[背徳めいた秘密の言葉 / おおきく振りかぶって]



背 徳 め い た 秘 密 の 言 葉



:2008/ X/29 16:02
From:浜田 良郎
『Re:お前今日ヒマ?』
暇じゃない。バイト。
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:2008/ X/29 21:02
From:浜田 良郎
『Re:終ったら俺ん家』
俺もう帰りたいんだけど
どうでもいいけど、お前
本文書く気ないのか?

2通のメールを介して、浜田は結局9時半過ぎに仏頂面で現れた。まあ別にいいけど。俺が帰ってきたのも9時過ぎだったし。あがれよ、と二階の部屋に通して15分。浜田はごろりと床に寝転がったきり何も言わない。寝てるのか?と顔を覗き込もうとするとそのたびに寝返りを打つのでこれはなんらかのパフォーマンスなんだろう。こいつなりの。最初は面白がってぐるぐる転がしていたが、さすがに飽きた。15分は長いし、夜は短いのだ。特に球児の一日は。
「浜田。おい浜田」
浜田は振り返らない。なんだこいつ、面倒くさいな。ふう、と溜息を吐いて爪先で浜田の背中をつつく。浜田は微動だにしない。こいつ。もうほっといてやろうか。でもでかい図体で転がっていられても邪魔だしな。仕方がないな。すう、と息を吸い込んで「良郎」と言うと浜田の背中がピクリと震える。なあ良郎、と重ねてやると浜田はぐるりと身体を丸めた。よし、いい反応だな。もう少しだ。
「俺のことアイシテル、っつーお前はそれなりに可愛くなくもねーからキゲン直せよ」
「〜〜あのなあっ!!」
尊大に告げると、ばっ、と浜田が振り返って叫んだ。この場面でこの台詞?!お前何様だよ!!?と怒鳴るので、俺様だと返すとものすごい目で睨まれた。そんな顔も出来んじゃんなあ。俺のこと目つき悪いとか言えねーだろ。ニヤニヤしながら考えていると、ってかなんで俺ばっかりお前の都合に合わせなきゃなんねぇの?!俺疲れてるんですけど?!!と寝転がったまま浜田は騒ぐ。ムカついたので来いって言っても来なきゃいいんだろ、バイト帰りなんだし。それでも来るって事は来たかったってことなんじゃねえの?と言うと浜田は俺を睨んだままだってお前そうしなきゃ怒るだろうがと言った。そりゃ怒るに決まってるだろ何言ってんだ。だけど、怒る俺が嫌なのはお前の勝手だろ?すると浜田はがくりと首を落として、うわーその言い草すげ腹立つな〜でも反論できねー俺にはもっと腹立つなァ…。とぶつぶつ言いながら俺の枕を抱きしめてさらに丸まっていく。でかいのが邪魔だからって縮まらなくてもいいんだぞ、と言ってやると俺とお前はあんま変わんねーだろ!つかお前のほうがちょっとでかいんじゃねえの?とやっぱり丸まったまま浜田は言う。だからいいっつってんだろ、と流して手元の雑誌に目を落とした。秋丸が寄越した情報誌。よくわかんねー、と思いながらめくっていると、浜田がずりずりと近づいてきて横から覗き込む。ナニコレ、と言うので雑誌、と返す。何の?よくわかんねーけどガッコのやつから「榛名は黙ってればかっこいいんだからもうちょっと外見磨いて早く女の子捕まえなよ」って。続けて、中身知られたらあっという間に逃げられるに決まってるんだからなるべく喋らないようにね?と言われたのは内緒だ。あっそ、と反応が薄い浜田の顔を覗き込んで、お前嬉しくねーの、と聞くと何が?と返された。俺かっこいいって言われたんだけど。…見た目だけだろ?言われて、俺も返事に困った。当たってるだけに。俺喋ったらかっこよくねーのかな、と尋ねるとうん全然全くこれっぽっちも、つうか俺としては見た目も別に、と酷薄な答えが帰ってきてムっとする。お前俺の顔のどこが不満だよ、と問い詰めるとだってまず男じゃねえかとごく当たり前の返事が帰ってきて逆にどうしていいかわからなかった。えと、そこはさ、なんていうか、しょうがないところだろ。と動揺を抑えながら言うと、そうだな、だまにどうしていいかわからなくなるけど仕方ないよな。なんせ好みでもない相手に「愛してる」とか素面で言えるくらいになっちゃったもんな。さらっというので思わずまじまじと浜田を見つめてしまった。何?と言うので何じゃねーよお前だよ、と返すと、浜田は嫌な顔でふふんと笑って「愛してるっていう俺は可愛いんだろ?」って、いや可愛くなくもないって言ったんで可愛いとは、いや俺にしてみれば可愛いけど。そういうところは可愛くないわけで。面白くないので あいしてるあいしてるあいしてる、と言ってやると浜田の顔が面白いくらい歪んだ。 お前の言葉には真実味が篭らねーんだよ、と抱えていた俺の枕を投げてくるので思わず本気で投げ返してしまった。わき腹に当たって呻いている。あ、やばいかな。やばいよな。えーと生きてるか?と言うとベースもないのに死球なんてサイアクだ…と切れ切れの声が帰ってくるので生きてはいるようだ。悪かったかな〜と患部に手を伸ばすと、俺としてはそっと触ったつもりだったんだけど浜田はぎゃあと叫んで後ずさっていく。悪かったって。伸ばした手の行き場がなくて伸ばしたり縮めたりしていると、 何かもてなせよ、お客様だぞ俺は、と突然浜田が言い出した。はぁ?と聞き返すと、つまるところ腹が減ったらしい。何かあっただろうか。あ。「ホームランバー食うか?」「安!そして腹には溜まらない!」突っ込みの後で、食うけど、と呟くのが浜田のいいところだ。じゃあ取って来いよ、台所わかるだろ、俺の分も。 は?人ん家の冷蔵庫勝手に開けられるかよ。ああ?俺は空けるけど?お前の非常識な常識と世間一般の常識を一緒にするなよ。おっまえの言葉もいちいち棘があるなあ!お前相手だからな。なあ、「モトキ?」ぐ、と思わず息を呑んでしまってしまったと思う。やられた、仕返しだ。ニヤニヤというよりはへらへらと軽薄な笑みを浮かべる浜田に舌打ちをして立ち上がる。腹が立っているわけではないが悔しい。お前なんか勝手に後輩になってたくせに。部屋を出る前にボソッと言ってやると、開けっ放しの戸から「うるせーよ!」という声が帰ってきて溜飲を下げた。よし、これでお相子だろう。浜田を怒らせるのはなかなか楽しいのだ。俺に付き合っているような顔をしながら本音で物を言う、そういうところは可愛くないこともないので。秋丸には雑誌を返しがてら自慢してやろう。性格だの何だのに文句を言うような奴はほんとに俺のこと好きじゃないんじゃね?って。



(この後?…まあ、浜田は俺の家から直接西浦に行ったけどな)

| 榛名×浜田 | 04292008 |