[ 空前シンメトリ ]
「だからさ、俺たちがであったのはこれはこれで運命だと思うわけだ」 「…ふうん」 目の前で唾を飛ばさんばかりの勢いで喋り捲る海音寺に、瑞垣は気のない返事を返した。 なんだか知らないが奴は最近妙な具合に俺に話し掛ける。 前世についてとうとうと語ってみたり脳死判定について論じてみたり、宗教観を曝け出してみたり。 自分もそれなりに議論好きではあるが…、そんなことばかり言われても正直戸惑いを隠せない。 そして今日は運命と来た。 奴の主張によれば、 「考えても見ろよ。世界にはもう何十億って言う人間がいて、何百と言う国があって何千と言う言葉が合って。こんな小さな日本と言う国の中にも何千万という人がいる。そんな中で人と人が出会う確立なんて1%もないだろう?俺とお前が出会えた事は奇跡なんだよ」 奇跡。 さっきは運命と言っていなかったか? どちらにせよどうでもいい話だ。奇跡でも運命でもない。ただの偶然だ。 話を聞くために休めていた手をまた動かす。 そんな下らない話に付き合うほど暇ではない。 「…なんか言おうよ瑞垣君」 「何を言えと。運命的な出会いに乾杯☆とでも言って欲しいのか」 「冷たい。冷たすぎるぞお前。折角俺がお前の高尚な意識にあわせた話題作りを心がけているのに」 「今の話のどこが高尚なんや。だいたい俺の知ってる事は全部本の受け売りだから議論には向かない」 「そうなのか?」 「いろいろ読みすぎたせいでな、知識の間に自分の考えを挟む余地がないんや」 「えーー…、でもそれはそれで良いんじゃないのか?それを読んだと言う時点でその知識は自分のものとして蓄えて良いんじゃないの?」 「ただの知識ならそれでも良いけど お前がするような話の場合はだめやろ」 持った知識以外では感情論しか吐けない。 それでは駄目なのだろう、と思う。 「運命を感じるか感じないか、それだけでいいんだけど」 「その時点でもう知識に結びつくんや。偶然と運命の違いは何かとか 奇跡はどこから必然になるのか とか 読んだ事が全部フラッシュバックしてきてどれが自分の感情なのかも良く分からない」 「…小難しいな」 「そうだな」 でもお前の前では俺の言葉以外で喋りたくないから さらりと口を突いて出た瑞垣の言葉に、海音寺以上に瑞垣が驚いた。 あれ?という顔をする瑞垣に向かって海音寺はへらりと笑う。 「それってどういう意味?」 「俺が知るか」 「他の奴の前では他の言葉でも喋れるの」 「…まあな」 「愛されてるの?俺って」 「馬鹿言うな」 むっつりとした顔の瑞垣に対して海音寺の顔はますます笑いを含んでいく。 ムカつく。殴り飛ばしても今なら罰は当たるまい。 ぎゅうと握り締めた拳に気付いた海音寺は慌てて笑いを引っ込めた。 握り締めたその手を取って。 「俺はお前に会えた事以前にお前がこの世界にいてくれたことを奇跡だと思うよ。そしてその世界で俺がお前に会えた事はやっぱり運命なんだと思う。ていうかそう思わせて」 「なんだそりゃ」 「幸せに浸らせてください、っていう事」 そして俯く額に向かって口付けを一つ。 「…気持悪いよお前」 「知ってる」 運命でも奇跡でも必然でも偶然でもなんでもいい。 お前が今そこにいることが現実ならあとはどうでも良いのだ。 などという事は悔しいから絶対に言ってやらない。 (海音寺と瑞垣。理由などないさ / meisai_logic) ▲ |