[ 連立イデオロギー ]



「・・・眼鏡?」
「そう、眼鏡」
「お前 眼ェ悪かったの?」
「それほどでもないんじゃけどな、まあ掛けた方が良いような、それくらいの視力でな」
「中途半端」
「何とでもいえ。そんなわけでこの前眼鏡屋に行ってみたんだけど、アレほんとにいろんなのがあるんやな」

いろいろかけてみたんじゃけど自分じゃ良く分からなくて。
それで、お前に一緒に選んでもらおうと思ってな。
言いながら、海音寺はバッグからいそいそとカタログを取り出した。

・・・海音寺は最近いつもこうだ。
どう思う?どれがいいと思う?どうすればいいと思う?そんな言葉で俺を連れ出す。
今もっている携帯電話もバッグも今履いている靴も、全部俺に選ばせた物。
別に構わないのだけれど、・・・構わないのだけれど。

「なあ、どれがいいとおもう?」

元々海音寺は他人に流されるタイプではない。ない、と認識している。
自分の価値基準があるならそれを大切にしても良いのではないだろうか。
カタログを広げて長考する海音寺を眺めながら思う。

「海音寺?」
「なんや」
「お前はどれがいいの」
「それが分からんからお前に選んでもらおうと」
「それは分かったから、今の時点でお前はどれがいいの」

似合う似合わないとかじゃなくてさ、ぱっと見でどれがいいのか。
それくらいはあるだろ?
返事をする間も与えずに問い掛けると、海音寺は困ったような顔をしながらそれでもいくつかの眼鏡を指す。

「えーーと…これ、とこれ、と…これ?」
「それでいいやん。きっと似合うよ」
「そんな投げやりな」
「そんなことねぇよ。お前ならどれでも似合うと思うし」

自分が好きなもん身につけるのが一番だと思うし、俺の見立てなんてそれほど信用できるもんでもないしさ。
ていうかもっと目の確かな奴に選んでもらえば良いのに。
心からの言葉だったのだけれど、海音寺は妙に哀しそうな顔をする。

「…迷惑だったか?」
「何が?」
「何でもお前に聞く事」
「何で?そういう風に聞こえたか?」
「ちょっと」
「そういうつもりじゃないんだけど」

そう聞こえたならごめん。
やっぱり素直に謝ったつもりなんだけど。やぱり海音寺は哀しそうな顔で。

「…なんでお前が謝るんじゃ」
「悪いことを言ったから?」
「疑問系?」
「怒った?」
「なんで俺が怒るんや」
「悪いことを言ったから」
「なんで、」

全くといって良いほど話が噛み合わない。
言うべきではなかっただろうか。
もう一度謝ろうとした時。

「…俺は」
「うん?」
「俺は瑞垣の選んでくれたのが欲しい」
「…うん?」
「好みとか似合うとか似合わないとかそんなのはどうでもいいからお前が俺のために選んでくれたものを身に付けたいんじゃ」
「…はい?」

海音寺の言葉が上手く理解できなくて言われるたびに聞き返してしまった。
胸の中で何度も反芻する。

「…俺の好みで、いいの」
「お前がいいの」

お前と一緒に選んだって事が大事なの。
携帯もバッグも靴もその他諸々全て、お前と一緒なのが大事なんや。

「…わーー…」
「何じゃ」
「なんか今、ちょっとキた」
「何が」
「なんかこう、言葉に出来ないようなモノが」

こう、胸から溢れてくるような。

「何じゃそりゃ」
「鈍い奴やなぁ、お前。愛だよ愛」
「愛?」
「愛や」

真面目な顔で見詰め合って、それから二人で吹き出した。
愛?愛だって。本気か?本気だよ。神に誓えるか?誓える誓える。門脇にも誓える。じゃあ相当じゃな。

「俺も愛してる」
「知ってる」

そうしてまた笑った。
この笑いが収まったら、二人で眼鏡を選びにいこう。
コイツに似合う物を必死で探してやろう。

それを見るたびにこの時間を思い出すことが出来るように。


(海音寺と瑞垣。溢れるほどの愛で / meisai_logic)