[沈黙の数だけ君のくちびるを / おおきく振りかぶって]



沈 黙 の 数 だ け 君 の く ち び る を 



とある昼休み、空き教室での顛末。普段一年に紛れて(ていうかこいつも一年なんだけど)飯を食ってる浜田を拉致って、わざわざ長机にふたりで並んで座ってみた。俺としては愛情表現、のつもりだったんだけれど、浜田には上手く通じなかったようでうんざりとした顔でヤマザキの黒糖パン(4個入り・税込み98円)を齧っている。まあ埃っぽいしな、ここ。窓くらい開けりゃよかったか、と思いながら卵サンドを齧っていると、唐突に浜田が言った。
「梅お前、チアガール、すき?」
「すき」
「…ミニスカートだから?」
「それもあるけど」
お前だって好きだろ、と卵サンド最後の一口を飲み込みながら言うと、浜田はまあそうだけどと俯いた。なんだよ、と尋ねると、浜田はじっとりとした上目遣いで俺を見る。うわ気持ち悪ィ。俺が少しばかり身構えると、浜田は「じゃ俺がチアのかっこしたら嬉しい?」と言い放った。はあ?と聞き返すと、だーかーらー俺がミニスカートはいたら嬉しいかって聞いてんの!と相変わらずの爆弾発言だ。いやお前がそんなかっこしても別に嬉しくはねえよ、身長180越の男だぞお前、もう一度我が身を振り返れ。と、浜田のためを思って言ってやると、ああそうかよ、となんとなく不貞腐れた態度で浜田は乱暴に黒糖パンの袋を丸めた。訳がわからない態度に、お前どうしたの、と聞いてやると、「昨日の昼」と浜田は言う。昨日?首を捻ると、「ミニスカートっつったとき、嬉しそうだっただろ」と、ああなんだ、数研に行ったときの話らしい。そりゃ嬉しかったけど。かわいい女の子の生脚が見られる(しかも近くで)機会なんだから嬉しくて当然だろ。つうかお前もニヤけてただろ、と言ってやると、そうだけど!とまだツンツンしながら浜田はフイと横を向く。「でも嫌だったんだからしょうがないだろ」ってお前。わかりやすいな。つまるところは焼きもちなわけだ。なんだそりゃ、お前、それはちょっと。かわいいだろ。なんて思う俺も相当来ているのは重々承知の上である。ていうかこいつ、俺が「うん」て言ったらミニスカートはく気だったのか。
それはちょっと。なんていうか。随分。愛されてるんじゃねえの、俺。どうにもすっきりしない横顔を眺めながら嬉しくなったところで罰は当たらないだろう。かわいいよ浜田。フィルタ全開で。
「浜田」
「んー」
「女みたいなのがいいなら、女としてる」
そうじゃないから、お前だろ。さらりと言ってやる。浜田は一瞬ぽかんと口を開いて、それから急激に赤くなった。はは、お前んちの電熱器みてえ、と笑ってやると、あんなんよりもっと熱いと小さな声で浜田は言う。確かにもう沸騰してるみたいだ。「なあ、お前んち行きたい」と浜田の耳元で囁いてやると、「今日はバイトだから」と軽く顔を背けられる。終るまで家で待っててやろうか?とさらに続けてやったらもうやだコイツ…!と浜田は膝に突っ伏した。相変わらず耳は真っ赤だ。面白いのでニヤニヤしながら眺めていると、ちょっとだけ浜田の顔が持ち上がって何事か呟いてる。何、と顔を近づけると瞬間、さらに距離が縮まって、つまるところは浜田が俺にキスしたわけだ。不意打ち。コイツから。珍しい。
思わず唇を擦っていると、いっぱいいっぱいな顔でそれでも浜田は笑ったので俺も笑った。「それでどうするんですか浜田さん」ともったいぶって聞いてやると、「オネガイシマス」と浜田は深々と頭を下げた。よし、せっかくだからお帰りなさい、のついでに「ご飯にする?お風呂にする?それともワタシ?」をやってやろう。もちろん前二つは却下で。バイト帰りのこいつはどんな顔をするだろうか。呆けた顔を想像していると、「やらしー顔してんじゃねえよ」と空いたペットボトルでぺこんと殴られる。いやらしーのはほんとうだったので何も言えず、代わりに今は呆れている浜田の口を「ちゅ」と塞いでおいた。



(それはそうと、女装は女装で別に悪くねーと思うのは秘密。)

| 梅原×浜田 | 04122008 |