ゆ ら め く 想 い 似 て 遠 く
一週間の真ん中、７組野球部で屋上の扉を開くと、９組野球部が隅の一角を陣取っていた。あー浜田だ、珍しいな9組が屋上来んの。今日授業早めに終ったから、と短く切った泉の言葉を、ん、そんでパン買うついでに上がって来たんだよ。な？と浜田が補足する。うんうん、と頷く田島はむぐむぐと口の中の物を飲み込んでから（泉に躾けられたらしい）焼きそばパン買えたよ！ポテトサラダも！と誇らしげに叫ぶ。メ、ロンパンもだよ！と三橋が続けて、ふたりで顔を見合わせてニコニコしている。食べ物あると嬉しいよねよくわかる。いーなーメロンパン、と呟くと、ひとく、ちっ！と三橋が差し出してきたのでうおっと思いつつちょっとだけ齧った。三橋が食べ物をくれるなんて。これはものすごく貴重って言うか最大限の好意だ。ありがとー、代わりにシュークリームやるな？と今朝コンビニで買った78円のシュークリームを四分の一ほどちぎってやった。隣で大きな目をしている田島の口にも、三橋より少ない量を押し込んでやる。キラッキラの目でありがとー水谷くんっ、サンキュ水谷マジうめー！言われるのはなかなか悪くない。田島の横に花井が座ってその隣を阿部が陣取ったので、俺は自然にぐるりと回って浜田の横に腰をおろすことになった。浜田はもそもそとコンビニの冷しゃぶうどんを食べている。うまそ、でも浜田はパンじゃねえの？と尋ねると、俺は早弁してねーもん、と横目で言って浜田は笑った。あ、そっか。俺ら基準で考えちゃいけないんだよな、と弁当以外に山と積まれた食料を見渡す。野球部よく食うよなー、コレで太らないんだからすごいよなあ、とうどんを啜りながらしみじみと浜田は言う。隣に座った泉がそれ以上に運動してんだから当然だろ、と淡々と言った。浜田は箸を咥えたまま「だからスゲーっていってんじゃん、もっと食って大きくなれよ〜」と泉の髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜて、「ウザイ」と一言で切り捨てられている。堪えた様子もなくははは、と笑う浜田を、泉も笑って流していた。なんとなく手を止めて見ていたら、ふっと浜田が振り返って水谷も大きくなれよ、と言うので、ヘらっと笑って「浜田見下ろせるくらいになったらかっこいいよな！」と返した。いやお前ソレはちょっとでかすぎんだろ、だけど目標は大きくなきゃ意味ねーし、俺だって伸びるもんならそれくらい欲しい！おおきくなったらかっこいい、よ！と皆で勝手なことを言って笑った。浜田何センチだっけ、と聞くと182、…3だったかな？とあやふやな返事が帰ってくる。向こうから田島が「83だよ！俺と19センチ違い！」と叫んだ。おおすげー、俺と11センチ違う。ふわふわした金髪に手を翳しながら足りない空間を確かめてみる。180あったら世界変わるかなあなんて思っていると、俺は15センチ違うな、と午後ティーの缶を握りつぶすように泉が言う。やっ、でもほら、花井だって背高いし、何センチだっけ？と浜田が花井にふる。「俺181だから2センチ下っすね」とさりげなく予防線を張りながら花井はおにぎりを飲み込んだ。別に殴ったりはしねーよ、ただちょっとその無駄に長い足から6センチくらい俺にくれればいんだよ、と笑いながら泉は怖いことを言う。あははは、と笑いながらそっと浜田が泉から距離をとって、つまるところは俺に密着するような形になった。6センチって言うのが生々しくてやだよね、と耳元で囁くと、泉は半分本気だからほんとにこえー！と浜田もひそひそと言った。ぐだぐだいってねーでくれよ！なあ！と泉が圧し掛かってきたので、浜田は助けて水谷！俺に抱きついてくる。むり！俺立場弱いし！阿部バトンタッチ！とふたりで阿部にすがりつこうとすると、阿部はさっと避けたので結局花井に全てが委ねられる。ちょっ、重い水谷！と花井が俺を責めるのでだって阿部が避けるから、つうか俺じゃないし元凶は泉、と言うとちっげーよ浜田の身長だろ、と田島が口を出してくるので、わあわあ叫びながら、結局皆でじゃれることになった。浜田の腕は何故だか俺から離れなくて、主に一塊で総攻撃を受けたんだけど。予鈴で我に返る頃には皆汗だくで、うあーあっちぃ練習くらい疲れた！と叫ぶ田島の声にうんうんと皆で頷く。でもなんか楽しかったな、と羽織っていたシャツを脱いでＴシャツの裾から空気を入れていると、浜田がこそっと「巻き込んでごめんな」と囁いた。別に気にしなくていいよそんなん、と笑う。野球部では俺最下層にいるからね！いつもとあんまり変わらないし、ってこれじゃなんだか俺が可愛そうな人か。うーん、と内心首をかしげていると、いい奴だよな水谷は、と浜田は笑って笑って、くしゃりと俺の頭に手を置いた。おお。11センチ上にある顔を見上げて、とりあえず俺もへらっと笑っておいた。 |