[ そらふね ]



退廃的な活動を繰り返す彼を見るたびに、飛ぶ力をなくしてしまったのだと人は言う。
勿論そのままの意味ではない、飛ぶ、高みへ上るために必要な機動力を、つまりはそのこころを。ある意味でそれは正しいのだが、正しくとも的外れな指摘だ。なくすためには最初に持っていなければならない。こころを、夢を、持たなければならない。大事なことはまずそこからなのだけれど、つまるところ彼は(いや僕等は)飛ぶ術を久しく持たない。夢も見ず、こころも持たずにただひたすらすべてを絶つ姿は彼自身がそれ自体にも似て

(こわい、と思うことがある)
(けれどもそれ以上に)

つう、と空を斬るばかりの刃のきらめきを、きらめくこともなく飛び散る血飛沫を、そしてそれに塗れる姿を、彼は何を思って見つめるのだろう。恐らく僕等がそれを推し量るすべはどこにもなく、彼が曝け出すこともありえないのだが、なにひとつ理解できないわけでもない。おそらく彼にこそ理解者は必要なのだ、ただその基準はあまりにも高く遠く、たどり着くことは到底不可能に近いということ。

彼は気づくだろうか。何のためにそれをしているのかということを。悔むだけならば誰にでも、またそれを忘れることはさらに造作もなく。忘れたということすら忘れてしまえば罪悪感すらーまたそれゆえの後悔すら、抱くこともない。もちろん、彼の葛藤がどれほどのものかは知らない、知らないが、それ、だけで終わらせたくないからこそはじめたことだと、彼は気づくだろうか。飛べぬまま終わることが悪いのではない。己が飛ぼうとしていたことすら忘れてしまうことが哀しいのだ。投げ出してしまわぬ強さを称える以前に、とても哀しいのだ。


(誰か→新城。戦闘中の新城に想うこと / 20061127)