[いきた燈/ロックオンとアレルヤ/OO/20090705]

※注意:カニバリズム表現を含みます

















いきた燈





どうして知っているんです、とさして驚いた様子もなくアレルヤは言った。約束だから答えられない俺の前で、アレルヤは手にしていた本をぱたんと閉じて、ヘッドボードに重ねる。細かい文字の羅列と、インクの匂い。アレルヤの部屋にはそんなものばかりが詰まっている。部屋の入り口に立ち尽くしたままの俺を手招いて、それでも動かない俺に、何を怯えるんです、とアレルヤは首を傾げた。それからああ、と腑に落ちたような顔をして、アレルヤは言った。

「そうか、ハレルヤに…聞いたんですね」

あなたに、よく懐いた。と、アレルヤはいつもと同じように、困ったように、柔らかに笑みを零した。落ちた銀色が見えなくなる。重たい前髪が揺れて、それでも見えない金色が、もうひとつ。もう一度手招かれて、今度こそ抗えずに半無重力の床を蹴ってアレルヤの前に降りる。ぽんぽん、とベッドを叩かれて、仕方なくアレルヤの隣に腰を落とした。す、と頬を撫でられて、恥ずかしいくらい体が震えた。何を怯えるんです、ともう一度アレルヤは言って、俺の頬から手を放した。だって。本当なのか、と掠れ声を搾り出した。ええ本当ですよ、と至極当然のような声でアレルヤは言った。ええ、僕は。

「食べました」
「どうして」
「お腹が空いたからです」
「空いたから、………」
「空いたから、『人間を食べました』」

俺が口に出せなかった言葉を、アレルヤはいとも容易く繋いだ。『人殺しです』と言ったときのような悲痛さは欠片もなく、むしろ『マルチーズが好きです』と言ったときのような、暖かくてやわらかい感情が篭っている。つまりそれはアレルヤにとって忌避すべき記憶ではないということだ。それがどうかしましたか?とさえ続きそうな言葉尻に眩暈がして目を閉じる。大丈夫ですか、というアレルヤの声が。

「ハレルヤが、殺したんだよな」
「ええ、殺したのはハレルヤで、食べたのが僕です」

どうして、食べるところまでしてやらなかったんだ、ハレルヤ。今はいない金色の目の持ち主に向かって毒づいた声が聞こえたように、アレルヤは困ったように眦を下げた。

「いつだって彼はそうだ。僕に、良いほうをくれる」
「良い、ほう?」
「施設では、お腹一杯食べることなんてなかったので…すきなひとたちを、好きなだけ詰め込めるなんて、途方もない幸せだったのに」

殺したことに、罪悪を。食べたことに、幸福を。その、矛盾を、アレルヤは。ハレルヤは知っていた。少なくとも、俺にそれを正させようとする程度には。けれども。

「…それで、」
「美味しかったです」

とても美味しかったです、と平然と言ってしまうアレルヤを、俺にどうしろと言う。だって幸せそうだった。俺の薄っぺらな倫理観では、とても納得させることなどできそうにない。悲しませるくらいなら、このまま歪ませておくほうがまだましだ。俺もハレルヤと変わらない。アレルヤを愛しているのは確かなのに、アレルヤに手が届かない。手を、伸ばせない。黙ってしまった俺の前で、アレルヤがそうだ、と弾んだ声を上げた。

「あなたが死んだら、どこかひとつ僕にくれませんか。美味しく調理していただきます」
「…調理、」
「そうですね、アイルランド風のシチューなんて、いかがでしょうか」

細切れでも、調理できますから。

にっこり、とまるで花が綻ぶように笑んだアレルヤを見て、背筋がぞくりと泡立った。人格連はとんでもないものを造ってくれた。確かにこれはもう、人間ではない。人間が食料に見える、わけではないとしても。まだ生きている人間を前にして、その台詞を吐いてはいけないだろう、アレルヤ。だけど。

「ダメ、でしょうか?ロックオン」
「いや、…いいよ」

不安そうに呟いたアレルヤに向かって笑ってやる。いいよ。俺が死んだら、両腕をやるよ。俺が一番大事にしている部分を、お前にやるよ。シチューにでも何でもしたらいい。それで、お前が悲しまないなら。俺が死ぬことを誰よりも恐れるくせに、食べられるとなったら目を輝かせる、なんて。なんて美しい化物だろう。化物でもいいよ、と。約束ですね、と笑ったアレルヤを抱きしめて、思った。







ガラスの破片が、美しく瞬いている。宇宙では光らない星の変わりのようだ。このまま漂流しても助からないだろうなあ。エクシアも、…間に合わないだろう。何せ俺のヘルメットにはひびが入っている。それ以上に不穏な音を立てているのはGNアームズだ。いやいや、参ったね。参った。死ぬつもりなんて欠片もなかったのに、ころしたい気持ちのほうが強かったんだから仕方がない。地球に向けて狙いを定めた指を、ぼんやりと眺める。
あの美しい世界が壊れないように、どうか両腕だけでもトレミーに戻れないだろうか。俺の願いは届かなかったけれど、アレルヤが。アレルヤが、あんまり、泣かないように。

欠片だけでも宇宙を漂ったら、いつか届くだろうか。
アレルヤが煮込むアイルランド風シチューの中身になれるだろうか。
あんまりにもシュールで、俺は笑った。
できたらジャガイモも入れて欲しい。