしいような気分で床を見つめていた。ぎゅ、と帯をしめて、最後に襟を正してくれたファウストが、「はい、出来上がりです」と声をかけるので、「あっ、ありがとうございます」と雪男は薄青い朝顔柄の浴衣の袖を握りしめながら言う。「どういたしまして」と事も無げに答えたファウストは、「では、私は藤本神父にも浴衣を着せて来ます」とひどく楽しそうに告げて、白地に水玉を散りばめた浴衣を着て翔けて来る燐とすれ違うように藤本の前まで歩いて行った。「ゆきおのひもカッコいいな」と、帯がただの蝶結びになっている燐は言ったのだが、雪男自身では自分の帯がどう結ばれているか見えないので、よくわからなかった。

さくっと浴衣を羽織って、適当に帯を締めて終わりにしようとしている藤本に向かって、「背筋が曲がっていますよ」と緩やかな声で言うファウストを一瞥した藤本は、「お前ほんとに和服着慣れてるよな…」と呟いて明後日の方向を眺めている。「日本も長いですからね」と澄ました声を出すファウストが、藤本の浴衣のあちこちをつんつんと引っ張って整えれば、心なしか藤本の背が伸びたようにすら見えた。「はい、良いでしょう」と満足そうに藤本の背をぽんとひと押ししたファウストは、くるりと振り返って、「お待たせしました、参りましょうか」と、当然のように雪男へと手を差し出す。少しばかり逡巡して、助けを求めるように藤本を見上げた雪男に向かって、藤本が大きく頷くので、雪男は頬を赤くしながらファウストの大きな手を取った。誰の手も借りずに駆けだす燐の帯を掴む藤本の手が羨ましくないと言えば嘘になるが、雪男の歩幅に合わせてゆっくりと歩くファウストの掌の柔らかさから離れたいわけでもなかった。

先ほどの藤本と同じように、どこからともなく取りだした鍵で隣室の鍵穴を廻したファウストは、まるで壊れ物を扱うような手付きで雪男の頭に手を置いて、「さあ、どこから廻りましょうか」と問いかける。雪男はと言えば、豪奢な家具の並ぶファウストの部屋から、唐突に様々な光と闇と屋台と人とが入り乱れる喧騒に包まれて、しばらく口も利けなかった。ファウストは雪男を急かすわけでもなく、すぐ脇の屋台ブドウ飴をふたつ買うと、ひとつを雪男の口に入れてくれる。じんわり甘いブドウを舐めている内に落ち着いた雪男は、ファウストを見上げて「…きんぎょ」と言った。「金魚すくいですね、良いでしょう」と首を傾けたファウストは、チョコバナナの屋台でじゃんけんをしている燐と藤本を振り返ると、「花火は7時からですから、それまで別行動しましょう」と告げて、人混みの中をすたすた歩き始めた。雪男に視線を向けることもなく、「藤本神父と一緒にいたかったですか」とファウストが尋ねるので、雪男は軽く頷き掛けて、少し考えた後で「りんがたいへんだから、いい」と首を振る。「君はいいこですねえ」と笑ったファウストは、俯きかけた雪男の両脇に手を差し入れると、ほとんど重さを感じないような動きで雪男を抱きあげた。ファウストの右肩に腰掛けるような形になった雪男は、その高さに怯えてファウストの頭にしがみついたのだが、ファウストはまるで動じずに、「さあ、金魚すくいの屋台を探してください」と雪男に告げる。言われてみれば、誰と比べてもほとんど頭一つ分背の高いメフィストの肩の上からはかなり遠くまで見渡すことが出来て、雪男はきょろきょろとあたりを見回した。やがて、紺地に赤で「きんぎょすくい」と書かれた幟を見つけて、雪男は「あっち!」とまっすぐ指を差す。「はい、行きましょう」と頷いたファウストは、するすると人波を抜けると、あっという間に金魚すくいの屋台まで雪男を連れてきてくれた。

