[真夜中は何処かへの口 / おおきく振りかぶって]



真 夜 中 は 何 処 か へ の 口 



昼休みから時計の針が十一周後、結論から言うと「それともワタシ?」は実現されなかった。日付変更線ギリギリに帰ってきた浜田が、玄関の扉を開けるなりハイテンションで俺に飛びついてきたからだ。たっだいまー梅ーいい子にしてたかほらおみやげー!と、タレの染み出た袋を押し付けて来る浜田をよしよしわかったありがとうだから落ち着け、な?と宥めてどうにか腰を落ち着ける。俺の首に手をかけてぺたんと座り込んだ浜田は、普段の三割り増しで緩んだ顔をしていた。「お前酔ってるだろ?」と聞けば「ちょっとだけねえ〜」と浮かれた声が帰ってくる。ちょっとじゃねえ。全然ちょっとじゃねえよこのバカ。
もつれた髪をわしゃわしゃと撫でて、未成年だよなーお前ーわかってんだよなー次留年したら一年生三回目なんだからなーわかってるよなあ?と浜田の顔を覗き込むと、わかってるわかってるダイジョーブと何も考えていない顔で笑うので俺はがくりと首を落とした。飲酒・喫煙くらいはまあ、高校生なら誰でも通る道だが、こんなに堂々としていていいはずがない。特に目立つ姿をしているということを、こいつは理解しているんだろうか。してねーんだろうなあ。犯罪なんだぞコラ、とへらへらした顔を見つめて呟くと、だって飲まされたもんは仕方ないだろ!と今度は逆切れだ。そういうときは飲ませたほうの罪になんの!お前のせいでその人たちが犯罪者だぞどーすんだ?!と言い返してやる。浜田はぐ、と言葉に詰まって、でも俺のせいじゃないもんと俺の背中に手を回して本格的にすがりついた。いやいやいや、「ないもん」じゃないだろ「もん」じゃ、と言葉自体に詰まっている間に浜田の身体はどんどんずり落ちていく。おーい寝るなら布団入れ?とぐったりした頭に声をかけると、「布団は入るけど寝ない…」とすでに寝ぼけたような返事が聞こえる。寝ないでどーすんだよ、と尋ねれば「そんなんヤるにきまってんだろ!」と妙に座った声で浜田は言った。いやいやいや、こんな状態で何をすると。俺にどうしろと。
俺が少しばかり途方に暮れて、もう寝かしてしまおうと浜田の背中を擦っていると、浜田はむくりと起き上がって俺の目を覗き込んだ。だから近ェっつーんだよ。半分ばかり閉じかけた目が据わっている。
「だって、梅」
「何」
「そのために待っててくれたんじゃねえの?」
ぱっきりと言われた台詞に、おいおいお前それ言ったらおしまいだろ空気を読めよ!と心の中で盛大に突っ込みを入れたが、「それともワタシ?」が脳裏をすぎていってどうしても言葉には出せなかった。確かにそうだけど。そのつもりで待ってましたけど。それでもベロベロに酔った人間をどうこうするほど盛ってはいない、…いないと思いたい。なあ違うの、と上目遣いでしがみついてくるはまだに視線を合わせ続けているのはヤバイ、と思わないでもないが違うと思いたい。だってこのままヤったところで、浜田が途中で落ちて情けない思いをするのは俺だ。そのまま続けて怒られるのも俺だ。そして何より、明日の朝浜田が何も覚えていなければ、あるいは照れ隠しに覚えていない振りでもされたりしたら目も当てられない。しっかりしろ俺、目を覚ませ。明日以降に備えろ、と気合を入れなおして、なあなあと懐いてくる浜田をどうにかこうにか引き剥がして布団に押しやる。ヤる?ヤるんだよな?としつこい浜田にああそうだよだから電気消そうな、と言ってやると、やったぁとそれはもう嬉しそうな顔で笑う。…いや、だから。ヤんないんだけど。ヤんないけどさ。お前その顔は反則だろ。かわいいって言ってんじゃん。言ったことないけどさ。とにかく電気電気、と呟いて立ち上がりかけると、浜田がぎゅうっと俺の手を握る。
そして、浜田は「早く」と言った。
うっわあ。
その後は簡単だったね。さくっと電気を消して、浜田の隣にもぐりこんで、暗闇に目が慣れるのを待って浜田の服を脱がせました。だってしょうがないだろ、俺だって健全な男子高校生な訳ですし? すっげえ譲歩してるっつうのに、酔っ払いを盾にとって散々スゲーこと言ってくれるし?しょうがないしょうがない、コレは不可抗力だ。とろとろとまどろみ掛けている浜田に深く口付けると、苦しそうな声でそれでも「梅」と俺の名前を呼ぶ。うん俺だよ、ここにいるよ。囁いてやると、条件反射のように浜田の顔が緩む。はは、かわいいなこいつ。暗がりだけど、寝そうだけど、もう最後までやっちゃっていいよな。まあとりあえず誘ったお前が悪い。明日の朝のことは考えないようにしよう、と結論付けてもう一度唇を合わせる。
言い訳は「俺のせいじゃないもん!」で決定。



(いやいや、俺もまだまだ青いね!)

| 梅原×浜田 | 04132008 |