[僕は魔法使いにはなれないけど / おおきく振りかぶって]



僕 は 魔 法 使 い に は な れ な い け ど



入り組んだ草むらの影からようやく最後のボールを見つけ出して、グラウンドの向こうに放り投げた。打つのもしんどいけど探すのも結構しんどい。ぐうぅ、と背伸びをして、真っ赤になったにその空をぼんやりと見上げる。日、長くなったよなあ。昼間暑くて辛いけど、こういう薄ぼんやりした光は結構良いよな。と思っていると、まだ先でボール拾いを手伝ってくれていた浜田が近づいてくる。向こう戻んないのか?と言うので戻るよ〜ちょっと休憩。と背骨を鳴らすと、お疲れ、と浜田は笑った。浜田こそいつも遅くまでありがとー、お疲れさま、と言うと浜田はテレテレと笑ってしたくてやってることだからいんだよ、と返す。浜田もモモカンもしのーかも、みんな試合には出られないのに、高校野球のために何かをしてくれてる。練習にも身が入るってもんだよなあ、ともう一度伸びをして、間食入れてあと二時間、と思っていると、不意に浜田がくしゃりと頭に触れた。え、何?と抑えると「草ついてる」と浜田は枯れ草を差し出す。あー、潜ってたからか、と自分でもわしゃわしゃと髪を弄っていたら、もうついてねーよ、と言いながら浜田はくしゃくしゃになった髪を撫でる。ありがと〜、と笑うと、水谷髪長いからな、絡まりもするだろと浜田は言う。続けて、これ帽子ん中で暑くねーの?短いのは嫌?と尋ねるので、あ〜〜、と口篭る。嫌って言うか、嫌ではないんだけれど。暑いんだけど。ちらりと浜田の顔を見る。浜田は、ん?という顔で明らかに返事を待っていた。や、いいんだけど。笑われないだろうか。笑われても良いけどさあ。意を決して、 俺童顔だから似合わないと思うんだよね、と言うと、そういうこと言い出すのが水谷らしーなあと浜田は笑う。この部の中でそういうの気にしてる奴っていんのか。あ、花井の坊主は似合ってるし、みんなフツーにカッコいいと思うけどさ。フォローになっているのかいないのかわからない言葉を聞きながら、 泉だって髪長いじゃん、多分気にしてると思うけど。と返すと、浜田はいやあ?と首を捻って言った。
「あいつあんな顔してるけど、中学では髪短かったぞ?」
「えっウソッ!ホント?!」
ほんとほんと、坊主に近いくらい短かったんだよと浜田が笑う。野球少年だったから、あいつ。へえええ、と頷いて、それから想像してしまった。坊主の泉。ぶはっ、と噴出して身体を折る。ヤバい、泉の顔に花井の頭を当てはめたらものすごく笑える。でもコレ言ったら絶対怒られる…!泉に…!肩を震わせていると、何がそんなにツボに入ったの、大丈夫か?と浜田が背中を擦ってくれた。だ、いじょうぶ、だけど!やっ、俺にこれ言ったって泉に内緒ね!多分怒られるから!と息を整えながら浜田に向き直る。あー、あいつの沸点よくわかんないもんだよなあ、と遠い目をしながら浜田が頷いてくれたのでほっと胸を撫で下ろす。ふう、と息を吐いてから、それにしても浜田って泉と仲いいよねえ、と言ってみた。客観的な意見だと思ったんだけれど、ええ、そう見えるか?俺スゲー虐げられてるんだけど?と浜田は情けない声を上げる。え、でもよく話してるし。なんだかんだで一番一緒にいるんじゃないの?ああ…それは、あいつが一番話しやすいってのは確かにあるんだけど、と浜田は頬を掻いて目を逸らす。だけど小中のこと思い出すと納得できないって言うかさあ…。溜息でも吐きそうな浜田の様子に興味が湧いてにじり寄る。泉、浜田先輩相手だとどんな感じだったの?教えて欲しいなあ、と言うとあああ先輩って響きが懐かしいなァァなんでも教えるよ!と芝居がかった調子で浜田は言う。泉は…なんつうか、ほんとにちゃんとした『野球少年』でさ。顔もカワイーし背も高くないのに、そんなことで評価されたくない、ってすげー努力しててさ。スイッチヒッターだって、そういうものがハンデにならないように、っていうちゃんとしたポリシーでそうしてんだよね。で、先輩後輩もきっちりしてたから、あの性格なのに「浜田先輩」ってでっかい目で結構懐いててくれててさー、あ、もちろん敬語な?今信じらんないだろ?ちょっ、笑うなよ。俺は泣きたかったんだから…なんであんな子になっちゃったのか、お母さん悲しいわ!と泣き真似までするので、なんだよそれ、と声を上げて笑ってやった。情けない浜田の様子がおかしかったのもあるし、すごく大事そうに語られる泉がなんとなく羨ましかったせいでもある。それでも同じクラスになれて嬉しかったんじゃないかなって思うくらいに。先輩にはなれなくても友達にはなれてよかったね、と言おうとしたところで、 サボってんなよ水谷ー!と花井が声をかけてきたので慌ててグローブを拾って駆け出すことになった。悪い、俺が引き止めてた、と浜田が花井にとりなしてくれている。いい人だよなあ。ひとつ年上なんていわれてもよくわかんないけど、ああいうところはやっぱり二年目のカンロクなんだろうか。 なんにしても今同じところで喋れるのはすごく楽しいからそれでいいと思う。できればいつか俺も泉みたいに浜田にいろんな顔させて見たいなあ、とか、ん、コレはなんか違う気がするけど。ん?と首を傾げながら、ちらっと肩越しに浜田を振り返る。グラウンドを横切る浜田は沈みかけた夕日に照らされていて、なんとなくドキッとしたようなそうでもないような。やっぱりんん?と思ったけれど、水谷ィ、お握り!!という田島の声に気を取られてそれ以上何かを考えることはできなかった。



(んでも、丸三年間応援してもらえんのはスゲー嬉しいなあ、とか)

| 水谷×浜田 | 04292008 |