肩から膝へと下ろされた雪男は、手渡された最中を持って白地に赤の斑が入った小さな金魚に目星を付けると、慎重に最中を潜らせたのだが、あまりに丁寧過ぎて目標にたどり着くまでに最中が溶けてしまう。あ、と声も上げずに口を開けた雪男に、屋台のお兄さんは「残念賞」と赤い金魚をすくって袋に入れてくれたのだが、雪男の眼はまだ先ほどと同じ金魚を追っていた。もう一度、と言えずに肩を落とした雪男の上で、「私にもひとつ」とファウストはお兄さんに声をかけて、本当に何でもないような仕草で黒い出目金を掬い上げた。「じょうず」と目を丸くした雪男に、「魔法使いですから」と軽く答えたファウストは、ひょいひょいと他にも何匹か金魚を掬って、最後に雪男がずっと眺めていた小さな金魚をひょい、と事も無げに器に入れる。すいすいと小さな器の中で泳ぐ金魚に目を奪われる雪男の手から、先ほどお兄さんがくれたビニール袋を抜き取ったファウストは、「ここに、これも一緒に入れてください」と白い金魚を指した。はいよ、と手際よく一匹だけ雪男のビニール袋に移された白い金魚が、赤い金魚と一緒に雪男の手に返ってくるので、雪男はしばらく黙って金魚を見つめている。6匹分の金魚を手にしたファウストが、雪男を肩に乗せながら「次は何をしましょうか」と楽しそうに声をかけるので、雪男は答える前に「ありがとうございます」と小さく礼を言った。「どういたしまして」と嫌味なく返したファウストが、「雪男君は焼きそばとたこ焼きのどちらがお好きですか」と尋ねるので、「どっちもすき」と雪男は正直に答えた。ふむ、と考え込むような振りをしたファウストは、「ではどちらも買って半分こしましょう」と言ってたくさんある屋台の内、手近なところに近寄って行く。ついでにラムネとフランクフルトも半分もらって、雪男はもうそれでお腹がいっぱいだったのだが、「あとは甘い物が必要ですねえ」と、ファウストはメロン味のかき氷と綿あめとバナナと生クリームとチョコレートのクレープと今川焼を買って雪男の両手いっぱいに積み上げた。「もうもてない」と音を上げた雪男の顔に見えない視線を向けたファウストは、「では、藤本神父を探しながら食べましょうか」と雪男の手から綿あめを取って一口齧った。結局、ほとんど食べられなかった雪男の代わりに、かき氷と綿飴とクレープとはファウストの口に消えて行った。

藤本を探す、と言いながら、ファウストがやけにしっかりとした足取りで木立の中へと道を逸れて行くので、唐突に暗くなった視界に恐怖を覚えた雪男は「どこへいくの」と、まだ暖かい今川焼の袋と金魚の入った袋の紐を抱きしめながら心もとない声を上げる。「この先の丘の上で、藤本と待ち合わせています」とファウストが答えるので、雪男がなんだ、と胸を撫で下ろしたのもつかの間、不意に茂みが揺れて飛び出してきたのは、ひどく大きな蛾、のように見えるものだった。ギャア、と声を上げて羽ばたく、虫のように見えて明らかに違うそれを『アクマ』と呼ぶのだと言うことを雪男はもう知っていて、けれどもここには『アクマ』を退治してくれる藤本がいない。動揺のあまり、ぎゅう、と目を瞑って縮こまった雪男の身体を心なしか強く抱いたファウストは、「アインス、ツヴァイ、ドライ」と耳慣れない言葉を吐いてぱちんと指を鳴らす。途端に、耳障りな『アクマ』の泣き声が嘘のように掻き消えて、雪男はそろそろと瞼を開いた。目の前にはもう何もいなかった。

「君は悪魔が怖いのですねえ」

と、雪男の身体を肩から胸まで抱き直したファウストが雪男の背中を撫でながら声を落とすので、「だって、ぼくにしかみえないから、こわい」と、雪男はファウストの胸に顔を埋めながら、しゃくりあげそうになる喉を押さえる。「私にも、藤本神父にも見えますよ」とファウストは静かに言って、「でも君が見せたいのは燐君なのでしょうね」と続けるので、雪男はこくり、と僅かに頷いた。ふうん、と溜息のような声を漏らしたファウストは、雪男の身体をあやすように2,3度揺すってから、「君の願いはそのうち叶うでしょう」と予言のように断言した。「…ほんと?」と、泣き顔を持ち上げた雪男に、「私は魔法使いですからねえ」とファウストは笑いかけて、「ああ、ご覧なさい」と西の空を差す。雪男が首を捻ると同時に、ひゅるひゅる、と空気を切る音が聞こえて、ぱあん、と言う破裂音と共に木々の途切れた夜空に焔の花が開いた。泣くことも忘れて見取れる雪男の前で、大輪の華は咲いては消え、消えてはまた新しく描かれて行く。「…わあ、」とようやく声を上げた雪男に、「気に入っていただけましたか」とメフィストがごく優しい声をかけるので、「うん、きれい、すごい」と雪男は答えて、金魚にも見えるようにビニール袋を空にかざした。「それは良かった」とファウストが雪男の頭を撫でたところで、また茂みが大きく音を立てるので、びくり、と雪男は身体を震わせたのだが、次に飛び出してきたのが葉っぱだらけの燐だったので、「どうしたの?!」と雪男は別の意味で驚いている。「はなびみたか?」と、空を指す燐に、「うん、みてる」と頷いた雪男は、後からやってきた藤本がひどく倦み疲れているように見えるので、もう一度目を丸くした。どうしよう、と首を傾げる雪男の袖を引いたファウストが、雪男の握る今川焼の包みと藤本を交互に指差すので、あ、と悟った雪男は「おとーさん」と藤本に呼びかける。「どうした雪男、楽しかったか?…泣いたのか」と雪男の顔を見た藤本の顔が少しばかり険しくなるので、雪男は慌てて「たのしかった、ないてない、これあげる!」と藤本に今川焼を差し出した。ん?という顔で包みを受け取った藤本は、中から少しばかりひしゃげてしまった今川焼を取り出すと、「いいのか?お前のじゃないのか?」と雪男に問いかけたのだが、雪男は首を振って「とーさんに、あげる」と言うと、顔を赤くしてメフィストの胸に顔を埋めた。「なんだよ、仲良しじゃねえか」と、雪男の頭をわしゃわしゃと撫でた藤本は、「ありがとな」と言って今川焼を齧った。「どちらが羨ましいですか」と笑うメフィストに、「…まあそれなりに、どっちも」と素直に藤本は答えて、藤本の足元で目を輝かせている燐の口に今川焼を半分押し込んでいる。花火は次から次へと夜空を染めて、そして跡形もなく消えて行った。

ファウストに抱かれたまま元の部屋に返って来た頃には、雪男も燐もほとんど夢現で、ファウストが雪男の手から金魚を取ったことに気付いた雪男は、苦労して目を開けて「どうするの」と問いかける。「修道院では飼えないでしょうから、私の部屋で買ってもよろしいですか」とファウストが尋ねるので、雪男は燐を抱く藤本の顔を見上げて、それから「うん」と頷いた。最後に白い金魚に手を振って、ことん、と眠りに落ちた雪男の頭をもう一度撫でて、「生徒と同じくらい可愛がりますから安心してください」とファウストは囁く。「それはどうなんだろうな」と苦笑した藤本の肩に雪男をそっと乗せながら、「君ほど可愛がりはしませんから安心してください」とごく真面目にファウストが告げれば、「そう言うことを心配してるんじゃねえよ」と、藤本はファウストの狐面を外して言った。「そう言うことにしておきましょう」と、目を伏せたファウストが指を鳴らすと、燐と雪男の浴衣は寝間着に変わり、行きに三人が着ていた服は紙袋に詰められて藤本の手に下げられている。「便利だよなあ」と呟いた藤本は、「ところで俺は」と尋ねたのだが、「君は浴衣で帰りなさい」とファウスト、…メフィストはにっこりとほほ笑んで、窓際で指を鳴らすと、金魚鉢を取り出して8匹の金魚を水に放した。「白いのがゆきお、赤い小さいのがりん、ひれが長いのがしろう、赤と白がふじもとですかね」とメフィストが満足そうに指を差すので、「じゃあ黒いのがめふぃすとで、黒と赤と白のこいつがあまいもんで、赤い出目金がさたんだな」と藤本は後ろから付け加える。「めふぃすとは良いとして、あまいもんもまだ良いとして、どうしてさたんなんです」とメフィストが不思議そうに首を傾げれば、「まあ、お前の家族だし」とごく普通に藤本が言いきるので、「悪魔に家族と言う概念はさほどないのですがねえ」とメフィストはさして興味も無さそうに告げた上で、「君が付けたのなら受け入れましょう」と、金魚鉢をするりと撫でた。それから、ついでのように藤本の首を撫でて、「それではまた月曜日、学園でお会いしましょう藤本君」とメフィストが言うので、「はい、メフィストフェレス先生」と、藤本は軽く背伸びをしてメフィストの口づけを受け入れた。


10年経って、所用で理事長室を訪れた雪男は、金魚鉢の中を白と赤の金魚だけが泳いでいる姿を眺めて何かを思い出しかけたのだが、 「見つかりましたよ、奥村先生」とメフィストが雪男を呼ぶ声が聞こえたので、記憶の断片は呆気なく途切れてしまった。
ただの、思い出だった。



( 藤本40歳くらい / 会ったことがあれば良いね  / 青の祓魔師 /メフィストと藤本と奥村兄弟/110927 )